「備蓄米・輸入米は取り扱わない」老舗スーパー「吉池」の覚悟と「国産」にかける熱い思い

吉池が掲げたポリシー

当店は備蓄米、輸入米を取り扱いません

日本の米作を守る 日本の農地・国土を守る 日本の食料自給率を高める

御徒町の食料品店「吉池」(大正9年創業)のコメ売場に上記の張り紙が掲げられている。B5サイズほどの小さな張り紙だが、コメや農家、日本への熱い思いが込められた「企業広告」だ。コピーライティングを担当したのは、吉池の二代目髙橋登会長である。

「この張り紙を掲げたのは6月頃だったと思います」

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「新潟産新之助と魚沼産コシヒカリを食べています」と髙橋登会長

小泉進次郎が農林水産大臣に就任し、5キロ2000円の備蓄米を販売するとぶち上げた。米価の高騰が続く時期に、備蓄米を廉価で売ると発表した小泉農林水産大臣を救世主のように奉ったメディアもあったようだ。

そんな時期に、反旗を翻すような宣言をしようものなら風当たりが強いのではないか。「もう少しやんわりとした文章にすべきでは」と進言した社員もいた。ところが、「それでは思いが伝わらない」と髙橋会長は却下した。

「吉池としての考え方をもっとストレートに書くべきだと思い、私が考えた文章を掲げました」

6月17日、Xに張り紙の画像と、「日本の国の現在 そして 未来のために 日本の国土の景観 保全 自然災害防止を含めて下記のとおり信念を持って販売していません」という文章を投稿した。それを読んだフォロワーから「応援します」、「稲作は国防」、「こういう取り組みこそが大事」といったコメントがXにたくさん寄せられたのだ。反響も大きく、74.9万回(9月9日現在)も表示されている。

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吉池のX(@yoshiike_group)より

備蓄米と輸入米を扱わない宣言をしたワケ

なぜ備蓄米と輸入米を扱わない宣言をしたのか。

「先進国の中で日本はカロリーベースで食料自給率が一番低い。コメも魚も収穫量が減ってしまいましたが、せめてコメだけでも自給率100%を維持しなければいけません。父が新潟県十日町の稲作農家出身だったこともあり、日本の食料安全保障を考えての宣言です」

農家の平均年齢はほぼ70歳。あと5年米作を続けられるかどうか。日本のコメが岐路に立たされている現況で、備蓄米や安い輸入米が流通したらどうなるか。

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コメ売場にはこの張り紙が何枚も貼ってある

田んぼにはコメを栽培するだけでなく、景観だったり、ダムとしての機能など、様々な役割がある。これ以上離農者が増えたらコメの自給率が低下するだけでなく、国土を守れなくなる。先の企業広告文には、日本の農業に対する憂いも込められている。

「国内でコメが取れないのであれば、輸入すればいいという時代ではありません。農業は国の基本。そのことを初等教育できちんと教えるべきではないでしょうか」

コメや野菜などの生産者がいるから胃袋を満たしてくれる。そのことを理解していれば、多少高くても国産の農作物と生産者を守るために買おうという意識が高まるはずだというのだ。

生産者を守ることも含めて米価を考える

「たしかに令和のコメ騒動以前と比べると米価が高くなりました。でも、生産者を守ることも含めて米価を考えるべきです」

髙橋会長自身は、いくらが適正な米価だと思うか。

「感覚的には5kgで3800円から4000円。コメを買えない経済状況の人には、無償で備蓄米を配布すべきです。税金で買った政府備蓄米を税金で配送しているのですから」

吉池では、コメの供給過多だった時代にも安売りをしたことがないと豪語する。

「令和のコメ騒動の頃もコメを切らしたことがありません。うちの理念や販売姿勢をJAや農家が理解してくださっているのか、適時コメを出荷してもらっています」

コメ売場には新潟産のコシヒカリや新之助を中心に、東北や北海道産の単一米が並んでいる。

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新潟産を中心に東北産と北海道産のコメが充実している

とくに新潟産が多いのは、父親がコメ処新潟出身という思いが強いからだ。

「新潟への郷土愛」がにじむ品揃え

髙橋会長の新潟への郷土愛は、コメだけにとどまらない。野菜売場の一角にある奥越後の野菜コーナーには、聖籠(せいろう)町産のじむぐり豆(新潟弁で落花生のこと)や、魚沼産わらびの漬け物などがつまれていた。

