赤字4.5億は個人負担、前澤氏が「前澤杯」を行う訳

「前澤杯」の表彰式でスピーチする前澤友作氏。うしろに並ぶのはラウンドガール(写真:筆者撮影)
前澤友作氏が発案・企画
2025年4月、前澤友作氏が発案・企画したユニークな男子ゴルフトーナメント「前澤杯 MAEZAWA CUP」が開催された。
【写真で見る】前澤氏が所有するゴルフ場MZ GOLF CLUBの玄関/ピンク色のコスチュームを来たラウンドガールたちがひときわ目立った/前澤氏所有のパガーニ「ウトピア・ロードスター」などのスーパーカーも展示
主催は、前澤氏が所有するゴルフ場の運営・管理するむつざわゴルフパーク。日本ゴルフツアー機構(JGTO)が共催したこの大会は、従来のゴルフ競技の枠を超えた新しい取り組みが満載だった。
会場は、前澤氏のプライベートゴルフ場MZ GOLF CLUB(千葉県睦沢町)。開催期間は国内男子ツアーとしては異例の2週間で、前半の10日間(4月14~23日)はプロと一般のゴルファーが一緒にプレーするプロアマ戦、後半の4日間(4月24~27日)は本戦で、プロ100名が予選落ちのない4日間競技で優勝を争った。

前澤氏が所有するゴルフ場MZ GOLF CLUBの玄関(写真:筆者撮影)
この大会の開催が発表されたのは昨年12月。本大会で最も異例で注目されたのが、プロアマ戦の参加権を一般販売したことだろう。通常大会のプロアマ戦は大会前日の1日だけ、大会のスポンサー関係者が招待されるもので、一般人は参加できない。
1組100万円でプロとラウンド
それが、前澤杯では1日50組限定、1組100万円で販売され、オークションも取り入れた。単純に計算すると50組×10日間×100万円で5億円が集まる計算になる。前澤氏は、このプロアマ戦の収入を賞金に還元するとし、賞金総額は最大4億円、優勝賞金は8000万円と発表した。
これに対し、人気のある女子ツアーならともかく、1組100万円もする男子ツアーのプロアマ参加権にどれだけの応募があるか、疑問視する声が上がったのも事実だ。実際、500組の枠に対し応募は約300組だった。一方で、オークションでは今も人気の高い石川遼の組が500万円になるなど値がつり上がった。
結果的に、目標の500組5億円には達しなかったが、3億3000万円が集まり、賞金総額 2億円、優勝賞金4000万円で大会が開催された。
前澤氏は本戦前日、囲み会見に応じ「この大会は“男子ゴルフ界にもっと活気を”という想いと、“経済の回る大会”という新しい仕組みへの挑戦からスタートした。この試みが、未来のゴルフ界に少しでも新しい風を吹き込むきっかけになればうれしく思う」などとコメントした。

取材に応じた前澤氏(写真:筆者撮影)
共催したJGTOの副会長で、自身も選手として試合に参加した倉本昌弘氏にも話を聞くと、
「石川選手が前澤さんとの会食で、アドバイスを求めたのが発端。その後、私も話し合いに入り、“企業スポンサーではなく、不特定多数のファンから支援を集める”という前澤さんの考えに納得し、企業の業績に左右されない持続可能な大会になると思った。12月に選手を集め、前澤さんから大会の趣旨、なぜ10日間のプロアマを実施するか、その収益を賞金にどうつなげるかといった説明があり、選手もその思いを受け取って“じゃやりましょう”と、大会の開催が決まった」
と言う。

本大会ではプレーもしたJGTOの副会長の倉本氏(写真:筆者撮影)
異例の前澤杯が行われた背景には、男子ツアーに対する危機感があることは間違いない。
ゴルフの男子ツアーは尾崎将司(ジャンボ尾崎)、青木功、中嶋常幸などが活躍していた1983年の年間46試合をピークに減少に転じ、2024年は年間24試合にとどまる。人気の女子ツアーが37試合なので、大きく水を開けられてしまっている。
男子ツアーに女子プロが参加
前澤杯は男子ツアーだが、女子プロの寺西飛香留と菅沼菜々が主催者の推薦を受け、参加。同じ条件(6652ヤード・パー70)で戦ったというのも、異例だ。初日は2人ともパープレーの70で回り、女子プロとして1ラウンドの最少スコアを記録した。
初日、石川や片山晋呉とラウンドした菅沼は、初日のラウンド終了後、「朝は緊張したが、楽しくリラックスしてプレーできた。学ぶことが多かった」と話した。筆者はこの組のラウンドを取材したが、男子と女子が同じ距離で戦うことの面白さを感じた。
ちなみに、菅沼はこの大会に参加したことがきっかけでプレーのリズムが戻り、翌週に行われたパナソニックオープンレディースで、2年ぶりの復活優勝を遂げた。

