NASA有人月ミッション「アルテミスII」いよいよ地球帰還へ 日本時間11日午前に大気圏再突入

アメリカが主導する有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」で初めての有人ミッションとなる「Artemis II(アルテミスII)」。NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、歴史的な月フライバイを終えた宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」は、いよいよアメリカ東部夏時間2026年4月10日夕方(日本時間翌11日午前)に地球へ帰還します。

大気圏再突入から着水までは13分間, 再突入の飛行経路は今回限定の短縮バージョン, 推進システム内部でヘリウムがリーク 帰還には影響なしの判断, 万全の態勢で臨む着水と帰還後のスケジュール

【▲ Orion宇宙船の太陽電池パドルに取り付けられているカメラで撮影した宇宙船のセルフィー。銀色にコーティングされた円錐形の部分がクルーモジュール(Credit: NASA)】

大気圏再突入から着水までは13分間

NASAはミッション9日目となるアメリカの現地時間4月9日に開催した記者会見にて、大気圏再突入から着水までの詳細なタイムラインを改めて報告しました(※以下の日時は原則としてアメリカ東部夏時間で表記)。

計画によると、Orion宇宙船はアメリカ東部夏時間4月10日19時33分(日本時間翌11日8時33分)頃に、エンジンなどがあるサービスモジュールを、クルーが搭乗するクルーモジュールから分離します。その後、クルーモジュールは19時53分に高度40万フィート(約122キロメートル)で大気圏に突入します。この時の速度は時速約2万3864マイル(秒速約10.6キロメートル)に達し、プラズマ化する大気の影響で約6分間の通信途絶(ブラックアウト)が発生します。

通信が回復した後の20時03分、高度2万2000フィート(約6.7キロメートル)付近で減速用のパラシュートが展開され、続く20時04分には高度6000フィート(約1.8キロメートル)付近でメインパラシュートが展開されます。そして大気圏突入から13分後のアメリカ東部夏時間10日20時07分(日本時間翌11日9時07分)頃、クルーモジュールはカリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋へ着水する予定です。

大気圏再突入から着水までは13分間, 再突入の飛行経路は今回限定の短縮バージョン, 推進システム内部でヘリウムがリーク 帰還には影響なしの判断, 万全の態勢で臨む着水と帰還後のスケジュール

【▲ Orion宇宙船の大気圏再突入から着水までのタイムラインを示した図(Credit: NASA)】

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【▲ Orion宇宙船のパラシュート展開シークエンスを示した図(Credit: NASA)】

再突入の飛行経路は今回限定の短縮バージョン

NASAによると、今回のOrion宇宙船クルーモジュールの再突入では「Lofted Entry(ロフテッドエントリー)」と呼ばれる、通常の月からの帰還時よりも大気圏での飛行距離を大幅に短縮した飛行経路が採用されています。この変更は、2022年に無人で実施された「Artemis I(アルテミスI)」ミッションで確認された、耐熱シールドの予想外の損傷に対応するための措置です。

Orion宇宙船が月から帰還する際には、大気圏の浅い部分で一旦上昇してから再び降下して長距離を滑空する「Skip Entry(スキップエントリー)」という飛行経路が採用されており、無人のArtemis Iで初めて実施されました。途中で高度を調整することで加熱を抑えられるだけでなく、飛行距離を調整することもできるので、目標海域へピンポイントに着水できるメリットがあります。

・NASA「アルテミス計画」最初のミッションでテストされるオリオン宇宙船の再突入方法(2021年4月14日)

大気圏再突入から着水までは13分間, 再突入の飛行経路は今回限定の短縮バージョン, 推進システム内部でヘリウムがリーク 帰還には影響なしの判断, 万全の態勢で臨む着水と帰還後のスケジュール

【▲ 参考画像:無人の「Artemis I(アルテミスI)」ミッションで帰還したOrion宇宙船のクルーモジュール(Credit: NASA)】

ところがArtemis Iの帰還時、クルーモジュールを熱から保護する耐熱シールドの加熱が想定よりも弱かったために、気化することで機体を熱から守るアブレーション材料の内部で発生したガスがうまく抜けず、圧力が高まって表面の亀裂や剥離を招いたことが事後の調査で判明しました。ちなみに、耐熱シールドに想定外の損傷は生じたものの、クルーモジュールそのものは無事に帰還しています。Artemis Iミッションで確認されたクルーモジュール耐熱シールドの損傷に関しては、以下の関連記事もご覧ください。

