地元が明かす福岡の食「常識」と観光客の「惜しさ」

福岡の名物として真っ先に名前が上がる屋台だが……!?(写真:福岡県観光連盟提供)
福岡市内に約20年、北九州市の小倉に約15年。なんだかんだ人生の大半を福岡県内で過ごしてきた筆者が、観光客に伝えたい地元民の声を前後編でお届けする。まずは前編「福岡の食」について。
【写真を見る】津田屋官兵衛の「野菜天ぶっかけ」。サクサクでボリュームのある天ぷらも魅力(写真:筆者撮影)
【後編はこちら】
「観光名所がない」と地元民が断言する福岡市。それでも「住みたい街」1位に選ばれ続けるコンパクトシティの実力を明かす
地元民が言われて困るリクエストは「屋台に行きたい」
県外からの友人・知人が福岡に訪れた際、「食事に行きましょう!」と声をかけてもらえるのはうれしいものだ。お気に入りの店リストを頭の中で展開させるのは、楽しみでもある。
もちろん、「何か食べたいものや、行きたいところはある?」と聞くのも欠かさない。しかし、その際に言われて困るリクエストが「屋台に行ってみたい!」だ。

観光客でいっぱいの中洲屋台街。海外から訪れた観光客の姿も目立つ(写真:筆者撮影)
もう、これが断トツに困る。なぜなら、地元民で屋台に行く人はほとんどいないからだ。特に、中洲の屋台街に行かない・行ったことがない人は少なくない。理由は単純明快。「わざわざ屋台に行くメリットがない」のだ。
観光客が屋台にどのようなイメージを持っているかわからないが、そもそも屋台は別に安いわけではない。そして、壁や空調がないので夏は暑いし、冬は寒い。備え付けのトイレもないので、公衆トイレを使用することになる。
予約もできないから、人気店には並ばざるを得ない。快適な環境で食事やお酒を楽しめるお店がいくらでもある福岡で、あえて屋台を選ぶ必然性はないのだ。
もちろん、地元民が一切屋台に行かないわけではない。ただ、行くとしたら、観光地化して大行列の中洲屋台街ではなく、長浜や天神北、須崎町エリアなど、他のエリアを選ぶ。
筆者もまれに、飲み会の帰りにどこかに立ち寄りたくても店舗が軒並みオーダーストップしてしまった時や、帰りのバスの待ち時間に天神の渡辺通に出ている屋台に立ち寄ることはある。「会社の近くに出ている屋台に同僚と行って、ぱっと食べてさっと帰る」という人もいた。だから、もし屋台を体験したいなら、「2次会がてら、中洲以外の屋台に立ち寄ってみる」がおすすめかもしれない。
もちろん、屋台のいいところもある。福岡市民は我が街が大好きで、お節介なほどに人懐っこい人が多い。そのため、前述のような、比較的地元民が多いエリアの屋台に行けば観光客を歓迎してくれるはずだ。
「どこから来たの?」「あそこは行った?」「福岡はどう? 気に入った?」。観光客だとわかると、そのように話しかけてくる人も少なくない。ラーメンとビールに舌鼓を打ちつつ、一期一会の会話を楽しむのもきっと旅の思い出になるだろう。
多国籍料理にコーヒー。新規屋台から始まる新しい福岡屋台文化
また、一部には、地元民の中でも話題になっている屋台もある。それは「ネオ屋台」と呼ばれる新しい形態の屋台だ。福岡の屋台と言えば、「ラーメン・おでん・焼き鳥」が定番。
しかし、2016年から新規屋台の公募で選ばれた屋台が増えており、その中に多国籍料理を出す屋台やコーヒーと蒸留酒が楽しめる屋台など、“変わり種”が増えている。
その筆頭とも言える屋台が、天神・渡辺通に出ているフレンチ屋台「レミさんち」だ。いつも開店前から行列ができており、地元民の間でも「おいしい」と話題になっている。しかし、並ばないと入れないというのはハードルが高く、筆者は気になりつつも、まだ一度も行ったことがない。

