『都市伝説解体センター』は「まぁええんちゃう進行」によってエターナらずに完成していた!素人でも作れると断言する制作手法【CEDEC 2025】
リリースから3カ月で30万本を突破し、インディーゲームとしてかなりの話題作といえる『都市伝説解体センター』。ゲーム開発者が集まるカンファレンス「CEDEC 2025」にて、「制限こそが武器になる『都市伝説解体センター』の創り方」と題した講演が実施された。
この講演では、集英社ゲームズのプロデューサーと、開発チーム「墓場文庫」のメンバーが登壇。あえて開発に制限を設ける手法について語られた。

墓場文庫からは、モチキン氏、きっきゃわー氏、ハフハフ・おでーん氏、あだP氏が登壇。

集英社ゲームズからは代表として林真理プロデューサーが登壇。
なお、講演は和気あいあいとした雰囲気で、たびたび笑いが巻き怒るような内容となっていた。チームの楽しげな様子が伝わってくるかのような講演であった。
ゲーム開発のための制約、期限、そして「まぁええんちゃう進行」
墓場文庫は2020年に『和階堂真の事件簿』というミステリーアドベンチャーをリリースしているが、実はその前の2018年にはゲーム制作がうまくいっておらず、エターナル化(制作が完了しないまま止まる状況のこと)してしまった。
その失敗を繰り返さないため、『都市伝説解体センター』制作の際は「エターナらない開発」を合言葉に、以下の3つの掟を制定した。
- 「制限」した中で遊ぶ
- 「期限」遵守か捨てるか
- 「とりあえず一旦まぁええんちゃう」進行
つまり制限を用意し、期限をきちんと守り、何かあったときは「まぁええんちゃう」といった考えをもって開発を進めるわけだ。
100点満点のイラスト1枚より、33点のスチル3枚のほうがいい
まずは、デザイン・グラフィック担当のハフハフ・おでーん氏がこの掟をどう活用したかについて語った。
ハフハフ・おでーん氏は、そもそも「ドット絵自体が制限の権化」と語る。色数や解像度を極端に絞ると表現の幅は狭まるが、唯一無二なビジュアルを実現できるうえに、同時に作業工数も圧縮できる。一方、浮いた工数で演出や表情差分といった部分をリッチにできたそうだ。
『都市伝説解体センター』のドット絵は240 x 135pxと、ファミコンよりも解像度が低い。メインの色数も4色だが、それによりビジュアル的な強さを表現できたという。
なお、ハフハフ・おでーん氏はグラフィック担当であるものの、シナリオの骨組み制作を担当していた。その間にシナリオ担当にキャラクターデザインを行ってもらい、得意分野に応じて作業することで効率的な開発を実現した。
また、外注も活用している。エフェクトは服部グラフィクス氏に、アニメシーンはroom6に依頼するなど、自分のチームで難しいときには素直に人の手を借りていた。
そして、質よりも量を重視している。100点満点のスチル(イラスト)1枚よりその半分の50点のスチル2枚、場合によっては33点のスチル3枚のほうがメリットがあると考えている。
グラフィックにおいても「まぁええんちゃう進行」は重要だったそうである。グラフィック担当としては1ドットにもこだわりを込めたいところだが、周囲が気にしなければよいと判断して進めている。
また、あとで描き直す可能性を想定して一旦仕上げることも重要だと語る。実際、シナリオ変更があると描き直しがあるわけで、その場合にも気分的には楽になると思い込むそうだ。
本作のロゴとキービジュアルは、実は仮のものが正式になっていったという。とりあえずで作ったものがゲームにフィットすることもあるわけで、「まぁええんちゃう進行」でも問題ないこともあるようだ。
シナリオは最初から最後まで「まぁええんちゃう進行」
続いては、キャラクター設定・シナリオ担当のきっきゃわー氏が掟の活用方法について語った。
シナリオにおいてはテキストの量を最小限にする方針があり、世界・キャラクター設定を見せることを控えたそうだ。制作者としてはこだわりを見せたくなるものの、それは読みにくくなるので制限したという。
キャラクターの設定はあくまでセリフの端々にフレーバーとして表現。キャラクターの癖や特定のワードを配置して、ユーザーにバックボーンを想像させる手法をとった。
また、最終話で得られる納得度を高めるため、書き終えたあと過去の話にフラグや前フリを入れるといった手法もとられている。
情報共有も欠かさなかった。ストーリーの全体図、フラグやシーン切り替えなどを図や絵で共有すると、チームメンバーから指摘が入りやすくなる。環境づくりによって、問題に気づきやすくなり、結果として作業の短縮につながる。
シナリオ面でも、チーム外のメンバーに助けを求めたという。集英社ゲームズやroom6からシナリオ執筆経験のある人を呼び、加筆修正を行った。
なお、シナリオは最初から最後まで「まぁええんちゃう進行」だったという。立ち止まることなく進み、あとで修正を繰り返して書き上げたそうだ。どうしても書ききれなかった部分は、「余白になれ」と願いユーザーに託したとのこと。
