東京工科大学が「八王子のバス」を変える可能性

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有, 自動運転スクールバスを実証, スクールバスの「空き時間」を活用する方法も, 八王子市に環境は整っている

東京工科大学八王子キャンパスに停車する2台のバス(筆者撮影)

3月上旬、JR横浜線の八王子みなみ野駅でスクールバスを待っていると、やって来たのはなんと東京都心でよく見かける大型の燃料電池バスだった。

【写真】「AIユニバーシティ(大学)」と呼ばれる東京工科大学と八王子市の取り組み

丘陵地帯を抜けて約10分間、到着したのは東京工科大学八王子キャンパス。すると、そこにはもう1台の大型燃料電池バスと、自動運転バスが走行準備をしていた。

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有, 自動運転スクールバスを実証, スクールバスの「空き時間」を活用する方法も, 八王子市に環境は整っている

JR横浜線・八王子みなみ野駅で乗車した燃料電池バス(筆者撮影)

大学関係者によれば、学内には大型燃料電池バス3台を含めて合計26台ものスクールバスがあり、それら全てを大学側が所有しているというから驚く。

ここに新たに加わろうとしているのが、自動運転スクールバスである。今回はその出発式を取材し、地域社会におけるスクールバスの活用について考えた。

キーポイントは、東京工科大学「未来モビリティ研究センター」の存在だ。

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有

センター長の須田義大教授は、東京大学モビリティ・イノベーション連携研究機構長を務めた、日本における自動運転研究の権威。

東京工科大学には、同大学を含めた日本工学院専門学校等の教育機関を有する学校法人片柳学園の千葉茂理事長との出会いをきっかけに招聘(しょうへい)された。

須田教授が率いる未来モビリティセンターが目指すのは、下記を3本の矢として、人の未来とモビリティの関係性を深めることにある。

◼️ひと:モビリティ開発・人材育成プログラム

◼️こと:地域社会の課題解決

◼️もの:革新的なモビリティ技術の開発

そうした中で、大きな強みになるのが、日本の私立大学が保有する中で最大規模を誇るAI(人工知能)特化型スーパーコンピューター「青嵐(せいらん)」の存在だ。

アメリカ・NVIDIAの「NVIDIA DGX B200」システムを12台採用し、96基のGPUで構成。そのうえで、最新GPUアーキテクチャ「NVIDIA Blackwell」と「NVIDIA AI Enterprise」ソフトウェアプラットフォームを搭載し、私立大学では最速クラスのAI計算基盤を誇る。

こうしたハイエンドな技術導入を機に、同大学は2025年10月に八王子市と「AI/DX技術を活用した地域連携協定」を締結した。

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有, 自動運転スクールバスを実証, スクールバスの「空き時間」を活用する方法も, 八王子市に環境は整っている

奥に見える2台は燃料電池バス。手前が「ポンチョ」ベースの自動運転スクールバス(筆者撮影)

これを受けて、香川豊学長は「AIユニバーシティ(大学)」という表現を使う。「(学問の)基礎から社会実装まで見ること(学生が体験すること)を、一気通貫で行う実学主義教育でAIを活用する」と意気込む。

自動運転スクールバスを実証

そうした実学主義教育を具現化しているのが、今回のテーマである自動運転スクールバスだ。

車両は日野の10人乗りEV「ポンチョ」で、自動運転開発企業の先進モビリティがシステムを手掛けたもの。

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有, 自動運転スクールバスを実証, スクールバスの「空き時間」を活用する方法も, 八王子市に環境は整っている

自動運転スクールバス実証実験の出発式の様子(写真:八王子市)

実証実験の区間は、JR横浜線・八王子市みなみ野駅から東京工科大学八王子キャンパスまで。出発式を行った3月7日のほか、3月9日~14日まで1日7便を通常のスクールバスとダイヤ調整して運行した。なお、乗車するのは大学の教職員のみで、後日アンケート調査を実施するという。

