「オブザーブ」って、どういう意味? 貴婦人と哲学者の“日本語訳の差”が興味深い〈風、薫る第24回〉

『風、薫る』第24回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第24回(2026年4月30日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)
オブザーブの意味 捨松の場合
リアリティはある。とはいえ、さすがに毎朝、女性たちのギスギスを見るのはしんどい。と思っていると、第24回はようやくいい話になってきた。見るのを迷いはじめた人がいたら第24回は安心して見てほしい。
はじめての休日。りん(見上愛)と直美(上坂樹里)とトメ(原嶋凛)は一緒に休日を過ごそうとしたが揉めてしまい結局バラバラに行動することになる。
実家が青森で行くところのないトメは宿舎にひとり残る。大きな木箱を持ってきて、ふたを開けると……。
箱の中身の真相はお預け。りんは家で美津(水野美紀)と話し「やっぱり私、間違えた。言っちゃいけないこと言った」と直美に対して失礼なことを言ったことを反省する。
その頃、直美は捨松(多部未華子)の家を訪ねていた。
「あら、随分お元気そうね」と捨松はあきらかにわざと反対の言葉を使っている。
直美はナイチンゲールの本に書かれた「オブザーブ」の意味を捨松に質問。捨松の回答は「包み込むように見続ける」という意味だった。捨松は長い米国生活のため日本語がうまくなく、あまりいい訳ができないともどかしく思いながらも説明する。
「看護の看という字で、『看る』とも書きますでしょう。手の下に目と書いて」「手と目を使って見る。ナースは医者ではないから治療はしない。病ではなく人を看るということかと。日本語は奥深い。人間を好きでないとできない仕事かもしれないわね」
そう言われて直美は「私は、看護婦に向いていないのかもしれません。人間があまり好きではありません。むしろ嫌いな人の方が多いです。悪口も言いますし、嘘(うそ)もつく。優しくもありません。一ノ瀬さんや、周りの人を傷つけてばかりで」と殊勝なことを言いだした。
「きっと一ノ瀬さんのような人が、看護婦に向いているんです」と言う直美。りんに憎まれ口を叩きながらも内心反省していた。
オブザーブの意味 シマケンの場合
それを聞いて捨松は「あなたたち2人とも、もうとっくにお互いオブザーブしてますね」と微笑(ほほえ)む。
なんと、さっきまでりんが来ていて同じ「オブザーブ」の意味を聞いていったというのだ。しかも彼女も「直美さんを傷つけてしまった。こんな自分が看護婦になれるのだろうか?」と悩んでいたと。
「看護は1人ではできない仕事ですわ。仕事場にグッドパートナーがいるのは、うらやましいことですわね」と捨松は言う。
それから、東雲(中井友望)が言っていたのと同じナイチンゲール女史の言葉を引いて、「自分がどのような人間なのか悩める人こそ看護婦に向いていると私は思います」と直美の背中を押した。
場面変わってりんのパート。りんは家でお団子を食べてから捨松の家に行き、そのあと瑞穂屋へ向かう。
卯三郎(坂東彌十郎)はいなくて、ちょうどいたシマケン(佐野晶哉)に「オブザーブ」の意味を問う。
捨松から聞いた「じっと包み込むように患者を看続ける」という言い方が冗長で、もっと端的な言葉がないだろうかというりんの意見に、シマケンは、西周先生は「オブザーブ」に「観察する」という日本語を訳していると教える。
西先生は哲学者だがもともとは御殿医の家柄で、科学や医学の分野における訳語が独特でうまい、とシマケンは尊敬の口調で語る。
「観察」とはもともとは仏教の言葉で「あるがまま観て、ものごとを見極める」ことだと言うシマケンに、りんは「もしかしてお寺の(かた)?」と聞く。シマケンが何者か、りんの肩書当てはネタとして続いている。
りんはシマケンのありがたい言葉をきっかけに自分の心を観察して、看護婦への迷いがなくなったと礼を言う。
ちょっとうれしいシマケン。だが、りんは日曜の午後7時までしか外出できないので、なかなか会えそうにないことを知って、「それは残念」とつぶやく。
りんはシマケンに特別な感情はいまだないようだが、シマケンは明らかにりんのことが気になっているように見える。
心から笑い合える相手とは
直美が捨松の家から帰る途中、占い師(研ナオコ)が声をかけてくる。
「私が言ったように、心から笑い合える人と出会えただろう」と言われ、直美はそれが詐欺師(藤原季節)とのことだと思い込み、「だまされた」と文句を言う。
「違う違う、私が言ったのは、その人じゃなくて」
「もう男の人はしばらく結構です」
そこで風がヒューッと怪しげに吹く。
「もうすぐ、お嬢さんのもとに、そうだねえ。天の使いのような人が現れるよ」
「風なら、天女じゃなくて天狗じゃない?」と直美はなかなか頭がいい。
と見れば、占い師の姿はあとかたもなく消えている。あとにはお地蔵さんがいるだけ。
謎の占い師はお地蔵さんの化身なのか。ここだけちょっとファンタジー風味になっている。
そんな感じではじめての休日は終了。りんと直美以外は門限の7時までに帰ってくる。
「ただいま帰りました」の声を聞いて、トメは木箱を閉める。「なんだかいい香りがするわね」と言われるが、まだその中身は明かされない。
門限を破ったら、どんな罰があるか、既に帰ってきた者たちは語る。
「退学だったりして?」
りんと直美が時間を過ぎて戻ると入口で松井(玄里)が待ち構えている。ふたりが手分けしてこっそり入れそうなところを探している途中、直美はりんに「ありがとう」と言いかける。だが、りんには聞こえていない。
生け垣に隙間を見つけ、くぐって中に入ると、りんの髪に葉っぱがついていて、ふたりはふふっと笑い合う。
占い師の言う「笑い合える人」とはりんのことなのだろう。でもふたりはまだ気づいていない。
風が吹き、直美の髪がなびく。
りんはまとめ髪なので風感が出ないが、直美の髪形は風感があっていい。
ドラマの原案の『明治のナイチンゲール』では、直美のかなり遠いモチーフになっているらしき鈴木雅が断髪だったことが記されている。直美の設定は鈴木とはかけ離れているが、当時めずらしい女性の断髪という点は倣っているようだ。
フォトギャラリー
主なシーンより
第5週(4月27日〜5月1日)
「集いし者たち」あらすじ
トレインドナースになることを目指して看護婦養成所の1期生として集まったのは、りん(見上愛)、直美(上坂樹里)をはじめ、多江(生田絵梨花)、喜代(菊池亜希子)、ゆき(中井友望)、しのぶ(木越明)、トメ(原嶋凛)と、年齢も生い立ちも異なる個性豊かな面々。校長の梶原(伊勢志摩)と舎監の松井(玄理)のもと寮生活が始まるが、バーンズ先生(エマ・ハワード)の来日が遅れていて、看護の授業は始まらない。そのかわり、到着までの間に、ある課題が出される。
連続テレビ小説『風、薫る』
作品情報
連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。
【脚本】吉澤智子
【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」
【音楽】野見祐ニ
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【語り】研ナオコ
【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 小林虎之介 早坂美海 藤原季節 三浦貴大 内田慈 菊池亜希子 丸山礼 根岸季衣 小林隆 高嶋政宏 片岡鶴太郎 多部未華子 原田泰造 水野美紀 坂東彌十郎 ほか
【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)