システムは「あまり開発をしたくない」スタンス
続いては、プログラム・ゲームシステム担当のモチキン氏が登場。システム開発においてどのように掟を活用したのかを語った。
システムは、アドベンチャーゲーム開発を支援するUnityのアセット「Adventure Creator」でできることを中心に作られている。そのような制限をかけることで、バグも少なくスムーズに進行できたという。ただし、SNSモードは独自仕様なのでバグに苦しめられたそうだ。
なお、「あまり開発をしたくない」というスタンスにより、本作はAdventure Creatorでできないことは基本的に捨てる判断だった。これが結果的にシナリオ、グラフィック、サウンドのクオリティアップにつながっていく。
UXの向上には力を入れたそうだ。未読の選択肢がデフォルトで選択されるなど、ユーザビリティの向上を行い、それが評価アップにつながったと語っている。
ただし、Adventure Creatorそのままだとおもしろくないと判断されたため、SNSモードや仮説機能などを追加開発した。これに関しては、“期限を捨てる判断”をしたそうだ。
システム面においては「まぁええんちゃう進行」が心理的負担を減らす意味で役に立ったようである。そもそもゲーム開発は答えがないものなので深く考えても仕方ないため、ひとまず作って触った人の反応を見るのが早いとのこと。
未経験の電子音楽も「まぁええんちゃう」精神で挑戦
そして、サウンド担当のあだP氏も3つの掟をどう活用したのかを語った。
BGM制作においては、まずおおまかなジャンルを決めることから始めている。今回は「ストレンジャー・シングス」シリーズやヒッチコックなどをマイルストーンにし、電子音楽で楽曲を構築すると決定してから制作が進行している。
主題歌は得意な人に外注、効果音は音源販売サイトをフル活用していた。これが結果として期限を守ることにもつながる。
また、Adventure Creatorにはクロスフェードやキュー再生などの機能があるため、これをフル活用。追加実装した機能もあるが、開発期間を可能な限り短縮している。
なお、あだP氏はシンセ経験はほぼゼロで、電子音楽を作成するもうまくいかなかったそうだ。結果として電子音楽のDTMスクールに通うことになるが、これは「まぁええんちゃう進行」の最たるところであろう。
音源が完成したあとに自分で実装するのも重要だという。シーン上でBGM確認ができると効率的で、サウンド周りのトラブルにも対応しやすくなる。
トラブルとしては、Nintendo Switchの実機スピーカーでは聞こえ方が異なるというものがあった。Nintendo Switchのスピーカーは小さいため、低音を重視した音色だと聞こえ方がかなり異なる。結果として、リリース1カ月前にほぼ全音源の修正を行った。
パブリッシャーとデベロッパーはいかに協業すべきか?
チームと仕組みさえあれば、経験ゼロの素人でも作れるというのが墓場文庫の主張である。
ただし、そうだとしても墓場文庫の4人だけでは『都市伝説解体センター』は完成しなかった。集英社ゲームズの協力も大きな要素だったという。
ここからは林真理プロデューサーが、パブリッシャー側の観点から作品作りを解説。インディーゲーム業界では、理想を求めるデベロッパーと売れるものを作りたいパブリッシャーが対立しやすいと言われており、うまく協業するのが重要となる。
協業するコツは「お客さんを一緒に制限すること」。言い換えると、コンセプトを決めてから変えないことがうまい協業につながるそうだ。そして、コンセプトにはゲームコンセプトと商品コンセプトの2種類が存在する。
『都市伝説解体センター』はミステリーアドベンチャーなので、最後のオチまで楽しんでほしいというのが開発側の要望だ。また、ゲームクリアを体験してほしいといった考えもあるため、「普段ゲームをしない人に最後まで届く設計をする」というのがゲームコンセプトとなる。
ゆえにゲームオーバーを入れず、1話2時間程度の短時間でクリアできるようなサイズにする。また、各話の終わりに次回予告を入れることで、最後まで遊びやすくなっている。
商品コンセプトとしては、都市伝説を題材にしたミステリーとピクセルアートが重要になるため、それをうまく伝える手法をとった。
タイトルに都市伝説と入れてわかりやすくし、動画・静止画でピクセルアートをたくさん露出。また、あくまでミステリーでありホラーではないと伝え続けた。
このようなコンセプトを明確にすることにより目標が一致し、結果として協業がうまくいく。ユーザーを喜ばせるための行動がパブリッシャーとデベロッパーを結びつけるといった結論で、講演は終了となった。
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