エステートが最も「クラウンらしい」と言える訳

満を持して「クラウン エステート」が2025年3月13日に発売された(写真:トヨタ自動車)
2022年に4つのボディを一気にお披露目して話題になった、トヨタ自動車「クラウン」。最後に残っていた「エステート」が2025年3月に発売された。
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当初は2023年度内といわれていたが、認証不正問題の影響を受けて何度か延期され、今回ようやくデビューとなったものだ。
きっかけは豊田章男氏の「ひと声」
現行クラウンについては、筆者も東洋経済オンラインをはじめ、いくつかのメディアに寄稿をしている。そこでは4つのボディの登場の順序についても解説してきた。
これは最初の発表会で明かされたエピソードでもあるが、当初次期クラウンとして開発が進んでいたのは「クロスオーバー」のみだったという。しかし、それを見た豊田章男社長(現・会長)は、ゴーサインを出しつつも「セダンも考えてみないか?」と逆に尋ねたのだそうだ。
そこで開発陣は、クロスオーバーとは別に「セダン」も開発することになるが、その席で豊田氏に2つのボディを提案。それが「スポーツ」とエステートで、合わせて4つのボディが市販化されることになったというわけだ。

左からエステート、セダン、スポーツ、クロスオーバー(写真:トヨタ自動車)
一連の背景から考えれば、最初にクロスオーバーが登場するのは当然のことだ。続いてスポーツとセダンを相次いで発売したのは、対照的な2車種を出すことで、シリーズとしての広がりをアピールするという狙いもあったと想像している。
そしてエステートを最後にしたのは、多くの人が思い描くSUVやクロスオーバーの姿に近く、業界内でも一番の売れ筋になると予想する人が多かったことが、理由だと思っている。
エステートの発売は、当初の予定からかなり遅れてしまったわけだが、3年前に出ることがアナウンスされ、姿まで見せていたので、4車種が出揃った時点で、あらためて購入を考えるという人もいるはずだ。
そこで、デザインやパッケージングを中心に、他のクラウンとの違い、ライバル車との比較をしていくことにしよう。
クラウン エステートのボディサイズは、全長4930mm×全幅1880mm×全高1625mmで、ホイールベースは2850mmとなっている。
全長とホイールベースはクロスオーバー、全幅はスポーツと同じで、全高はセダンを含めたシリーズ中もっとも高い。だから、本来はクロスオーバーあるいはSUVとして考えるべきだ。

プロポーションや車高の高さからもSUVであることがわかる(写真:トヨタ自動車)
トヨタのオフィシャルサイトでもSUVとして紹介しており、「ヤリス」や「カローラ」の例にならえば、「クラウン クロス」とネーミングするほうが自然だと思う。
そうならなかったのは、開発陣が次期クラウン セダンと考えていたモデルと別にセダンを作ることになったために、クロスオーバーと呼ぶことになり、本来のクロスオーバーをエステートと名付けたためではないかと想像している。

高めの車高と大径タイヤを持つセダンの「クラウン クロスオーバー」(写真:トヨタ自動車)
ちなみにエステート(estate)とは、財産や土地を示す言葉で、イギリスにはクラウンエステート(The Crown Estate)という組織もある。王室に帰属する土地や財産を管理する法人のことだ。
それゆえだろう、アメリカで販売している同型車は「クラウン シグニア」という名前がつけられている。今後、ヨーロッパで販売することになっても、クラウン エステートの名前は使えないだろう。
ステーションワゴンがなくなりゆく中で
ボディサイズでクラウン エステートに近いのは、我が国で発売したてのBYD「シーライオン7」だ。

