サンマルクが買収「牛カツ店」どこが魅力なのか

サンマルクが買収した「牛カツ京都勝牛」の牛カツとは, 月50トンの仕入れ力が生む、高品質とコスト優位性, 「価格」ではなく「価格に対する満足感」で選ぶ, 国家の摩擦が生んだ危機。熟成牛との出会いが転機に, 熟成牛とは? どこが魅力?, 極薄衣でサクサク。ステーキみたいな「牛カツ」の誕生, 業績は好調、「上がりすぎてびびっています」

インバウンドが押し寄せる、清水寺から徒歩5分のロケーションにある清水五条坂店(写真提供:リーフ)

ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載。第10回は牛カツ専門店「牛カツ京都勝牛」が行列のなぜに迫ります。

サンマルクが買収した「牛カツ京都勝牛」の牛カツとは

「サクッサクッ」と、小気味よいそしゃく音に驚いた。味わっているのは「牛カツ」。牛カツとは、牛肉を揚げたカツレツだ。

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さきほどの音は、そのカツがまとった極薄衣がたてた音。透けるほど薄い衣のなかに、うま味がジュワ~と染み出すミディアムレアの牛肉が待っている。トンカツとはひと味違う。どちらかというと、ステーキに近いかもしれない。

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希少部位ハネシタを使用した、「牛ロースカツ膳」。赤身ならではのうま味が楽しめる“元祖”の味だ(写真提供:ゴリップ)

筆者が牛カツを食べた「牛カツ京都勝牛」(以下、京都勝牛)は、JR新大阪駅構内にある。

インバウンドがいつも行列しており、前を通るたびに気になっていたものの、長蛇の列に恐れをなして通り過ぎること2年。しかし、昨年10月にサンマルクが買収したと聞いて背中を押された。訪れてみて、「こんなにおいしかったのか」と衝撃を受けたのが冒頭の話だ。

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いったい牛カツとは何なのか。京都勝牛はなぜ人気なのか。秘密を知るため運営元の(株)ゴリップ代表 洪大記さんに取材を申し込んだ。

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インバウンドが行列をなす、JR新大阪駅構内の京都勝牛(筆者撮影)

月50トンの仕入れ力が生む、高品質とコスト優位性

ちまたにおいしいものがあふれる時代に、京都勝牛が連日行列となる要因はどこにあるのだろう。

開口一番に尋ねると、「一番は、肉のクオリティを担保できている点ではないでしょうか。弊社のグループには肉を扱うブランドが多く、牛肉だけでも月に50トンほど仕入れるため、スケールメリットがあります」と洪社長。

肉は2種類用意している。比較的リーズナブルな輸入牛(主にアメリカ産)と、国産黒毛和牛だ。いずれも、月50トンという大量仕入れのおかげで、品質を妥協することなく安定価格での調達を実現。

原価率は、35~40%の間で推移しており、一般的な飲食店と同水準を維持できているそうだ。

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サシがたっぷり入った和牛サーロインの塊肉(写真提供:ゴリップ)

また、部位については6種類を使用している。焼肉でおなじみのサーロイン、ヒレ、タン、希少部位のハネシタなど。どれも無駄なく使える効率的な部位で、焼肉店でも人気が高い。

6種類あるのは、「カルビやロースにいく前に一度塩タン挟む」といった“マイルール”を持つ人が多い焼肉のように、多種類から選んだり、自分なりの食べ方を楽しむ機会を提供したいから。会話が弾むシーンを想像しながら、少しずつ部位を増やしていったそうだ。

しかし、肉の部位を増やすことは、実は人件費の増加にもつながる。部位が豊富になるほど高いカット技術が必要になり、職人を雇うと、技術料を加味した高給が必要となるためだ。

一から指導してもいいのだが、一人前に切れるようになるまでには研修期間が必要だ。その期間にも人件費は発生し続ける。

京都勝牛はこの人件費問題をアウトソーシングで解決した。複雑なカット作業は食肉業者に任せ、店舗には、「すぐに調理できるポーションにカットした状態」で納品してもらう。

こうすることで、複雑なカット工程を不要にしたのだ。外注費はかかるが、人件費に比べれば負担は軽い。

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仕入時のヒレ肉。筋をトリミングし、牛カツのポーションにした状態で届く(写真提供:ゴリップ)

