早くて快適「飛ぶ船」どんどん引退していく"深刻"

ジェットフォイルは「ほぼ飛行機」!圧倒的に速くて快適なワケ, 高速さの秘訣は「飛ぶこと」にある, 部品が入手困難に…トラブルも多いジェットフォイル, では、ジェットフォイル新造船を!→すぐに建造できない理由, 不安を抱えるジェットフォイル界隈、活路はどこに?

引退が発表された「セブンアイランド愛」。波が高くても運行できる(JRTTホームページより)

東京都の離島航路を担う「東海汽船」から、ジェットフォイル「セブンアイランド愛」の引退が発表された。

【写真アリ】「ほぼ飛行機」圧倒的に速くて快適なジェットフォイルの外観、船内、構造など

この船は、昨年7月に東京・竹芝から伊豆諸島に向かう途中、不具合でコントロールが利かなくなり、乗客116人を乗せて約22時間も漂流するという事態を引き起こした。その後も修理のうえで運航を続けたものの、1980年の建造から45年が経過、老朽化の波には勝てなかったようだ。

この船とおなじタイプの「ジェットフォイル」は、独自の技術で圧倒的なスビードを誇り、「海面をジェット機のように飛ぶ船」として知られる。去り行く「セブンアイランド愛」を惜しむとともに、船会社や自治体が頭を悩ませる「ジェットフォイル置き換え事情」を探ってみよう。

ジェットフォイルは「ほぼ飛行機」!圧倒的に速くて快適なワケ

ジェットフォイルの最大の強みは「速さ」だ。

「セブンアイランド愛」が就航していた東京・竹芝~大島・利島などへの所要時間は、いずれも通常の大型フェリーの1/3程度。神津島などは最大で、7時間近い時間短縮(フェリー9時間55分、ジェットフォイル3時間5分)が可能となっている。

それもそのはず、普通の船が約20ノット(時速35km相当)で航行するところ。ジェットフォイルは45ノット(時速83km相当)で進む。

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ジェットフォイル(ジェット船)の所要時間比較(東海汽船ホームページより)

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ジェットフォイルの構造(JRTT鉄道・運輸機構 Webサイトより)

高速さの秘訣は「飛ぶこと」にある

高速航行の秘訣は「水面を飛ぶこと」。飛行機の横にある翼部分のかわりに、ジェットフォイルは「水中翼」と呼ばれる翼を船の下部に持つ。ここから毎分180t(一般的な25mプールの半分相当)もの海水を取り込み噴出することで、海面から1mほど飛びながら前進する。

普通の船が「浮く」(浮力)とすれば、こちらは飛行機に近い原理で「飛ぶ」(揚力)ので、早くて当然、という訳だ。

かつ、海面を”飛ぶ”がゆえに、少々の高波をものともせず、波の影響を受けるフェリー・旅客船より、はるかに乗り心地がよい。2024年の漂流の際はエンジン停止・着水した状態で波を受けて相当に揺れたが、そんな事態が起きなければ、航行の安定感は抜群にいい。

なお、ジェットフォイルはもともとアメリカ・ボーイング社によって開発され、「ボーイング929」という型式を持っていることもあり、駆動部は航空機とかなり共通するものだ。現在ではボーイング社が撤退、川崎重工業がライセンスを引き継ぎ、保守・管理を担っている。

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東海汽船「セブンアイランド大漁」(JRTTホームページより)

現在のところ、国内の就航地は伊豆諸島(東海汽船)、新潟県・佐渡島(佐渡汽船)、鹿児島県(種子屋久高速船)、福岡県・壱岐諸島(九州郵船)、長崎券・五島列島(九州商船)など。

「船の3倍の速さで海上を飛べて」「乗り心地がよい」ジェットフォイル旅は、今後とも重宝されていく、はず……しかし現実には、船会社だけでなく川崎重工業・国・自治体を巻き込んだ諸問題が、たびたび発生しているようだ。

部品が入手困難に…トラブルも多いジェットフォイル

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種子島・屋久島~鹿児島市内を結ぶジェットフォイル「ロケット2」(筆者撮影)

ジェットフォイルの船体は各社とも建造から30・40年と経過しているが、川崎重工業はWebサイトで「アルミ合金の船体で腐食には強く、エンジンを交換すれば性能や経済性が落ちることはない」とうたっている。

しかし実際問題、各社のジェットフォイルはしばしば運航トラブルを起こしている。中でも多いのが、「セブンアイランド愛」の引退原因にもなった「老朽化によるトラブル」だ。

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隠岐島・隠岐汽船のジェットフォイル「レインボージェット」(筆者撮影)

船体が老朽化しないといっても、中身にあたるエンジンやガスタービンの製造中止などが発生しており、各社とも「製造中止のガスタービンを修理や代用でしのぐ」(隠岐汽船のコメント 2024年7月30日、山陰中央新聞より)状態。中には古い部品の折損で自動停止するような事態(2020年9月・佐渡汽船)も発生しているほどだ。

また油圧系のトラブルも多く、なかには長崎県・九州商船「ぺがさす」の2019年9月の事故のように、漏れた油がガスタービンに落ちて発煙するような事例もある。

昨年の「セブンアイランド愛」漂流も、油圧(ホース交換)にかかわるトラブルが原因となっている。なお、実はこの船が「セブンアイランド愛」になる前の「加藤汽船・ジェット7」時代(1991年12月)も、油圧系の操作ミスで明石海峡大橋の近くを5時間ほど漂流したこともある。

