米のイラン核施設攻撃、金正恩氏をつけ上がらせる恐れ

軍事演習の巡航ミサイル発射を見守る北朝鮮の指導者、金正恩朝鮮労働党総書記(国営の朝鮮中央通信が2月提供)
【ソウル】米国によるイラン核施設への攻撃は、北朝鮮から見て地球の裏側で起きた。だが、独裁者である金正恩氏にとってこの攻撃は明白な教訓となる。核兵器は自身の生き残りに不可欠だということだ。
米国とイスラエルによる対イラン攻撃によって、金氏は自国の核兵器が自身の政権の運命といかに結び付いているかを思い知らされた可能性が高い。
そのため、今回の攻撃を受けて、金氏が北朝鮮へのあらゆる攻撃に対する抑止力としての核兵器を手放さず、その保有を拡大する決意を強めた可能性があると、安全保障の専門家はみている。金氏はイラク、リビア、シリアなどの国々を挙げることができる。こうした国々の核への野望は、本格的な核兵器開発の阻止を狙った軍事攻撃を招いた。
今や米国の対イラン攻撃は、今後の米政府と北朝鮮の非核化協議を難しくする可能性がある。金政権は何年も協議を拒絶している。米国によるイラン攻撃で金氏の対米不信が深まった可能性が高いと専門家は指摘する。
韓国政府系シンクタンク、国家安保戦略研究院(INSS)のGo Myong-hyun氏は、米国の対イラン攻撃を受けて「金正恩氏は自身が核兵器を保有していてよかったと思っている」と述べた。
北朝鮮は近年、核開発を強化している。核兵器を同国の「強力な宝刀」だと述べてきた金氏は2022年9月、核ドクトリンに初めて先制攻撃を容認する条項を加えさせた。同国の主要な核実験場は同年に復旧作業を開始した。金氏はドナルド・トランプ米大統領の1期目に、善意の印として実験場の破壊を命じていた。

核弾頭を視察する金正恩氏(撮影日不明、写真は動画から)
シンクタンクのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の新たな研究によると、北朝鮮は現在、核弾頭を最大50個を保有し、最大であと40個の製造に十分な核分裂性物質も保有している。SIPRIによると、同国が備蓄する核弾頭は5年前の時点で、30~40個と推測されていた。
韓国の元北朝鮮核担当大使で、現在はソウルにあるシンクタンク「世宗研究所」の理事長を務める李容濬(イ・ヨンジュン)氏は「国は一度核兵器を持つと、決して手放さない」と話す。
米国は先週末、イランのフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの3カ所にある主要核施設を攻撃した。イスラエルはイランのより広範な核施設に打撃を与えているほか、核科学者も攻撃している。
2002年にナタンズ・ウラン濃縮施設の存在を暴いたイランの反体制派アリレザ・ジャファルザデ氏によると、金政権は、地下トンネルや核施設の設計・建設でイランを支援してきた。このため、金政権が今回の出来事を自国のことのように感じている可能性があるとアナリストは指摘する。
トランプ氏は、空爆によってイランの核開発計画は「完全に葬り去られた」と語った。しかし、漏えいした米軍事情報機関の初期段階の報告では米国の攻撃の影響について、イランの核開発を数カ月遅らせる程度だとの判断が示されていた。これに対し、国際原子力機関(IAEA)トップらは、イランが極めて深刻な打撃を受けたと述べている。
ウィーンを拠点とする研究機関オープン・ニュークリア・ネットワーク(ONN)のアナリスト、ティアンラン・シュー氏は「北朝鮮は潜入工作が難しい国だが、核科学者ら重要人物が殺害されるのではないかとの懸念が生じるようになるだろう」と語った。

イランのナタンズ核施設の衛星画像からは空爆で穴があいているのが分かる(22日)
トランプ氏と金氏は、2018年と19年に計3回顔を合わせた。トランプ氏は大統領に再選された後、金氏と再び会談することを望んでいると語った。金氏は、トランプ氏と緊密な関係にあるとの認識を示してきたが、米国が北朝鮮に対する「不変の攻撃的、敵対的政策」を放棄しない限り、米国との交渉を再開しないとしている。
北朝鮮の核問題に関する6カ国協議で2014年と15年に米国の特使を務めたシドニー・サイラー氏は、米軍のイランへの攻撃によって、トランプ政権は軍事攻撃が正当かつ利用可能な選択肢であることを北朝鮮に示せると語った。6カ国協議には中国、日本、ロシア、韓国も参加していた。
サイラー氏は「北朝鮮が交渉のテーブルに着かなければ代償を払うことになるという(米国の)主張に、トランプ氏は現実味を持たせることができるだろう」と語った。サイラー氏は現在、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)に所属している。
最近イスラエルと戦火を交えたイランと同じように、北朝鮮は1950~53年の朝鮮戦争中、米国および連合軍に対して自分たちが戦略的に極めて不利な状況にあるとみていた。北朝鮮は絶え間ない爆撃を受け、廃虚と化した。
そのことが、北朝鮮の現最高指導者の祖父で建国者である金日成氏を、山岳地帯を利用した大規模な地下の軍事インフラおよび複合施設の建設へと向かわせた。

テヘランで開かれた「世界コッズの日」を祝う集会でミサイルの近くを歩くイラン革命防衛隊の兵士(2022年4月)
その後、北朝鮮は1950年代にソ連の支援を受けて核兵器の開発を始めた。それから数十年のうちに、北朝鮮はソ連で訓練を受けた核科学者を頼りに、独力で開発を進めるようになった。あるパキスタンの核科学者は後に、北朝鮮、リビア、イランにひそかに核技術を提供していたことを認めた。
現在のイランと同様、北朝鮮は自国の核開発の目的が平和利用だと主張した。だが、当時の米クリントン政権は核開発の脅威がかなり大きいと判断し、1994年に北朝鮮の核施設に対するピンポイント攻撃を計画したと、当時の国防長官ウィリアム・ペリー氏は後にインタビューで語っている。米国はこの攻撃を実行しなかった。
北朝鮮が核兵器の開発を事実上認めたのは2002年になってからだ。当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領は、北朝鮮をイラン、イラクと合わせて「悪の枢軸」と呼んだ。
北朝鮮は2003年、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明した。これはNPT締約国で初のケースとなった。北朝鮮はそれから約3年後、初の核実験を行った。イランの国会はここ数日、IAEAとの協力停止に向けた第1歩を踏み出しており、NPT脱退をちらつかせている。