豆腐売場には新潟から取り寄せた豆腐が並んでいた。精肉売場では、新潟のブランド肉、村上牛や新発田牛を扱っている。地下2階の酒売場には新潟の地酒が「これでもか」というぐらい集められていた。「ここは新潟の物産館か」と思いたくなるような品揃えだ。

新潟愛が感じられる売場には、全国各地から集めた野菜や果物、鮮魚、加工品が並んでいる。しかも輸入品や、大手スーパーで見かけるナショナルブランドがきわめて少ない。

「やむを得ず扱うものもありますが、できる限り地方産で賄いたいと思っています」

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野菜売場も豆腐売場も新潟物産館と化している

自慢の鮮魚売り場

吉池といえば、鮮魚と思っている人が多いのではないだろうか。鮮魚担当の滝口学さんに売場を案内してもらった。

「現在3000種類の魚介類を扱っています。9時半オープンなのでプロが買いに来ます」

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「1階はもちろん地下1階にも魚売場があります」と滝口さん

豊洲市場だけでなく、各漁港で水揚げされた魚介類を直接仕入れるようにしている。豊洲市場と地方産の割合はほぼ半々だそうだ。

「マグロの品揃えも自慢です。すべて天然物。養殖マグロはありません」

取材前、9階の吉池食堂で1400円のランチ寿司を食べた。イクラや穴子、マグロなどの寿司が9貫盛られていた。コメは新潟の棚田米を使っているそうだ。

「吉池食堂のマグロはもちろん天然物です。寿司をはじめについてくるシジミ汁のシジミは宍道湖産。島根から直送してもらっています」

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鮭!鮭!鮭!すべて天然ものだ

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店でさばいて焼いた国産ウナギも吉池の看板商品だ

地下1階には、北海道は別海の直営工場で加工された鮭が並んでいた。

「昔ながらの山漬けと呼ばれる塩漬け鮭です。新潟の村上特産の塩引鮭も扱っています」

特筆すべきは鰻だ。店内でさばいて蒸した国産鰻を店内で焼いて販売している。髙橋会長曰く「土用の丑の日は売上が伸びず、鰻の日(毎月第2土曜)の方がよく売れる」そうだ。

できる限り国産で賄いたい

「できる限り国産で賄いたい」髙橋会長の思いは、ベーカリー「オンディーヌ」にもしっかりと反映されている。

「店がオープンした30数年前は、食パンのみ北海道産小麦を使っていました」オンディーヌのパン職人三浦勝さんは続ける。

「リニューアルした10年前からバケット以外は、すべて北海道産小麦を使っています」

現在、北海道生まれの小麦ゆめちからを愛用している。モチモチとした食感が特徴のゆめちからのパンは、人気上々だそうだ。

「一番売れているのはクリームパンですね。別海産の牛乳を店内で炊いたカスタードクリームを使っています」

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「マツコさんが紹介してくれたおかげでクリームパンが大人気」と三浦さん

北海道産小豆を使ったアンパンもよく売れるそうだ。都内のあんこ専門店にオンディーヌのレシピで、糖度をひかえた餡を炊いてもらっているという。

コメ売場に掲げた企業広告からは、国産米と農家を応援したいという吉池の企業理念がひしひしと伝わってくる。けれど、吉池がエールを送っているのはコメだけでない。地方の野菜や果物、海産物、加工品を扱うことで国産の食料を盛り上げ、全国の生産者を応援したいと考えているのだ。

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毎週金曜日はマグロの日。この日は厚岸産本鮪が鎮座していた

すべては、「日本の食料自給率を高めるため」だと思えてならない。