「恥ずかしくない?」「もうかるの?」街で見かける“スクリーン”を背負って歩く広告バイト 返ってきたイマドキな本音

 都内の人混みを歩いていたある日、記者の少し前を移動する黄色の発光物体に視線を奪われた。何かと思えば、背中に大きなスクリーンを背負った20代くらいの女性が歩いている。スクリーンには「ここに広告が出せます!」と表示されていた。ほかの通行人も「なにあれ?」「一日歩き回ってたら瘦せそう」などとささやきながら、興味津々の様子だ。周囲の視線を一身に受けながら街を歩く“奇妙なアルバイト”の正体とは。

*  *  *

 4月初旬の夕暮れ。待ち合わせ場所のJR恵比寿駅(渋谷区)近くに現れたのは、マス向け広告サービス「歩く広告!アドマン」アルバイトスタッフの中村祥英さん(38)だ。車から取り出したのは、記者が以前見たのと同じ「ここに広告が出せます!」と自社広告が表示された大型スクリーン。重量は8キロで、記者が持ち上げると思わず「うっ」と声が漏れたが、中村さんは慣れた手つきでスクリーンについたリュックひもに腕を通して背中に装着すると、「じゃあ、行きましょうか」と駅前通りへ繰り出していった。

 あたりは既に暗く、光るスクリーンは昼間以上に強烈な存在感を放つ。道行く人は二度見をしたり、「歩く広告だってー!」と画面の文字を読み上げたり、こっそりスマホで写真を撮ったり、さまざまなリアクションを示していた。そんな好奇の目をよそに、気持ちゆっくりめのペースを守って、黙々と所定ルートを歩き続ける中村さん。

「人って歩くと気持ちが前向きになるんです。悩みや考え事があっても、仕事中は頭がクリアになるので、ストレスコーピングの作用がある気がします。3時間歩くと、だいたい2万歩。これは狩猟採集をして暮らしていた原始人と同じくらいの活動量になるので、健康にもいいんですよね」

 周囲からジロジロ見られることはストレスなのでは、と想像していたが、特に恥ずかしさはなく、むしろ歩くことでストレス軽減につながっているようだ。

■目の当たりにした、アドマンの“プロの技”

 そして、中村さんが歩く姿を観察するうち、随所に“プロの技”が散りばめられていることに気がついた。横断歩道で信号待ちをするときは、既に並んでいる人の間を無理のない範囲でかいくぐり、先頭に立つ。信号が青に変わってもしばらくは歩き出さず、後ろに並んでいる人が全員自分を追い抜いてから歩き出す。次々に人がやってくる場合はその場に立ち続け、いったん青信号を見送ることもあった。

 これらはマニュアルで指示されたものではなく、独自に編み出した工夫だという。「信号待ちは一番目を留めてもらえるタイミング。どうしたら一人でも多くの人に見てもらい、記憶に残せるか、いつも考えながら歩いています」と、中村さんは教えてくれた。

「歩く広告!アドマン」のサービスが始まったのは3年半前。運営会社の代表取締役・越智嵩太郎さん(32)によると、「池袋のサンシャインシティで大勢の人が駅に向かって歩く後ろ姿を見たとき、この背中に広告があったらめちゃくちゃ見られるだろうなと思った」のが創業のきっかけだという。

「屋外ビジョンやアドトラックを使える予算はないけれど、ティッシュ配りよりはインパクトのある訴求をしたいという企業ニーズに応えられます。昔で言う、チンドン屋や(体の前後に広告板を貼りつけた)サンドイッチマンのデジタル版といったところでしょうか」

 たとえばスクリーンを1社単独で買い切り、東京の渋谷や新宿エリアを1時間歩いてもらう場合、費用は1台あたり税込み6000円から。テレビ番組やイベント告知の依頼が多いが、過去には大手ディスカウントスーパーや某人気YouTuberからの出稿もあったという。

■アルバイトスタッフは全国に1000人弱!

 北海道から九州まで全国展開しており、各主要都市にいる登録アルバイトスタッフは20~30代を中心に1000人弱にのぼる。アルバイトの時給は1300円前後と平均的だ。さらに、越智さん自身は「実際に広告を背負って歩いてみたときは、正直恥ずかしかった」と笑うが、なぜこんなにも多くのスタッフが集まるのだろうか。

「街でアドマンを見たことを機に直接応募してくれる人が多いですね。“隙間バイト”として柔軟に働きたい、接客が苦手、歩くのが好き、人間観察や街ぶら感覚で楽しめる、ダイエットになる、などと応募理由はさまざまで、女性スタッフも珍しくありません。自分一人で歩くだけなので、職場の人間関係をめぐるストレスがないことも若い人には魅力に映るようです」

 前出の中村さんがアドマンのバイトを始めたのは今年の初め。本業は個人事業主として中古服を販売しており、単発で働ける副業を探していたところ、街でアドマンを見かけた。「珍しい仕事だな」と興味本位でアルバイトに登録したが、仕事を始めるとのめり込み、2月は休みなしで毎日稼働。1日5~6時間歩き続ける日もあるという。

「すごくやりがいを感じていて、気持ちとしては本業のつもりです。この仕事は、ただ道を歩くという行為に価値を生み出す仕事だと思っています。広告を見てくれた通行人の方々に『珍しいねー』『面白い!』などと言ってもらえて、新たな発見や会話のきっかけを提供することができる。『私もこのバイトやってみたいかも』なんて言われると、つい勧めたくなりますが、お客さまの広告を背負っている以上、言葉は返さず歩き続けています」

 特に思い出深かったのは、とある配信映画作品のプロモーションとして登場人物のコスチュームを着て渋谷を歩いたことだ。好奇心旺盛な外国人や女子高生たちから、ツンツンと指でつつかれたり、一緒に記念撮影を求められたりと、今まで経験したことのないようなリアクションに触れて楽しかったという。

 熱心な働きぶりが認められ、中村さんは最近、現場でほかのアルバイトたちの様子を監督する現場管理スタッフに“昇進”した。だが、街を歩く業務はこれまで通り続けるつもりだ。じきに酷暑の夏がやってくるが、「この仕事を多くの人に知ってもらうためにも、さらに稼働を増やしていきたいです」。

 わずらわしい人間関係がなく、1人で歩いているだけでお金になる……そんな新形態のアルバイトがはやるのも“イマドキ”なのかもしれない。

(AERA編集部・大谷百合絵)

・【写真】「歩く広告・アドマン」として“プロの技”を持つ中村さん

・【写真】中村さんの背中を追いかける高齢女性の手元には…

・【写真】青信号なのに…横断歩道前で立ち尽くす中村さん