「危険すぎるSUV」 子どもの致死傷率82%増――タイヤ破壊テロを後押し? “巨大化”が生んだ代償を考える

過激化する都市型抗議

 スポーツタイプ多目的車(SUV)を標的にタイヤの空気を抜く自称・環境保護団体「Tyre Extinguishers(タイヤ・エクスティングウィッシャーズ)」の行為に、正当化の口実を与えかねない研究が報告された。SUVによる交通事故では、子どもの致死傷の確率が80%以上高くなるという内容だ。

【画像】「えぇぇぇ?」 これが環境保護団体の「Tyre Extinguishers」です! 画像で見る(計11枚)

 この団体は2022年3月に活動を開始。ニューヨーク、ロンドン、チューリッヒ、アムステルダムなど各国の都市でメンバーが活動している。対象は一貫してSUVのみで、駐車中の車両のタイヤの空気を抜く。

「気候変動、大気汚染、危険な運転者から市民を守る」

という主張のもと、都市部での行動を正当化している。ただし、その手法は公共の安全を脅かす行為として各地で問題視されている。

世界で拡大するSUV人気とその罪

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自動車(画像:Pexels)

 所有者の許可なくタイヤの空気を抜く行為は、いうまでもなく犯罪である。だが、こうした過激な運動に理屈を与えかねない研究結果が発表され、注目を集めている。

 2025年4月、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)とインペリアル・カレッジ・ロンドンの合同研究チームが、学術誌『Injury Prevention』に研究を発表した。報告によると、車高が高く、車幅や車重も大きいSUVは、一般的な小型車と比べて、歩行者を死亡させるリスクが著しく高いという。

 SUV人気は世界的に拡大している。2023年には世界の新車販売台数のうちSUVが占めた割合は48%。2010年の15%から大きく増加している。

 英国でも傾向は同様だ。英紙『Independent』によれば、2023年の新車登録台数のうちSUVの割合は3分の1に達した。10年前は12%に過ぎなかった。人気車種にはレンジローバー、起亜自動車の「スポルテージ」、日産の「キャシュカイ(日本名:デュアリス)」などが挙げられる。

 研究チームは、過去35年間に世界で発生した68万件超の衝突事故データを分析。SUVや小型トラックといった車両が歩行者や自転車利用者に与える影響を、一般的なセダンやハッチバックと比較した。

 その結果、衝突事故においてSUVまたはLTVに衝突された歩行者や自転車利用者は、乗用車に衝突された場合よりも重傷を負うことが突き止められた。SUVに衝突された場合、全年齢層において、乗用車に衝突された場合と比較して、致死傷の確率は44%増加した。子どもの場合は致死傷の確率は

「82%増加」

し、さらに10歳未満の子どもの場合は130%増加したのである。軽傷の場合と比較すると、SUVまたは小型トラックに衝突された場合、死亡または重傷を負う可能性は成人では24%、子どもでは28%の増加となった。これらの影響は歩行者と自転車利用者の両方で同率であった。

高フロント形状の致命リスク

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自動車(画像:Pexels)

 SUVの危険性は主にフロントエンド(車の前方、ボンネットやバンパー周辺)の形状に起因している。フロントエンドが高く丸みを帯びているため、歩行者や自転車利用者が衝突する際、身体のより高い部分に当たりやすい。大人の場合は膝ではなく骨盤、子どもでは骨盤ではなく頭部に衝突し、致命的なダメージをもたらす。

 さらに、丸みを帯びた高いフロントエンドは、衝突した歩行者や自転車利用者を跳ね飛ばす可能性が高い。犠牲者が車体に再び衝突したり、路上に倒れた身体の上を轢かれる危険も増す。

 研究チームは、SUVが関与する事故の割合を米国で約45%、欧州で約20%と推定している。全てのSUVが乗用車に置き換えられれば、歩行者と自転車利用者の死亡者数は米国で約17%、欧州で約8%減少すると見込まれる。特に子どもの死亡者数は、

・米国:約27%

・欧州:約14%

の減少が期待される。

 乗用車の大型化は世界的に進展している。この傾向は二酸化炭素排出量削減目標の達成を大きく妨げている。今回の研究は、大型車の増加がこれまでの道路安全対策の効果を損ねる恐れがあることを示している。LSHTMの助教授で論文主筆のアンナ・グッドマン氏は、

「世界中の都市や国々が、こうした大型車両の使用を抑制するための対策を導入し始めており、私たちの研究は道路安全上の(大型車両の使用抑制の)根拠を強化するものです」

と述べている。研究チームは、SUVの特性が歩行者や自転車利用者に与える危険性について、さらなる研究が必要だと指摘している。

SUV依存が生む危機構造

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キース・ブラッドシャー『SUVが世界を轢きつぶす:世界一危険なクルマが売れるわけ』(画像:築地書館)

 2002年に刊行されたキース・ブラッドシャーの著書『SUVが世界を轢きつぶす:世界一危険なクルマが売れるわけ』(日本語版は2004年)は、SUVの台頭がすでに深刻な問題を孕んでいることを早くから指摘していた。この批判的な視点は、近年話題となったタイヤ・エクスティングウィッシャーズの誕生にも影響を与えた可能性がある。

 著者のブラッドシャーは1996年から2001年まで『ニューヨーク・タイムズ』のデトロイト支局長を務めた。その間にジョージ・ポーク賞を受賞し、ピュリッツァー賞の最終候補にも選ばれている。ノースカロライナ大学とプリンストン大学を経て、1989年に同紙の記者となり、香港支局長なども歴任した。同書は2002年にハードカバーとして発売され、複数の賞を受賞している。

 本書が批判するのは、自動車メーカーがSUVに関する負の情報を意図的に消費者に伝えていない点だ。大型SUVはメーカーにとって最大の収益源であり、通常の乗用車では利益が出にくい。こうした構造のもと、メーカーは広告、ロビー活動、メディア戦略に100億ドル超を投じ、危険性に関する情報の流通を抑え込んでいるという。

 1965年に消費者運動家ラルフ・ネーダーが『どんなスピードでも自動車は危険だ』(日本語版は1969年)を通じて自動車業界の構造を告発した先例を思い起こさせる内容でもある。本書は、産業全体が公共の安全を脅かしている現実を鋭く批判している。

 無論、他人の車のタイヤの空気を抜く行為は違法であり、正当化されるものではない。ただ、環境や交通安全といった観点から、巨大車両の必要性そのものを問い直す時期に来ているのではないか。