「体重125キロ→95キロ」40代作家が激変したワケ

作家・爪切男さん(写真右)とメイクアップアーティスト・イガリシノブさんとの異色の“美容対談”!?(写真:今井康一撮影)
子どもたちに「ゴブリン」と呼ばれ…
爪:美容の世界に足を踏み入れたきっかけは、近所の公園ですれ違った子どもたちに「ゴブリン」と呼ばれたことなんです。当時の私は身長167センチにして体重が125キロありました。
【写真】まるで別人?「125キロ→95キロ」に劇的変化を遂げた爪さんの姿
作家業のため、部屋に引きこもって昼夜逆転生活を送っていて、美容なんてもちろん、食事はコンビニ飯やラーメン、とんかつといった高カロリーなものが中心。自分の体について真剣に考えたことはなかったです。
イガリ:「ゴブリン」はすごいあだ名ですね……!
爪:子どもは残酷ですよね(笑)。その言葉が頭に残っていたのか、ふらりと立ち寄ったドン・キホーテで化粧品コーナーに吸い寄せられるように向かい、「豆乳イソフラボン化粧水」を購入しました。化粧水なんて、30年ぶりくらいに手にしました。
イガリ:使ってみて、変化はありました?
爪:今まで何もしていなかったからか、ものすごい変わりようで! ガールズバーの女の子から指摘されるくらいツヤツヤになりました。

爪切男(つめ・きりお)さん:1979年、香川県生まれ。2018年、のちにドラマ化もされた小説『死にたい夜にかぎって』でデビュー。2021年、『もはや僕は人間じゃない』『働きアリに花束を』『クラスメイトの女子、全員好きでした』を3カ月連続で刊行し話題に。美容&健康&ときどき夫婦愛!?が詰まった爪さんのハートフルエッセイ『午前三時の化粧水』を2025年3月に刊行。『クラスメイトの女子、全員好きでした』は、2024年7月、木村昴主演で連続ドラマ化された(写真:今井康一撮影)
「深夜のドンキ」で買うのがおすすめ
──爪さんは40代で美容にハマったとのことですが、中高年男性が美容を始めるには、その一歩のハードルが高いように思います。

爪さんが美容に目覚めるきっかけとなった「豆乳イソフラボン化粧水」(写真:今井康一撮影)
爪:私は乗り越えたというより、今まで興味があることを自分でごまかしていたんですよね。気恥ずかしくて。でも、失敗してもいいと思うんですよ。「化粧水買ってみたけど、あかんかった」って、笑い話にできるのがおじさんの強み。
自分自身も「どの化粧水買っていいかわからないけど、豆腐が好きだからイソフラボン化粧水でいいんじゃないか」みたいなノリで始めて、全部エピソードトークに変えてきた。
志高く始めなくてもいい。化粧水やシートマスクもまず買ってみたらいいんじゃないかって思います。
もし、買うのが恥ずかしいなら、私みたいに深夜のドンキに行くのがおすすめ。深夜のドンキの店員さんって、いい意味でお客さんに対して無関心な人が多い気がする(笑)。誰が何を買おうとクールに処理してくれる感じ。ああいう場所はすごく大事ですね。
イガリ: 確かに、ドンキだったらコスプレの衣装も買えちゃう。ハンズとかで買うとちょっと恥ずかしいよね(笑)。
私は、 美容を始めるときの恥ずかしさって、乗り越えられなかったら乗り越えなくてもいいと思います。まず、おじさんに限らず、美容って1人ではできないもの。人の力を借りるという妥協ができるのであれば乗り越えられるのかなと思います。ただ、おじさんって自分の中で自分の論理が出来上がっているから、人の力を借りるのが苦手ですよね。
爪: 「わからない」っていうのがもう言えない世代なんですよ、40年も生きていたら。でも美容に関してはあまりにも知らないから、もう「助けてください」って言うしかない。身近な人でもいいし、恥ずかしければ美容コーナーの店員さんに話しかけるのでもいい。人に教えてもらうしかなかったので、それもだいぶよかったですね。
イガリ: その気持ちが大事です。そこに入っていけた爪さんだから、教えてもらうことができる。会話だよね。

