東京進出も「地元にUターン」人気ラーメン店の事情

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

地方の人気店が東京で勝負する難しさについて、店主の秦良浩さんに話を聞いた(筆者撮影)

滋賀県栗東市。滋賀県南部に位置し、東海道・中山道の旧東海道沿いをはじめ、市内各所に寺社や古墳などの歴史遺産が残されている街だ。

【画像9枚】滋賀では2時間半の行列「奏」の「鶏そば」はこんな感じ

そんな栗東市に一軒の人気ラーメン店がある。「ラーメン 奏」である。

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

ラーメン 奏の外観。Googleの口コミは4.1と、地元で高い人気を誇る(筆者撮影)

2016年に同じ滋賀県の野洲市で創業。県内を代表する人気店に成長した後、2020年12月に惜しまれつつも閉店。その後、東京に移転し、話題になっていたが、再度の移転の後、2024年5月に閉店。再び滋賀県に戻って再起することになった。

地方の人気店が東京で勝負する難しさについて、店主の秦良浩さんに話を聞いた。

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン

秦さんは大阪にある「ラーメン人生 JET」で修業の後、妻の実家のある滋賀県でラーメン店を開業した。

「かつて滋賀に住んでいたことがあって、緑が多くてすごくイメージが良かったんです。独立するにあたって、大阪と滋賀で悩みましたが最終的に滋賀を選びました」(秦さん)

こうして2016年、滋賀県野洲市で「ラーメン 奏」はオープンした。

“食べるスープ”とも称されるほど濃厚な鶏白湯ラーメンで、骨だけでなく肉までもスープに溶け込んだなかなか他では食べることのできない一杯で勝負をかけた。

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

「奏」の「鶏そば」。“食べるスープ”とも称される、濃厚な鶏白湯ラーメンだ(筆者撮影)

滋賀県では彦根市にある「ラーメン にっこう」が鶏白湯ラーメンの先駆けとして有名で、鶏白湯自体は根付いていたこともあり、「奏」にも注目が集まった。

「『JET』出身ということもあり注目はされましたが、何せ田舎だったのでオープン数カ月はなかなか厳しかったです。しかし、当時まだ滋賀県には個人店もそれほど多くなく、メディアでも多く取り上げていただけるようになりました。

毎日味のブラッシュアップや研究を重ねていくうちにお客さんも徐々に増えてきて、軌道に乗ってきました」(秦さん)

東京への移転を決意。注目を集めるも…

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

インタビュー中の一幕。右は筆者(筆者撮影)

毎日客数が増えていく中で、従業員やアルバイトを採用し、売り上げの拡大を図るもなかなか人が見つからない。

このままこの場所で続けていても、これ以上は伸びないのではないかと考え、秦さんは思い切って東京でチャレンジすることを決意する。

こうして、「奏」は東京への移転を決め、2020年12月に閉店となった。最終日には2時間半の行列ができたという。

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

東京・駒込に移転した「奏」(筆者撮影)

そして2021年2月に東京・駒込で「奏」は再オープンした。東京でもなかなか食べることのできないタイプの鶏白湯ラーメンを提供していたこともあり、注目が集まった。『TRYラーメン大賞』では新人賞のMIX部門1位を獲得した。

「評価はされましたが、思ったよりも根付くのに時間がかかるなと感じていました。東京ならばもう少し早くお客さんが集まるイメージがあったのですが、オープン景気が終わってすぐにドーンと売り上げが落ちて、その後ゆっくり上がっていく感じでした。

アルバイトも採用し、営業時間も伸ばすことで少しずつ売り上げが伸びていき、これから安定していくだろうというときに“立ち退き”の話が出てきてしまったんです」(秦さん)

常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…

テナントのオーナーが高齢で病気になってしまい、身内もいなかったため、物件を不動産会社に売却したことで、そこにマンションを建設するという話が出てきてしまった。

秦さんにとってはまさに青天の霹靂で、補償等について弁護士を立てて話し合いを行ったが、結論は立ち退いてほしいということになってしまった。

「せっかく近隣のお客さんもついてきたのに、立ち退きを前提に営業を続けるのはかなりしんどかったです。

開店からまだ1年も経っていない段階でのお話だったので、運がないのではないかと落ち込みました。閉店して滋賀に戻ろうかという話も出ていて、滋賀の物件も探していたぐらいです」(秦さん)

