タワマンの下に経営難の下駄屋「見えた経済格差」

3億円するタワマンの隙間にある開業130年の店, もんじゃだけじゃない、もんじゃストリート, 絶滅危惧種だからこそ常連さんがいる, 「中央区で100年越えの本屋は丸善、教文館、それとうちだけ」, 「うちの店は自分の代で終わりにする」, もんじゃ焼きの「竹の子」で舌鼓, 新住民と旧住民が交わらないのは自然なこと?

月島のタワマン「ミッドタワーグランド」と商店街(筆者撮影)

あっちにもタワマン、こっちにもタワマン。気付けば日本の街はタワマンだらけになった。
それもそのはず。タワマンは2024年末時点で全国に1561棟もあるという。その土地の生活、景観、価値を大きく変えてしまうタワマンだが、足元には地元の人たちの生活圏がいまも広がっている。縦に伸びるタワマンではなく、横に広がる街に注目し、「タワマンだけじゃない街」の姿をリポートする。
今回、散策したのは東京都中央区の埋立地にある「月島」。もんじゃストリートで有名だが、もんじゃとタワマンのほかにも実は興味深い店がたくさんある。

3億円するタワマンの隙間にある開業130年の店

地下鉄の電車に揺られながら、マンションデベロッパーの大手7社が共同で作る「MAJOR7」というサイトを開き、東京都中央区月島地区のタワマン物件を見ていた。

【写真アリ】もんじゃだけじゃない街・月島。古い町並みの向こうには、2~3億円もするタワマンが並ぶ

2026年4月に完成予定の「グランドシティタワー月島(中央区月島3丁目3300番他)」の価格は1億5800万〜3億2000万円だそうだ。ページに掲載されている写真はため息が出るほど豪華だ。いったいどんな人が選ぶのだろうと思わずにはいられない。そんな気持ちを引きずりながら、月島を歩いた。

東京メトロ月島駅(中央区月島1-3-9)を出て、人の流れに乗り、歩いていると、西仲通り商店街にたどり着いた。ここは50軒以上のもんじゃ焼き屋が並ぶ「もんじゃストリート」としても有名だ。

もんじゃだけじゃない、もんじゃストリート

通りは月島駅側から壱番街、弐番街と並び、四番街まである。もんじゃ焼き屋で埋まっていると思ったら大間違いで、この商店街には洋品店、クリーニング店、スーパーマーケット、銭湯、書店、履物屋などなど、多くの商店が並ぶ。

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西仲通り商店街の案内板。もんじゃ焼き屋以外にも多くの業種が並んでいる(筆者撮影)

歩道を含めた通りの広さは10メートルほど、広すぎず狭すぎない。こっちの店を見ながら、あっちの歩道が気になれば道を渡ってさっと覗ける。車道と歩道がきっちり分けられているので歩きやすいのもいい。

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西仲通り商店街。この広さがちょうどいい(筆者撮影)

もんじゃ焼き屋も当然気になるが、まず目にとまったのは下駄専門店の「あづまや履物店(中央区月島3-17-10)」だ。店主の楠香一さん(72)はこの道50年以上のベテランだ。

「この店はね、私で四代目です。チクトウした当初から店はあったというから、もう130年以上だね」(楠さん)

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あづまや履物店のご主人 楠香一さん。鼻緒のすげ替えを実演してくれた(筆者撮影)

楠さんの言うチクトウとは、「築島(ちくとう)」、つまり埋め立てによって月島地区ができたころから店があるということだ。

月島の築島は2回に分けて行われた。お隣の佃島の先の砂州が、1891年(明治24年)に1号地として整備され、1894年(明治27年)に2号地が誕生した。当初はそのまま「築島(つきしま)」と呼ばれていたらしい。

それが「月島」に変更された経緯は、「江戸湾の観月の名所にちなんで」とか「築地と区別するため」など諸説あるようだ。

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月島の位置(国土地理院 電子国土Webより筆者作成)

