実は"スシロー系"の居酒屋ずし「杉玉」巧みな戦略

「飲めるサーモン」に「杉玉ポテトサラダ」、印象的なメニューがずらり(撮影:尾形文繁)
回転でも高級でもない寿司の新ジャンル、“居酒屋ずし”が静かなブームだ。
【写真33枚】スシロー系列の“居酒屋ずし”業態「杉玉」はこんな感じ。「飲めるサーモン」に苔みたいな「杉玉ポテトサラダ」を写真で紹介。ネタは厚くて食べ応えあり!店内もちょっとおしゃれ
先日配信の記事『「1貫65円~」驚きの高コスパ"居酒屋ずし"店の正体』では、居酒屋ずしジャンルでは店舗数1位の「や台ずし」に迫った。
そこで今回は、回転ずしチェーン・スシローと同系列の「鮨 酒 肴 杉玉」を取り上げる。
杉玉は2017年に1号店が開店し、2025年4月に100店舗目となる麻布十番店がオープンした。フランチャイズ(FC)で一気に店舗数を伸ばしたわけではなく、腰を据えて育ててきたチェーンと言える。
筆者の生活圏でも「あ、ここにも」「あそこにも」と見かける機会が増えた。立地は駅前商業施設から路面店まで幅広く、客層も老若男女・ファミリーと多様だ。 4月中旬、オープンを控えた麻布十番店を訪問し、同店の魅力を探った。

「鮨 酒 肴 杉玉 麻布十番」の外観(撮影:尾形文繁)
「杉玉」を運営するのはFOOD & LIFE COMPANIES(以下、F&LC)傘下のFOOD & LIFE INNOVATIONS(以下、F&LI)で、グループには回転鮨「スシロー」や「回転寿司みさき」、持ち帰り鮨の「京樽」、ワンハンド寿司の「むすび寿司」もある。いわば”すしの総合商社”だ。
F&LI 執行役員・奥本哲士氏は「街の寿司屋が減るいま、寿司とお酒を気軽に楽しんでいただける存在になりたい」と杉玉の狙いを語る。単価は1人3000円超。ランチ営業も実施し、国内のみならず香港・アメリカへも展開を広げている。

取材に応じるF&LI 執行役員・奥本哲士氏。杉玉1号店の西宮店では店長を務めていたそう(撮影:尾形文繁)

「鮨 酒 肴 杉玉 麻布十番」の店内の様子。全店に描かれた壁画は、両国店なら力士、大船店なら鎌倉の大仏というように、地域性を取り入れていることも(撮影:尾形文繁)
厚みがあっても食べやすい
店内には看板商品がずらり並んだが、目に留まったのが「思わず写真を撮りたくなる、厚切り6貫盛り」(2123円)だ。まずネタの大きさと厚みに圧倒される。横から見ると、ネタの厚みが1cmほどもある。が、ただ巨大なだけなら海沿いの寿司店で見かけることもあるだろう。杉玉の違いは“食べやすさ”だ。ここに杉玉のノウハウが詰まっている。

「思わず写真を撮りたくなる、”厚切り6貫盛り”」(2123円)。ネタのボリューム感に圧倒される(撮影:尾形文繁)
2月から加わった「スペシャルとろかつお」を例に取って説明しよう。
ネタがシャリを包むように握られ、ひと口でパクッと頬張れる。脂がのったとろかつおと爽やかなシャリが口いっぱいに広がり、するりと喉を通る。その秘密はワサビの置き方や包丁の入れ方だ。
商品企画部部長・城野明彦氏いわく「ワサビを上にのせるか、内側に挟むか、包丁を入れるかで味わいが変わる」。ネタに入れた切り目によって柔らかさを出し、脂のくどさを抑え、飲み込みやすさを追求している。
シャリは黒酢とバルサミコ酢をブレンド。甘みを抑えた爽やかな香りで、とろまぐろ、サーモン、はまちといった脂の強いネタとも好相性だ。「お酒と合わせてもシャリだけでつまみになる配合」(城野氏)とのこと。

