「俺の友達がいま、2頭のライオンに喰われてんだ…」埼玉の金持ちがペットの猛獣に襲われた「戦慄事件の一部始終」

向田邦子もペットのライオンを見た

令和には信じられない話だが、昭和の日本には「ライオン」を飼っている人がそれなりにいた……らしい。

現在、ライオンやトラなどの海外の猛獣は一般家庭において飼育できない、というのが一般常識だ。しかし、昭和の時代は猛獣飼育を取り締まる法律がなかったために、こうした猛獣類は手に入りさえすればペットとして飼育することが可能だったという。

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現に『阿修羅のごとく』などの脚本で知られる向田邦子によるエッセイ「中野ライオン」および「新宿のライオン」には、1950年代に東京の中野駅と高円寺駅の間に建っていた木造アパートの中にライオンが住んでいた、というエピソードが登場する。

最初は向田邦子も見間違いかと思っていたが、20年後にライオンを実際に飼っていた男性と出会い、あの時のライオンが見間違いではなく本物であったことを知る……という内容だ。

このように、ライオンをペットとして飼っている人はごく稀に日本にいたわけだが、向田邦子のエッセイのような、ほのぼのとした話ではなく、中には「野生の血」を思い出し人を襲ってしまった……という、なんとも恐ろしい話もある。

ライオンを飼い始めた経営者

事件は1978年(昭和53年)の春、埼玉県郊外の町で発生した。この地域に住んでいるSさん(48歳)という男性がライオン2頭に身体を喰われ死亡してしまったのである。

この地域は県庁所在地からもだいぶ離れた町であり、古い遺跡ないしは城跡が有名なのどかな場所である。なぜ、この地域にライオンがいたのか? 

それは、食べられてしまったSさん自身がライオンをペットとして飼育していたからである。

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この地域で新聞販売店を営んでいたSさんは地元では「敏腕」として知られた人物であった。彼は新聞だけではなく様々な商売を行っていた金持ちであり、また敏腕であっただけに異常なほどの「負けず嫌い」でもあったという。

Sさんがライオンを飼い始めたのは1977年(昭和52年)ごろ。当初は犬を飼おうとしていたそうだが、訪れたペットショップではなんとライオンも取り扱っていた。興味を持ったSさんはペットショップ店主や家族の反対を押し切り、オスとメスの2頭のライオンを合せて90万円ほどで購入したという。

飼いはじめの頃は猫ほどの大きさで愛嬌もあったため、Sさんも鎖をつけて散歩などに連れ出していたが、1カ月後には大きくなりすぎて手に余るようになってしまった。そこで自身が所有する物件の庭に、広さ26平方メートル、高さ2.5メートルのオリを作り、2頭のライオンを飼育していたようだ。

だが、元はアフリカを走り回っていた「百獣の王」である。素人が作ったオリは彼らにはあまりに狭すぎた。そして、とうとう2頭は野生の血を思い出すことになる。

猛獣と法律

ライオンにエサをやるのが日課だったSさんは、事件があった日の早朝も給餌のためオリへと近づいた。ライオンが豹変したのはまさにこの時だった。Sさんに抱き付くような形で突然襲い掛かってきたのだ。

頭や首に噛みつかれたSさんはオリから抜け出したものの再び襲われ、ノドのほか両足首を喰われてしまう。一部始終を見ていたSさんの友人はすぐに警察へ電話。2頭のライオンは猟友会の手で射殺されたが、Sさんは既に死亡していた。

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ライオンが突然狂暴化した原因について、「飼い主がエサを与えていなかった」とする一部報道もあるが、当事者であるSさんとライオンが死亡してしまったため真実は誰にもわからない。だが、少なくともSさんは飼い主としてライオンの知識が足りておらず、元は「百獣の王」と呼ばれる凶暴な動物であったことを忘れていたのではないだろうか。

冒頭でも述べたが、当時は猛獣を飼育することに特別な法律などが存在していなかったため、Sさんのような無謀な飼い方をする動物愛好家は後を絶たず、翌1979年(昭和54年)に千葉県君津市で発生した「神野寺のトラ騒動」(寺で飼育していたトラが逃げ出し住民がパニックになった)の件と合わせて「興味本位の猛獣の飼育は規制すべきではないか」との声が相次いだ。

なお、これは本事件に直接関係のない余談であるが、Sさんにライオンを売ったペットショップ店主は後に男女4人を殺害し殺人罪などに問われた通称「愛犬家殺人事件」の実行犯の男性であったようだ(一部、報道にてペットショップ店主として同名の人物の名前が登場している)。

つづく記事〈「人喰いライオンを撃ち殺せ!」「なら私も死にます」…埼玉の大宮で猛獣を飼っていた女性《最期に流した涙の意味》〉でも、日本人とライオンに関する「悲劇」をさらに紹介する。

【参考文献】

・朝日新聞

・読売新聞

・『埼玉の公衆衛生史 第3篇 』埼玉の公衆衛生史編集委員会

・兼子仁, 関哲夫 編著『飼い犬・ペット条例』北樹出版

・西山登志雄『人間動物大きな輪』講談社

・向田邦子『新装版 眠る盃』講談社