マイクロソフトがAIエージェントに注力する理由

マイクロソフトは、AIエージェントが広く活用される世界での「工場」を目指す(筆者撮影)
AIで我々の働き方はどうなるのか? さまざまな議論はあるが、少なくとも大手テック企業・AI開発元は、軸となる技術が「エージェント」であると考えている。
【写真で見る】AIエージェント構想を語るマイクロソフトのサティア・ナデラCEO
5月19日、アメリカ・シアトルでマイクロソフトが開発者会議「Microsoft Build 2025」で打ち出したのも、エージェントを軸とした未来だ。
一方、それでなにが起きるのか、ピンとこない人のほうがまだ多いのではないだろうか。ここではマイクロソフトの考えを軸に、エージェントが我々の仕事をどう変えるのかを考えてみよう。
マイクロソフトは「エージェント・ファクトリー」へ
「我々はエージェント・ファクトリーを目指す」
Microsoft Build 2025の基調講演で、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはそう断言した。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(筆者撮影)
この発言は、1975年に、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏が語った言葉の翻案と言える。ゲイツ氏は当時、「ソフトウェア・ファクトリー」という言葉を使った。生まれつつあるPCという産業では、ソフトウェアの重要性が増す。ソフトウェアを効率的に量産し、幅広く提供していくことは巨大な産業になった。
そこから50年が経過し、ソフトの重要性はなにも変わっていない。一方で、情報を処理するための仕組みとして「AI」が劇的に進化し、AIをどう活用するかが大きなテーマになっている。
そのための軸となるのが「AIエージェント」だ。今後はいかに効率的にAIエージェントを作れるかが重要になってくる。だから、マイクロソフトは、開発者会議で開発者に向けて「我々はエージェント開発の基盤を整備し、開発者を助ける」という意味で「エージェント・ファクトリー」という言葉を使ったのである。
一方で、AIエージェントといってもピンとこない……という人も多いのではないだろうか。
AIと「一緒に働く」ことが大きな変化に
AIエージェントとは、利用者に代わって目的を達成してくれるソフトウェアのことだ。生成AIの登場以降は、生成AIの持つ文章解析力を活用し、「人間が自然文で入力した内容から、求めるものと必要となる処理を理解して実行する」という、ある種の自動化を指す。
生成AIは我々の仕事を変革する、と言われてきた。ただ、「生成AI単独」でできることには限外も少なくない。生成AIはコミュニケーションや文書の生成、要約は得意である。言語の壁を越えるにも有用だ。
例えば、ビデオ会話で自分の声色を使い、別の言語へと自動翻訳することも可能になってきた。Googleにしろマイクロソフトにしろ、この種のサービス開発には熱心であり、英語と日本語、日本語と中国語といった言語の間での対話が容易になっていくのは間違いない。特にこの2社は、AIとビデオ会議の双方を抱えており、利用企業も多い。
Build 2025では、日本のアイシンがマイクロソフトのAIを活用して開発した聴覚障碍者を支援する「YYシステム」のビデオが流された。音声認識と文章化の精度向上は、多くの分野で我々の活動をカバーしてくれる。

アイシンによる聴覚障碍支援サービス「YYシステム」。AIの活用例としてBuild 2025でも紹介された(筆者撮影)
一方で画像・音声の認識や文書の要約、翻訳といった作業は、我々の業務の一部でしかない。それ以外の部分で生成AIをどう活用するのか、と考えた場合、「AIになにかを聞くのではなく、共に働く」という考え方が必要になる。
作業の自動化は過去にも存在したが、AIによるエージェントは単なる自動化ではない。単純に決められたルール通りに動作するというよりも、質問から必要なアクションを自律的に判断して動作するため、より幅の広い業務をこなすことができる。
自分がやっている仕事を分解して考えてみよう。比較的シンプルな「旅行のチケットを買う」という作業も、
・自分の予定を調べる
・予算を決める
・航空会社でチケットの空きと価格を調べて購入する
・宿泊先を決め、価格を調べて予約をする
という作業に分けられる。実際にはこれらの項目も、「どんな基準で航空会社や宿泊先を選ぶのか」「どのサービスから予約するのか」「それらのサービスはどう使うのか」と分けていけば、実際には「細かい判断の積み重ね」であることがわかる。
AIエージェントに「お願い」して仕事を簡便化する
人間はそれを自然に行っているが、大変な作業であることに変わりはない。だから「誰かに代わりにやってもらう」という選択肢があるわけだが、つねに誰かに頼めるわけでもない。
そこで、AIエージェントに「お願い」することで仕事を簡便化する、という考え方が出てくる。
アメリカ・マイクロソフトでAIプラットフォーム・プリンシパルプログラムマネージャーを務めるマルコ・カサラニナ氏は、「AIエージェントの活用がカギであるのは間違いない。そこへの関わり方は、ソフトウェア・エンジニアから一般のビジネスパーソンまで、幅広い形で存在する」と話す。