ジェットフォイルが抱える「老朽化による部品交換困難」「油圧系メンテナンスの難しさ」問題は、それぞれ船会社に共通する悩みとなっているのだ。

では、ジェットフォイル新造船を!→すぐに建造できない理由

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竹芝埠頭で待機中の「セブンアイランド愛」「セブンアイランド大漁」(JRTTホームページより)

こういった老朽化トラブルだけでなく、大半の船がバリアフリーの法整備前に建造されたため、船内は段差だらけ、ジェットフォイルは結局新造船が必要となってくる。しかし、川崎重工業がこのタイプの船を建造したのは2020年に1隻(東海汽船「セブンアイランド結」)、その前の建造は1995年までさかのぼる。

しかも2020年のジェットフォイル新造船は、「ロストテクノロジー」(技術喪失)となることを恐れた川崎重工業が退職したOBを呼び寄せ、航空機の技術(アルミ板のリベット接合など)を生かすノウハウを教えてもらって実現したもの。もはや川崎重工業でも、すぐにジェットフォイルを受注できる環境にないのだ。

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船舶の共有建造制度の仕組み(JRTTホームページより)

またジェットフォイルは通常の船とまったく構造が異なることもあり、1隻の建造費用は70億円程度と、同程度のフェリーより2~3倍もかかってしまう。国の支援策「共有建造制度」なら最大7割、離島航路補助の適用なら最大9割の補助を受けることができるが、その残り金額でも負担は重く、船会社・地元自治体の負担基準などで紛糾しがちだ。

2020年就航の「セブンアイランド結」は東京都が半額を負担することで建造に踏み切れたが、同時期に新造を予定していた九州郵船「ヴィーナス2」はなかなか決まらず、検討を開始した2014年当初は45億円だった建造費用が、いまでは約80億円に膨らんでいる。

いまのジェットフォイルの新造船の仕組みでは、川崎重工業の都合や、桁外れな費用負担もある。

対して補助金の手数は多いものの、配慮する方向や守る仕様も無数に増え、いつまで経っても建造が決まらない。ジェットフォイルは普通のフェリーより、何倍も「老朽化したから新造船」への道のりが大変なのだ。

万難を排してジェットフォイルが就航できても、「速い」「乗り心地がよい」と引き換えに、さまざまな課題を越えなければ、安定して就航できない。

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上五島・有川港に向かうジェットフォイル「ぺがさす2」(筆者撮影)

まず、ジェットフォイルの難敵は「極端な採算の取りづらさ」だ。燃費は「毎時2150ℓ(軽油)」と自家用車の100倍はかかり、船会社のおいしい収入源であるトラックなどは積載できない。採算が苦しいからと高額運賃を設定すると利用者は離れる。

さらに、ジェットフォイルは独自の技術を持つため、フェリーとは違うメンテナンス技術を維持するための教育費や、独自の部品を使うがゆえの補修費用もかかる。確かにこれでは、採算が取りづらいワケだ。

さらに、安定した運航の妨げとなる「海洋生物(クジラ・サメなど)との衝突」問題も悩ましい。

近年では、2019年3月に新潟県で発生したジェットフォイル「ぎんが」衝突事故が、記憶に新しい。約37ノット(時速68km相当)で航行中にクジラと思われる浮遊物に衝突、船体は一部が破損し、乗船客121人のうち108人が負傷、38人が骨折という事態に発展した。

ジェットフォイルは高速で航行しつつ、水中スピーカー(UWS)でクジラが嫌がる周波数の音を出して避けてもらっているものの、完全な回避は難しい。かつ、クジラとの衝突を避けきれないジェットフォイル運航に反対する声も根強く、いま就航準備中の沖縄県・久米島でも、期間減便・一定地区の航行禁止などを条件に出す地元団体と、その条件をのむと採算が取れない船会社のあいだで、折衝が難航している。

ジェットフォイル各社とも、クジラ関連の事故やトラブルは多く、今後とも「うまく付き合っていく」以外の解決策はなさそうだ。

不安を抱えるジェットフォイル界隈、活路はどこに?

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ジェットフォイル「ぺがさす2」船内(筆者撮影)

ジェットフォイルは「ほぼ飛行機」!圧倒的に速くて快適なワケ, 高速さの秘訣は「飛ぶこと」にある, 部品が入手困難に…トラブルも多いジェットフォイル, では、ジェットフォイル新造船を!→すぐに建造できない理由, 不安を抱えるジェットフォイル界隈、活路はどこに?

島民割引の掲示。ジェットフォイルは、割引施策と補助による地元利用に支えられる(筆者撮影)

東海汽船によると、「セブンアイランド愛」はいちど復帰を果たしたものの、2024年11月26日を最後に運航を退いており、見送りイベントなどもなく引退するという。

また同社はジェットフォイルをまだ3隻(セブンアイランド友・大漁・結)保有しているものの、2020年新造の「結」以外は建造から40年を越えており、いずれは新造船か、運航見直しの二択を迫られるだろう。

伊豆諸島以外の各地でも、老朽化したジェットフォイルの代替議論は進んでおり、今後の推移を見守りたい。