「価格」ではなく「価格に対する満足感」で選ぶ

平均客単価は、エリアによって異なるが、通常1800円~。観光需要の高いエリアでは3000円超と決して安くはない。けれど、価格だけで客に嫌厭されることは少ない。

「外食で重要なのはコストパフォーマンスです。『価格がいくらか』ではなく、『その価格で得られる満足感』がすべて。5000円払っても5500円の満足感が得られればお客さんはまた来てくれます」

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やわらかくジューシーなサーロインカツが主役の「牛サーロインカツ膳」(写真提供:ゴリップ)

牛カツのおいしさだけではなく、選ぶ楽しさ、店内の内装など、トータルで付加価値を演出しているため、価格に対して満足度の基準をクリアできているのでは……と洪社長は続けた。

そのような高い満足感を生み出すブランドは、どのように生まれたのだろうか。

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大都会ながら、ゆったりとスペースが取られた渋谷道玄坂店(写真提供:ゴリップ)

国家の摩擦が生んだ危機。熟成牛との出会いが転機に

京都勝牛は、2024年で誕生から10周年を迎えたブランドだ。現在は世界8カ国89店舗を展開するが、創業した2014年は、まだこの世に「牛カツ」という食べ物はなかった。

「ビフカツはありましたが、あれはデミグラスソースやトマトソースで食べる洋食ですよね。そういうイメージではなく、あくまでとんかつに対しての牛カツを『日本食』として確立したいと思いました」と洪社長は説明する。

理由は単純で、とんかつが大好きだったから。昔から、「とんかつがあるのになぜ牛カツがないんだ」という疑問を持っており、それがブランド開発の原動力になった。

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牛ヒレカツ膳。牛ヒレカツはしっとりやわらかく、上品な味わいが特徴だ(写真提供:ゴリップ)

ゴリップはその頃、創業ブランドであるサムギョプサル専門店「ベジテジや」をオープンして8年目の時期だった。

全国29店舗を展開していたが、従軍慰安婦問題や竹島問題など政治的な摩擦から、2店舗の売り上げが10~15%下がって赤字が出ていた。「努力以外の部分、国と国の事情でビジネスに影響が出るのはたまったもんちゃう」と憤ったと洪社長は振り返る。

閉店か、業態変更かを迫られていたときに、日本ではほとんど知られていなかった熟成牛に出会った。サムギョプサル用の豚を仕入れていた食肉業者から、その頃まだ知られていなかったサムギョプサルの店を全国展開していることで一目置かれ、「熟成牛の店をやらないか」と声をかけられたのだ。

熟成牛とは? どこが魅力?

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ベジデジやの人気メニュー、サムギョプサルコース(写真提供:ゴリップ)

熟成牛とは、約40日間冷蔵庫で発酵させた牛肉のことだ。発酵により、肉の繊維が切れて柔らかくなる。それと同時にうま味が凝縮され、ナッツのような独特の香りが生まれる。

洪社長はその味と香りに惹かれ、赤字2店舗の業態を、「1ポンドの熟成牛の塊肉を、ステーキとしてシェアするレストラン」ゴッチーズビーフに変更。

すると売り上げは倍増、12月の繁忙期の売り上げは、800万円から1500万円に跳ね上がった。しかしそれに伴い、平均客単価も約3500円から、6500円、7000円と高額になった。

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ゴッチーズビーフの店頭にある肉の熟成庫(写真提供:ゴリップ)

にもかかわらず、顧客満足度はベジテジやと変わらなかった。そればかりか、もっと喜んでいるように見えたという。

客にとっては、「手軽なサムギョプサルの楽しさ」より、「高額な熟成牛のおいしさ」が勝っていたのだ。

なぜなのか。鶏と豚は家庭で食べる機会が多いが、牛は滅多に食べないからだ。洪社長はそのとき、「牛という食材のポテンシャルの高さ」と「非日常に対しては、人は満足感を得やすい」ことに気づいたという。

同時に、「とんかつがあって、なぜ牛カツがない?」という疑問を思い出した。

極薄衣でサクサク。ステーキみたいな「牛カツ」の誕生

「とんかつがあって、なぜ牛カツがないのか」。そのアンサーとなるブランドを作れば受け入れられる。そう直感した洪社長は、新たな食の提案として、牛カツブランドの確立を決める。

