"猫看板"が大バズりの日暮里駅、街に訪れた変化

猫モチーフで「かわいい!」と話題の日暮里駅西口の駅標(提供:JR東日本 首都圏本部)
東京都の日暮里駅が2025年で開業120周年を迎えた。くしくもその節目、今月5月末にX(旧Twitter)にて投稿された“JR日暮里駅西口の駅名標を紹介したポスト”が、現在までに1525万表示、21万いいね、1.7万リツイートを記録している。
【秘蔵写真】駅標と並んで人気の猫キャラクター“にゃっぽり”、街のあちこちに出現!
ツイートが“大バズり”した理由は、駅名標のデザインにある。冒頭の画像がまさに話題の駅名標だ。「暮」と「駅」の部分に肉球などを彷彿とさせるデザインが盛り込まれた“猫看板風”で、ニャンとも愛くるしい。
日暮里駅の西口側に広がる谷根千エリア(谷中・根津・千駄木)は、昔から“猫の街”として知られていた。そうした街との一体化をはかったと思われる日暮里駅のこの取り組みに、ユーザーからは「いつの間に!」「とってもかわいい駅」「こういう遊び心好き」などのコメントが……。
そこで、東日本旅客鉄道(株)首都圏本部に、猫デザイン誕生の由来や駅と街のつながり、この取り組みから得られた経済効果などを聞いてみた。
「日暮里駅西口を“谷根千の顔”にしたかった」
「日暮里駅西口方面に位置する谷根千エリアは、古くから猫の多い街として知られており、最寄りの商店街である谷中銀座のイメージキャラクターにも猫を採用しています。
また、日暮里駅では“にゃっぽり”という駅オリジナルキャラクターを作成しており、広く親しまれています。上記を踏まえ、日暮里駅西口を“谷根千の顔”として、親しみをもってもらうため、駅名標は猫をモチーフにしたデザインとしました」(東日本旅客鉄道株式会社 首都圏本部/以下同)

駅員によってデザインされた日暮里駅のキャラクター“にゃっぽり”(提供:JR東日本 首都圏本部)
……こちらが、猫の形を模した駅標の由来である。
日暮里駅の開業は1905年。2020年4月にリニューアルした際に、今の駅標になった。デザインしたのは同社社員。「日暮里駅西口を新たな街の顔のひとつにしたい」という想いから、地域の特色を踏まえたデザインにすることに決めたという。
「当初は、谷中銀座で採用しているフォントに合わせる案や、街に馴染むような和風の既成フォントの案もありましたが、先に誕生した日暮里駅のオリジナルキャラクターが猫をモチーフにした“にゃっぽり”であること、谷根千エリアが古くから“猫の街”と親しまれていることを踏まえ、猫のオリジナルフォントを作成したんです」
今回のSNSでの“バズり”を受け、同社は「たびたび日暮里駅の駅標がSNS上で話題になることは、当駅社員の誇りでもありますし、モチベーションアップにもなります」と笑顔。
愛猫家が駅看板を記念に撮影
特に愛猫家、また谷中銀座を訪れた人々が、駅に戻った際に記念に写真を撮る光景がよく見られるそうで、「さまざまなお客さまから、SNSに西口の駅標を投稿していただいたことで、特に谷中銀座が猫の街であることが一層広く知られるようになりました」と知名度アップにも貢献しているようだ。

床一面に描かれたにゃっぽり。ついつい足を止めて見つめる人も ※写真は2023年2月撮影 (提供:JR東日本 首都圏本部)
日暮里駅の乗降客数は2022年の段階で、1日平均18万5568人(「国土数値情報 駅別乗降客数データ」国土交通省国土政策局・令和5年度より)。JR東日本の停車駅の中では33番目となる。決して高い数字ではないが、毎年2月は閑散期だったところ、
「駅標や駅キャラクターのにゃっぽりを活用し、毎年2月22日の“猫の日”に合わせ、さまざまなイベントを実施しております。同時期に駅構内の商業施設『エキュート』さんにも協力していただき、猫にちなんだグッズやお菓子を販売することで、従来は閑散期であった期間中にも、多くのお客さまに日暮里駅を訪れていただけるようになりました」
と、うれしいの経済効果もあったそう。この様子はネットニュースにもなり、さらなる知名度アップにも一役買っている。
「リニューアル当時、私たちは“ターミナル駅と違い、駅の特色を生かしそれをアピールしなければ、集客に結びつけることは難しいのではないか”と考えておりました。じゃあ、“日暮里駅の特色ってなんだろう”。その際、在籍していた社員が駅周辺を探索して、目に留まったのが谷中銀座周辺にいた猫たちの存在だったのです」
「かくれにゃっぽり」も存在
そもそも日暮里駅は、猫好きだけでなく、休日には鉄道好きの家族も多く訪れるそう。駅の東西を結ぶ跨線橋(こせんきょう)の中ほどには、トレインミュージアムと呼ばれるバルコニーが設置され、新幹線や山手線など多くの列車が走っている様子を楽しめる人気スポットになっている。そこに集う鉄道ファンも、列車とともに駅標を写真に収める姿がよく見られるようになったという。
「最近はご存じの方が少なくなっているかもしれませんが、実は日暮里駅には、“かくれにゃっぽり”がいます。現在は、北口改札周辺を探索していただくと、2匹が隠れていますよ。お近くにお越しの際は、ぜひ、“かくれにゃっぽり”を探してみてください」
と同社。続けて、
「なにかおもしろいことができないか、今まで企画したこともないような新たなイベントや仕掛けができないかなど、日頃から社員を中心に、さまざまなアイデアを練っています。今後の日暮里駅にも、ぜひ注目していただければと」