アメリカ・マイクロソフトでAIプラットフォーム・プリンシパルプログラムマネージャーを務めるマルコ・カサラニナ氏(筆者撮影)
そして、現在重要となってきた技術として「既存のウェブにAIエージェントがアクセスし、作業を行う」ことを挙げた。
以下の動画は、マイクロソフトのAIエージェントが「楽天トラベル」のウェブにアクセスし、予約を行うまでを記録したものだ。人間の作業に比べれば時間がかかっているものの、ウェブの中に含まれる要素を人間と同じように解釈し、作業を進めていく。
自動化のための特別な仕組みを用意できないところでも、AIの認識・解釈能力が向上することで、我々の仕事を代わりにやってくれる部分が生まれるわけだ。

デモビデオより。AIエージェントが楽天トラベルでチケットを予約。四角い枠は、AIがウェブ内の要素をどう認識しているかを示したもの(筆者撮影)
ただし、人間にできることを機械にやらせるだけでは進化とはいえない。AIの持つ解釈能力の高さは、日々蓄積されるデータや文書を解析し、人間の判断を助けることにつながる。
人間がこの先にすべきことを判断するために、AIエージェントに多数の仕事を依頼し、共同作業できるようにしていくことが重要だ。
AIエージェント開発基盤を急ピッチで整備
人間がAIエージェントと共に働くには、多数のAIエージェントが必要であり、同時にAIが多数のデータへとアクセスできる環境が必要になる。
マイクロソフトは企業向けのサービスである「Microsoft 365」で、技術者以外でもAIエージェントを作れる仕組みを提供中だ。それに加え今年は、それぞれの企業の事情にAIエージェントの動作をチューニングする「Copilot Tuning」も発表された。
Copilot Tuningで管理者・技術者がチューニングを行っていくことで、大きな開発を伴わずに、現場でAIエージェントの運用を進められる。
また、必要なソフトウェアについては、AIに開発を依頼することでプログラマーの作業を軽減する。その結果として、「大きな予算と期間を用意しないとソフト開発ができない」という状況から、「日常的に必要なソフトをこまめに作る」形が見えてくる。
AIエージェントに依存するには、多数のAIエージェントが必要になる。そのための開発基盤として、より小回りが利いて素早く対応できる環境が必要になってきているからだ。
また、AIエージェントが多数の情報を扱うならば、そこでの安全性も重要になる。マイクロソフトは「Entra Agent ID」という仕組みを導入、AIエージェントがアクセス可能な情報の管理を簡便化する仕組みを設けた。また、AIエージェントとデータ連携をする標準的な仕組みとして注目される「MCP(Model Context Protocol)」を全面的に採用し、開発ツールの整備を行っている。
AIを使う側はそこまで意識する必要はないが、AIを使ったワークフロー改革は進み始めており、マイクロソフトのように「クラウドと連携した開発環境」をウリとする企業は、その構築を全速力で進めている。彼らにとっては、AI単体の賢さを追求することより重要なことでもある。
だからナデラCEOは「エージェント・ファクトリー」宣言をした、ということなのだろう。他社も当然同様の路線を突き進んでおり、後れを取るわけにはいかないからだ。