・NASAがアルテミス計画のスケジュールを再び見直し 有人月面着陸は2027年以降に(2024年12月7日)

NASAが原因判明を報告した2024年12月の時点では、すでにArtemis IIミッション用の耐熱シールドは組み立てが完了していました。そこで、NASAはArtemis IIに限り、再突入時の角度を意図的に大きくすることで耐熱シールドを強く加熱し、アブレーション材料の気化を促してガスを逃がす手法を選択しました。そのため、南半球から長距離を滑空するのではなく、着水点に近い場所で大気圏へ再突入することになったのです。

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【▲ Orion宇宙船の大気圏再突入予定地点と着水目標海域を示した図。Artemis IIミッションの帰還時にはハワイ南東からカリフォルニア沖までの短い区間を飛行する(Credit: NASA)】

耐熱シールドの損傷を防ぐために強く加熱するというのは矛盾して聞こえますが、記者会見ではNASAのAmit Kshatriya副長官補がこの件に改めて言及しており、耐熱シールドの素材と熱負荷の相互作用を考慮した結果、より急速な加熱によって気化を促進させる方が有利だと判断したためだと回答しています。

なお、「Artemis III(アルテミスIII)」以降のミッションで使用されるOrion宇宙船のクルーモジュールでは、材料の製造方法を見直してガスの透過性を高めた新しい耐熱シールドが用いられるため、本来のスキップエントリーに戻る予定だということです。

推進システム内部でヘリウムがリーク 帰還には影響なしの判断

また、会見では、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が担当するOrion宇宙船のサービスモジュール「ESM(European Service Module)」の推進システムにおける、ヘリウム加圧バルブのリーク(漏れ)についての説明がありました。

ヘリウムは推進剤をタンクからエンジンへ送り込むための加圧に使用されています。NASAによると、このリークはシステム内部での漏れに留まっており、宇宙空間にヘリウムガスが漏れ出しているものではありません。また、地球へ帰還するための重要な軌道修正はすでに完了しており、サービスモジュール自体も大気圏突入前に分離されて大気で燃え尽きるため、明日の着水やクルーの安全への影響は全くないとされています。

ただし、より高い性能が求められる将来のミッション向けのサービスモジュールについては、システムの設計変更が検討される見込みです。

万全の態勢で臨む着水と帰還後のスケジュール

大気圏再突入から着水までは13分間, 再突入の飛行経路は今回限定の短縮バージョン, 推進システム内部でヘリウムがリーク 帰還には影響なしの判断, 万全の態勢で臨む着水と帰還後のスケジュール

【▲ Artemis IIミッションのクルー帰還に備えて太平洋上を航行するアメリカ海軍のドック型輸送揚陸艦「USS John P. Murtha(ジョン・P・マーサ)」(Credit: U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Kenneth Melseth)】

Orion宇宙船クルーモジュールの着水目標海域には、アメリカ海軍のドック型輸送揚陸艦「USS John P. Murtha(ジョン・P・マーサ)」をはじめとする回収部隊が待機しています。

NASAのフライトディレクターを務めるJeff Radigan氏によれば、着水後はパラシュートなどの落下物から回収部隊の安全を確保し、宇宙船の電源を落とすなどの作業を行うため、クルーの搬出開始までに30分から45分程度かかる見込みです。

搬出されたクルーはヘリコプターで揚陸艦へと移送され、医療チェックを受けた後に、テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターへと帰還します。10日間にわたる過酷なミッションを終えた後、クルーは着水から2週間以内に記者会見を開き、自らの言葉で歴史的な旅を振り返る予定だということです。

なお、NASAは公式ストリーミングサービス「NASA+」や、NASAの公式YouTubeチャンネルなどを通じて、帰還の模様をライブ配信します。ライブ配信はアメリカ東部夏時間2026年4月10日18時30分(日本時間翌11日7時30分)にスタートする予定です。

日本では土曜日の午前中となるArtemis IIミッションのクルー帰還、ぜひライブ配信で見守りましょう!

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

・NASA - Artemis (NASA Blogs)

・NASA - NASA’s Artemis II Daily News Conference (April 9, 2026) (YouTube)