筆者は今回の取材で、この自動運転バスに八王子市の初宿和夫(しやけかずお)市長、須田教授と同乗体験した。

自動運転に関する基本的なシステムは、神奈川県横須賀市のヨコスカリサーチパーク(YRP)で体験した大型バスと同じ。乗車時間は、往復それぞれ10分間ほどだ。

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須田教授(左)初宿八王子市長(右)とともに自動運転スクールバスに乗車(筆者撮影)

交通量がある程度ある一般道を運転士がいる「レベル2」自動運転で走行したが、運転士が介入する場面はほとんどなく、また最高速度を時速35kmとした加速・減速の度合い、また横断歩道での歩行者などの検知もスムーズだった。

なお、未来モビリティ研究センターでは今後、学内スクールバスをフル活用して、カメラ画像だけではなくAIが運転判断を行う「E2E(エンド・トゥ・エンド)AIベース」の自動運転の実証研究を進める。

試乗後、初宿市長にインタビューを行った。ここからはQ&Aの形でお届けする。

スクールバスの「空き時間」を活用する方法も

――今回の実証後、社会実装に向けた目処は?

初宿市長:まずは、10月にオープンする、学び・交流・防災の機能を備えたみんなの公園「桑都の杜(そうとのもり)」と八王子駅南口を結ぶ一般の方も乗車していただく自動運転バスの実証実験を行いたい。

その先は、令和8年度中に、八王子南口、桑都の杜、JR横浜線片倉駅、東京工科大学を終着とした路線バスを検討中で、実施時期や運行事業者の調整をしていく。

路線バス事業としての運行となると、営業の持続性が課題だ。実証実験までは行政が主導するが、(社会実装では)事業者間の議論が主体となる。

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キャンパスから公道へ向かう自動運転スクールバス(筆者撮影)

――その議論は、従来の地域公共交通会議で行うのか? それとも新しいコンソーシアムなどで検討するのか?

初宿市長:これからの議論だ。いまの自動運転運行システムにほかのバス会社が加わるのであれば、それが一番いいやり方かもしれない。

――自動運転スクールバスの議論とは別に、季節によって多く発生するスクールバスの空き時間を活用する発想はないか?

初宿市長:今日、須田教授からの説明で刺激を受けた。スクールバスの活用は、バスの自動運転化とは別の議論としてこれまでもあったが、(東京工科大学八王子キャンパスに)これだけ多くのバスがあるのであれば、八王子市として活用できる可能性があるのではと思ったところだ。

自動運転バスの試乗中も、八王子市立小中学校で課外活動などでの利用や、学校の統廃合にともなうスクールバスの活用などの可能性を考えた。今後の検討課題としたい。

今回の取材を通じて改めて感じたのは、国が進める地域公共交通の「リ・デザイン」(再構築)に向けた可能性だ。

国土交通省の資料から言葉を借りると、リ・デザインとは、官民共創・交通事業者間共創・他分野共創の「3つの共創」、自動運転やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)などデジタル技術を実装する「交通DX」、車両電動化や再エネ地産地消など「交通GX」を柱とした取り組みのことをいう。

最大規模を誇る「AI特化型スパコン」を保有, 自動運転スクールバスを実証, スクールバスの「空き時間」を活用する方法も, 八王子市に環境は整っている

自動運転スクールバスの運転席まわり(筆者撮影)

こうした地域公共交通のリ・デザインは、全国各地でトライ&エラーがあるものの、社会実装後の事業持続性に関する成功事例が少ないのが実情だ。

八王子市に環境は整っている

八王子市には、今回紹介した事例のほか、25の大学・短期大学・高等専門学校が市民団体や企業・経済団体と連携する「大学コンソーシアム八王子」があるため、自動運転スクールバスやスクールバスのシェアリングなどの議論がしやすい環境にあると考えられる。

そのうえで、自動運転スクールバスは地域社会の活性化の向けた「ひとつの手段」として、未来を担う学生など多くの若い世代を巻き込んだ「地域の現実解」の議論のたたき台になるはずだ。