200キロ近いJR飯田線を1本の普通列車で7時間乗り通してみた

 【汐留鉄道倶楽部】愛知県の豊橋と長野県の辰野を結ぶJR飯田線は、1980年代前半まで「旧型国電」が活躍していた。山あいを走る青とクリームに塗り分けられた古めかしい車両を撮影したかったが、北海道の鉄道少年には遠すぎた。上京してかなり近づいたものの、日帰りには微妙な距離。今回、普通列車と快速が2日間乗り放題の「JR東海☆春の乗り放題きっぷ」を使ってようやく訪問する機会を得た。

天竜峡駅にて。右側が乗って来た岡谷行きの電車

 3月27日。乗車するのは豊橋10時42分発の313系電車の2両編成。飯田線の全線を踏破する数少ない普通列車で、さらに辰野の2駅先の中央本線の岡谷まで足を延ばす。岡谷着は17時33分。実に7時間近く乗り通すことになるだけに、車内はロングシートではなくとりあえずほっとした。

 しばらくは住宅地を走る。列車本数も多く、単線のため行き違いを繰り返す。私鉄4社が統合した飯田線の成り立ちから、駅間距離が短い。全長195・7キロに対し、駅の数は豊橋、辰野を含めて94。2キロそこそこで次の駅に到着する計算だ。「次は○○です」とアナウンスがあったかと思うと、すぐに「間もなく○○です」。ローカル線の雰囲気を味わうには少し慌ただしいと感じた。

 沿線の桜を眺めながら、ボックスシートを独り占めして「手筒花火弁当」を広げた。豊橋が発祥という「手筒花火」を思わせる2段重ねの曲げわっぱに、色鮮やかなおかずと巻きずしが詰まってボリュームたっぷりだった。

読み方は「こわだ」だが、1993年に外交官だった小和田(おわだ)雅子さん(現皇后さま)と皇太子さま(現天皇陛下)のご成婚にちなんで人気スポットに。「恋成就駅小和田」の柱も健在だ

 豊橋から1時間、15分ほど停車した本長篠を出ると、車窓は山深さを増してきた。東栄には地元の祭りで使用される鬼の面を模したユニークな駅舎があった。豊橋から2時間、中部天竜に近づくと左手に天竜川が寄り添ってきた。

 中部天竜から天竜峡までの約50キロ、時間にして1時間20分ほどが、飯田線で最も魅力的な区間と言えるだろう。まずは近年注目度が高い「秘境駅」が点在している。小和田、中井侍、為栗、田本、金野、千代といったあたり。トンネルとトンネルの間に突然駅が現れる。短い停車時間では降りて散策するわけにはいかず、どうしてここに駅が?という疑問が膨らむばかりだった。5―6月には、複数の秘境駅に長時間停車する「飯田線秘境駅号」が運転される。

 車窓からでも十分に楽しめたのが、蛇行しながら刻々と表情を変える天竜川の渓谷美だ。木々の間から見下ろしていたかと思うと、すぐ横に深緑色の水面が迫って来る場所も。トンネルが多いこともあって撮影はうまくいかず、しかも窓越しのためガラスの反射が目立ってしまい、紹介できる写真は1枚もなかった。

中井侍駅に停車中の車内。駅名(地名)の由来を調べてみたがはっきりとした説はないようだ。近くの茶畑では「中井侍銘茶」が生産されている

 豊橋を出て3時間半で、いかにも観光地の駅といった雰囲気の天竜峡着。旅は半分を過ぎたあたり。沿線火災の影響でこの先に遅れが発生していたため、本来1分の停車時間が8分となり、天竜峡止まりの列車との並びを撮影できた。

 天竜峡から先は再び列車本数が増える。路線名にもなっている飯田に向かって、車窓右側に南アルプス、左側に中央アルプスの切り立った山々が見える。もちろん絶景なのだが、乗車時間が4時間を超えて車窓には少々食傷気味になってきた。隣のボックス席に、母親と小さな女の子と男の子。眠そうなお母さんに、女の子がハイテンションで話しかける。2人とも座席で寝転んだりして落ち着きがない。都会の通勤電車だったら「うるさい」「迷惑」と感じるところだが、不思議とそうは思わなかった。非日常に身を置く旅人が、地元の日常をローカル線の風景の一部として好感を持って受け入れたというところか。

 そんなことはお構いなしに、列車は進んでいく。豊橋から5時間半、伊那福岡からは詰め襟の学生がたくさん乗ってきた。赤木―沢渡(さわんど)間にはJRで最も急勾配という40パーミルの坂があるとのことだったが、正直あまり実感できなかった。

山北駅に向かう国府津行きの列車。各地で倒木による事故が相次いでいるが、画面の左下にも倒れかけた桜の木が。ただ花はしっかりついていた

 17時20分、飯田線の終点の辰野着。メモを取ったり、写真を撮ったりして「忙しかった」こともあり、長時間の乗車の割には退屈はしなかった。岡谷で下車し、走り通した車両の写真を撮ろうとホームを歩いていくと、同じように豊橋から乗り通した2人が先にカメラを構えていた。 

 ☆共同通信・藤戸浩一 フリー切符を有効活用しようと、いったんJR東日本の中央本線で甲府へ。1泊し、翌日に再びJR東海の身延線と御殿場線(ともに乗車経験あり)を乗り継いで帰宅した。御殿場線では山北駅付近の「桜のトンネル」で撮影した後、圧縮空気で動くSL「D52」に6年ぶりに再会した。