三浦貴大演じる“ダメ息子”に名優・根岸季衣が放ったセリフが味わい深い〈風、薫る第19回〉

『風、薫る』第19回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第19回(2026年4月23日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)
誘拐。りんは環を追って婚家へ
いきなり誘拐!
環(宮島るか)が長屋の外でひとり、手毬(まり)で遊んでいると、いきなり現れた男にさらわれてしまう。
連れ去られた瞬間、すぐに美津(水野美紀)が気づいて声をあげるが、間に合わない。
男は単なる誘拐ではなく、環を奥田家に連れていったのだ。無事ではあるとはいえ、物騒な。
取り返しに婚家に向かうりん(見上愛)。美津は瑞穂屋にしばらくりんは休むと伝えに行く。無断欠勤をしないところはちゃんとしている。
卯三郎(坂東彌十郎)は母親が子どもを引き取るのは難しいであろうと心配する。
久しぶりの地元。りんが歩いていると土手の上から虎太郎(小林虎之介)の声。りんの位置からは逆光なので顔がはっきりとはわからないが、声やシルエットが虎太郎。気が緩んだのか、りんはふらっと倒れ込む。それを支える虎太郎。
東京ではシマケン(佐野晶哉)、地元では虎太郎。どっちつかずなりんを視聴者はどう感じるか、ひじょうに興味深い。
夫・亀吉(三浦貴大)、騎士・虎太郎、ちょっと気になるシマケン、手助けしてくれる卯三郎、りんを取り巻く4者4様。
奥田家は火事のあとも店は変わらず繁盛していると、虎太郎がりんに伝える。
「商売は真面目にやる人だから」とりん。そう、亀吉もよくよく考えると、大酒飲みなのと魚の食べ方が粗雑なのと、学のないコンプレックスがあること以外は、さほど悪い人でもないように描かれている。
真面目に飛脚からたたきあげて、運送業を繁盛させている商売の才能がある人なのだ。双六(すごろく)の上がりの「奥様」の夫としては十分であるはずだった。だが、人生、なかなかうまくいかない。
「俺も一緒に行く」と虎太郎がついてきてくれる。いつも虎太郎はりんの騎士のようである。
奥田家に着くと強面(こわもて)の使用人が虎太郎を取り囲むが、りんが家に入って亀吉とやりとりして出てくるまでに全員片付けていた。なかなか腕っぷしが強い。
だが東京でりんはシマケンというイケメンと親しくなっていることを虎太郎は知らないと思うと、お気の毒になってくる。
環の親権をめぐる争い
婚家に戻ったりん。姑・貞(根岸季衣)が環を連れている。大切にされてはいるようだ。
そこに亀吉も来て、貞が席を外し、りんと亀吉が2人きりになる。
気まずい。風がビューッと吹く。
りんは亀吉に離縁してほしいと頼むと意外とあっさり承諾された。ただし、環は渡さない。それが条件。
亀吉にはほかにも先妻との間にできた子もいるし、環は女の子なのであまり大切にされていなかった。それでもこういうときは親権を主張する。意地悪である。まあ、家を守るためには子はいたほうがいい。跡継ぎがいつなんどきどうなるかわからないから。
「環を引き取れんなら出ていきません」とりん。百歩譲って奥田家で育てるとしたら、女学校に入れてほしいが、亀吉はそんな気はない。
「女が学つけても仕方ねえつってんだろ」
「でしたら、環は絶対に渡しません。私が育てます」
すると亀吉は、新しい男と逢引していたらしいじゃないかと言い出す。現代だと探偵や興信所を雇って調べていた、みたいな感じである。
「それはお客さんで」とか「お金の心配ならいりません」というりんの答えは亀吉の誤解を招く。お客さんにお金を出してもらっているみたいに受け取られてしまう。
りんは慌てて真意を語る。
トレインドナース(技術や看護の知識を学んだ看護師)になると、月30円、もしかしたらもっと収入を得ることができると説明するが、美津だって理解できなかったのだから、亀吉に日本には前例のない女性の仕事が理解できるわけもない。どうしても病人の看病を下に見てしまう。そういう時代だから致し方ない。
「なんて言われても構いません。私はそうは思わないから。熱を出した環に、倒れて弱っていった父上に、この手を差し出したい」と主張するりん。
「誰かが、負けたもの弱ったものの側に立ち、手を差し出せる世でなければ寂しい。さみし過ぎる」と亡き父・信右衛門(北村一輝)が語ったことを思い出す。
ずっと悩んでいたけれど、気持ちが定まった。そういう意味では、亀吉に感謝であろう。
姑の貞も悪い人ではなかった
「この家では環は、女は、幸せになれない」と歯向かうりんに、亀吉はいら立つ。そこへ貞がわーっと勢いよく入ってくる。
「くれてやればいいべ、娘なんて。娘は金食い虫だ。どうせ嫁にやることになる。落ちぶれた武家の娘の子じゃ、もう大した箔(はく)もつかねえわ。環も東京であっちの家に染まっちまって、ちっともかわいくねえ」と嵐のように騒ぐだけ騒いで、ぷんっと出ていく。
