「犬はテレビがわかるか」動物行動学の専門家驚きの回答。飼い主が留守中、不安と寂しさで暴れる犬にテレビを見せてみた。

犬はテレビや動画がわかるのか

犬向けの動画コンテンツが人気だという。

例えば、動物のアニメーションとハワイアン風のヒーリングミュージックを犬用に配信しているYouTubeチャンネル「Siesta Dog TV」の中には、数百万回再生されているものもあり、愛犬が動画を見ている間、リラックスしているように見えるという飼い主もいる。

インディアナ州パデュー大学の研究では、動物保護施設にいる犬に動画を見せたところ、「ストレスの兆候」とされるケージの奥で過ごす時間が短くなり、毛づくろいに費やす時間が増え、歩き回る時間が減ったという。

その一方で、2023年にクイーンズ大学ベルファスト校が行った研究では、犬に動画を見せても、すぐに興味を失ってしまったことから、テレビは犬にとってあまり刺激にならない可能性が示唆された。

日本のテレビ番組やネット動画でも、テレビに反応する犬はときどき見かけるが、犬も、人間のようにテレビを楽しめるのだろうか。

画面に映る映像を、犬はどのように認識しているのか。

そして、テレビや動画は犬の不安を軽減するツールとなるのか。

東京大学、および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学の研究をされた高倉はるか先生に、アメリカの研究結果の真偽について聞いてみると、「私もその記事、読みました」との返事が!

行動治療学を専門に、獣医師、ペットライフアドバイザーとして、ペットと人が楽しく快適に暮らすためのライフスタイルの提案を行う高倉はるか先生の連載。

今月は、犬がテレビや動画をどう見ているのか、人間のように「リアルではない」ことを認識したうえで、楽しむことができるかなどについて、解説いただいた。

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テレビは犬をリラックスさせられるのか。写真のリラックスした様子の柴犬はワタシニデキルコトが保護し、今は里親さんと暮らすふうちゃん。

「動画がストレスを軽減した」とは言えない

犬のストレスが動画やテレビで軽減できるか。件の論文を確認しましたが、残念ながら、今ある結果だけでは、『ストレス軽減になった』と言えるだけの根拠はありませんでした。

「動画を見せた犬は、落ち着かない時に見られる行動が減った」とありましたが、そもそも何をストレス行動として定義しているのかがあいまいで、ピックアップした行動とストレスの相関関係を示すものでもありません。

動画を見たあと、たまたま変化のあった行動だけを抜き出した可能性も否定できず、少なくとも、私には大きな価値は見出せませんでした。

では、犬はテレビやネット上の動画をどのように見ているのかと言えば、「本物ではない」ことは、ちゃんとわかっているでしょう。匂いもないし、直接触れることもできませんから。

それでも、中には驚くほどテレビに反応する犬もいます。

グループが歌うと、自分も一緒に走り回る

テレビ番組の監修をさせていただいている時に、テレビにある特定のグループが出ると、すごく反応するボーダーコリーを見ました。犬は人間ほど視力がよくないので、どう識別しているのかはわからないのですが、そのグループについてだけは、明らかに区別し、理解しているように見えました。

とはいえ、人間の“推し活”のような感覚はありません。好きというより、「楽しいことが始まるきっかけ」、「スイッチ」みたいなものかも。

犬の多くは、「散歩」とか「ごはん」とか「遊ぼう」などの、「嬉しい」「楽しい」「おいしい」気持ちにさせてくれるハッピーワードに反応します。

その犬は、グループが歌い始めると、自分も一緒にぐるぐる走り回って遊ぶので、グループを目にすることが、ハッピーワードのようになっているのかもしれません。でも、こういうケースはかなり珍しい。

というのは、犬は動体視力は高くても、静止しているものを見分けたり、細かいものを識別する視力はあまり良くないんです。

ただボーダーコリーは、羊を統率する牧羊犬なので、よく観察する習性があります。それで、画面の中の動きに反応しているのかもしれません。

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ボーダーコリーはよく観察する習性があるので、画面の中の動きに反応しているのかも。photo by iStock

つまり、犬も「動画の中の世界を本物」と思っているわけではないけれど、その映像によって、犬の脳や感情が刺激されることはあると言えます。

人間でも、テレビで焼き肉やステーキがジュウジュウ焼けている映像を見ると、なんとなくお腹が空きますよね。本物じゃなくても、脳が刺激される。

犬の中にも、食べ物の映像を見て、口の周りをぺろぺろ舐める子もいるんです。視覚情報から刺激されたのでしょう。

「持ってきて」と「持っていって」がわかる犬

最近では、犬の知能研究も大きく進んでいます。

犬がどれくらい言葉を理解しているか、という実験では、かなりいい結果が出ています。我が家のラブラドールレトリーバーはそれほど賢いほうではありませんが、言葉は名詞、動詞、形容詞含めると100語くらいは覚えていると思います。

さらに、単体のワードだけでなく、「ビール持ってきて」と「ビール持っていって」の違い、「これから散歩に行こう」と「今日は散歩に行かない」の違いもわかります

ちゃんと文章として、理解できるのです。

だからと言って、テレビや動画のストーリーを人間のように楽しめるかといえば、それはない。犬にとってテレビは、単発的な刺激にすぎません。

それよりも、学習した言葉で飼い主さんを理解し喜ばせたいと考える、賢くて社交的な動物です。

犬が飼い主さんを求める時はテレビや動画に任せず、言葉をかけながら、ぜひ散歩に遊びにと一緒に過ごして挙げてもらえたらと思います。関わるほどに、信頼関係は強くなります。

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テレビに反応するとしても、それは刺激として一過性のものに過ぎない。犬は飼い主さんとのコンタクトを望んでいるという。photo by iStock

◇犬は言葉を理解し、飼い主の反応を観察することで、言葉と状況を結び付けて考えることができると、はるか先生は言う。だが、それはあくまで、生身の人間に対してであり、「犬がテレビで癒やされる」ということにはならない。

飼い主を信頼する犬ほど、つねに飼い主の言動に注意を払っている。それだけ飼い主とのコミュニケーションを求めており、それが犬の心の安定に繋がるのだ。

後編「「遊びに誘う犬を無視するうちの犬は社会性がないのか」動物行動学の専門家が解説」では、ドッグランや散歩中に他の犬に遊びに誘われても、そっぽを向いたり、地面の匂いを嗅いだりなどして、素知らぬそぶりをする飼い犬に、「犬友」を作ってあげたい飼い主さんに、はるか先生からのアドバイスをお伝えする。