「不潔です」と言われる朝ドラヒロイン! 前代未聞のシーンも“丁寧な説明”に納得〈風、薫る第26回〉

『風、薫る』第26回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第26回(2026年5月4日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)

天泣とは何か

 看護とは何か?

 第6週「天泣の教室」(演出:新田真三)はりん(見上愛)と直美(上坂樹里)が外国から来たバーンズ先生(エマ・ヘイワード)から本格的に看護を学びはじめることになる。

 彼女はアップルパイを作ってくれるような優しい先生ではなかった。大変なスパルタで、りんたちは戸惑う。

結婚に姑あり。学校に厳しい先生あり。主人公たちに立ちふさがる難しい人物によって、学びを得て成長するという定番だ。はたして『風、薫る』ではその定番を覆すのか、それとも定番のままでいくのか。

 サブタイトルは「天が泣く」と書いて「天泣(てんきゅう)」。先生が登場したとき鳥が鳴いていたが、その鳴くではない。「天が泣く」とは晴れているのに雨が降ることを言う。

 語り(研ナオコ)は「天の使い」と先生のことを表していた。天の使いが教室に雨を降らすのか物語を追っていこう。

 先生はマーガレット・バーンズという名で、いきなり英語で話し始めた。そこで活躍するのは直美。

「ナイチンゲールの看護を学んできました。ナイチンゲール女史の精神は私の中にある」と直美は先生の挨拶(あいさつ)を訳す。

 ナイチンゲールの精神のひとつは「観察」すること。先生は、7人全員の名前をちゃんと覚えていて、初めて会ったにもかかわらず、誰が誰かも当てて見せた。事前に7人の情報を聞いていたから、その情報と実際に見た印象を当てはめて、見事に当てたわけだ。なかなかの洞察力である。

 先生は、課題の翻訳の発表(理論、座学)には興味がなく、さっそく実習に入った。一筋縄ではいかない実習について触れる前に、ひとつ気になった点をあげておこう。

天狗とは何か

 この回、急に多用されるりんの横目が気になる。りんを演じる見上愛は大河ドラマ『光る君へ』(24年)では彰子という高貴な姫君的な役がお似合いだった。彰子は伏し目がちでそれが神秘性を帯びていたが、りんの横目は斜に構えたように感じてしまう。間違えを正したい人らしくないが、実は性格がキツそうな直美はまっすぐで、りんは何事も疑ってかかる性分としての横目なのだと考えておこうと思う。

 先生は教室から出ていく。慌てて追いかける7人。たどりついたのは教員宿舎で、そこで、きびきびと白いエプロンをかける。

 はじまったのはベッドメイキングの実技であった。

 ベッドのシーツをかける見本を見せた先生は、7人にやってみるように促す。

 まず窓を開け、シーツをはがし、真新しくピシッと畳まれたシーツを順番に広げて敷き、裾をベッドにはさむ。

 おおかたの予想どおり、7人はそれぞれ、「This is not nursing」(これは看護ではありません)」と言われてしまう。

「何が看護なんでしょう?」

「自分で考えなさい」

 厳しい先生に直美は「天の使いじゃなくて、やっぱり天狗だね」。

 お仕事ものの典型的な展開だ。新人が研修で先輩から具体的に教えてもらえず、その背中を見て学ぶというもの。修業とはたいていそういうもの。ああしてこうしてと教わるものではなく、自分でよく見て考えるものだ。ということは看護が観察であるという意味とつながっている。

 先生の動作をよく観察し、その動きがなんのために行われているか洞察する。これが、看護のいろは(very Alphabet)のAなのだろう。

 直美が言う「天狗」だが、天狗とはそんなに悪いイメージだろうか。

 最近だと『鬼滅の刃』の鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)を思い出す。鬼殺隊員の候補となる剣士を育てている人物が天狗の面をつけている。バーンズ先生は看護婦を育てる役割なので、『風、薫る』における鱗滝左近次のようなものと認識しておきたい。

 直美は、当然『鬼滅』を知らないので、鼻が高く威張っているという意味合いで「天狗」と呼んでいるのかなと思われる。

 天狗は、高僧が堕落した姿とも言われていて、直美がそういう話に詳しければ、天から堕ちてきた人という意味で、キリスト教ではサタン的な存在と位置づけようとしているとも考えられる。

不潔とは何か

 バーンズ先生は天狗のように神通力があるらしい。後頭部にも目があるかのように、見てなくても後ろに誰がいるかわかる敏さを持っている。小姑のようなところもあり、指でほこりをチェックしたりもする。

 りんたち7人は厳しく教育されてヘトヘトになりながら1カ月が経過した。

 だいぶシーツの敷き方には慣れてきたが、今日もまた「これは……」のあと「看護ではない」と言われるかと思ったら――。

 風が吹いた。うれしい7人。

 看護の第一歩を踏み出した7人だが、また難題が……。

 バーンズ先生は松井(玄里)の通訳で、実習の成果でだいぶ清潔を保てるようになったものの、「皆さん自身が不潔です」と言い出す。

 え、不潔? さすがにそんなことはないでしょう?と思ったところ、その理由を研ナオコの語りが間髪入れずに教えてくれた。語りは「不潔といえば、不潔だったかな」と控えめだが、そりゃ「だったかな」ではなくいまの感覚でいえば不潔だ。

 だが当時の人たちの名誉のために、不潔と言われても仕方ないのっぴきならない事情も語られた。

 最近の朝ドラは当時と現代のギャップを解説してくれないものが少なくなかった。それがなぜか今回、ここだけはとても丁寧。やっぱり主人公たちが「不潔」と言われることについてはちゃんと説明したほうがいいと思ったに違いない。

 いまでこそ日本はとても衛生的な国だ。でもたとえば、豪華絢爛、貴族がいた17、18世紀のフランスは不衛生で、ニオイを消すために香水を使用していたという話はよく聞く。近代化によって人間は衛生的になった。

 朝ドラで時代に即して不潔であったことを描くのは新鮮だ。なぜかといえば、朝ドラの主人公はこれまで長きにわたり「爽やかさ」、つまり清潔感が重要視されてきたからだ。その主人公が「不潔です」と言われるとは前代未聞。

 りんたちは髪型を変えることになる。こういう流れはちょっと心がざわついて楽しい。

フォトギャラリー

主なシーンより

第6週(5月4日〜5月8日)

「天泣(てんきゅう)の教室」あらすじ

バーンズ(エマ・ハワード)がようやく来日し、看護の授業が本格的に始まる。直美(上坂樹里)と多江(生田絵梨花)が通訳しながら授業を進めるものの、内容は不可解なことばかり。りん(見上愛)が問いかけても、バーンズは答えを言わず、生徒たちの不満はたまる一方で……。

連続テレビ小説『風、薫る』

作品情報

連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。

【脚本】吉澤智子

【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」

【音楽】野見祐ニ

【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」

【語り】研ナオコ

【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 古川雄大 菊池亜希子 藤原季節 平埜生成 中井友望 坂口涼太郎 猫背椿 飯尾和樹 筒井道隆 多部未華子 原田泰造 水野美紀 片岡鶴太郎 坂東彌十郎 仲間由紀恵 ほか

【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)