45歳からの「ファッション迷子」が脱出する方法

40代以降に増えるファッション迷子は、生き方迷子, 仮面を外してファッションと向き合う, この先、辿り着きたい場所でどんな服を着てみたいか, 過去のトラウマがファッションに表れることも, 政治や経済を知るとファッション偏差値も上がる⁈, 外見と内面と人生は一緒に変化していく

大人気パーソナルスタイリストとして50代で大開花した冨永彩心さん(撮影:今井康一)

人生100年時代。キャリアも私生活も花を咲かせるのは1度だけではもったいない。四季咲きの花のように年々歳々、自分だけの花を何度でも咲かせている人々がいる。コラムニスト・芳麗さんによる新しい時代の人物伝。
今回、登場するのは、個々人に似合う洋服を提案するパーソナルスタイリストとして多くの女性たちから支持を集める冨永彩心(とみなが・あやみ)さん。
長く専業主婦をしていた彼女が、52歳から本格的に始めたインスタグラムのフォロワーは58歳の現在7.4万人。運営するパーソナルスタイリスト養成講座には”あやみん先生”を慕う女性たちがつめかけ、毎回満員に。初の書籍『45歳からの「似合う」が見つかるおしゃれ塾』もヒット中です。
しかし、実はほんの5年前までは”人生のどん底”にあったという冨永さん。「ファッションを味方につければ、ミドルエイジ以降の人生にも大輪の花が咲く」と語る彼女のファッションと人生について聞きました。

40代以降に増えるファッション迷子は、生き方迷子

——冨永さんはパーソナルスタイリストとして、「ファッションを通じて45歳以上の女性たちの人生を応援する」という活動をされています。具体的にはどんなことをされていますか?

【写真】45歳以上の女性たちの救世主として、絶大な人気と信頼を集めるパーソナルスタイリスト冨永彩心(とみなが・あやみ)さんの講座の様子

以前はファッションアドバイスもかねたお買い物同行などをしていましたが、現在は、ファッションに悩みを持つ方、プロのパーソナルスタイリストになりたい方への講座がメインです。

45歳以降と謳っているのは、この世代は更年期もあって心身が揺れやすくなったり、キャリアの転機や子育て、親の介護問題なども重なってモヤモヤする時期。人生そのものが大変だし、自分を見失いがちな人が多い世代です。でも、そんな時でもファッションをキッカケに変わることができることを伝えたいなと。

私の講座を受けてくれた生徒さんやアドバイスしたお客様が、実際に自分が好きで似合うファッションを楽しめるようになって、そこから人生を変えていく姿をたくさん見てきました。

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講座で生徒に語りかける冨永彩心さん(撮影:今井康一)

——本日は、冨永さんが主催されているパーソナルスタイリスト講座の現場にお邪魔しています。こちらの講座ではどんなことが学べるのでしょう?

近年人気のパーソナルカラーや骨格、顔タイプ診断など、自分に似合う洋服やメイクを理論的に知る術についてもお伝えしますが、もっとマインドなど根本の部分を学ぶプログラムもあります。

たとえば、これまでの自分の装いの歴史を振り返ったり、心理学を絡めた講座も。ファッションを通じて、これまでの自分と人生を棚卸しして、この先の道しるべを見つけてもらいたいという意図もあるんです。

——ファッションと向き合うことから、今の自分やこの先の人生までも見つかるとは興味深いです。

40代、50代で自分が何を着たいのか、何を着ればいいのか分からなくなってしまう人は多いです。“ファッション迷子は、生き方迷子”って私はよく言うんですが、実際に服装に迷いがある人って、人生も滞っている場合が多い。「自分はこうありたい、こんな風に生きたい」が分からなくなっているから、着たい服も分からなくなっているんです。

仮面を外してファッションと向き合う

——具体的にはどんな風にファッションを通じて、自分の生き方を取り戻していくのでしょう?

まずは、今の自分が好きで似合う服を見つけていきます。

——シンプルですね。

自分の好きな服や着たい服が分からなくなっている人は、自分に仮面をつけて生きている場合が多い。大人として社会で生きていると、半ば無意識に「会社員」とか「母親」とか、皆さん何かしらの仮面をつけていて、会社員らしい服を着たり、お母さんとして恥ずかしくないファッションをしようとしているから。

——たしかに、自分の立場や役割に合わせることを優先しがちです。

一概に悪いこととは言えませんが、それを続けていると、自分の素直な好きが分からなくなります。まずは、いったん、その仮面を外してファッションと向き合ってほしいんです。