絶滅危惧種だからこそ常連さんがいる

19歳のときに父親が亡くなり、店を継ぐことになったのは50年以上前のこと。楠さんは当時のことをこう語る。

「子どもの頃から、店の道具で遊んでいたから、門前の小僧じゃないけど、履物の修理やなんかはすぐにできましたよ。

今は雪駄(せった)や草履(ぞうり)も扱っているけど、もともとは下駄の専門店なんですよ。築地に市場があった頃は、そこで働く人たちがよく来てくれていました。

市場ではみんな長靴を履くでしょ。ずっと履いていると蒸れるんだね。だから仕事が終わると下駄に履き替える。そんなお客さんが多かった。でもうちみたいな履物屋はもう絶滅危惧種ですよ」

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西仲通り商店街(筆者撮影)

楠さんは苦笑いして続ける。

「同業者がどんどん廃業していくから、鼻緒が切れたっていっても、修理する店がない。そんなわけで、うちを訪ねてきてくれる。そんな常連さんたちに支えられている感じですね。

最近はインバウンドで月島も海外からのお客さんが増えているんだけど、もんじゃを食べたら帰っちゃう。タワマンが増えて、人口は右肩上がりみたいだけど、タワマンの人は寝に帰ってくるだけだし、下駄は履かないでしょ。

うちも私の代で終わりにするつもりですよ。続けられるなら続けたいけど、道具を作る業者さんが軒並み廃業してるから、続けたくても続けられないってのが本当なんですよ」

ただ、そんな話を聞いている最中にも、お客さんはひっきりなしに入ってくる。レトロブームで日本古来の履物の需要も伸びているのかもしれない。

現在、月島には屋上にヘリポートのあるタワマン(高さ100メートルを超えるものにはヘリポート設置が義務)が5棟確認できる。これからも増えていくらしい。遠くから見ると、モダンで新しい街だが、近づいて地元の方々の話を聞くと、明治、大正、昭和の歴史を感じることができる。

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月島駅近くのタワマン群を足元から見上げた(筆者撮影)

前出の楠さんは街の歴史をこんなふうに説明してくれた。

「西仲通り商店街はね、土地柄的にも人が集まりやすい場所にあるんです。築島した当時は東京の離島みたいな場所だった。私が小学校の頃まで、この商店街の隅っこに”月島の渡し”があって、そこから渡し船が出ていたんです。それを利用する人がこの商店街を行き来していた。当時はあの頃は夕方になると、お祭りの露天みたいに通り全体が賑やかだったね」

「中央区で100年越えの本屋は丸善、教文館、それとうちだけ」

西仲通り商店街で100年を超える店は「あづまや履物店」だけではない。街の本屋も健在だ。商店街を歩いていて、思わず足を止めたのが、「相田書店(中央区月島3-5-4)」だ。今では本当に珍しくなった街の本屋である。

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相田書店(筆者撮影)

最近は本をAmazonで購入することも増えたが、職業がら書店は頻繁に利用する。とはいえ、生活圏から書店がどんどん姿を消している。相田書店は、通りに面した店の間口は2間(約4メートル)ほどだ。店先の棚には売れ筋の雑誌が並べられ、その隣には絵本がささった、クルクル回るブックラックが置かれている。

扉を開けて中に入る。ぐるりと見渡せるほどの店内に、単行本、文庫本、地図、雑誌、コミック本などが所せましと並んでいる。かつてはこうした書店がどこにでもあった。月曜日の朝には開店前から店先に陣取って、『週刊少年ジャンプ』を買っていた子どものころを懐かしく思い出す。

相田書店、三代目の店主 相田俊郎さん(65)が話を聞かせてくれた。

「うちは創業が大正元年(1912年)頃だから、今年で113年目ですね。東京都中央区で100年を超える書店は丸善、教文館、そして相田書店だけです。

このあたりは戦争で燃えなかったんですよ。隅田川のすぐ向こうに聖路加病院があるでしょ、だからアメリカの爆撃機もさすがに爆弾を落とせなかったんじゃないかって、地元では言われていますよ」(相田さん)

タワマンが建ち並ぶ地元について、相田さんはこんな印象を持っている。

「タワマンはね、実は慣れっこなんですよ。この先の佃島にリバーシティ(ウォーターフロントのさきがけ)が整備されはじめたのは僕が20代のころの約40年前で、背の高いマンションがどんどん建設されたんです。その後に再開発の波がこっちにまで伸びてきたという感じですね。だからタワマンにはあまり驚かない」

