北陸で愛され半世紀「690円らーめん」に宿る魂

金沢百番街あんとにある「8番らーめん」金沢駅店(写真はすべて筆者撮影)
「お腹すいたら、8番いこか」──北陸のソウルらーめんはいつも人生のそばにあった
「お腹減ったし、8番(ハチバン)でらーめんでも食べていこか」と人生で何度、言われたことだろう。
【画像を見る】夏はひんやり冷たい麺メニューも豊富! 特製タレのざるらーめん(1玉600円)に瀬戸内レモンが爽やかな冷麺(1玉770円)。その他、定番メニューはこんな感じ
幼い日に母親から、中学・高校時代は部活動の仲間、サラリーマン時代は同僚から誘われた。今も時々、食べに行く。炒めた野菜をたっぷりのせた「野菜らーめん」は、味噌・塩・醤油・バターと四つの味があるので、毎日食べても飽きない。
北陸三県の平野部を走る国道8号沿いの石川県加賀市に1967年、1号店がオープンした。主要道路沿いに店舗を広げ、商店街や郊外(住宅街)にも出店したが、近年は北陸新幹線の延伸に伴って主要駅に新店舗を設けた。2015年にJRの金沢駅と富山駅に開店、2024年には福井駅にリニューアルオープンした。北陸3県民の生活に密着した8番らーめんは、観光・ビジネス客にも親しみやすい存在となってきている。
筆者が食べるのは、いつも野菜らーめんと8番餃子ばかり。ついつい定番ばかり食べてしまうので、長年親しんできた店なのに知らないことは多い。8番らーめんについてもっと知りたいと思い、運営元の「株式会社ハチバン」にお話を伺ってみることに。担当の増田さんから「それならぜひ、直営店の金沢駅店へどうぞ」とのこと。梅雨明け間近の6月下旬、同店を訪ねた。
8番らーめん金沢駅店は、金沢百番街あんと1階にある。5店舗ある直営店の一つだ。北陸新幹線の改札口を出て左手に折り返すと「あんと」の入り口がある。和菓子など土産物売り場が並ぶエリアを抜けた飲食店街の一角に、どんぶりがずらりと並んだショーケースがあるので、すぐ目に付く。

JR金沢駅の金沢百番街あんと入り口

定番商品のサンプルが並んだショーケース
市中にある店舗は地域の住民がほとんどだが、駅中店は観光客やビジネスマンが多い。メニューはラーメン11種類、サイドメニュー8種類、セット商品11種類。
北陸で愛されて半世紀──“野菜を主役にした”690円らーめん
まずは定番中の定番「北陸のソウルフード」の野菜らーめん(690円)について紹介したい。キャベツ、モヤシなどの新鮮な野菜はシャキッとした歯ごたえがあり、スープからは野菜のうまみが感じられる。
聞けば、ひと手間かけた調理法に工夫があるらしい。野菜を強い火力で瞬時に炒め上げる際、フライパンを揺すり、焦がさぬようにし、スープを入れて野菜を煮込んだ後、スープだけを丼に移し、野菜だけを再び炒め上げてシャキッと仕上げてから麺の上に盛り付ける。

野菜らーめんの塩。白湯スープで味は味噌・塩・醤油・バターから選べる
食べていると、「まさに、野菜をおいしく食べるためのらーめんだ」と実感できる。沖縄・久米島沖でくみ上げた海洋深層水から作られた塩は優しい味わいだ。定番商品全てに載っている「8」のかまぼこは、石川県内の加工業者に頼んで作った特注品。紅白の色合いが目を引く。赤い部分にはパプリカやトマトなど赤い野菜から抽出した天然色素を使っている点でも野菜へのこだわりを感じる。
味噌か塩か──8番らーめんに見る“県民性の分かれ道”
富山県生まれ、在住の私は、野菜らーめんの4種類の味の中で、あっさりした塩がお気に入りだ。
増田さんによると、四つの味の売り上げを比べると①塩40%、②味噌35%、③醤油15%、④バター10%(2025年4月)とのこと。
ただし、北陸3県で違いがあるという。石川・福井は上記の順位だが、福井は塩が半分以上を占め、ぶっちぎりの1位である。また、富山のみ①味噌、②塩と順位が逆転する。
また、冬の寒い時期になると石川・富山では味噌の割合がより高まるそうだ。私もふだんは塩派だが、寒い日にすする味噌ラーメンのうまさには「やっぱこれだよな〜」となる。

野菜コーンバター風味らーめん
そして、おすすめなのは野菜コーンバター風味らーめん(890円)の味噌味。後日、また8番らーめんに行きたくなり、自宅に近い富山市の安養寺店で味わった。バターの大きさに罪悪感を覚えつつも、スープで溶かしながら食べるとコクのある味がクセになる。コーンをすくう特製のスプーンには小さな穴が開いていて、一粒残らずすくい上げて食べきった。
そして、らーめんのお供に欠かせないのがこれ、8番餃子(6個、260円)。豚肉だけでなく鶏肉も入っていて味が重過ぎない。玉ネギ、キャベツ、ネギ、ニラ、ニンニク、ショウガなど野菜はすべて国産である。カリッと焼き上げた皮、ジューシーな肉汁、そこに野菜のやさしい甘みが重なる。まさに、何度食べても飽きない「これぞ王道」な味わいだ。

人気の8番餃子(6個、260円)。ダブル(12個)は500円、特盛り(18個)は750円
テーブルには8番らーめん特製の餃子のタレに辣油、辛子、コショウ、唐辛子、カラシなどさまざまな調味料が置いてある。いろんな調味料を試してみるのも楽しいが、8番餃子はタレと辣油のシンプルな味で食べるのがおすすめだ。