あるいは、まだ社会人の仮面をつけていなかった、高校時代あたりに好きだったファッションを思い出してもらいます。不思議なことに、高校時代に好きだった服のテイストって、今でも似合っていたりするんですよ。

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すっかり忘れていた、もともと自分が好きな服を思い出してほしいという。写真は冨永さんの講座で使用する洋服(撮影:今井康一)

——立場や役割に関係なく、素直にファッションを楽しんでいた年代でしょうか。

はい。もちろん、パーソナルカラーや骨格診断は、自分に似合うものを見つけるのにぜひ活用してほしい手段ですが、縛られてはほしくない。「骨格ストレートだからVネックを着ないと」なんて理論に縛られてしまうのは本末転倒だし、ワクワクするほど好きな服には辿り着けないですから。

まずは、似合うものを必死に探す前に、もともと自分が好きな服を思い出してみる。そして、今の自分は、ファッションによってどうなりたいかを明確にしてもらいます。

——あくまで自分と人生が主役で、ファッションはそのための手段であると。

目的は、心からファッションを楽しんで、そこからエネルギーを得ること。自分の人生をより前向きに捉えることですから。

この先、辿り着きたい場所でどんな服を着てみたいか

——書籍にも、講座を受講された生徒さんたちのファッションと意識の変化の事例がありますが、とても興味深かったです。たとえば、シンプルなアースカラーの服を着ていた女性が、鮮やかな服装で見違えるほど華やかに変身していたり。

講座の参加者のほとんどが、最初はどんな服が着たいのか似合うのか分からないところからスタートします。

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現在の自分にマッチするテイストや似合う色で華やかに変身した方(画像:冨永さんの書籍『45歳からの「似合う」が見つかるおしゃれ塾』より)

たとえば、書籍にも登場してくれた60代の方は、普段はハンドメイドの小物を作られています。時折、展示会も開かれているそうなんです。自分のスタイルを探す上では、大切な展示会においてどんな自分として立っていたいかをイメージしつつ、心から着たい服や似合う服を考えてもらました。

——大切な場所で、どんな自分でありたいか。

そんな場所が今はないとおっしゃる方も、この先、辿り着きたい場所でどんな服を着てみたいかをイメージしてみる。創作や芸術が好きな方なら、自分の展示会じゃなくても、憧れの陶芸家に会う時に、どんな装いで臨みたいかを考えるのもいいですし。今の自分の夢や人生観を深掘りしながら、ファッションについて考えていきます。

過去のトラウマがファッションに表れることも

——楽しそうです。もうお一人、印象的だったのが、書籍に登場されていた50代の女性。Beforeでは、ボーダーのカットソーにベレー帽という、80年代に大流行したパリのリセエンヌかオリーブ少女(雑誌『Olive』の提案するファッションに憧れていた少女たちの呼称)のような装いですが、Afterでは今っぽく鮮やかに変身されています。

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アドバイスを受けてがらっと変わった50代の女性(画像:冨永さんの書籍『45歳からの「似合う」が見つかるおしゃれ塾』より)

年齢を重ねた女性の魅力もありますから、若作りする必要はないけど、時代に合わせてアップデートしていくことは必要ですよね。出会った当時の彼女は、まさに一世を風靡したオリーブ少女のままでしたが、雑誌『Olive』はすでに廃刊しています。それでも、30年も変わらずにいるのは正解でしょうか。そんな風にご本人にもお伝えしました。

——結構、はっきりと伝えられるんですね。

ご自身の好きなテイストは大切にしていただきたいですが、時代や社会の変化には順応したほうが楽しいし、美しいですよね。私たちは過去ではなく、今この時代を生きていますから。

ただ、彼女の場合、さらに人生を深掘って聞いてみたら、赤い服や丸眼鏡を選び続けていたのには、深い理由もありました。一時期、体調を崩されていたらしく、「元気に見せたい」という思いが強くあって赤い服を選んでいたり、「自分を表現するのが怖い」という心理から眼鏡を選んでいたりしたそうなんです。

——その時々の心理状態がファッションに表れていた、と。

そうです。でも、今は元気になったんだから、過去の思考のクセを手放して、肩の力を抜いて、今の自分に合う好きなものを選んでもいいのでは、と。「眼鏡をはずして、顔を出したほうがめっちゃ可愛いよ。コンタクトを試してみたら?」などと伝えているうちに、彼女自身の内面も少しづつ変化していきました。

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受講者と実際に買い物レッスンをする冨永さん。全員の満面の笑顔が印象的(写真:冨永さん提供)