相田さんは再開発と地元商店街の成り立ちの違いを次のように語る。

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相田書店の三代目 相田俊郎さん(筆者撮影)

「この西仲通り商店街は、自然発生的にできた商店街です。店舗が並ぶというよりは、夕方以降に露天商みたいな人たちが集まって商売をしていた。

佃島のリバーシティは石川島播磨重工の工場跡地に整備されたんだけど、工場があったころは、このへんにも下請けの町工場がたくさんあって、夕方以降に職人さんたちが露天で買い物をしていた。

現在ではタワマンを含めた再開発で、すっかりきれいになったけど、かつてはもっと猥雑な街だったんですよね」(相田さん)

「うちの店は自分の代で終わりにする」

その後、2000年に大江戸線の月島駅が開業して、外からの人流が急増したのだそう。もんじゃ焼き屋もその頃から注目されるようになったという。

「もんじゃ屋さんもあれば、うちのような100年以上の店もあるし、新しいスーパーマーケットもできている。新旧が仲良くやっているのがこの街の特徴かもしれませんね。

タワマンの影響ですか、まぁ、あまり感じないけど、ビル風はすごいよね。自転車が倒れたり、発泡スチロールが飛んできたり、それも街の特徴といえば特徴ですよ(笑)」(相田さん)

先ほど話を聞いたあづまや履物店の楠さん同様、相田さんも店は自分の代で終わるだろうと語る。

「どこもそうだろうけど、後継者がいないんですよ。というか、子ども世代が継ぎたいって言ったとしても、継がせるわけにはいかない。それほど売り上げが落ちているということですよね。それでも100年以上続いたのは、”お客様に嫌われない経営”を続けてきたからだと思っています」(相田さん)

「お客様に嫌われない経営」は初代から続く相田書店のモットーだ。常に地元と時代を意識して、その時々に合わせて商品を並べてきた。

「今でいうとトレーディングカードですね。けっこう売れていますよ。また、地元のことを書いた本のコーナーも人気です」(相田さん)

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相田書店の地元コーナー(筆者撮影)

もんじゃ焼きの「竹の子」で舌鼓

さて、せっかく月島に来たのだから、もんじゃ焼きを食べないわけにはいかない。西仲通り商店街の入り口付近にある「竹の子」に狙いを定めて来店した。12時オープンだが、30分前には店前に列ができていた。

ここは、お笑い芸人、ジャングルポケットのおたけさんが経営する店だ。27年前におたけさんのお母さんが店を始めて、3年前におたけさんが引き継いだという。

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月島の人気もんじゃ店「竹の子」(筆者撮影)

人気メニューの「おたけスペシャル(1650円)」を注文した。生海老、コーン、ウインナー、チーズ、ベビースターラーメンがてんこ盛りの逸品である。

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「竹の子」のおたけスペシャル(筆者撮影)

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「竹の子」のおたけスペシャル(筆者撮影)

もんじゃ経験が少ない私は、上手に焼けるだろうかと不安だったが、そんな心配は無用だった。すべて店のスタッフがやってくれるのだ。

器に盛られた具材を、手際よく溶いて、熱々の鉄板の上にさっと広げて、しばし炒めた後に、具材で丸く土手を造る。その真ん中に生地を流し込めば、準備完了だ。あとはお好みのタイミングで食べればいい。

新住民と旧住民が交わらないのは自然なこと?

小さなコテを使って、いろいろな具材が溶け合った熱々のもんじゃをいただきながら、月島のタワマン事情を思い返した。

この街を歩いて改めて実感したのは、タワーマンションの価格帯と、地元商店街の経済規模とのギャップだ。

上空では数億円の住戸が売買され、足元では百年続いた履物店や本屋が、後継者不在と収益低下に悩み、静かに幕を下ろそうとしている。

これまでいくつか、タワマンのある街を訪れたが、どこもマンションの新住民と、もとから暮らす旧住民の交流は薄い。これもタワマン街の特徴と言えるのだが、寂しい気もする。

前出の相田さんは西仲通り商店街を「自然発生的な商店街」と表現した。一方、タワマンは人が計画して作った再開発の物件だ。2つが根本から溶け合うことはないのだろう。(編集:國友公司)

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