イガリシノブさん:雑誌・広告などでヘアメイクを手掛け、「WHOMEE」「SS by WHOMEE」の化粧品開発ディレクターや「コスメロス協会」代表を務める他、メイク講師としても幅広く活動。2015年『イガリメイク、しちゃう?』(宝島社)を出版し、シリーズ累計17万部突破。同年、Yahoo!検索大賞メーク部門にて「イガリメイク」のワードが1位となり、MBS「情熱大陸」や NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演。2024年12月には『わたしもまわりも笑顔になる 小学生のメイク本』(講談社)を発売するなど、子どもたちの「メ育」にも注力。たった5年で大きく変化する小中学生の心をメイクで育てる「チームゴネンゴ」の活動を開始(写真:今井康一撮影)
プラモデルを作るのに通じる部分がある
爪: 確かに、美容を始めて周りの言うこと聞くようになって、本当に人間関係がよくなりましたね。今までは、何かすすめられても、話の触りで自分に向いてないと思ったら「いや、いいよ」って遮ってたのが、とりあえず最後まで聞くようになりました。
どこそこのお店のカレー美味しいよって言われて、「あ、そうなの」って思ったら、ちゃんとメモって行くようになりましたし。美容をやり始めてわかったけど、人の言うことを聞くのは本当に大事。
イガリ:なんでもトライ精神だよね。パクチー嫌いなおじさんなんて永遠にいるもん。「食べてみなよ」って思うんだけど、それに近いかもしれないですね。
爪: 食べてないおじさんも多いんですよ。実際食べたことないけど、パクチーとかしゃらくさいと思って。食べずにパクチー嫌いって思っている人はいると思います。
化粧品だからって構えなくてもいい。たとえば、お酒やタバコを選ぶつもりで、「俺はこの化粧水を使って、このシートマスクをしよう」って選んでいけば、いつか自分の好きなピースとかショートホープといった銘柄に巡り会えるわけじゃないですか。
確かに私たち世代は、男らしさの呪縛はあるかもしれないけど。そういうつもりで楽しんだら、男性でも楽しめるはず。

爪さんが愛用するシートマスクたち(写真:今井康一撮影)
イガリ: 私たちの世代だと、「男ってのはバイク乗って、ヒゲ生やして、脇毛生やして、汗臭いのが最高!」みたいな感じだったもんね。
爪: そこまでじゃないけど(笑)。年をとると、どんどん孤独感が増していって、50代のおじさんにもなると友だちもいなくなってくる。
そうなったら自分の体をおもちゃにするのがいいんと思うんです。美容って、プラモデルを作るのに通じる部分があるんですよね。説明書通り作らなくても、「ここのパーツちょっと外したほうがかっこよくない?」とか自分で色々試してみる面白さがある。自分のことを楽しめて好きになれるっていうのが美容の気持ちよさなんですよね。
イガリ: すごいね。私はその面白さにまだ気づけてないかもしれない。なんか潤えばいいやぐらいでやってますね(笑)。

実は同世代の2人(写真:今井康一撮影)
やりすぎると失敗しちゃう
爪: 男性は収集癖が強い人も多いから、意外とハマる人も多いんじゃないですかね。
あと、美容の意外な副産物で言うと、私は自宅でシートマスクを欠かさずしていますが、妻と一緒にするようにしていて、その時間がコミュニケーションになっているんです。家庭の時間ってことで、その間くらいは素直になろうと約束していて。
妻いわく、私はいつも8割くらい見栄を張って嘘をついているから、シートマスクをしているときくらいは本当のこと言って、と。どんなにしんどい仕事から帰ってきても、格好つけたくて弱音を吐けないんですけど、それが一緒に暮らしている妻からすると、腹が立ってしゃあないらしいです。素直になってええんやでって言われています。お互いシートマスクして、「今日の仕事辛かったですか?」って聞かれたら、「非常に辛かったです」って。

愛用のシートマスクを顔に貼る爪さん(写真:書籍『午前三時の化粧水』より)
イガリ: えー、その時間、1日借りたい。なんか自分も素直になる時間が欲しいですね。
そういう美容の取り入れ方ってすごくいいと思っていて。やりすぎると失敗しちゃうんです。女性でも「このシートマスクがよくて、この美容液がよくて、これがエイジングによくて」と色々欲張りすぎてしまって、かえって肌が荒れていっちゃうこともあります。
たくさん肌につけるよりも、まずは内臓をきれいにすることが重要だということもあるし。爪さんもルイボスティーを飲んでいるからか、肌がきれい!
爪: 私も妻に内臓のことを指摘されて、ピロリ菌検査に行きましたね。それまで、胃カメラなんて1回もしたことなかったけど、胃はちゃんと見ておいたほうがいいと言われて。結果、ピロリ菌に感染してたという。除去したら、ものすごい調子いいです。毎日食事が楽しくなった。内臓をよくしたら美容にいいっていうの、本当にそうですね。
イガリ: 肌の色、変わりましたよね。

