「御三家以外なら、大学附属に行かせたい」東京西部で附属校ブームが巻き起こるワケ

渋田隆之先生 撮影:加藤昌人
塾業界30年以上のベテランであり、神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長と、吉祥寺など都内5箇所に教室を持つ人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表による全6回の初対談。第3回は「東京西部、横浜エリアの中学受験状況」について解説する。(国語専門塾の中学受験PREX代表、教育コンサルタント・学習アドバイザー 渋田隆之、進学塾VAMOS代表 富永雄輔、 構成/ライター 奥田由意)
東京西部は「附属校」が人気
神奈川は「ひとクセある学校」
富永:渋田先生の拠点は横浜で、私は吉祥寺を拠点とした東京西部が中心です。この近い距離でも受験事情はかなり違いますよね。東京西部、特に中央線沿線を見ると、最近は「附属ブーム」とでも言うべき状況です。
特に女子を中心に「御三家以外なら、附属に行かせたい。中学で入って、大学まで行けたらいいな」という家庭が多くなっている。私の塾の吉祥寺校の場合、30分通学圏内に6つの大学附属校が慶應以外はすべて揃っていて、中央大学、明治大学、立教大学、成城大学、成蹊大学などの附属校の人気が高まっています。
神奈川では、聖光学院と洗足学園が非常に人気で、この20年で神奈川を象徴するような難関校になりましたね。塾に行かなくても大学受験の準備が万端であるとか、大学進学実績も申し分ないと言われていますが、なぜこの2校はここまで人気が出たのでしょうか。
渋田:リベラルアーツ(教養)教育を重視しているところが大きいと思います。特に聖光はスタインウェイ・アンド・サンズのピアノがあったり、洗足も、大学は音楽大学ということで、中高在学中に、ヴァイオリンなど好きな楽器を選んで習得できたりと文化的な教育に力を入れている。
富永:「その時間に英単語を勉強させれば」と考える保護者もいるかもしれませんが、そこは教養だと。
渋田:本当にグローバルに活躍したいなら、そういった素養がないと通用しないということですね。哲学、音楽、美術などは大人になってから改めて時間を取って学ぶのは難しいので、中高時代にしっかり身につけてもらおうという学校の強い意志があります。
富永:そういう点でも、神奈川の学校はいい意味で「ひとクセある」学校が多いですよね。首都圏にも個性豊かな私立はありますが、数ある私学は神奈川に比べるとカラーが比較的似ているような印象があります。

渋田先生と富永雄輔先生(左) 撮影:加藤昌人
「わかりやすい進学校」ではない
神奈川の私立校
渋田:「ひとクセ」というのはそうかもしれませんね。そもそも、大きな特徴として、神奈川県内の私立は私学発祥の地(※)として伝統校のステータスが非常に高い。フェリス女学院をはじめ、横浜雙葉、横浜共立学園などの学校は歴史も長く、地域に根付いています。進路希望先ごとにコースを分けるといった「わかりやすい」単純な進学校にはなっていません。附属校も含めて、独自色がある。
富永:大学進学に対するスタンスも違いますよね。東大一辺倒ではない。特に女子の東大進学については。
渋田:神奈川は東京の私立に比べて、やはり東大を目指す雰囲気がそもそも希薄です。特に私立の女子校は上記のようなミッション系が多いため、「平等」という考え方に基づいて、「東大コース」のような選別コースを設けづらい。
「フェリスから東大」という道筋はもともとないですし(フェリスから東大に合格する生徒はもちろんいますが)、そこが東京の東大のお膝元とは違います。進学先も多様で分散しています。
男子校にしても東大進学者数を競う感じではない。浅野は元々東工大志向でしたし、栄光は東大合格者数が落ちたと言われることもありますが、1学年の生徒数がそもそも180人ほどで、300人や400人規模の開成と比べると少ない。
富永:神奈川は学校の立地条件も特徴的です。特に栄光学園は、大船駅からの坂道を登って通学しなくてはいけないので、毎日大変ですよね。ただ、あの自然環境でのびのび育つとワイルドな異才が輩出されるのかなと思います。栄光と、ジェントルマン気質の聖光とは好対照ですよね。
