タワマン増殖で「西日すら当たらない」街の"現実"

タワマン集まる勝どきは埋立地, 地元のクリーニング店主が語るタワマン, 立ち退き料で2億円を提示された人も, 築60年の家をリノーベーション, タワマン増殖で失われた日当たり, 再開発現場を歩いてみると

古い家屋の先に見える、勝どきのタワマン(筆者撮影)

あっちにもタワマン、こっちにもタワマン。気付けば日本の街はタワマンだらけになった。
それもそのはず。タワマンは2024年末時点で全国に1561棟もあるという。その土地の生活、景観、価値を大きく変えてしまうタワマンだが、足元には地元の人たちの生活圏がいまも広がっている。縦に伸びるタワマンではなく、横に広がる街に注目し、「タワマンだけじゃない街」の姿をリポートする。
今回、散策したのは東京都中央区の勝どき。ビルの間で今でも昔ながらの商売を続ける人たちの話を聞いていると、タワマン開発の歴史が見えてくる。

タワマン集まる勝どきは埋立地

お隣の月島はもんじゃ通り、築地は市場で有名だが、勝どきはそれに比べると存在感が薄い。地名の元となっている勝鬨橋の名は知られているが、それ以外に思いつく名所はない。

【画像17枚】すっかり「タワマンの街」になった勝どき。かつては長屋や町工場が多くある土地だった

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勝どきのタワマン群(筆者撮影)

このあたりは明治から大正にかけて埋め立てによって造られた地域だ。

「勝鬨をあげる」という言葉がある。戦いに勝利したときにあげる鬨の声のことを指す。1905年(明治38年)、日露戦争での旅順陥落を記念して、ここに「勝鬨の渡し」が設置された。その後、昭和になって橋が架けられることになり、勝鬨橋の名がついた。

長く月島や築地の陰に隠れるようであった勝どきだが、2000年代になってにわかに注目されるようになった。

契機となったのが2000年に開通した都営大江戸線「勝どき駅(中央区勝どき2-10-15先)」の開業だ。

この駅ができたことで六本木(13分)や新宿(23分)へのアクセスが格段に良くなった。

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勝どきビュータワー(筆者撮影)

そして2008年、勝どき地区に最初に建てられたタワマンとされる「THE TOKYO TOWERS」が、さらに2010年には「勝どきビュータワー」が竣工し、街の風景が一挙に変わった。

地元のクリーニング店主が語るタワマン

この土地で長くクリーニング店を商う平松義和さんに話を聞くことができた。正式には「平松商店(勝どき2-13-6)」だが、看板には「平松たばこ店」とある。

「母親の代からタバコ屋をやっていてね、その頃はパンとか雑貨も売っていた。平成の10年(1998年)くらいからクリーニングの取り次ぎをはじめた。

今ではこれが主な商売だね。ご近所さんからは平松クリーニングって呼ばれているよ」(平松さん)

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平松商店の店主 平松義和さん(80歳)(筆者撮影)

生まれも育ちも勝どきの平松さんは、昔を懐かしんでこう語る。

「小学校はここから歩いてすぐの月島第二小学校に通ってた。友だちもたくさんいて賑やかだったけど、最近はほら、歳も歳だから老人ホームに入ったりとかして、寂しくなったよ。

2000年に大江戸線の駅ができてからは再開発が進んだから、立ち退きやなんかで勝どきから出ていく人も増えた。タワマンのおかげで街は賑やかになってるけどさ、私らみたいな古くからの住民にとっちゃ、寂しい気もするね」(平松さん)

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平松商店(筆者撮影)

立ち退き料で2億円を提示された人も

「昔はこのへんは、長屋が多くてね。石川島(東京都中央区佃1丁目にある、隅田川河口の三角州を埋め立ててつくられた島)が近いから、船の部品を作る町工場なんかもたくさんあった。

それも時代とともに減ってきた。大江戸線の勝どき駅ができる前のバブル全盛のころも、このあたりはわりと注目されていたんだよ。地上げみたいなこともけっこうあったね」(平松さん)

これは平松さんのお宅ではないが、近所の住民に話を聞くと、バブルの時代には十数坪の土地に2億円の立ち退き料を提示された家もあった。

長屋が軒を連ね、下町の雰囲気が色濃かったころを懐かしむように平松さんは続けた。

「最近はタワマンの住民さんが増えて、昔からの人が減ってきたから、街を歩いていて”ようっ元気か”みたいな挨拶がめっきりなくなったね。

でも昔は地元の住民の結びつきは強くてさ、”無尽講”ってわかるかな。近所の住民でグループをつくって、毎月少しずつお金を出し合って、それを貯めておくんだ。誰か困ったときにはそれ配分したりね。そういうつながりがあったけど、今はなくなったねぇ」

また、平松さんが小学生のころ(1950年代前半)は、隣接する晴海地区に進駐軍の飛行場があった。その敷地のすぐそばには畑が広がっており、子どもたちの格好の遊び場になっていたらしい。

