イラン体制の無力化なくして終戦なし 考え改める湾岸諸国

ドバイ国際空港の火災から立ち上がる煙(16日)
【アブダビ】アラブ首長国連邦(UAE)や一部のペルシャ湾岸諸国は、イランからの攻撃やホルムズ海峡の混乱で打撃を受け、イランの神権政治体制こそが存続の危機をもたらす敵だと認識し始めた。これらの国はかつてイランとの関係構築を図っていたものの、今のような攻撃が繰り返されないよう、戦争終結時には体制が無力化されるか、あるいは解体されることを望んでいる。
中でもUAEはイランからの攻撃の矢面に立たされており、米国とイスラエルが2月28日に戦争を開始して以来、2000発以上のドローンとミサイルの標的となった。UAE政府によると、このうち80%以上は、石油施設、製油所、空港、港湾、ホテル、データセンターなどの民間インフラを狙ったもので、攻撃により民間人6人が死亡し、157人が負傷している。
湾岸協力会議(GCC)に加盟する6カ国はこれまでのところ、公然と反撃することを控え、対応は自衛目的にとどめている。
UAEのスルタン・アル・ジャーベル産業・先端技術担当相は、「これは軍事的な応酬ではない。平和な国家、外交のために熱心かつ懸命に取り組んできた国家への攻撃だ」とインタビューで発言。「いかなる長期的な政治的解決も、イランの核開発計画、弾道ミサイル能力、地域の代理勢力ネットワークを含む、あらゆる脅威に対処する内容でなければならない」とした。ジャーベル氏はUAEの石油大手アブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)も務めている。

UAEのスルタン・アル・ジャーベル産業・先端技術担当大臣
イランは開戦前の米国との協議で、核開発計画について話し合っていたが、ミサイル能力の制限についてはいかなる交渉も拒否。さらにイエメンの親イラン武装組織フーシ派、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イラク国内の複数の民兵組織など、同国が支援する中東全域の準軍事組織の活動に関しても、話し合いに応じなかった。
イラン指導部はここ数日、イスラエルや米国との停戦を受け入れるのは、イラン政府が賠償金と政権への将来の攻撃に対する確固たる保証を受け取った場合のみだと言及。同国の当局者らはまた、中東地域への攻撃は米軍基地と米国の権益のみを標的にしていると述べているが、この主張は湾岸諸国をいら立たせている。
カタール首相の顧問を務めるマジェド・アル・アンサリ氏は、「はっきりさせておきたい。 イランによるカタールへの攻撃が始まって以来、民間施設への脅威と攻撃は止まっていない」と説明。イランの攻撃はこれまでにGCC加盟6カ国の全てで民間人の犠牲者を出しており、これらの国は米国製の高度な防空システムを配備していなければ、犠牲者数ははるかに増えていたとみられる。
別の湾岸政府当局者は、イランが行っている無差別攻撃の性質と、近隣諸国に死と破壊をもたらすことをいとわない同国の姿勢に言及。戦争の唯一の受け入れ可能な結末は、イランが二度と近隣諸国を危険にさらすことができないほど無力化され、弱体化することだとした。
米国とイスラエルの大規模空爆は、イランの空軍と海軍の大部分を破壊し、16日にはイラン最高安全保障委員会(SNSC)のアリ・ラリジャニ事務局長が殺害された。だが現時点でイラン政権は近隣諸国に痛手を与え続けている。同国は今週に入り、ドバイの主要国際空港の燃料貯蔵施設で火災を引き起こし、これが航空便の混乱へとつながった。UAEは安全で魅力的な世界的観光地としてのイメージを慎重に築き上げてきたが、最も混雑する空港の一つでそのような事態が発生したことは、打撃となった。
イランは世界の原油の35%と世界の液化天然ガス(LNG)の20%が通過していたホルムズ海峡で混乱を引き起こす決定を下した。UAEのジャーベル氏はこれが湾岸諸国だけでなく全世界への攻撃であり、特に低所得国に深刻な影響を及ぼすと述べている。
同氏は「ホルムズ海峡を人質に取ることで、イランは世界的な経済戦争を仕掛けている」とし、「これは世界経済の問題だ。地域の問題ではない。混乱でインフレ率が上昇し、経済が減速し、日常生活に影響を及ぼす。各家庭は食料品により多く支出することになる」と述べた。

UAEのコール・ファッカン近くを航行する船舶
カタールのドーハ大学院研究所のムハナド・セルーム教授は、停戦後もイランにホルムズ海峡の支配を許すことは、湾岸諸国にとって災難となると指摘。「イラン政権はあらゆる一線を越えた」と述べた。
セルーム氏は「今や湾岸諸国を含む全ての国の利益のために、米国に仕事を完遂させることが必要だ。もし今戦争が止まり、米国は敗北したとイランが言って勝利を宣言したらどうなるか想像してほしい。イランは地域全体を人質に取り、圧力を受けるたびに湾岸諸国を攻撃するだろう。なぜならそのタブーは破られ、攻撃は効果を示したからだ」とした。
ホルムズ海峡をどのように再開するかは、特に厄介な問題となる。国連安全保障理事会は先週、ロシアと中国の棄権により可決された決議の中で、イランによる同海峡の妨害が「国際平和と安全への深刻な脅威」だと表現した。だがドローンや携帯型対艦ミサイルの時代において、武力によって海峡を国際交通に再開することは、当面は米海軍にとってさえ極めて困難だと軍事アナリストたちは述べている。
湾岸諸国の一部当局者は、イラン政権にホルムズ海峡を再開させる唯一の方法として、米国がペルシャ湾に浮かぶイランのカーグ島を占領するか、占領する準備ができているように見せることだとみている。イランは石油輸出の90%以上を同島から輸送している。ドナルド・トランプ米大統領はこのような作戦に投入できる海兵遠征部隊に対し、アジアから中東へ移動するようすでに命じており、同部隊は現在、到着まで1週間以上かかる位置にいる。
米国によるカーグ島への攻撃後も、同島を含むイランの石油輸出インフラはこれまでのところほぼ無傷となっている。だがイランのドローンは湾岸6カ国の製油所、輸出ターミナル、港湾、LNG施設、油田での火災を引き起こした。世界最大の石油会社の一つであるアブダビのADNOCは、戦争のために一部の沖合操業を停止せざるを得なくなっている。イランはまた、UAEがホルムズ海峡を迂回(うかい)して石油を輸出するために使用しているアラビア海のフジャイラ港も繰り返し攻撃している。
ジャーベル氏はADNOCについて、「当社の事業は影響を受けており、事態を緩和するために可能な限りのことを続ける。場所ごと、製品ごと、出荷ごとに評価しながら対応していく。世界に対する責任ある信頼できるエネルギー供給者として行動し続ける」とした。
また戦争が終結すれば、「当社は迅速に態勢を立て直し、生産を増強して能力を回復できる立場になる」とし、「イランの残忍な侵略は、当社を打ち砕くことはない」と述べた。