日暮里駅の改札付近。よ〜く目を凝らしてみると、にゃっぽりが見つかるかも!? (提供:JR東日本 首都圏本部)
そんな谷根千エリアだが、そもそもなぜ“猫の街”として知られるようになったのか。大正11(1922)年創業、谷中銀座にある自家製飴、昔菓子を販売する「後藤の飴」の店員さんに尋ねてみた。
最初から“猫の街”ではなかった?
「実は私たちが子どもの頃は、この辺りは特に“猫の街”とは呼ばれていませんでした。谷中霊園や空き地に野良猫や飼い猫が歩いていたのは確かですが、きっかけは、テレビが『朝倉彫塑館』を紹介したことです」(「後藤の飴」ご担当者)
「朝倉彫塑館」(前・「朝倉彫塑塾」)は、明治から昭和に活躍し、「東洋のロダン」と呼ばれた彫刻家、故・朝倉文夫氏が作った元アトリエだ。同氏は猫をこよなく愛しており、「朝倉彫塑館」の「猫の間」には、朝倉氏が愛した猫をモチーフにした作品が一堂に介している。これをテレビが「猫がいる街」として取り上げたことがきっかけだった。
「また、駐在さんが近所の猫に餌をあげたりして面倒を見ていたことも世間に知られていきました。それを聞きつけたのでしょう、“面倒を見てくれる人がいるなら安心だ”と、街の外から多くの方が猫を捨てに来られるようになったのです。
そして捨て猫があふれ過ぎたため、わが街としてもテレビに“猫について紹介するのはやめてほしい”とお願いを……。その後、猫を捨てに来る人が減るようにと、捨て猫の名前を“地域猫”と呼ぶように変え、近所の獣医さんが去勢もしてくれました。さらにはNPOのボランティアの方々が猫を保護してくださり、捨て猫はみるみる減少。大切な猫の命が救われ、街の人々も安堵しています」(「後藤の飴」ご担当者)
かくもテレビの影響力は大きかった。同じく谷中銀座にある「武藤書店」さんも、「ですから街としては、谷中銀座を“猫の街”として、特に推しているわけではないのです」と明かす。
ただ、SNSで駅標が定期的にバズるようになり、「谷根千エリアや谷中銀座の知名度が変わらず上がっているのはありがたいですね」と話してくれた。
今、多くの地域が町おこしなどに取り組んでいるが、現代は、テレビと違って誰でも発信できるSNSが地域の知名度アップのカギになるかもしれない。例えば、筆者が以前取材した「ナウル共和国」の公式アカウントはSNSで今も大きく話題になっており、わずか人口1.2万人の小国にもかかわらず、フォロワーはついに52万人を超えた。
また、女優の満島ひかりが天草四郎に扮した長崎県南島原市の動画もSNSで話題になり、ニュースなどで取り上げられた。知名度向上はテレビからSNSへ……。時代は大きな転換点を迎えている。
「ライバル駅」の存在は?
今の谷根千エリアは、東京駅から電車ですぐの場所にあるにもかかわらず、近代化とは無縁な古い家や商店などが並ぶ情緒あふれる街として、外国人などにも知られるようになった。上述のような意外な歴史を辿った日暮里駅西口方面。駅と街のコラボも盛んだ。
「駅と街とのつながりを感じたエピソードとして特に印象に残っているのが、3年前の『鉄道開業150周年』に合わせて地域のみなさまとコラボしたときのことです。駅を利用されているお客さまに感謝の意を示す手作りの横断幕を作成し、みどりの窓口横に掲出しました。
その際、日暮里繊維街のみなさまがご協力くださり、横断幕を作成する生地類を無償でご提供いただきました。また、繊維街のキャラクター“にっぽりん”と“にゃっぽり”を横断幕に登場させることで、大きな反響がございました。横断幕の作成には、近隣の小学校にもご協力いただき、夏休みを利用して子どもたちも作成に携わってくれました。日暮里駅が地域の方々に支えられていることを実感した経験でした」(東日本旅客鉄道株式会社 首都圏本部)
ちなみに、同社に「ライバル駅はあるか」と尋ねてみると、
「ライバルというわけではありませんが、同じ猫のキャラクラーとして赤羽駅の“アカにゃん”がおります。2月22日の猫の日には、にゃっぽりとあかにゃんがコラボしたイベントを実施することも多いです」
最近は、街で見かける猫の数はめっきり減ってしまったというが、
「谷中商店街入り口にある階段“夕やけだんだん”付近に、猫が出没しているのをよく見ます。商店街では、オリジナルの猫グッズにも会うことができますよ」
とのことなので、下町風情たっぷりの街の散策とともに、SNSでの“猫映え”を狙って、ふらりと訪れてみるのもよさそうだ。