【ナンバーワンよりオンリーワン】風営法改正で歌舞伎町ホストクラブから「ラスソン」「1000万player」が消えた日
ホストクラブの「色恋営業」「バトル文化」が規制
最近における悪質ホストクラブ問題を始めとする風俗営業等をめぐる情勢を踏まえ、ホストクラブの営業行為への規制を強化した改正風営適正化法が令和7年6月28日から施行された。
改正法で定められた新たな違法行為として、「料金に関する虚偽説明」「客が注文していない飲食等の提供」「脅迫や誘惑による料金の支払いのための売春(海外売春を含む)、性風俗勤務、AV出演等の要求」そして「客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求」が禁止行為となった。
また、性風俗店によるスカウトバックを受け取ることなども合わせて禁止された。
同時に、今回の改正によってホストクラブの広告にも規制が入った。
ホストクラブの看板による文言によって顧客の遊興若しくは飲食をする意欲をそそる、若しくはホストクラブ従業員同士に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長させかねない内容が規制対象となった。

「売り上げや肩書きが黒く塗りつぶされたホストの看板」
ホストクラブでは「ランキング制」が導入されており、毎月売り上げや顧客数による順位が張り出され、「月間1000万」「年間1億円」といった売り上げを樹立することが称号になっていた。ホストクラブ側もホスト達をこうした目標に駆り立てるべく、煌びやかな表彰や称号を与えていた。
こうした一連の流れがホスト同士の争いを加速させ彼らが売り上げを求めるあまり顧客に対して違法行為を行う可能性や、そうした争いがあることで顧客が営業成績を上げるために多額の金銭を投じるシステムそのものが「規制」の対象となり、ホストクラブの根幹とも言えるシステムが表立っては破綻したのだ。
顧客側にとってもホストにとっても、今回の改正で最も波紋を呼んだのが、俗に言う色恋営業に対する規制と、こうしたホストのバトル文化・広告文化への規制である。
現役ホスト(24歳)の嘆き
「いや、もうほんと悔しいって言うか…。なんのためにこの半年やってきたんだろうって感じ。虚無ですね。」
そう語るのは24歳の現役ホスト。以前は役職についており、1000万プレイヤーの肩書きもあった。数々の華々しい数字に彩られたランキングや、「生誕祭」と銘打ったポスターが目立つシャンパンタワーの写真が挙げられていたSNS。しかし、現在は自身の写真と店舗名だけが記載されている。
「6月って、本来ホストクラブの上半期ナンバーが決まる月なんですよ。だから各店舗の売れっ子さん達は結構頑張ってたんじゃないかなあ。僕は今年1億Playerになるって決めて、6月がバースデーでした。途中までは普通にできましたけど、後半は何もSNSにあげられなくて。自分の夢とか目標が潰えたのはもちろんだけど、僕のそんなわがままに付き合って頑張ってくれたお姫達の努力を言えないのが辛かったですね。今後は記録よりも一人一人の記憶に残るようなホストを目指してやっていくしかないですね。でも正直6月に照準絞って売り上げも組数も全部計画立ててたんで、こんな急な改正でホストをやめようかなって思ったのは確かです。」
消えた「1000万player」の肩書きと「ラストソング」
ホストクラブでは長年、「1000万player」などといった月間売り上げをキャッチコピーに使う風習が染み付いていた。十年以上前は月に1000万を売り上げたホストがいようものなら歌舞伎町中から見物人が集まっていたそうだが、2020年代に入ってからはホストの「売れっ子としての通過点」としての数字に過ぎなくなっていった。
裏を返せば「一度1000万playerという肩書きを得れば、それに魅せられた女性が指名をするはず」と無理な売り方をしたり、時に地腹を切ってでも1000万の称号を手に入れようとするホストも存在した。こうしたホスト同士の小競り合いと見栄の張り合いはまさに警視庁が危惧した接客従業者間の競争に他ならない。

