アメリカのイラン攻撃が失敗するこれだけの理由【元外交官が教える】

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トランプ米大統領のイラン作戦開始から2週間が経過した。イランは、イスラム教の殉教の視点や、民度の高い国家であることから徹底的に交戦するだろう。世界107カ国で学んだ元外交官が分かりやすく解説する。(著述家 山中俊之)
イランやイスラム教を
甘くみるトランプの大誤算
筆者は、1990年に外務省に入省してアラビア語を履修、中東での勤務経験を持つ。その後は民間に転じて、現在はコンサルタントとしてグローバルビジネスのお手伝いをしている。中東をウォッチするようになって36年が経過するが、今回の米・イスラエルのイラン攻撃ほど、中東および世界に激震を与えうる軍事行動はないと思う。
トランプ米大統領の出口戦略のない行き当たりばったりの判断、イランの反撃力が思いのほか強いことなど、過去に何度かあった衝突と比べてもよりショッキングだ。
3月16日現在、事態は収束どころか悪化の一途のように見える。米・イスラエル間の思惑の違いも見えてきたが、トランプ氏が一方的に「勝利宣言」をして、中東から手を引く可能性もある。現時点で戦争の行方を予測することは難しい。そこで本稿では、イランの歴史や宗教を学び直し、今後の中東情勢を考える視点を提供したい。
次ページ以降の3大ポイント
・イランは、大国とも対等にやり合い、他国支配を自国文化に変換できる民度の高い国
・イスラムの誇り「殉教」思想の本質とは?戦前の日本軍の精神主義とは決定的に違う点
・米国「三度目の失敗」か、トランプ氏の視野狭窄が世界を危機に陥れる
イランは誇り高く民度も高い
簡単に米国の軍門には下らない
イランは、紀元前の古代からアケメネス朝ペルシャとして地域に覇を唱えていた。古代ギリシャとの戦争では、ギリシャを倒す直前まで行ったことで知られる。中東では、アラブやトルコに比べて、はるか昔からの国家文明を持つ。
16世紀末にサファビー朝の首都となったイスファハーンは、その繁栄ぶりから「世界の半分」とまで言われた。筆者も訪問したことがあるが、中世の発展を忍ばせる青色の美しいモスクの荘厳さに圧倒された。
アレキサンダー大王やモンゴル帝国、アラブの支配を受けた時期はあるが、逆にこれら支配者の文化を「イラン化」して発展してきた。近代も、イギリスやロシアの影響を受けながらも王朝は維持し、完全な植民地にならなかった。
イラン人と話をしていると「自分たちは数千年の文明国家だ」という誇りを強く感じる。安易に白旗を揚げ、米国の軍門に下る国ではない。
中東の専門家と議論すると、イランについて「民度が高い」という言葉を聞く。主観的な表現ではあるが、ある地域や集団に属する人々の文化的・教育的水準が高いと言い換えられるだろう。実際、イランは識字率が高く、理学・工学系の論文数も多い。
今回の報復でも、イランのドローン「シャヘド」が威力を発揮していることは、米国側も認めている。イラン技術水準の高さを示すものと言ってよいだろう。
イスラム共同体と殉教の思想が
イランを徹底抗戦に向かわせる
今後の展開を考える上では、イスラム共同体への攻撃と、殉教の思想も重要な要素となる。
イスラム教は、キリスト教やユダヤ教と比べても、社会の仕組みを宗教の教えに則って運営すべきだという考えが強い宗教である。イスラム教徒は、イスラム共同体として社会の安定と発展を目指す。この共同体は、アラビア語で「ウンマ」と呼ぶ。
ウンマでは、異教徒が存在していても、必ずしも排除されるわけではない。伝統的なイスラム法の下では、キリスト教徒やユダヤ教徒などの「啓典の民」はジズヤ(人頭税)を支払うことで居住や商業活動を認められる制度があった。
また、コーランは無制限の戦争を奨励しているわけでは決してない。したがって、イスラム教徒が本質的に好戦的であるという見方は、単純化しすぎた理解と言えるだろう。
ただし、イスラム共同体が外部から攻撃を受けた場合は、どうなるか。

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数千年も続く死生観と深く結びついた
宗教的な生き方・死に方に関わる問題
イスラム法学では、基本的に「防衛のために戦う」ことは「正当」とされる。
テレビのコメンテーターの中には、イランの殉教観を、戦前の日本軍の精神主義や共産主義の教条主義になぞらえる向きもあるようだ。しかし、私はそれとは性質が異なるものだと思う。
なぜなら、時と場合によって変わる政治思想ではなく、数千年も続く死生観と深く結びついた宗教的な生き方・死に方に関わる問題だからである。
イスラム教では、信仰のために命を落とした者はシャヒード(殉教者)と呼ばれ、特別な意味を持つ。多くのイスラム教徒は、殉教者は神のもとで特別な報いを受け、楽園に迎えられると信じている。
今回の米国とイスラエルの攻撃で、すでに多くの死者が出ていると報じられている。イスラム教徒の中には、異教徒との戦いで命を落とした場合、それを殉教として理解する人もいるだろう。革命防衛隊の兵士の中にも、殉教を意識している者がいる可能性はある(無論、実際に死を望んでいるかどうかは別の問題だ)。
「楽園に迎えられるために、命を懸けることもいとわない――」
このような宗教的観念が、一定の影響力を持っていることは否定できない。日本では宗教、特に一神教への理解が十分とは言えないが、イランを理解する上でまずこの思想や価値観を把握することが重要だ。
米国は世界最強だが…
傲慢さが判断を誤り「三度目の失敗」か
自国第一の思想を持ち、英語以外の言語を話さず、海外に住んたことがないトランプ氏は、世界の文化や宗教には疎いようだ。少なくとも、イスラム教徒の思考や行動を十分に理解しようというタイプではない。
異文化、異宗教への理解不足は、戦線を泥沼に落とし込むことになる。私は、これらの知識をグローバルリベラルアーツと呼んでいる。現代の政治家やビジネスパーソンにとって必須の知見であると思う。
アメリカは、軍事、経済、ビジネス、いずれの分野においても世界最強であり、周辺に軍事大国がないなど地政学的な優位性から、今後もその地位は揺るぎそうにない。
しかし、力を持ち過ぎたが故に傲慢になり、時に判断を誤るということは往々にしてあると考える。過去の対アフガン、対イラク戦争も「戦略的な失敗」「名誉なき敗退」と語られることが多い。
そしてトランプ氏のぶれた発言のせいで原油市場や金融市場がパニック状態であるように、世界の社会経済を危機に陥れている。
今後の展開は予測しにくいが、「長期間にわたる親米国家イランが生まれ、中東も世界も安定する」を成功と定義するならば、「ほぼ確実に失敗する」のではないかと考える。
最後に、ニクソン元米大統領が、『指導者とは』で書いている次の言葉をトランプ大統領に送りたい。
《米国の為政者は重要な決断の前には、ヨーロッパの首脳の意見を聞くべきだ。(中略)力のある者が必ずしも最大の経験と最高の頭脳と眼識と直感を備えているとは限らない。》

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