11店舗全撤退、上場も断念…“どん底”からバルニバービを再生した「キャリアパスなし」「手をあげた人で造る」人材の方程式

飲食店が避ける場所にあえて出店し、106店舗(2026年3月末時点)・売り上げ143億円を築いた外食企業「バルニバービ」。だがその道のりには、深刻な失敗があった。
2001年から2003年にかけて出店した11店舗がすべて撤退、当時目指していた上場も断念した。バルニバービはなぜ失敗し、どう立て直したのか。外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載「外食ビジネスのハテナ特捜最前線Ⅱ」。リニューアル第1回の後編では、バルニバービを復活へ導いた「手を挙げた人間が店をつくる」仕組みに迫る。

「バルニバービ」という名前に込められた想い

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兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」ランチの玉ねぎパスタ(写真:筆者撮影)

「バルニバービ」という社名は、ジョナサン・スウィフトの小説『ガリバー旅行記』に登場する島の名前に由来する。作中のバルニバービ島では、机上の空論に没頭するあまり国が衰退していく。現場に根ざし、実体を伴う価値を大切にしたい――小説の悲劇への戒めが、社名に込められている。

【写真を見る】兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」ランチの玉ねぎパスタ(写真:筆者撮影)

だが同社はその理念を一時期、みずから裏切ることになった。

11店舗すべて撤退、上場も断念

転機となったのは2001年。投資会社を迎え入れて、株式上場を目指すことになった。その過程で必要となったのが、スピード感。そして採用されたのが「パッケージモデル」の出店戦略だった。

「場所はロードサイド、60坪から70坪の広さ、年商、料理、価格帯、スタッフの配置数などすべてマニュアル化して出店したんです。でも出す店、出す店が全部ダメになりましたね」

2001年から2003年にかけて出店した11店舗は、すべて撤退に追い込まれた。この時バルニバービは深刻な迷走期に入り、上場も断念することになった。

「スタッフのモチベーションも上がらないし。周りから求められていることに、まったく応えられていなかったんです」

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JR大阪駅前の商業ビル「グランフロント大阪」内でバルニバービが運営する「NORTH tRunk」(写真:編集部撮影)

パッケージ化の出店戦略は、バルニバービがもともと大切にしてきた店づくりの考え方とはかけ離れたものだった。本来なら、その土地ごとに求められるあり方を考える。そして店の表情を変えていく。ただ、この時は上場の波に乗ろうとしたため、お客さんにも、現場で働くスタッフにも響かない店になってしまったのだ。

この経験を経て、バルニバービは原点へと立ち返ることになる。現場を起点に、一つひとつの店をつくっていくというやり方だ。そうして、同社は再び成長軌道へと向かっていった。

手を挙げた人間が、店をつくる

どん底から立ち返ったバルニバービは、その後売り上げ143億円(2025年7月期)、全国106店舗まで成長した。その原動力は何か。代表取締役社長の安藤文豪さんの答えはシンプルだった。

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代表取締役の安藤文豪さん(写真:バルニバービ提供)

「『食』って、絶対必要なものじゃないですか。人と話しながらゆっくりご飯食べて、また明日からも頑張ろうって、それが根本的な部分だと思っているので、流行とかは追いかけないです」

流行や効率、スピードを優先するのではなく、その場で必要とされる価値を丁寧に積み上げていく。その原点の中心にあるのが、食の時間を通じて 「人が活きる状態」をどうつくるか、という発想だ。

その考え方は、出店のプロセスにもはっきりと表れている。一般的に新規出店は、本部主導で業態やコンセプトが設計され、それに沿ってメンバーがアサインされることが多い。 しかしバルニバービでは、そのやり方を取らない。

「こういう物件がある」「一度見に行ってみないか」

そんな情報が社内に共有されると、興味を持ったスタッフが自ら手を挙げて現地に向かう。いわゆる「この指とまれ」の方式だ。志願したメンバーを起点に、出店のプロジェクトが動き出していく。

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兵庫県・淡路島「島食堂 旨い海」(写真:バルニバービ提供)

「出店候補の現場に足を運ぶと、そこには初めて顔を合わせる店長希望の人や、料理人が集まっていることも珍しくないんです。『勉強になると聞いて来ました』とか言って、関係ないのに来ている人もいます(笑)」

最初は、軽い興味から手を挙げたメンバーも多く、初対面で言葉を交わしながら、店づくりのイメージを膨らませていくという。

誰かが決めたチームではなく、 自ら関わろうとする人たちが集まり、その土地と向き合う。現地での質問の仕方や姿勢から、一人ひとりの主体性や熱量がお互いに見えてくる。

すると、店舗に対する深い思いと、「自分たちがつくる」という意識が育まれていく。そしてその意識は、オープン後の運営にも引き継がれる。日々の判断やサービスの質、さらにはお客さんへの価値提供の高さへとつながっていくのだ。