しばらく家を出ている間に貞に懐かなくなってしまったのだろう。祖母としてはそれなりにかわいがっていたのかも。でもあの火事のときのことを考えると、全然可愛がっている印象はないのだが……。
第19回で印象的なのは、貞だ。
貞は環の好物である小魚の煮物を作っていた。亀吉は環の好物を知らなくて、その愛情のなさをりんにとがめられたが、貞はちゃんと孫の好物を知っていたのだ。
せっかく作った小魚を環は食べることなく去っていった。もう二度と会うことはないかもしれない。
りんが作ってきた小魚の煮物の入った器を開けて、1口食べると、貞は「薄いね」とつぶやく。りんが嫁に来たばかりのとき、料理の味が薄いと文句を言っていたが、何年たっても奥田の味をりんは覚えなかったようだ。
りんの奥田家での数年は描かれなかったが、りんは奥田家になじむことはできなかった。そこにもまた別の物語がきっとあるだろう。
出ていってしまったりんに亀吉が「女のくせに偉そうに。あんクソババア連れて、東京で生きていけるわけがねえべ」とぶつくさ言うと、貞はばしっと頭を叩く。
「おらも女だ」
「女でババアだ。クソババアだ!」とまた叩く。
貞もきっと奥田家に嫁いで、苦労したのだろう。
名優・根岸季衣をキャスティングしているにしては出番が少なかったが、最後に不器用な愛情や、嫁として人生を捧げてババアになってしまった悲しみが一瞬で立ち上ったのは根岸さんだからだろう。
昭和のドラマ好きならピンとくるのが、山田太一脚本『ふぞろいの林檎たち』。このドラマで根岸さんは姑にいびられる嫁を演じていた。体が弱く子どもが産めなくて姑につらく当たられる。夫役は小林薫。この夫婦の関係がいい。『風、薫る』の貞にもきっと奥田家で生きてきた歴史がある。
そういえば、『ふぞろいの林檎たち』の手塚理美と石原真理子が演じていたのは看護学校生であった。
おお、『ふぞろい〜』と『風〜』がこんなところでつながった!
さて。お母さんに叩かれた亀吉を演じた三浦貴大さんのコメントを紹介しよう。
――亀吉の人物像をどのように感じていらっしゃいますか?
脚本を読んで、時代的に亀吉のような人間がいることは想像できますし、役として演じるのはおもしろいと思ったのですが、僕個人としては「この人あまり好きじゃないな」という印象でした……。まずは当時のことを調べながら時代背景などを理解し、自分の中に落とし込んでいくことから始めました。
亀吉は飛脚から一代で運送業を成功させた人なので、ビジネスのセンスがある人だと思います。苦労もしたと思いますし、ここまでの道のりでは妬まれたり周りから妨害されたりしたかもしれません。
「奥田屋」を成功させるために元家老の娘・りんを妻に迎えるわけですが、いざ結婚してみると身分がない自分への劣等感が刺激され、それが被害妄想に近いものになってしまっている人ではないかと思います。
まっすぐな性格だとは思うので、前妻との息子と同じ歳であるりんと複雑な思いで向き合っているのかなと想像しています。主人公のりんが新しい道へ向かっていくためのターニングポイントとして、その時代の結婚観や男女の関係性を象徴する役割を演じ切りたいので、見ている人には「亀吉をぜひ嫌いになってほしいな」という気持ちで演じています。
亀吉の公式紹介文は「(前略)明治時代になって運送業をはじめ、一代で財を成した。老舗の店主たちからは冷ややかな目で見られている」とある。老舗の店主たちから冷たくされる疎外感と戦ってきた苦労人なのかと思うと嫌いになれない気もしてしまう。
フォトギャラリー
主なシーンより
第4週(4月20日〜24日)
「私たちのソサイエティ」あらすじ
直美(上坂樹里)が捨松(多部未華子)の炊き出しを手伝うため貧民街に向かうと、同じ場所で吉江(原田泰造)とりん(見上愛)も炊き出しに来ていた。気まずい空気が漂う中、男の子が体調不良に。直美とりんが迷わず男の子を助けようとする姿を見た捨松は、2人を見初め、トレインドナースにならないか、と声をかける。りんは興味を持つが、美津(水野美紀)は大反対。そんなある日、事件が起こる。
連続テレビ小説『風、薫る』
作品情報
連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。
【脚本】吉澤智子
【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」
【音楽】野見祐ニ
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【語り】研ナオコ
【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 小林虎之介 早坂美海 藤原季節 三浦貴大 内田慈 菊池亜希子 丸山礼 根岸季衣 小林隆 高嶋政宏 片岡鶴太郎 多部未華子 原田泰造 水野美紀 坂東彌十郎 ほか
【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)