写真左は、125キロあったときの爪さん。美容に関心を持ち始めてから95キロまで体重を減らし、右のように健康的なスタイルに(写真:書籍『午前三時の化粧水』より)
「眉毛を整える」だけで変わる
爪: ルイボスティーもそうですが、毎日続けられるところがいいですよね。誰でも自分にとってどれか1つは続けられるものがありますよ。美容って山ほどあるから。お灸でもなんでも、何かしら1つ見つけると、自分をちょっと大切にする習慣がそこから芽生えるんです。そしたら、スキンケアとか関係なく、人の言うことを聞くようになったり、素直になれたり、体だけではなく気持ちも変わっていくんですよね。
イガリ: 何か1つと言うなら、まずは鏡を持ち歩くのもいいと思います。意識的に自分を見る習慣がつきます。あとは、SNSで美容系の公式アカウントを登録しとけばいいんじゃないかな。日々情報が発信されてくるので、やる気が出ますよね。
それと脱毛もいいですね。男性でも髭や脇毛などを脱毛している人、増えています。あとは眉を整える。それができたら結構いろいろできるようになっていきますよ。
爪: 私も眉毛サロン行きましたもん。渋谷のギャルエリアの眉毛サロン。最初、肌が慣れてないから、めちゃくちゃ血が出るかもしれませんよって店員さんから言われて。「そんなわけないでしょ」って思ってたら、確かにバーって出て。2人して大爆笑。楽しめばいいんですよね。
他に続けやすいのは、やっぱりシートマスクや化粧水ですね。そういうのは、生活の動線上に置けるから。今、自宅では仕事の作業机の上にシートマスクを置いています。仕事に行き詰まったらシートマスクちょっとつけてリフレッシュできる。

爪さんが「日常に欠かせない」と話す美容グッズ。特に「糸ようじ」や「日傘」は必需品だという(写真:今井康一撮影)
「子どもの美容医療」には一緒に付き合う
──これから挑戦していきたい美容はありますか?
爪: 自分は今まで歯を全然大切に扱ってきてなくて。ほんまに全部銀歯でいいやって思ってたんですよ。でも歯って大切やなって気づいたら、ホワイトニングと、この年齢だけど歯列矯正もしたいなと。
いま銀歯をちょっとずつセラミックの歯に入れ替えています。正直、お金もかかるけど、それで得られる満足感を今更実感してます。20万って言われても「20万でこの満足感を得られるなら高くないよね」って思える。
イガリ: 私は、次は子どもたちと一緒に学んでいきたいですね。今の子たちって当たり前に美容医療に踏み出していきますよね。うちも小学生の上の子が「もう二重にする覚悟はできた」って言い始めて。
実際に子どもが二重の埋没手術をすることになったら、自分も一緒に受けようと思っていて、何がいいのか何がよくないのかを今から調べています。一緒に学んでいこうという気持ちです。
爪: それはすごくいいですね! 一緒に共有するという気持ちは大切だなと私も思います。
私で言うと、パートナーと一緒に美容を楽しむようになって、もっと相手を尊敬するようになりました。かつては、出かける際にメイクする女性に対して「早よせえよ」なんて思ってしまっていたんですが、自分が美容に興味を持ち出したことで「ああ、みんなちゃんとしてたんだな」と思って。本当、わかってあげられなくて申し訳なかったって反省しています。
紫外線対策とかも、「いやいや紫外線なんて根性でなんとかなる」と言っていた自分が恥ずかしい(笑)。美容だけじゃなくて仕事関係でも、人に対してそう思うようになりました。否定から入らなくなりましたね。

「子どもの美容医療」について、自身の思いを語るイガリさん(写真:今井康一撮影)
40代っていろんなパーツの限界がきてる
イガリ: わかります。今って、家族や友人とのコミュニケーションがすごく乏しくなっている気がしていて。全体的な会話力がちょっと弱くなっているんじゃないかなと危惧しています。
そんな状況で、ヘアメイクという職業ができることとして、美容の力で親子や友人同士のコミュニケーションを増やしてあげたいっていうのがあるんです。
あと、自分がおばさんと言われる年齢になってわかったのは、やっぱり自分のことを可愛がらないと、誰からも可愛がってもらえないということ。「どうせ俺なんて」とか言わないで、自分のことを可愛がるのを忘れずにいてもらいたいなと思います。
爪: 自分は40代になって、ちょっとこれからの人生、楽しく生きられないかもしれないという穴にハマりそうになったときに、抜け出させてくれたのが美容なんです。今まで築いてきたキャラクターを捨てる最後のチャンスになるのが、40代。
結構40代っていろんなパーツの限界がきてると思うんですよ。そろそろパーツを取り替えないといけない時期に美容に出会ったのはラッキーでした。
たぶん、誰にでも何かしらチャンスというか、自分を変えるタイミングが2〜3回は来ると思う。それを逃さないようにしてほしいです。飛び込んでみないと、一生そのままでいってしまうから、ぜひ今の段階で何か始めてみてほしいですね。

40代からの美容は「遅いのではなく、チャンス」だと話す2人(写真:今井康一撮影)
(取材・構成:岡部のぞみ)