トランプの岩盤支持層「白人福音派」の頭の中をのぞいたら…「イスラエルを救うのは我々の役目」と盲信か
自らを「神の子」に模すトランプの陰には、清らかな心で神を信じる人々がいる。世界一の大国はなぜ、理解の及ばぬ言動を続けるのか。
加藤喜之(かとう・よしゆき)/立教大学教授。'79年、愛知県生まれ。東京基督教大学准教授などを経て、現職。'25年発売の著書『福音派 ―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)が新書大賞2026の3位にランクイン
会田弘継(あいだ・ひろつぐ)/共同通信客員論説委員。'51年、埼玉県生まれ。'76年に共同通信に入社し、ワシントン支局長などを歴任。著書に『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』など
世界中のキリスト教徒を敵に回しても
加藤:4月12日、トランプ米大統領が自身をイエス・キリストに模したAI生成画像をSNSに投稿し、宗教保守派から大きな批判を浴びました。13日に削除したものの、15日にはキリストと並んでいる画像をまた投稿しています。
会田:イラン戦争に反対するローマ教皇のレオ14世に対しても、「犯罪に弱腰で外交オンチ」などと非難し、世界中のキリスト教徒から批判されていますね。

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加藤:5日の復活祭のメッセージでレオ14世は、歴代の教皇でも珍しいほど明確な言葉で非暴力を訴えています。一方「イスラエルがハマスのメンバーを一人残らず殺害することを支持する」など、過激な発言がたびたび報じられるヘグセス国防長官をはじめ、アメリカにはこの戦争を支持する熱心なキリスト教徒が少なくない。キリスト教の内部で、分断が起こっているわけです。
会田:それはトランプ政権の関係者も同じで、閣僚やトランプを思想的に支えてきた知識人たちの間でも、今回の戦争を巡っては態度が分かれています。
加藤:まず戦争賛成派、すなわちイスラエル支持派から見ていきましょうか。彼らは大きく3つのグループに分けられると思います。
1つ目がルビオ国務長官を中心に、ネオコン(自由民主主義を重視し武力介入も辞さない外交タカ派)や軍需産業が集まったグループ。戦争による利益はもちろん、中東におけるアメリカの影響力拡大を狙っています。
会田:今年1月のベネズエラ侵攻も、彼らが主導したと見られます。でもルビオは今ごろ、イラン侵攻に賛成したのを後悔していると思いますよ。彼の最終目標は、キューバをアメリカの完全な影響下に置くこと。しかし中東のドロ沼にハマるあまり、むしろキューバに援助を与えて懐柔する方向へ進んでいますから。
「聖書を文字通り神の言葉として信じて」
加藤:2つ目がトランプの娘婿のジャレッド・クシュナーを中心とした、ユダヤ系コネクション。中東特使を務める弁護士スティーブ・ウィトコフや、トランプの大口献金者である大富豪ミリアム・アデルソンなどです。彼らはトランプ個人への影響力が強く、イスラエルのネタニヤフ首相とも密接につながっている。
そして3つ目が、ホワイトハウス信仰局トップの牧師ポーラ・ホワイトに代表される、キリスト教シオニストたち。聖書の預言を文字通りに信じて、イスラエルを救うことこそアメリカに課された崇高な役目だと考えています。
会田:アメリカ人の約25%を占める福音派と、思想的にも重なる人々ですね。

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加藤:世論調査を見ても、白人福音派の政権支持率は7割を下回ったことがなく、トランプの岩盤支持層だと言えるでしょう。
彼らを一言で定義するのは非常に難しいですが、「聖書を文字通り神の言葉として信じ、宗教的な『生まれ変わり』を経験することで、自分から信仰を選び取った敬虔なキリスト教徒」と言えるでしょうか。
前出のヘグセス国防長官も熱心な福音派で、思想的には3番目のグループに近い。彼は特に過激な部類で、政教分離や社会の多様性を全否定し、アメリカを保守的・キリスト教的な価値観で染めることを目指していると見られます。
会田:一方で、保守派の政治評論家タッカー・カールソンや保守派エコノミストのオレン・キャスなど、トランプ政権の思想的なバックボーンとなってきたMAGA派(国内産業の保護や厳しい国境管理を主張するアメリカ第一主義的な思想)の知識人たちは、この戦争に軒並み反対しています。PayPal創業者で投資家のピーター・ティールなんて、開戦前日にイラン攻撃を聞きつけて、ヴァンス副大統領に経済政策が優先だと不満を訴えたそうですから。
「真のイスラエル」をめぐる争い
加藤:イスラエルを巡るこの対立の根本には、「真のイスラエルはどちらか?」という深遠な問題があると思うんです。
会田:同感です。それを理解するためには、18世紀のアメリカ建国まで立ち返る必要があるでしょう。日本人はあまり意識していませんが、そもそも誕生当初から、アメリカという国は自らを「イスラエル」と重ね合わせてきました。
加藤:もちろんイスラエルの建国は1948年なので、これは聖書に出てくる「イスラエル」、つまり「神によって選ばれた国」といった意味合いです。アメリカ人は、ヨーロッパ旧大陸を捨てて新天地に移り住んだ自分たちを、モーセに率いられてエジプトの圧政から脱したユダヤ人と、重ねて見ていました。
その証拠に、建国の父の一人ベンジャミン・フランクリンは、アメリカの国の紋章に、モーセが紅海を割ってエジプトから脱出するシーンを採用しようと考えたそうです。あるいは、17世紀末に過激な魔女裁判が起きたことで有名なマサチューセッツ州のセーレムという地名は、エルサレムと同じ語源を持ちます。

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会田:アメリカがイスラエルの肩を持つことは、建国の時点から決まっていたような面もあります。たしかにAIPAC(親イスラエル派の外交ロビー団体)などの力は強いですが、そもそも国の成り立ちから似たところがある。
加藤:そして'48年には、イスラエルが建国されます。ホロコーストの記憶も冷めやらぬ当時は、今とは逆にリベラルな主流派プロテスタントが、人道的な理由でイスラエルを熱心に支援していました。
ところが'67年に第三次中東戦争が起こって、イスラエルがガザやヨルダン川西岸を不法に占拠すると、主流派はパレスチナ人を支援するようになる。代わってイスラエル側に立ったのが、保守的な福音派でした。彼らは神学的な理由、すなわち「終末の時が訪れると、神は世界各地からユダヤ人を集めて新たな国をつくる」という聖書の預言を文字通り信じ、それがイスラエルだと見なしたわけです。
【後編記事】『「日本は置いてけぼり状態」すでに世界は“アメリカ弱体化”前提で動いている…それでも第3次トランプ政権誕生がささやかれる理由』へつづく。
「週刊現代」2026年5月11日号より