2025年4月15日に発売されたばかりのBYD「シーライオン7」(写真:ビーワイディージャパン)
ほかに、ワゴン専用車種になったフォルクスワーゲン「パサート」、エステートの代名詞的存在でもあったボルボの「V60」と、そのクロスオーバー版の「V60クロスカントリー」あたりが思い浮かぶ。
一方、日本国内でこのサイズのワゴンというと、マツダ「マツダ6ワゴン」があったものの、2024年に国内での販売を終了した。クロスオーバーまで枠を広げると、スバル「レガシィアウトバック」があるが、こちらもマツダ6に続き、今年になって我が国での販売を終えている。
本格的なSUVを含めて考えれば、レクサス「RX」やマツダ「CX-80」あたりのほうが近いポジションにいるといえそうだ。
これらの車種と比べると、クラウン エステートのフォルムは、ノーズが長く尖っていることが目立つものの、キャビンまわりはオーソドックスで、リアオーバーハングはワゴンほど長くはなく、やはりクロスオーバーとして見るのが自然だと思っている。

リアオーバーハング(後輪から後ろの長さ)はクロスオーバー的(写真:トヨタ自動車)
次にクラウン・ファミリーの中で比べると、まず細いLEDヘッドランプを用いた顔つきはクラウン一族と感じるものの、グリルの造形は、スポーツはもちろん、クロスオーバーよりおとなしく、ボディ同色にすることで、存在感を抑えているように感じる。
ヘッドランプの上に細い切れ込みを入れたところは、セダンに似ている。でも、グリルはセダンほど押し出しが強くない。この点でも、ファミリーの中でおとなしい表情を目指していることが伝わってくる。

唯一、FRプラットフォームを持つ「クラウン セダン」(写真:トヨタ自動車)
セダンと同じFRプラットフォームを採用せず
ボディサイドは、リアフェンダーに向けて跳ね上がっていくキャラクターラインがなく、ドアまわりに弱くX字型のラインを入れていることがわかる。サイドシルのラインは水平に近い。
クロスオーバーやスポーツでは、サイドウインドウ下端がリアドアのあたりでキックアップしているのに対し、エステートは水平にリアエンドまで伸びていて、セダンとの近さを感じさせる。

リアオーバーハングが短い「クラウン スポーツ」はウインドウの下端とフェンダーの形状に注目(写真:トヨタ自動車)
リアは横長の細いコンビランプはクロスオーバーに似るものの、それ以外はすっきり落ち着いた造形で、サイド同様セダンに近い。
それなら「縦置き後輪駆動となるセダンのプラットフォームを使えばいいのではないか」と思う人がいるかもしれないが、エステートのアピールポイントのひとつに、後ほど記すインテリアの広さがあるため、横置きパワーユニットとしたのだろう。
同じクラスで駆動方式を2種類持つという手法は、かつてトヨタ自身が「カローラ」や「コロナ」で実践していたし、外国車でもキャデラックやBMWが取り入れたことがあるので、個人的に違和感はない。
インパネはクロスオーバーやスポーツと基本的に共通。ファミリーが発表されたのは2022年7月のことであり、2025年の新型車としてみるとやや古さも感じるが、個人的には、ここが従来のクラウンユーザーを惹きつけるポイントだと思っている。

素材やカラーで差別化を図るもののインストルメントパネルの形状は同じ(写真:トヨタ自動車)
シートもクロスオーバーと同じで、スポーツとは別のもの。後席はファミリーの中でもっとも広く、背後の荷室は背もたれを倒せば、車中泊もできそうな奥行き約2mの空間が出現する。
ファミリーの中で最も大きなこのスペースが、クラウンエステートの最大の魅力であることは間違いない。このクラスの日本車のワゴンがなくなったタイミングでもあるので、安定した需要が見込めるだろう。

スポーツやクロスオーバーでは実現できない広大な荷室が最大の魅力(写真:トヨタ自動車)
しかも、スタイリングは一族の中でもっとも万人向けであり、インテリアとの釣り合いも取れていて、多くの日本人が受け入れそうな形をしている。言い方を換えれば、クラウンらしい。
隠れたヒット作になる予感あり
クロスオーバーをデビュー直後に買った人は、まもなく登録から3年を迎えることになるので、乗り換えを考える人が一定数出てきそうな気がする。その先には、スポーツからの代替え需要も生まれるだろう。
ハイブリッドの「エステート Z」で635万円、プラグインハイブリッドの「エステート RS」で810万円となかなか高価ではあるが、「ハリアー」などほかのトヨタ製SUVからの代替えもあるだろうし、隠れたヒット作となるのかもしれない。