「友だちと駆け回ってさ、肥溜めにハマったこともあるよ(笑)。そんな環境で育ったんだけど、私が住んでいるここら一帯も再開発計画が決まっているんですよ。

開発計画は不安定だからどうなるかわからないけど、まぁ、10年以内には私も引っ越すことになるだろうね」(平松さん)

築60年の家をリノーベーション

平松商店を出て、近所を歩く。

平松さんが語っていた通り、勝どきの再開発は今後も続く。つい最近も「パークタワー勝どきミッド」と「パークタワー勝どきサウス」の2棟が竣工した。上層階は3億円を超える物件だ。

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左がパークタワー勝どきミッド。右がパークタワー勝どきサウス(筆者撮影)

その真向かいに、気になる店を見つけた。

2棟のタワマンから、通りを挟んで10階ほどのマンションが並んでいる。「喫茶店ダンダン(中央区勝どき4-4-5)」は、築60年の建物をリノベーションし、2024年の8月にオープンした新しい店だ。店主の高島恒一さんはこう語る。

「祖父の代から3代、築地で干物や練り物など、加工品の仲卸をやっていたのですが、時代の流れもあって、そうした加工品はスーパーで買うようになってきた。思い切って仕事を整理し、自宅をリノベーションしてこの店を立ち上げることにしたんです。

今は午前中に豊洲市場で仲間がやっている仲卸の店舗で働いて、昼前にこの店にきて、ランチのための料理をつくります。娘も手伝ってくれるので、楽しくやっていますよ」

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「喫茶店ダンダン」の外観(筆者撮影)

複数のタワマンが進出してきたために、勝どき地区の人口は増え続けている。

リーウェイズ株式会社(東京都渋谷区)の調査によると、今後30年でもっとも人口が増える駅が「勝どき」駅という結果だった。

同調査によると、勝どきの人口は2020年の4万5503人から2050年には5万9349人に増えると予測されている。(「30年間で人口が増加・減少する駅ランキング(2024年7月23日)」)

「タワマンが増えたことでお金持ちも多く移り住むようになってきたけど、かつての勝どきは本当に庶民の街だったんですよ。今は少し離れたところに引っ越しちゃったけど、昔はすぐ近所に住吉神社があったということもあり、今でも地域のお祭りなどは賑やかです。

大江戸線の勝どき駅ができて、タワマンが増えて、街の姿は激変したけど、寂しさはそれほどありませんね。ただ、昔の写真を見ると”ああ、懐かしいなぁ”とは思います」(高島さん)

店を手伝う娘の雪那さんはこう言う。

「店名の”ダンダン”の由来は、家族でやっている店なので、団らんとか、暖かいという意味の暖とか、そういう思いを込めて名付けました。地域にこうした喫茶店が少ないこともあって、お客さんはほとんど近所の人です。

タワマンに住んでいる人も来てくれますね。割とリピーターになってくれる人もいて、そうしたお客さんに支えられています」

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家族経営のダンダン。雪那さんはコーヒー担当だ(筆者撮影)

タワマン増殖で失われた日当たり

既述のように、今後は人口が増えてくると予想される。そんなところからも、今後は「喫茶ダンダン」のような店が求められる地域になっていくのだろう。

時代の流れだから、タワマンが建つことに反対はしないが、唯一「日当たりだけは気になる」と高島さんは話す。

「昔は長屋とかあまり高くないマンションとかが多かったから、日当たりは良かったんですけど、目の前にでっかいタワマンができたので、日の当たり方がすっかり変わってしまった。

南側にタワマンがあるから、日中の日当たりが良くないのはわかるけど、西日すら当たりませんからね。冬は以前より気温が下がった気がしますよ(笑)」

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人気のパンプキンケーキ(600円)(筆者撮影)

取材に伺った日は人気メニューの日替わりケーキをオーダーした。ケーキ類はすべて手づくりしているとのこと。この日は「パンプキンケーキ」だった。鼻に抜ける、シナモンの爽やかな香りが印象的だった。

人気はケーキだけではない。この日はランチタイムを過ぎていたので、出会えなかったが、割烹料理店で修業した高島さんの海鮮丼や魚の煮付けもかなりのものらしい。気になる人は訪ねてみてほしい。

再開発現場を歩いてみると

現在再開発が進んでいる現場は、たいてい高いトタンの壁で覆われている。ところどころにのぞき穴があったりする。背伸びをして覗いてみると、大きな重機が穴を掘っている。

大江戸線の勝どき駅から地上に出て、そのまま朝潮運河に向かって歩くと、クレーン車や、パワーショベルが作業する現場が見えた。

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開発が続く勝どき界隈(筆者撮影)

そうした場所もあるが、街の散策を続けると、昔ながらの風景が残っている区画もそこかしこに点在する。かつての長屋街の奥に、タワマンがそびえる風景は、時空が交差する映画のワンシーンのようだ。むしろ、そんなアンバランスさこそがこの街の魅力なのかもしれない。

東京の中央区勝どきはタワマンだけじゃない魅力が詰まった街である。

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