マツダ、少数精鋭でも世界を魅せる「引き算の美学」 日本車再興の狼煙となるか

日本車デザイン、世界を魅了

 日本車はかつて高品質と革新性の象徴として、世界中で広く愛されていた。しかし、モビリティ環境が大きく変化するなかで、新たな課題に直面している。この連載「Make Japanese Cars Great Again」では、日本車がもう一度世界市場で輝くための具体的なステップを探る。過去の成功を振り返りながら、現在の課題にどう対応し、未来にどう進むかを考える。たとえば、EVや自動運転技術への対応、デザインやブランド価値の再構築、そしてグローバル市場での競争力をどう高めるかといったテーマを深掘りしていく。未来を切り開くためには、過去に縛られず、現代の技術や市場ニーズをしっかり捉えることが欠かせない。今回は、前回できなかったデザインについて話をしようと思う。

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 過去にワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞した日本車は三つある。

・2016年マツダロードスター

・2020年マツダ3

・2024年トヨタプリウス

だ。マツダロードスターにいたっては、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞して2冠を達成しており、まさに「世界の自動車」といっていい。

 2024年のマツダの世界販売台数は、約127.8万台であり、トヨタの1082万台と比較すると10分の1近くの規模であり、テスラの178.9万台よりも少ない。マツダは、グローバルでは決して大きな自動車メーカーではないが、それでもワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞するような自動車を生み出している。

 つまり、自動車のデザインの美しさとメーカーの規模は、全くリンクしていない。必要なのは、デザインに対する美学や哲学、そしてメーカーとしての一貫性だ。マツダの言葉を借りれば、生命感を形にする独自の哲学に基づく「魂動デザイン」であり、日本の美意識を礎とした「新たなエレガンス」の表現である。日本の美意識は、世界に通用することがはっきりしているのであり、

「Make Japanese Cars Great Again」

にとっても重要な役割を担うだろう。

ブランド・メッセージを可視化するデザイン

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自動車(画像:Pexels)

 デザインには、ブランドを可視化する、あるいはユーザーに向けてメッセージを送る役割がある。ブランドには、自動車メーカーと個々のモデルのふたつがある。

 自動車メーカーの端的な例は、BMWやポルシェだ。一目で

「ああ、BMWだ」

「ポルシェらしい」

と感じる、自動車メーカーとしての統一性がある。個々のモデルの例では、トヨタクラウンがわかりやすい。2012(平成24)年に登場した14代目クラウンは、過去のクラウンとは一線を画すデザインで物議をかもしだした。「新たなる革新への挑戦」というメッセージを可視化したデザインだったが、販売台数が2012年の約3万台から2013年は8万台を突破。おじさんの車を脱して幅広い層に受け入れられた成功例だろう。

 このように、デザインにはメッセージ性を加えることで売れ行きを左右する力がある。電気自動車(EV)に目を向けると、現在テスラや比亜迪(BYD)といった新興自動車メーカーが躍動している。新興自動車メーカーのデザインに惹きつけられるのは、

・既存の自動車メーカーに対するアンチテーゼ

・開拓者としての若々しさ、躍動感、力強さ

にある。それは、EV黎明期だからこそ支持されるデザインにすぎず、普及期に入った際は通用しないだろう。新たな自動車メーカーの参入にともない競争が激しくなるEVは、差別化するためにもデザインがより重要になってくる。

差別化が難しくなるデザイン

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EV(画像:Pexels)

 EVは、デザインによる差別化が必須となるものの、自動車ブランドとして築き上げてきたデザインを除き、差別化しにくくなってきている。

 エクステリアでいえば、空力特性や衝突安全性などの理由により、形状が均一化する方向にある。航空機や船舶が似たような形状をしているのは、物理学上の正解があるからだ。EVは、バッテリー性能はもちろん、エコを全面に出している以上、電費を意識した物理的な正解に近づけざるを得ない。

 インテリアも、ハンドルとパネルと、指示器のスイッチだけあれば十分であり、ごちゃごちゃした機械的なコクピットは過去のものとなる。自動運転が広く普及すればハンドルすら不要となり、さらにはラスベガスCES2023でBMWが発表した電子ペーパーフィルムが実用化されると、カラーリングや視覚的な凹凸もソフトウェア次第となる。

 差別化が難しくなるなかにおけるキーワードは

「個性化」

だろう。この個性化とは、斬新、奇抜、アバンギャルドといった、たとえ一時期であっても売れさえすればいいといった一過性のデザインではない。日本のEVが目指すべきは、少し高くても美しいうえ、末長く愛されるデザインだ。デザインにメッセージを託すなら「日本の美」となる。

日本を全面に打ち出したデザインで勝負

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茶室(画像:Pexels)

 欧州や米国のサイトで、自動車を選ぶ際のポイントを検索すると、以下の項目がおおむね上位を占めている。

・燃費

・安全性

・価格

・実用性

・品質

ユーザー目線でいえば、正直なところデザインは自動車を選ぶ基準としてはあまり高くはない。にもかかわらず、トヨタが、新型プリウスで美しいデザインにこだわったのは、ある意味示唆的な出来事のように思える。

 つまり、技術的に成熟したときに行き着く先はデザインということだろう。EVも、省エネ性能、安全性、価格、実用性、品質で大きな差が出ないならば、デザインに頼るしかない。マツダは、自動車のデザインについてこうも言及している。

「次世代デザインでは「引き算の美学」、すなわち引くこと、省略することによって生まれる「余白の豊潤」を大切にし、要素を削ぎ落としたシンプルなフォルム、そして研ぎ澄まされた繊細な光の表現でクルマに命を吹き込む」

と。まさにシンプルで差別化が難しくなるEVの目指す方向性といっていい。幸い日本には、装飾を削ぎ落として侘び寂びを極めた茶室や白と黒のシンプルななかにダイナミズムが潜む襖絵など、学ぶべきお手本が潤沢にある。さらには、TGVのインテリアをデザインした日本人デザイナー佐藤オオキ氏率いるnendoなど工業デザイナーや、建築家、画家など優秀な人材とタッグを組んで、オールジャパンで日本的なデザインを実現してもいいだろう。

 日本には日本の美、欧州には欧州の美、中国には中国の美がある。どの文化が優れているか、優れていないかではない。胸をはって

「日本人でしか出せない美」

で勝負すべきだ。日本の自動車メーカーが今日まで培ってきた品質・安全性・信用に、日本の美が加わることで、「Make Japanese Cars Great Again」が成し遂げられるにちがいない。