ゴッチーズビーフが熟成牛のミディアムレアで成功したことから、「ミディアムレアのステーキみたいな揚げ具合」と、女性を意識して、「油切れがよく、ヘルシーな極薄衣」を骨組みとして考えた。

そこから研究を重ねて生まれたのが、現在の牛カツだ。開発の決め手となったのは、通常のパン粉の約10分の1という、超微細なパン粉と植物油。これらを使うと衣は約3ミリの薄さになり、食感はサクサクに。

味わいは、油吸いが少ないためヘルシーに揚がる。そしてなにより、牛肉のうま味を阻害しない。薄衣をまとった見た目も、トンカツとは一線を画した。

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超微細なパン粉をつけるため、衣は3ミリほどに(写真提供:ゴリップ)

だが、開発には課題もあった。

たとえば、衣。一般的なとんかつは、衣にボリュームあるから肉から剥がれない。しかし超薄衣をまとったミディアムレアのかつは、包丁で切るときに割れたり、衣が剥がれやすい。そこを割れないように、剥がれないように、お肉に吸着するようにと各メーカーと研究を重ね、「パン粉、卵と小麦粉を混ぜた『バッター液』、打ち粉のバランス」を試行錯誤した。

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衣がはがれないよう、ゆっくりと丁寧に揚げられている(写真提供:ゴリップ)

「苦労した末に、想像通りの『牛カツ』を形にすることができました。そこから10年、ずっとブラッシュアップはし続けていますが、このとき作った原型から大きく変化はありません」

「京都勝牛」の特徴はもう1つある。店員に話しかけられる機会が多いことだ。

その柱となっているのは、「ヒアリング」「プロデュース」「クロージング」3つのプロセスからなるサービスだという。

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寺町京極店には、調理場が眺められるカウンター席が(写真提供:ゴリップ)

ヒアリングとは、来店した人に、「初めてですか」「おなかはどんな塩梅ですか」などと声をかけて来店動機や背景を聞くこと。プロデュースとは、ヒアリングの内容に合わせて、「それなら、この商品がぴったりです」などとおすすめすること。そして、食べ終えた後の「クロージング」で感想を聞いたり、「ちなみに2回目のご来店はこれがおすすめです」とリピートを促すのだ。

「これらの会話があれば、お客様を『営業マン』にして店の外に放てる可能性が高まります」と洪社長はいう。客みずからが営業して、人を連れてきてくれるという意味だ。

そういった存在は、DX化、IT化した接客では決して現れない。だから人がサービスをしてくれることに意味がある、という。

しかし昨今は、外食産業で働きたい人の数が激減し、「AIやロボットを活用して、いかに省人化するか」に注目が集まる時代だ。それでも洪社長は、「京都勝牛は、サービスやメニュー説明など、お客様との会話をAIや機械に任せない」と言い切る。

「私が飲食業をはじめた理由には、定食屋のおばちゃんとの会話のような、暖かなコミュニケーションへの感謝があります。『お客様はタブレットで注文し、人は出てきた料理を運ぶだけ、感想も聞かない』。そのような在り方は私にとっての飲食業ではないのです」

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東武百貨店レストラン街のなかにある、池袋東武店(写真提供:ゴリップ)

サービスは飲食業の「要」であると、固く信じているのだ。実際、「トリップアドバイザー」や「Googleビジネスプロフィール」のクチコミを分析しても、低評価が入っているのは味や清掃ではなく、すべてサービスについて。「サービスが悪い店はいずれ消えていく」と確信している。

業績は好調、「上がりすぎてびびっています」

これらの工夫と信念が功を奏し、京都勝牛の業績は好調だ。売り上げは過去1年、2月をのぞいて過去最高を更新している。「上がりすぎてびびっています」と言いつつ洪社長は喜びを隠さない。行列の店だけあって、回転数も1日10~12と高い。

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厚切り牛タンカツ膳。牛タン特有の心地よい歯応えが楽しめる(写真提供:ゴリップ)

独自の味、仕入れや人件費削減戦略、会話重視のサービスと、前編で、連日行列の理由が見えてきた。後編ー「訪日客が9割の店もある」牛カツチェーンの京都勝牛。日本人客が"ごく一部"になっても社長が「それでええ」と言い切る深いワケーでは、インバウンドから高評価を得る戦略を探っていく。