商品企画部部長の城野明彦氏。商品企画は城野氏のほか、4名のメンバーで構成されている。素材とじっくり向き合い、素材を輝かせる商品企画を心がけているという(撮影:尾形文繁)

チェーンを代表するお酒「杉玉 純米」。スッキリとしながらも米の甘み、うまみがあり、さまざまな料理と相性が良さそう(撮影:尾形文繁)
グループスケールが生む調達力
杉玉の強みは①食材調達力 ②商品企画力 の掛け算だ。
まず調達力について見ていこう。
「スシロー」や「京樽」など、F&LCでで回転寿司や持ち帰り寿司を多数展開していることによって、大量仕入れでコストを抑えられるだけでなく、希少素材も確保しやすい。スシローでは店舗数の兼ね合いで常時販売が難しい食材を、杉玉の店舗数なら通年提供できる。
ネタは規格化され、厚切りにも包丁を入れやすい状態で届く。
例えば前述の「思わず写真を撮りたくなる、厚切り6貫盛り」も、美しい包丁の目が入っており、熟練の職人技を思わせる。しかし、城野氏によれば、加工しやすい状態でネタを仕入れており、熟練技がなくても扱うことができるという。
100店舗を展開するチェーンで全店に職人をそろえるのは難しいため、オペレーションのハードルを下げているわけだ。同チェーンの従業員のうち寿司経験があるのが3割程度とのことだ。
それでも職人が手で握った味と食感を寿司ロボットで再現し、手仕事の味に近づける。100店舗で全員が熟練職人とはいかないが、ロボ+ひと手間でクオリティを担保している。

100店舗記念の限定メニュー、「紅白まぐろ合戦」(759円)(4月22日で販売終了)。希少な天然インドマグロの赤身、本鮪の大とろの2種盛り。卵黄醤油にくぐらせた厚切りの赤身は濃厚さと脂の甘み、さっくりとした口当たりが食べ応え十分。炙った大とろもとろける舌触りだ(撮影:尾形文繁)
次に商品企画力。“同じ素材でも違う顔に仕立てる”ことが肝だ。代表例が「極み寿司」シリーズ。低温調理で“飲めるほど”柔らかくした「飲めるサーモン」(2貫550円)、キャビアまで載せた「中とろ・塩雲丹・キャビアの超ご褒美包み」(1貫400円)、ビジュアルも楽しい「美しすぎる梅しそ真イカ」(2貫300円)など、SNSで映えるラインナップがそろう。

「飲めるサーモン」(2貫550円)。サーモンは低温調理によって独特の柔らかな食感が備わっている。「飲めるシリーズ」は他に炙りえんがわ、親子稲荷など、全3種類(撮影:尾形文繁)

居酒屋の人気メニュー、ポテトサラダも杉玉ならではの見た目にこだわった。周囲にはアオサ、干しエビ、パン粉などを煎った粉がまぶされており、中身には卵黄を忍ばせている。アオサのせいか、たこ焼きに似た、しっかりした味だ(撮影:尾形文繁)
「ん?」と引っかかるような、ユニークな商品名は目を引くだけでなく、店員や客同士の会話を誘発し“体験価値”を生む。商品開発は年間販促スケジュールから逆算し、素材調達にあたっては、2段階プレゼンで扱う素材を決める。1次で通るのは数%。1次プレゼンはみんなで実際に食事をしているような、活気ある雰囲気で行われる。「楽しいメニューは楽しい空気から生まれる」(城野氏)という。
長期的には300店舗も視野
戦略を商品から読み解いてきたが、チェーン拡大も加速する。奥本氏によるとF&LIの中期経営計画では2026年9月期までに国内111〜120店舗を目標とし、「将来的には国内外で300店舗も視野に入れたい」。カギとなるのはFC展開だが、現在FC店は100店舗中16店舗にとどまる。商品企画を“再現”できるオペレーション構築が今後の挑戦となるだろう。

蝶ネクタイにデニムのエプロンという制服は、「大衆居酒屋でありながら、ハードルを下げすぎない」という意図でデザインされたそう(撮影:尾形文繁)