菅沼のティーショット。菅沼は石川や片山と同組でラウンドした(写真:筆者撮影)
ラウンドガールやスポーツカーも
ほかにも、各組にはカーレースや格闘技のようにスコアボードを持ったラウンドガールが帯同し、大会を華やかに盛り上げたり、総額20億円といわれる前澤氏所有のパガーニ「ウトピア・ロードスター」などのスーパーカーが会場に展示されたりと、通常の大会とは違う演出がなされていた。

前澤杯ではひときわ目立ったラウンドガール(写真:筆者撮影)

前澤氏所有のスポーツカー(写真:筆者撮影)
大会終了後に取材に応じた前澤氏は、「いろいろな意⾒をいただいたが、華やかなイベントにすること⾃体に特に意味を持たせているわけではなく、新しいことを試みたいという想いのなかの1つだった」
「とにかく新しいチャレンジをしていかないと変わっていかないと思う。挑戦なくして進化なしと言いますけれども、とにかく何かやりたい、何か貢献したいということで、できることをやらせてもらった」
などと述べた。
今後も引き続き行っていきたい
大会は、石川と同世代の小西たかのりがツアー初優勝して終了。表彰式で前澤氏は、「前澤杯は今後も引き続き行っていきたい。誰に何を言われても新しいチャレンジを続けていく大会でありたい」と、大会の継続を明言した。

初優勝を遂げた小西たかのり(写真:筆者撮影)

表彰式セレモニーの様子(写真:筆者撮影)
石川プロは、短期間でここまで大きな大会が開催できたことに感謝を示し、「認知度のところで追いついていない部分があるが、選手は全力でプレーするだけなので、観てくださる方に価値を感じてもらえるようなプレーをこれからもしていきたい」と話した。
倉本氏は男子ツアーや本大会について、「いろいろ賛否がある」と前置きしたうえで、次のように述べた。
「今までのスキームをぶち破るようなスキームが新たにできあがった。年に1回でもこのような試合があれば面白いと思う。これまでにない試みが注目を集め、結果として業界全体の追い風になっていると感じている。男子ツアーは1試合1試合のバリューを上げ、クオリティを上げていくのが大切だと思う」
前澤杯の収支は4.5億円の赤字
“経済の回る大会”としてチャレンジした今回の大会だったが、前澤氏が5月14日のXに次のように投稿した。
「初年度は4.5億円の赤字でした。もちろん僕が個人で負担します。翌年度は、プロアマ売上の拡大、観客動員数とチケット・物販売上の拡大、コストカットなどで、なんとかトントンにして持続可能な大会にしていきたいと思います」
プロアマ戦の参加権で得た3億3000万円のうち、2億円を賞金に、1億3000万円を大会運営費の一部に充当することは、既に発表されていた。結果として4億5000万円の赤字となったが、その詳細については触れられていない。
筆者が考える誤算の1つは観客動員だ。大会発表では4日間で3641人と少なかった。参考までに、先に挙げた菅沼が優勝したパナソニックオープンレディースは、同じく千葉で開催され3日間競技だったが、それでも1万654人の観戦者だった。
これは、初開催で認知度が低かった、チケットが各日1万円で通常のトーナメントの倍以上あったといったことが挙げられるだろう。
支出に関しては、ラウンドガールの帯同やスーパーカーの展示、10日間にわたるプロアマの運営費は、コストを上げる要因になったと思われる(ただ、これらは前澤杯を華やかにしている売りの1つなので、悩ましいところだ)。さらに、インターネット中継の費用が0.5億円、トーナメントに向けたコース整備・管理に1億~2億円が必要で、これらも大きなコスト負担になったと思われる。
では、来年に向けて、“不特定多数のファンから支援を集める”前澤杯のスキームを成功・継続させるためにはどうしたらいいか。
筆者は、男子ツアーの人気を復活させ、大会運営費用のベースとなるプロアマ戦にもっと多くの人たちが参加したくなるような、変革が必要だと考える。そのためにも、男子プロ1人ひとりが観る者をワクワクさせるゴルフをし、ファンを大事にする自覚が必要なことは言うまでもない。
来年の「前澤杯」に期待
新しい挑戦をすることで男子ツアーの価値を高め、閉塞感を打破し、選手にもファンにも新しい価値を提供するこの大会の継続を期待したい。

ギャラリープラザの様子(写真:筆者撮影)