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

駒込の地で愛され始めた頃に、移転することに。近隣で物件が見つからず、蒲田に移ることになった(筆者撮影)

駒込付近で物件を探してもなかなか出てこず、広い範囲で探すもなかなか決定にこぎ着けなかった。

その中で、ついに立ち退きの期限が過ぎてしまい、移転を余儀なくされる。インターネットで見つけた蒲田の物件に決め、2023年7月に2度目の移転をする。

土地勘のまったくない中、一からの営業となった。駒込にオープンしたときの「滋賀の人気店が来た」というような話題性を作ることができず、オープンラッシュが作りづらい状況だった。その中で徐々に売り上げは上がってきていたが、またもアルバイトが集まらない状況に陥った。

「駅から少し離れていたこともあり、駅前の飲食店に人を取られて、まったくアルバイトが集まらない状況でした。

結局妻と2人でお店を回すことになってしまい、『従業員を入れてお店を大きくしたい』という理由で東京に来たのにこれでは意味がないと考えるようになりました」(秦さん)

同じ時期に母や義父が病気になったということもあり、東京を閉めて滋賀に帰ろうという話になった。こうして「ラーメン 奏」は2024年5月、移転からわずか10カ月で閉店となった。

「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

滋賀県の栗東市に移転。有名店のUターンは大きな話題となり、今では行列店となっている(筆者撮影)

「奏」は今は滋賀県栗東市で再び行列を作っている。蒲田の閉店から半年後の2024年12月にオープンした。

筆者も久しぶりに「奏」のラーメンを食べたが本当に美味しく、何より近隣のお客さんがたくさん集まっていることに安心した。

「3年3カ月の東京のチャレンジでしたが、いい勉強になりました。今思えば、滋賀でずっと行列を作っていたのが当たり前になっていて、テングになっていた部分はあると思います。調子に乗ってはダメだったんです。

美味しいラーメンを作っていれば人が来るというのはウソで、商売をなめていました。もう少し簡単にうまくいくと高をくくっていたところがあったんです。

蒲田での厳しさがそれを教えてくれました。『そろそろ気づけよ』というメッセージだったのかもしれません」(秦さん)

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

美味しいラーメンを出せば、人気店になれるわけではない……東京での経験は、秦さんにとって大きな学びになった(筆者撮影)

秦さんは自分でできるキャパの中でお店を続けることに決めた。余計なことは考えずにラーメン職人としてまじめに生きる道を選ぶことにしたという。夫婦でもしっかり話し合いをした。

「私は死ぬまでラーメン屋をやりたいですし、できれば麺場で死にたいぐらいのことを考えています。成功する人はセンスやスピード感などもズバ抜けています。

その点、私は東京でやるには何事も実力不足でした。初心忘るべからずで、地元のお客さんに愛されるお店作りをまた一からしていきたいと思います」(秦さん)

2016年、滋賀県で「ラーメン 奏」をオープン, 東京への移転を決意。注目を集めるも…, 常連もついてきた中で、オーナー都合で立ち退きに…, 「地元に愛されるお店作りを一からしていきたい」

「奏」の「カレーラーメン」(筆者撮影)

ラーメン店の経営は、提供するラーメンの味だけでなく、さまざまな要因によって大きく左右される。従業員の確保や物件との出会いは一期一会だし、行列店になっても、近隣からのクレームで移転を余儀なくされることもある。美味しいラーメンを出せば、上手くいくわけではないのだ。

秦さんの3年3カ月の東京のチャレンジがこれからのラーメン人生にプラスになっていくことを願ってやまない。

【もっと読む】「人が増えれば増えるほど不安になった…」 「磯丸水産」運営企業の傘下に入った、埼玉の人気つけ麺店。M&Aを受け入れた、意外すぎる理由 では、埼玉の人気つけ麺店「狼煙」が、業界大手であるクリエイト・レストランツHD入りした背景について、ラーメンライターの井手隊長が取材。詳しく報じている。