——昔の自分をなかなかアップデートできない中年男女は多いですよね。たとえば、若い頃から色っぽい装いが好きだからと、何歳になってもボディコンを着ている人もいます。

“色っぽい服が好きな自分”はずっと大切にしていいんです。でもやはり、時代とともに女性らしさや色気の表現は変化している。バブル時代は、W浅野さん(浅野温子、浅野ゆう子)などトレンディドラマに出てくるようなワンレン・ボディコンが人気でしたけど、2020年代は、石田ゆり子さんのような柔らかで自然体な女らしさや色気が好まれています。時代をよく観察して、自分のマインドやファッションもアップデートできたら素敵ですよね。

政治や経済を知るとファッション偏差値も上がる⁈

——ミドルエイジ世代がファッションにおいて時代を的確につかむためのコツはありますか?

まずは、街行くオシャレな人を観察することです。デニムひとつとっても、今の時代、ピッチピチのスキニーデニムを穿いている人はほとんどいません。周囲をみたら、ゆったりめのサイズ感のデニムをおしゃれに着こなしている人が多いことに気づけたりしますよね。

それから、私の場合、新聞などで経済や政治をキャッチアップして、今と今後のファッションの流れを掴んだりもします。

——経済や政治からですか?

実は私、仕事とファッション以外のことにはあまり興味がないんですけど、日々のニュースには関心を持ってチェックしているんです。というのはその時々、政治経済など社会情勢はファッションと繋がっているなと感じるからです。

たとえば、近年のように円安が加速していたら、海外ブランドは原材料費は高騰しているし、ますます買いづらくなる。すると、当然、ユニクロのようなコスパのいいブランドがさらに人気を集める。いかにユニクロをおしゃれに着るかが勝負になっていく。私も、YouTubeでそうしたコツを発信したりしています。

——たとえば、どんなコツがありますか?

ユニクロはサイズ選びが全てです。その他のブランドもそうですが、安価な洋服でもとことんサイズ感にこだわってみると、グッとオシャレに見えます。普段はMサイズだからといって、全てのアイテムでMを選ぶのではなく、SサイズもLやXLも着てみていちばん自分がカッコよく見えるサイズを選んでみてほしい。

自分の体形に似合う形やサイズ感を知るためには、骨格診断(生まれ持った体の質感やボディラインなどの特徴から、自分自身の体形をきれいに見せる服装などを導き出す診断)を受けてみるのもオススメですが、あとは、たくさんのショップに行って試着して、店員さんにアドバイスを聞いてみたり。あるいは、試着した時に写真を撮っておいて、それを信頼できる人に観てもらったりして、自分により似合う物は何かを探していくといいですね。

——内省のみならず、客観性も大事ということですね。

両方、大事だと思います。

外見と内面と人生は一緒に変化していく

——会社員や母親など、社会的な役割の仮面をつけっぱなしだとファッション迷子になるというお話がありましたが、普段「会社員」仮面を被っている人は、どうすれば、自分らしいファッションを楽しめますか。たとえば、休日ファッションから冒険してみるとか?

むしろ、平日、出社する時の洋服を楽しんでほしい。会社員の方は会社にいる時間のほうが休日の時間より長いわけですから、たまにしか着ない休日のオシャレ服を揃えるよりも、会社でしょっちゅう着る服で楽しい気持ちになれたほうがマインドも人生も変わりますよ。

会社で浮いてしまうような派手な洋服を着る必要はないけど、たとえば、これまでの白シャツを水色のシャツに変えてみるだけでも、気分が上向いて、ファッションから毎日が楽しくなるはずです。

——お話を伺って改めて感じたのは、45歳以降は人生の経験値がある分、何かと思い込みも強くなっていますよね。ファッションを通じて、その思い込みを剥がせると生きやすくもなりそうです。

卵と鶏のように、どちらが先かですね。先に洋服を変えてみたら、マインドが変化していく人もいるし。逆に「ピンクが似合いますよ」とどれだけ伝えても、なかなか着れない人もいます。でも、人生を棚卸ししたり内省しているうちに、自分に自信がついてきて、自分からピンクの服を手に取るようになる人もいるから。どちらが先でもいいけど、外見と内面と人生はセットで変化していくものだなと思います。

(後編に続く)

40代以降に増えるファッション迷子は、生き方迷子, 仮面を外してファッションと向き合う, この先、辿り着きたい場所でどんな服を着てみたいか, 過去のトラウマがファッションに表れることも, 政治や経済を知るとファッション偏差値も上がる⁈, 外見と内面と人生は一緒に変化していく

芳麗さんによる連載15回目です