「さすがにかわいそう…」ジャンプの悪役に共感しそうになった「闇落ち理由」

アニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
漫画やアニメのキャラには「闇落ちキャラ」が多数存在する。もとは正義側にいたはずなのに、ある出来事がきっかけで心が壊れてしまう……。
彼らは、まっすぐすぎる性格だったり、皆を愛する気持ちが強すぎたりすることが多い。だからこそ、思い詰めると感情が爆発して、全部をぶっ壊してやる! という発想に振り切ってしまうのだろう。
闇落ちする理由はキャラそれぞれだが、悲惨なものがほとんど……。中には、あまりにも救いようのない状況で、闇落ちしても仕方がないと同情してしまうほどのものもある。
※本記事には各作品の内容を含みます
■残酷な現実に心をすり減らした『呪術廻戦』夏油傑
まず紹介したいのが、芥見下々氏による『呪術廻戦』(集英社)に登場した夏油傑だ。夏油は闇落ちする前、五条悟や七海建人と同じ呪術高専の仲間で呪術師だった。同時に誰よりも、呪霊と戦う力を持たない「非術師」のために戦おうとする熱い男でもあった。
しかし、そんな彼の前に立ちはだかったのは悲惨な現実。祓っても祓っても呪霊は増える一方で、戦いの中で命を落とす仲間まで出てきてしまう。おまけにこの世に呪霊が生まれるのは、自分が守りたかった「非術師」の影響だという事実も明らかになった。
それでもどうにか自分を保ち続けていた彼だったが、ついにその心の糸が切れてしまう出来事が起こる。
それが、ある村で非術師の人間に虐待されている少女たちを見つけたことだ。呪力を持っているだけで、同じ人間なのに化け物として捕われ、檻に閉じ込められて暴力を振るわれる……。これが自分たちが命を削って守ってきた人間たちか? 夏油はそんな極度の絶望感に襲われ、村人を虐殺してしまう。
やがて彼は、呪霊を根絶するために「非術師を皆殺しにする」という偏った思想を持つようになる。優生思想も良いところだが、夏油がもともとどんな人間だったか、そしてどんな残酷な世界を目の当たりにしてきたかを考えると、そうした結論にたどり着いてしまうのも無理がないかもしれない。
終わらない呪霊との戦いや人間の醜悪さを前に夏油の心が擦り切れていくさまには、胸をえぐられてしまう。
■ヒーローになれなかった『僕のヒーローアカデミア』荼毘
次は堀越耕平氏による『僕のヒーローアカデミア』(集英社)の荼毘を紹介したい。荼毘は敵(ヴィラン)連合のひとりだが、その正体はヒーローである轟焦凍の兄・燈矢である。兄弟なのにどうして敵対することになったのか……。そこには燈矢の暗い過去が関係している。
燈矢は轟家の長男として生まれ、生まれながらに父親であるエンデヴァーの炎の個性を受け継ぎ期待された。その火力はエンデヴァー以上ということもあり、エンデヴァーも指導に熱が入り、燈矢もその期待に応えようとする。
しかし、燈矢は炎の個性を使うと火傷を負ってしまうようになり、検査を受けてみると母親の体質を受け継ぎ炎への耐性が低いと判明した。そこで、エンデヴァーは燈矢を守るために訓練をやめてしまう。燈矢はヒーローの道を諦めなければならなくなったのだ。
おまけに、自分以上の才能に恵まれた弟・焦凍が生まれたことでエンデヴァーの期待は全てそちらに向けられ、燈矢は激しい嫉妬心を抱くようになる。
自分がみんなの期待を背負って、ヒーローとして活躍するはずだったのに……。それを全部奪われてしまった。そこから燈矢は心が歪んでゆき、止められていた訓練を無謀にも続けてしまう。
やがて炎に体が耐えきれなくなり発火し、焼け焦げて瀕死の重傷を負ってしまった燈矢。そこに現れたオール・フォー・ワンに拾われたのをきっかけに、名前を荼毘に変えてヴィランとなったのだ。
燈矢はエンデヴァーに見てほしいという一心だけで、体がどうなろうと個性を鍛えていた。それなのに、期待もされない、見てもくれないといった扱いを受けたことで、自分の存在意義が分からなくなってしまったのではないか。
エンデヴァーがもっと燈矢のことを考えてフォローをしておけば、こんな結末にはならなかったかもしれない。そこから見ても燈矢は親の過度な期待による犠牲者ともいえる……。
■ささやかな幸せを壊された『鬼滅の刃』猗窩座
最後は吾峠呼世晴氏による『鬼滅の刃』(集英社)の十二鬼月のひとり・猗窩座を見ていこう。彼もまたかなり悲惨な過去を持っている。
本作に登場する鬼は、自らの欲望のままにその道を選んだ者ばかりではない。猗窩座が狛治という名の人間だった頃は、ただ幸せになりたいだけの男だった。
狛治の家は貧しく、病弱の父親に薬を与えるために盗みを働く毎日……。しかし、父親は息子が自分のために盗みをしている事実に罪悪感を抱き、みずから命を絶ってしまう。
その後、狛治は武術の道場の師範である慶蔵に拾われることになる。慶蔵には恋雪という名の娘がいて、彼女は病弱でいつも床に伏せていた。
そんな恋雪の世話を任された狛治は、自分の父親の姿と重ねて懸命に彼女を看病するようになる。その甲斐もあって恋雪は3年後には普通の生活ができるようになった。そこから慶蔵が自らの道場を継いでほしいと話し、恋雪と想いが通じ合い、明るい未来が見え始めた頃……悲劇が起こる。
いつも嫌がらせをしてくる近所の剣術道場の人間が、力で慶蔵や狛治に勝てないから井戸の水に毒を入れて、慶蔵と恋雪を殺してしまったのだ。
どん底から救い出してくれたふたりを無惨にも殺されてしまった狛治には希望も何もない。復讐のため、嫌がらせをしてきた道場の関係者を全員殺害。その惨状に“鬼が出た”という噂が流れ、興味をもった鬼舞辻無惨は返り血だらけの狛治を発見する。狛治からの攻撃を難なく交わした無惨は、気まぐれに自らの血を与えた……。
ほんのささやかな幸せを願っただけなのに、それを踏みにじられてしまった狛治の気持ちには同情してしまう。何もしていないのに身勝手に全てを奪われてしまうのは辛すぎる。
闇落ちキャラを見ていると、心を潰されて追い詰められたからこそ、全部ぶっ壊してやるという気持ちになったのかもしれない……と思わず同情してしまう。彼らの行動は許されるものではないが、その背景を考えるとやるせない思いも同時に感じる。