いつも満席の「レミさんち」。道の端には順番待ちの行列ができている(写真:筆者撮影)
ただ、福岡市の屋台公募制における営業許可期間が最大10年のため、「レミさんち」は2027年4月に閉店してしまうという。これは、いよいよ一度行っておかなければなるまい。本記事を書きながら近いうちに来店することを心に決めた。

鶏もものコンフィや本日のキッシュなど、おいしそうなビストロメニューが並ぶ(写真:筆者撮影)
「1杯1000円」は高すぎる? ラーメンが“おやつ”の福岡県民
屋台に次いで困るのが「おいしいラーメン屋を教えて」という質問だ。一風堂や一蘭といった有名店は全国に展開していることを考えると、他のラーメン屋を挙げるべきなのだろう。しかし、普段ラーメンを食べない筆者には思い浮かばない。
仕方がないので、博多駅構内にある「デイトス」2階の「博多めん街道」や福岡空港のラーメンストリート「ラーメン滑走路」のほか、いつも行列ができている「博多一双」などを挙げることが多い。「行ったことはないのだけど」という言葉を添えて、だが。
ラーメンを食べに行くことがほとんどないのは筆者の嗜好による可能性も考え、周囲にもヒアリングをしてみた。しかし、女性に限らず男性も、生粋のラーメン好き以外は「あまり行かない」という人が多かった。
地元民にとって、ラーメンは「飲んだ後の締め」という意識が強く、1杯1000円前後もする有名店にはあまり足を運ばないのだ。
地元民が愛するのは、もっと日常に溶け込んだ「気やすさ」だ。例えば、県内に10店舗を展開する「博多ラーメン はかたや」は、1杯290円、替え玉100円という驚きの低価格を維持している。
具材はチャーシューとねぎのみというシンプルさだが、部活帰りの高校生がおやつ代わりに食べたり、飲み会帰りのサラリーマンが締めの一杯を求めて立ち寄ったりする姿が多く見られる。

一杯290円の低価格を維持する「博多ラーメン はかたや」のラーメン(写真:東洋経済オンライン編集部)
また、長浜の「元祖長浜屋」も、魚市場で働く人々の腹を素早く満たすために生まれたスピード提供と、一杯550円、替え玉150円という価格設定で、今も地元民の胃袋を支えている。
実は、「うどんの地」。福岡のうどん3大チェーンの魅力
福岡は実は「うどん文化」の地であることは、徐々に全国に知られ始めている。福岡市のうどんは、やわらかく、ふわふわしつつも、モチモチした食感の麺が定番だ。忙しい商人たちのために、すぐ食事を提供できるよう茹で置きの麺を温めて提供するスタイルから定着したという。
福岡市でうどんと言えば、代表的なのは「ウエスト」。店舗数が多いうえに、24時間営業、年中無休のところがほとんどなので、暮らしに溶け込んでいる店と言えるのではないだろうか。夕方から提供される居酒屋メニューも人気で、仕事帰りに一人で「ウエスト飲み」する人も少なくない。
うどん出汁でつくるあっさりとした「もつ鍋」が人気で、なんと1人前390円(注文は2人前より受付)。一人でも立ち寄りやすいので、一人旅の方や出張の方にもおすすめだ。

ウエストで人気の「かき揚げうどん」。プリプリのえびやいかが入っていてボリューム満点(写真:筆者撮影)
そして、ウエストと並んで紹介される福岡市のうどんと言えば、「牧のうどん」だろう。「牧のうどん」はもっちりとやわらかい「やわ麺」が特徴。どんどんスープを吸って麺が膨らんでいくので「食べても食べても減らない」と評判だ。
一緒に提供される小さなやかんに入ったスープを足しながら食べるのだが、麺は膨張し続けるので最後はお腹いっぱいになること間違いなしだ。
一方、北九州市で愛されているのが「資さんうどん」である。製鉄の街・北九州市発祥ということもあり、工場労働者に好まれる濃いめのスープが特徴。そこに、無料の「とろろ昆布」を入れて食べるのが資さん流だ。

