「パンチくんがかわいそう…」世界的な人気の裏で批判や炎上も。それでも飼育員がブレずに語り続けるニホンザル・パンチの“本当の幸せ”
ぬいぐるみを抱くパンチくんを一目見ようと、市川市動植物園には世界中からファンが来園。過熱する人気の裏で、業務に支障が出るほどの意見電話やSNSでの炎上、来園者のマナーなどさまざまな問題も発生しました。そんななか、パンチくんをはじめ、ほかのニホンザルがこれまでと変わらず過ごせるよう、飼育員たちが大切にしていることとは。
一文字違いの動物園へ国際電話が……

パンチくん。
海外からも注目を集めたパンチくん。その影響はパンチくんが暮らすサル山の環境にまで及び、驚きの声が多く寄せられたそう。
「海外の方はサルが暮らすイメージとして、ジャングルのような木々に覆われたところで生活するのが普通だという考えがあるようです。同園のような、コンクリートに囲まれたところで暮らさせるなんてかわいそうだというご意見をたくさんいただきました。
たしかにそういった意見ももっともですが、感染症を防ぐなど衛生的な生活を保つために、掃除が行き届き、清潔に保ちやすいコンクリートを使用しているという側面もあります。

サル山には多くの人が。
同園の現状や今後の考え方をきちんと伝えるため、和文と英文で声明を出しました。2月中旬から下旬にかけては海外からの電話が鳴り続け、名称が似ている「いしかわ動物園」さんには間違い電話がたくさんあり、日本モンキーセンターさんにも『市川市動植物園はどうなっているんだ』という問い合わせがあったようで、みなさまへご迷惑をおかけしたこともありました。
一方、パンチや同園を応援しようという国内外からのありがたいご寄附もたくさんいただいています。今後はその寄附金を活用して、日除けなどを設置し猛暑に備えて日陰を増やすなど、ニホンザルたちがより過ごしやすい環境づくりを考えているところです」(安永さん)

毛繕いしてもらうパンチくん(写真左)。
現状、群れには馴染みつつあるパンチくんですが、飼育担当者は「まだ気は抜けない」と気を引き締めます。
「動物にはいろんな生態があって、霊長類もそうです。ニホンザルは先にも話したように、群れの動物です。パンチがこのまま今の群れで暮らせるようになることが一番ですが、そうではないケースも想定しておかなければいけません。
ただ、1頭で暮らすのはパンチにとっていい選択ではないことは確実です。人工哺育の子を群れに戻すのは簡単なことではありませんが、パンチにもニホンザル社会のコミュニケーションを健全に理解した上で、群れへ合流してほしいと思っています。それが豊かな一生を送るためにとても大切です。
群れの最小単位とはなんですか? と聞かれたら『単独ではない』となるわけですから『2頭以上』という答えになるかと思います。しかし仮に2頭が一緒の空間にいたとしても、背中合わせに1頭ずつ過ごしているのではあまり意味がありません。コミュニケーションを取れる関係性が大事です。
ニホンザルだと、毛繕いは大事なコミュニケーションの一つですが、パンチがほかのサルたちとコミュニケーションを取れる関係性をこの先もずっと築くことを、我々は目標としています」(飼育担当者)

サル山の遊具で遊ぶパンチくん。
過去最高クラスの注目度

パンチくん。
日本の固有種であるニホンザルは、我々にとって身近な存在。多くの動物園で、サル山で暮らすニホンザルを見ることができます。ニホンザルを気軽に見られる環境が多いこと、群れで暮らしているため、個体を識別することが難しいことなどから、これまで動物園に足を運んだとしても注目することなく、チラッと見ただけで通り過ぎたという人も多いのではないでしょうか。
飼育担当者も「当園でもここまでニホンザルが注目されたことはなかったですし、国内でも過去最高クラスの注目度だと思う」と話します。
「日本人にとって身近な動物であるはずのニホンザルですが、詳しく知っている人は意外と少ない。見た目も地味だからか、動物園においても必ずしも注目度は高いとは言えませんでした。
これまでもニホンザルの行動や振る舞い、仕草を観察してほしいと呼びかけていましたが、期待ほどは興味を持ってもらえることはありませんでした。今だからこそ、みなさまにおすすめしたい見どころはニホンザル特有の社会性です。
パンチを応援したいというお気持ちから、仲のいい個体に興味を持ったり、行動からどういった意味があるのかを調べてくださったりと、ニホンザルへの関心が高まっていることを非常に嬉しく思います。これを機に、ニホンザルのいいところやニホンザルにまつわるさまざまなことを知っていただければ。ほかの動物園でもサル山があるところは多いですし、それぞれのサル山ごとに興味深さは異なります。いろんな動物園で観察してみてください」(飼育担当者)
人々がパンチくんに熱い視線を送っている裏で……

パンチくん。
SNS上にさまざまな意見が集まっていることについて、安永さんは「ありがたいこと」と感謝します。動物福祉は時代によって変化し続けていますが、人間と動物が会話できない以上、動物にとっての最適解は模索し続けるしかありません。
安永さんは「パンチは多くの人の心を動かすと同時に、たくさんの人がニホンザル、日本の動物園について考える機会をもたらしました。そういう意味でも、人々の心を動かせたのだとしたら何よりです」と話します。
「動物園は博物館法に基づく教育施設です。私も飼育員と一緒に仕事をしたり、動物園水族館協会(JAZA)の総会に出て勉強したりする中で、動物園に社会的ミッションがあることを改めて認識しました。動物福祉、種の保存といった意義を踏まえた上で、どうしたらお客さんに来てもらえるのか、楽しく学んでもらえるのかをこれから大切に考えていきたいと思っています。
市川市動植物園では今年3月、クラウドファンディングで集まった寄附金を使って、マンドリル、ボリビアリスザル、エリマキキツネザルを日当たりのいい場所で展示する施設「おさるーむ」が完成しました。また、ヤギが上空2、3メートルくらいの高さの平均台を歩く施設も人気を呼んでいます。

サル山の遊具で遊ぶパンチくん。
「当園を応援してくださる人が増えつつあることは常に実感していますし、我々のスタンスを丁寧にお話しすることで理解いただけることも多いと感じています。当園には大型動物はいませんが、馬や牛、アルパカなどが身近に見られる動物園です。
ニホンザルがいるサル山は連日賑わっていますが、みなさんがサル山に集中しているすぐ後ろを、アルパカがのんびり散歩しているんです。その面白さに気づいてくださる方が増えたら嬉しいですね」(安永さん)
市川市動植物園
所在地 千葉県市川市大町284番地1
https://www.city.ichikawa.lg.jp/site/zoo/