8番らーめん特製の餃子のタレと辣油は、店舗や公式通販サイトで購入可能
ちなみに8番らーめんは、直営店・フランチャイズ合わせて国内に114店舗ある。最も多いのは石川県で49店舗、次いで富山県31店舗、福井県27店舗、岡山県6店舗、長野県1店舗となっている。メニューは全店共通。インバウンド対応で英語・中国語のメニューも用意し、どこの店舗で食べても同じ味だ。さらには海外進出にも積極的で、タイ171店舗、ベトナム3店舗と増やし、年内にはカンボジアにも初出店する予定である。

北陸全店共通のメニュー表

英語で定番商品を紹介
気温35度なら新発売の「冷んやり和だしらーめん」
実は「8番らーめん」は夏メニューにすごく力を入れているらしい。夏になると冷たい麺のバリエーションがぐっと増え、さらにはなんとその日の気温に合わせたおすすめメニューがあるらしい。
気温ごとのおすすめは以下の通りだ。
・夏日(気温25度)はざるらーめん(1玉600円)
・真夏日(同30度)は冷めん(1玉770円)
・猛暑日(同35度)は冷(ひ)んやり和だしらーめん(1玉690円)
年々、夏の暑さが過酷になっていくように、多くの人が感じているのではないだろうか。酷暑の夏には、冷たい麺で涼めたらまた頑張る気力が湧いてくるというもの。
筆者が訪ねた日の気温は26度だったので、おすすめにしたがってざるらーめんを食べた。

4種の節と北海道・散布産昆布の風味とうま味が効いた特製タレのざるらーめん(1玉600円)
増田さんによると、温度と味の因果関係をリサーチした上で3品が開発された。甘みのある汁でもいいのは気温30度まで。30度以上は甘みより酸味が好まれ、35度を超えると酸味も敬遠される。
そこで35度を超えた猛暑日にも食欲をそそるためには、なるべくさっぱりとして風味で味わう麺である「冷んやり和だしらーめん」が誕生した。スープは、北海道・散布産昆布とカツオ節など5種類の節から出汁を取っている。
ちなみに、「冷んやり和だしらーめん」は2024年夏に新発売した。当時は「冷やしらーめん」という名称だった。しかし、オーダーミスが相次いだため名称を変更するとともに、商品そのものも見直しをかけて出汁によって味に深みを持たせ、2025年夏に装いを一新して発売する。というのも、筆者が訪れた日の3日後から登場した。
ぜひ、気温が35度を超えたら味わってみてほしい。さっぱりとして飲み干せる優しい味の「和だしスープ」が特徴である。

冷んやり和だしらーめんも含め3種類の夏の「猛暑対応商品」をPR
8番らーめんは、夏の「猛暑対応商品」だけでなく、春・秋・冬も特徴のある商品を毎年、打ち出している。季節限定商品として登場し、毎年の定番になったものもある。例えば、牛もつらーめんは1990年代の冬から、トマトらーめんは2013年秋から登場し、親しまれている。増田さんは次のように話す。
「春はゆず風味のスープ、秋は酸辣湯麺など、ほかにも季節限定商品はいろいろあり、8番らーめんは『季節感のあるラーメン屋』として親しまれています。暑い時期にラーメンは敬遠されがちですが、定番の野菜らーめんはさっぱりしていますし、冷やしもいろいろ用意しています。ぜひ、1年中食べに来てください」
8番らーめん、被災11店すべて再開 「懐かしい味が帰ってきた」
最後に、能登半島地震後の北陸の現状もお伝えしておきたい。2024年1月1日に被災した8番らーめんは石川県内の珠洲、輪島、能登柳田、富来、高浜、田鶴浜、七尾西、七尾、宇ノ気、内灘、城北南の11店舗。全壊した宇ノ気店、内灘店は建て替えた。半壊や、駐車場が液状化した店もあったが修繕し、2025年3月26日に最も液状化がひどかった内灘店の再オープンをもって復旧完了。被災した店は以前の営業体制を取り戻した。
とりわけ被害の大きかった能登地区では8番らーめんの復旧が、被災者の背中を後押ししたらしい。輪島方面にボランティアに行った知人から「輪島店の電気が点灯したのを見て、皆さん大喜びしていた」と聞いた。北陸人に8番らーめんの思い出を聞けば、「週末に家族で食べに行った懐かしい思い出の味」「仕事帰りに、ご飯を作る元気がないと駆け込んだ」などの声が挙がる。日常の食を支えてくれた8番らーめんの復興は、被災地の何より大きな励みとなった。
昼時には店舗の前に長い列ができることもしばしばだが、順番受付の発券機があるので金沢駅店では、まずチケットを取り、お土産を買ってから戻ればよい。思った以上に客の回転が早いので要注意。タブレットでオーダー後、商品の到着も早いので、急ぎ足の客にはうれしい。
時間に余裕があれば、8番らーめん金沢駅店を出てすぐ左手に、「九谷焼転写シートでうつわ作り体験」ができる工芸品のお店がある。予約なしでOK。白い無地の九谷焼の器に、好きな転写シールを自由に貼って、世界に1つだけのオリジナルの九谷焼を作ることができる。手作りの土産物はいかがだろうか。完成品は焼成して後日届けられる。

九谷焼転写シートでうつわ作り体験
あまり時間がなければ、金沢駅東広場に設置されている「やかん」の形をしたオブジェをご覧あれ。金沢21世紀美術館の開館や金沢駅東広場の完成を記念して2004年、2006年に開かれた「金沢・まちなか彫刻作品・国際コンペティション」の最優秀作品の一つである。「やかん」は街のシンボルとなっており、金沢市民はここで待ち合わせするという。

「やかん体、転倒する。」(三枝一将さんによるオブジェ)

金沢駅の玄関口・鼓門。右手奥に「やかん」のオブジェがある