資さんうどんの2大人気メニュー、「ミニ肉ごぼ天うどん」と「ミニカツとじ丼」のセット(写真:筆者撮影)
また、店内には大きなおでん鍋が設置してあり、うどんが来るまでの間に味の染みたおでんを楽しんでいる人も多い。さらに、「ぼた餅」も欠かせない名物だ。かつて北九州の屋台では「酒を置かない」という決まりがあり、代わりに食後にぼた餅を食べていた。
資さんうどんでは、その文化を継承しているのだ。お持ち帰りもあるので、うどんやおでんでお腹いっぱいになった人は、ぜひ持ち帰って夜食に食べてみてほしい。
北九州発「第4の勢力」と、進化する「うどん居酒屋」
近年、この福岡うどんの3大チェーンに割って入る勢力が「豊前裏打会」だ。北九州市小倉南区の「津田屋官兵衛」を源流とする豊前裏打会は、グループ店で修業した店主が独立する際に加盟を許されるのだそうだ。
博多駅前にある「大地のうどん」や2025年4月にオープンしたワン・フクオカ・ビルディングに入っている「萬田うどん」などの人気店もこの系譜になる。

津田屋官兵衛の「野菜天ぶっかけ」。サクサクでボリュームのある天ぷらも魅力(写真:筆者撮影)
筆者は学生の頃、「津田屋官兵衛」の近くに住んでいた。住宅地の一角にある割に、当時から行列ができている店だったが、のちにこんな一大勢力になっていることを知った時は、大変驚いた。
「豊前裏打会」の特徴はなんと言っても麺にある。細めで透明感があり、薄黄色い。表面はやわらかいが中は弾力があり、ツルッと食べられる。
なお、「津田屋官兵衛」は大将の体調不良で休業中だ。店も豊前裏打会のメンバーに引き継がれて、「麺屋 三新」となっている(大将は体調が回復次第、新天地で開業予定だそう)。ぜひ各地にある豊前裏打会の店舗に足を運んでその味を確かめてきていただきたい。
さらに、飲んだ締めにうどんを食べる「うどん居酒屋」という形態も定着した。須崎町の「つきよし」や博多・天神などに店舗を構える「二○加屋長介」など、刺身から揚げ物、うどんまで一軒で完結できるのは、締めを食べにラーメン屋にまではなかなか行かない女性客にも人気だ。
地元民に「もつ鍋屋」を指定するのはもったいない? まだまだ奥が深い福岡の食
最後にもう一つ。観光客が福岡でもつ鍋を食べたがるのも、地元民からすると少しもったいなく感じる。もちろん、もつ鍋はおいしい。プリップリの丸腸の脂と野菜の旨みが凝縮したスープで締めるちゃんぽんも最高だ。筆者も大好物だ。

時々、地元民でもびっくりするほどおいしいもつ鍋に出会うこともある(写真:筆者撮影)
しかし、もつ鍋専門店にわざわざ足を運ぶ地元民は意外と少なく、居酒屋のメニューにあれば頼む程度。さらに言うと、もつ鍋は自宅で作って食べるものだと思っている人も多い。だからもつ鍋は、自ら検索して人気店へ足を運ぶだけで十分だと感じる。
というのも、食の激戦区である福岡は、実はビストロやイタリアンなどの洋食のレベルも非常に高い。新鮮な食材が安く手に入る環境ゆえ、東京では考えられないようなコストパフォーマンスで一流の味を楽しめる店がゴロゴロしている。だから、ぜひ福岡の洋食も堪能していただきたい。
しかし、残念ながら筆者は観光客から洋食のお店について尋ねられた経験はない。もつ鍋やラーメンをリクエストされると、それを差し置いて地元民から「おいしいビストロがあるんだけど」とはなかなか提案しづらいものだ。

観光客には教えたくない、おいしいビストロやイタリアンが豊富な福岡市(写真:筆者撮影)

ひと味違うパスタにも出会える(写真:筆者撮影)
もしあなたが福岡の食の真髄を味わいたいなら、あえて定番を外し、地元民に「あなたの一番お気に入りのお店を教えて」と頼んでみてほしい。そこには、地元民が密かに通い詰める「本当の福岡」が待っているはずだ。