100人いれば100通りの成長

集まったメンバーは、店づくりの初期段階から主体的に関わる。では、その後の教育や成長はどのように行われているのか。

バルニバービには、「キャリアパス」は存在しないという。

「人って、100人いたら100通りの思いと成長の仕方ってあるじゃないですか。だから、レールに乗るようなシステムはうちにはないです」

そう語る背景には、「人に合わせて組織が変わる」という前提がある。

約700人の従業員を抱えながらも、その人となりや目標は一律ではない。現場同士のコミュニケーションの中で、一人ひとりの状態が自然と共有されていっているそうだ。

たとえば、あるスタッフが壁にぶつかっているとき。上司が指示するのではなく、周囲が気づいて動く。

「この子、今壁に当たってて。こんな店で、こんなことをしたいんだけど、そっちの店でどう?って、周囲の人間がその状況を察知して声を掛け合うんです」

全国に106店舗あるネットワークを活かしながら、その人が最も力を発揮できる場所へと配置を検討している。形式的な教育制度ではなく、実践の中で役割を変え、環境を変えながら成長を促している。その積み重ねが、個人の力を引き出していく。

その柔軟さこそが、バルニバービの特徴と言える。

現場への徹底した権限移譲

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兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」注文が入ったらピザを作る(写真:筆者撮影)

少し話は戻るが、店の立地が決まり、チームが動き出した後、運営はどのように進んでいくのか。

そこで徹底されているのが、現場への大胆な権限移譲だ。

店舗がオープンした後は、メニュー開発や仕入れ、日々の運営に関わる意思決定のほとんどが現場に委ねられる。店長やシェフは、それぞれの店を任された「経営者」として、自ら考え、判断し、店をつくり上げていく。

本部は、それを管理・統制する存在ではないという。あくまで現場を支える立場に徹する。例えば、専門性の提供だ。総料理長やソムリエ、デザイナーといった専門スタッフが、食材やワイン、空間づくりに関する情報を収集し、各店舗に対して提案を行う。

総料理長は、全国のこだわりの食材を扱っている農家や牧場へ足を運ぶ。そして、実際に話を聞き、試食をして「これぞ」という食材や取引先を店舗に共有する。

ただし、それを採用するかどうかは現場次第。あくまで選ぶのは店舗であり、本部が一律に方向を決めることはない。本部は情報をつなぐハブとなっているのだ。現場の主体性と、全体の質。その両立を支えているのが、この仕組みだ。

淡路島で見た、「人ありき」の現場

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兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」テラス席からは海が一望(写真:筆者撮影)

では、こうした仕組みの先に、どのような店が生まれるのか。その答えを確かめるために、筆者は淡路島のレストランを訪れた。

コンテナのような建物の脇にある階段を上がると、一気に視界が開ける。目の前に広がるのは、水平線まで続く海。その手前にはデッキ席が広がり、海岸線に沿うようにテーブルが並んでいる。

店内には、ベッドのようにゆったりとしたソファー席が配置され、客席は約300席。全体にゆとりがあり、どこか南仏で訪れたレストランを思わせる雰囲気が漂っていた。

筆者は家族とともに、店内のソファー席に腰を下ろした。周囲には、カップルや家族連れ、友人同士のグループ。観光地の店ではあるが、平日ということもあり、さほど人は多くない。

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兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」筆者家族が注文したランチ(写真:筆者撮影)

ランチセットを注文した。パスタとピザを選ぶと、かぼちゃのサラダとオニオンスープが付いてくる。しっかりとしたボリュームだ。ピザには淡路島産のブロッコリー、パスタには同じく淡路島産の玉ねぎが使われている。素朴だが、満足感のある味だった。

ふと振り返ると、大きなピザ窯が目に入る。その前で、ひとりのスタッフが機敏に手を動かすのが見えた。

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兵庫県・淡路島「GARB COSTA ORANGE」ピザを作る久保仁さん(写真:筆者撮影)

注文が入ると、生地を手際よく広げ、トマトソースを塗り、チーズを振る。そして薪窯に入れ、わずか2分ほどで焼きあげる。無駄のない動きとリズム感があった。話を聞きたいとお願いすると従業員の久保仁さんは、気さくに応じてくれた。

もともと飲食や菓子、イタリアンの経験を積んできたという久保さんにとって、ここは「今までの自分を活かせる場所」だという。

「ピザの大会にも、会社のサポートで自己負担なく出られるんですよ」と、にこやかに話す。

その姿から、マニュアルに従って動いているというよりも、自分の仕事としてこの場をつくっている感覚が自然と伝わってきた。

こうした一人ひとりのあり方が、店の空気をつくっているのだと感じた。

良い店とは何か

取材終わり、安藤さんに改めて「良い店」とは何かを尋ねた。

「誰もが『食』からエネルギーをもらい、また明日への希望を感じられる店です」

客だけではない。そこで働くスタッフや、食材を支える取引先、店の周囲にいる人たちも含めて、「この店があってよかった」「ここに来ると元気になる」と思えること。店に関わるすべての人にとって、意味のある存在であることが「良い店」の条件だという。

一方で、社会は常に変わり続けている。人の好みや働き方、法規制、物価……。だからこそ、その変化をきちんと捉えながら、組織や仕組みは柔軟に変えていきたいと話した。

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島根県出雲市「IZUMO HOTEL THE CLIFF」(写真:バルニバービ提供)

「変えてはいけないもの」と「変えていくべきもの」、その両方を見極めながら、バルニバービは立地に根ざした店づくりを続けてきた。

バッドロケーションから始まり、街ごとつくる不動産戦略へ。そして現場で働く一人ひとりの主体性へ。バルニバービの強さの源は、数値やマニュアルではなく、場所と人を見極める眼差しだった。

「社会から、この会社が存在する価値があると思われる。そこを目指しています」