渋田:校舎も広くて自然が溢れているため、私の教え子の卒業生は夏休みに学校でカブトムシを捕まえて塾に持ってきたことがあります。
富永:以前は東急東横線沿線の受験生は、1日目で東京の学校を受け、2、3日目に神奈川の学校を押さえるという傾向があったと思いますが、最近はどうですか。
神奈川から県をまたぎ
東京への進学が増えている
渋田:2004年にみなとみらい線が開通した時に、一時的に横浜雙葉の人気が上昇したことがありました。しかし、最近は相鉄線が渋谷まで乗り入れるようになったこともあり、東京方面に「上る」傾向が強くなっていますね。田園調布学園(田園調布駅)や、湘南新宿ラインが通ってからは豊島岡女子学園(池袋駅)に行く生徒も増えています。人は基本的に「上る」ものなんです。
というのも、親が東京で働いている生徒も多く、親の通勤のイメージで子どもの通学を考えられるため、東京に通うのに抵抗がない。拠点整理などで本社機能が東京に移転した企業も多いので、神奈川県内には大きな企業の本社機能が少なく、人口が増えている県北や横浜も含め、東京のベッドタウンという位置づけになっている面がある。
ただ、洗足学園や聖光学院などは、東京からの合格者、そして通学者が年々増えているという感覚があります。
富永:私の塾では、家から近い学校を選ぶという傾向も強まっているのですが、その辺りはいかがですか。
渋田:神奈川では、一定数は遠方から通っています。たとえば、聖光学院には県内だけでなくいろいろな地域から通ってきていますし、浅野には静岡から新幹線で通っている生徒もいます。品川女子学院(品川、北品川駅)に小田原から通っていた生徒もいました。
新幹線だと必ず座れるし、その時間に勉強もできます。もちろん、お金はかかりますが、ラッシュに巻き込まれることもありません。我が子にあった教育環境を与えたいという「孟母三遷の教え」のようなものは普遍的なものだと思います。
富永:通学距離だけではなく、通い方の工夫次第で選択肢は広がりますね。
渋田:リニアが開通すれば、神奈川や東京の学校もさらに受験者が増えると思います。
東京西部は「中堅校」が難化
神奈川は「共学」が人気
富永:東京西部では、もうひとつ顕著な動きとして従来は中堅と言われていた東京電機大学、佼成学園、日本学園(2026年4月に、明治大学付属世田谷中学校・高等学校に校名変更する)などの偏差値が急激に上がって、難化して入りにくくなっています。横浜でも中堅校に対する人気が高いようですが、東京西部とは違った特色がありますか。
渋田:横浜では法政第二、中央大学附属、神奈川大学附属、山手学院など、共学校を中心に人気が高くなっています。横浜エリアではないですが、桐光学園や桐蔭学園もそうですね。
富永:桐光学園や桐蔭学園は川崎・町田エリアなので、地理的にも横浜エリアとはまた違う動きがありますよね。
渋田:東京から通う生徒も横浜エリアよりは多いでしょうしね。
富永:神奈川と東京の学校で、受験スタイルや温度感に違いはありますか。
渋田: 基本的には変わらないと思います。ただ、埼玉はちょっと違いますね。新しく活気にあふれる学校が多く、わかりやすい「コース制」が人気です。
富永:どのエリアも多様な選択肢がありますね。
渋田:ええ。首都圏はやはり学校の数と多様性という意味では、本当に恵まれています。結局、私立の学校がいろいろあること自体が多様性の最たるもので、ある学校では進度が早くて、中学で高校の過程を終える。これは実質的な飛び級みたいなものだし、ある学校は中高6年間ゆったり過ごして、一生の友達が見つかる。ある学校では、英語に特化した授業があって、これはプチ留学のようなものですよね。
12歳に対してここまで至れり尽くせり、いろいろやってくれるのは日本の中高一貫校くらいです。海外では私立学校はお金持ちでないと入れないですし、選択肢も限られています。
富永:その6年間というのはお金に代えられないものがある。受験できる環境があるということ自体恵まれていますね。
【第4回は、最近の中学受験でよく話題にのぼる「納得受験」や「深海魚」問題についてお届けします。】
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