「泣いている姫とホスト」写真:佐々木チワワ
そして、そんなホスト達の売り上げバトルの水面下では、同じホストを指名・違うホストを指名する顧客同士の貢ぎバトルが存在する。
その最たる例が「ラスソン」というシステムだ。「ラストソング」の略称であり、店舗でその日に1番売り上げを上げたホストが己の指名の中でその日1番高額を使った顧客の横で1曲歌い上げるというシステムである。
店の閉店前に行われるこの儀式は、長年歌舞伎町で定番化されていた。毎月の売り上げでは先輩に勝てない新人ホストでも、1日の売り上げなら勝てる。1日、その一瞬だけ主役になれる。そんな場所の提供がラスソンだったのだ。そのため「あと20万でラスソン狙えるかも」「ラスソン取れたらアフターでホテル行こう」「売掛(ツケ払い)でいいからラスソン取りたい」といった営業も横行していた。
顧客も顧客で、ラストソングを取ることの優越感と高揚感を楽しんでいた。今日、その店で1番金を使い、1番チヤホヤされるのは自分という圧倒的な選民意識。まるまる1曲カラオケを歌う間、自分が指名しているお気に入りのホストが隣にいてくれる現実。そんな金を稼げる自分の才能に酔い、ホストクラブで承認欲求を満たしていた。
しかし、こうした遊び方はまさに警視庁が問題視している遊び方そのものである。
そのため、今回の法改正でラスソンを自粛する店舗が相次いだ。更に生誕祭などのイベントは全て中止。「生誕祭」「売り上げ億突破祭(筆者は未だにこれだけ納得いっていない。顧客の頑張りで1億円売り上げた記念に、更に数百万円のタワーを建てるとはかなり奇怪だと思わないか)」といった文言をタワーに入れることも叶わなくなった。
顧客の射光心を煽るバトルイベントといった類も自粛するようになった。

「NO.1の文字が消えた新しい看板」提供:佐々木チワワ
「風営法改正」前夜の歌舞伎町の様子は…
風営法改正が適応される直前の、6月27日の24時前。筆者は歌舞伎町のホストクラブに足を運んでいた。
「駆け込みで好きとかほざいてもらえないかな」という下心も交えつつ現場を見ていると、シャンパンコールは健在。しかし「撮影を一切禁ずる」というルールが新しく制定されていた。シャンパンを入れて多数のキャストに囲まれている風景を思い出として動画に残す顧客が多かったことを考えると、かなり不満が生まれそうな政策である。
しかし、シャンパンコールは鳴り止まない。40万、70万、120万と高額のシャンパンが降りていく。「色恋で惑わされた」わけではないであろう、確固たる価値を信じて大金を投じる女性達の姿がそこにはあった。
ラストソングが歌われず、緩やかに退店時間になる。24時を過ぎた後でも私が指名したホストは「大好きだよ、可愛い、今度一緒にホテル行こうね!」と話していた。確かに、好きだよという言葉自体は規制されていない。「お金を使ってくれないなら好きじゃない」などという言葉で顧客を困惑させていないのでセーフである。そう思うと、案外ホストの色恋自体は無くならないのかもしれないな、と筆者はこの時感じた。

「路上で名刺を広げてホスト批評をしている女性」写真:佐々木チワワ
「今月すっごい頑張った!」
後日、ホストクラブに通う友人達と情報交換をすると面白い話が入ってきた。
「ウチの担当の店もラスソンは無くなったよ。でも、それから女の子が帰る前の儀式の一曲を歌うMVPホストを、内勤が決めて歌わせるってシステムになった(笑)マイクでも売り上げとかナンバー言っちゃいけなくなったから、『俺今月すっごい頑張った!横の女もとってもありがとう!』みたいな感じで。逆に平和だったかも。」(メンエス嬢・22歳)
「ナンバーワン」から「オンリーワン」の時代へ
今でも、ホストから個人的には実際に売り上げた金額の連絡が来る。広告でなければ問題ないのだから当たり前だ。
実際、今回の風営法改正でダメージを喰らうのは中途半端な営業をしていた三流ホストが主であり、きちんとした顧客管理ないしは営業を貫いているホストにとってはさほどダメージがない。ホストクラブの運営者や広報は、広告の規制や求人でかなり苦労は強いられているはずだが。
むしろ、SNSでホストクラブ文化が広まる前の、「価値のある接客には大金で対価が支払われる」というあるべき姿に戻ったのかもしれない。
公の場で数字という誰からもわかりやすい価値基準で勝負する世界から、指名顧客と担当ホスト2人だけの秘め事の世界へとホストクラブ産業は移行していく。
そう捉えれば、今回の風営法規制は無理な売り上げを立てようとするホストや恋愛感情によって過度な自己犠牲に走る女性客を減らすための有益な政策なのかもしれない。
自分のお気に入りのホストをナンバーワンにすることよりも、自分をヒロインにしてくれるオンリーワンのホストを探すという果てしない旅が、ホスト愛好家たちに開かれたのかもしれない。
そんなことを、誰かが必死にかき集めた札束で証明されていた「No.1」の称号がスプレー缶で黒く塗りつぶされているホスト看板を見ながら考えた。

「ガムテープが貼られたホスト看板」写真:佐々木チワワ