『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3要素。同時にどうしても気になった3つのこと

前置き:大満足できるエンタメで万人におすすめ!だけど……, 前置きその2:4DXが超おすすめ!, 実写化の意義1:王道の「共生」の物語の名作, 実写化の意義2:2025年の今、問題提起がより鋭く感じられる理由, 実写化の意義3:細かな調整と「実在感」, 気になるところ1:そもそも実写化の意義とは?と考えてしまう理由, 気になるところ2:本来は「トゥースレス」という名前が「トゥース」になっている, 気になるところ3:「ペット発言」と「従属するような関係」の是非, アニメ版の3作目(実写の続編)や『野生の島のロズ』が「アンサー」かもしれない

『ヒックとドラゴン』の実写化の意義を感じた3つのことと、どうしても気になった3つのことを解説しましょう。アニメ版が好きだからこそ、思うところもあるのです。(画像出典:(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.)

映画『ヒックとドラゴン』が9月5日から公開中です。本作は児童文学を3DCGアニメ化した、2010年の同名映画の実写リメイク。アニメ版はアカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされたほか、絶賛に次ぐ絶賛が寄せられた名作なだけに、実写化のハードルがとても高かったといえるでしょう。

【動画】『ヒックとドラゴン』予告編

前置き:大満足できるエンタメで万人におすすめ!だけど……

結論から申し上げれば、アニメ版が好きだった人には「原作に忠実でリスペクトと愛にあふれた実写版」として、そちらを知らない人にも「大人から子どもまで大満足のエンターテインメント」として大推薦できる傑作でした。

実際に9月上旬現在、Filmarksでは5点満点中4.3点、映画.comでは4.2点と、2025年に公開された全ての映画の中でもトップクラスの高評価となっています。後述する通り、アニメ版から受け継がれたテーマやメッセージは2025年の今に見るからこそ、より切実に響くものですし、大迫力のアクションは映画館のスクリーンで見る価値が間違いなくあります。

ただ、作品としての完成度がとてつもなく高いことを前提として、“忠実すぎる実写化”であるがゆえに、個人的には気になったところがあったのも事実です。

それは、元のアニメ版から決して少なくない人が「引っかかっていた」ことでもあり、たとえ100点満点マイナス1点程度のことであっても(だからこそ)、今回の実写版で解消されていなかったことが、もったいなく感じてしまったのです。その賛否も含めた議論には、意義があるでしょう。

前置きその2:4DXが超おすすめ!

本作は座席の動きなどさまざまな演出が楽しめる「4DX・MX4D」上映が行われており、こちらが作品との相性が抜群、いや一生ものの体験ができるので超絶おすすめします!

何しろ、本作で最大の見どころなのは、「飛翔」シーン。ここで4Dの座席の激しい動きや「劇場全体を吹く風」の演出により、ジェットコースターのようなアトラクション感を超えた「本当にドラゴンに乗っている」夢のような体験ができるのです。なお4DXには、MX4Dにはない「雨」「雪」「シャボン玉」の演出があり、その雨で劇中の水しぶきを見立てているほか、雪で「あるもの」を表現した演出も楽しいものでした。そのため、なるべくMX4Dではなく4DXを選ぶことをおすすめします(※4DXの一部では「雨」「雪」「シャボン玉」の演出はないのでご注意を)。

また、吹き替え版も素晴らしい出来栄えで、特に主人公・ヒックを演じた坂東龍汰が、表向きは冴えないようで、実は強い信念と勇気を持つ少年にぴったり。ベテランの声優陣にまったくひけを取らない名演をみせていました。普段は字幕派という人も、今回は吹き替え版を積極的におすすめします。

ただ、現在は『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』の4DXの本上映が行われていることもあって、『ヒックとドラゴン』の4DXの上映回は限りがあることにご注意ください。

大スクリーンと優れた音響で作品を楽しめる「IMAX」のほか、闇の中でドラゴンの炎が輝く場面が多いため「黒」が映える「ドルビーシネマ」で見るのもいいでしょう。

すっかり前置きが長くなりましたが、ここからはここからは称賛ポイントと、気になった点を見ていきましょう。

実写化の意義1:王道の「共生」の物語の名作

『ヒックとドラゴン』のあらすじは、「人間とドラゴンが戦いを繰り広げていた場所で、人間の少年が自分のせいで飛べなくなったドラゴンのために人工の尾翼を作るなどして、友情を育んでいく」というもの。

初めは「敵」でしかなかったはずのドラゴンとの交流はほほ笑ましくも楽しく、やがて大きな「変革」へとつながるという流れが、誰にでも分かりやすい形で提示されているのです。

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こうした「異なる種族との交流」を主軸にした物語は『E.T.』や『リロ&スティッチ』と共通していますし、主人公が人間同士の対立もあるコミュニティーの中で人々の意識を変えていく流れは『風の谷のナウシカ』も連想します。

「共生」を主軸にした物語は、アニメ版が公開されていた2010年の時点でも多くの作品で描かれたことなので、それ自体に目新しさはなかったと言っていいでしょう。

しかしながら、『ヒックとドラゴン』はキャラクター造形・演出・脚本それぞれが練りに練られていることで、これ以上はないほどの完成度に仕上がっているのが、何よりも素晴らしいことだと思います。

主人公と周りのキャラクターの成長、何気ない伏線の回収、高揚感たっぷりの音楽、積み上げた物語が「ここぞ」という場面でカタルシスにつながる様など、エンターテインメントで実は最も難しいであろう「王道」をやり切った名作であり、それを再び大スクリーンで見られること。大人がその素晴らしさを振り返り、子どもがその面白さを知ることができる。そうした点こそが、実写化の大きな意義といえます。

実写化の意義2:2025年の今、問題提起がより鋭く感じられる理由

『ヒックとドラゴン』の物語はシンプルなようで、人間の社会や戦争に対しての問題提起は深く鋭いものにもなっています。

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例えば、主人公のヒックは「強くある」ことを望まれる「マッチョイズム」に縛られています。父親のストイックが「あいつは戦いには向いていない」などと、息子を分かった気になっている一方で、ヒックは父の期待に応えようと空回りし、親子の会話もすれ違いがち。このような関係性は、普遍的な父子の問題として身につまされるところがあります。

さらに重要なのは、戦争における根源的な欺瞞(ぎまん)を問い直していること。予告編でも見られる「何百人も犠牲になった!」「こっちはもっと殺している」といったやりとりは、ロシアによるウクライナへの侵攻、またイスラエルによるガザ地区侵攻という戦争、いや一方的な虐殺が起きている2025年の今、その言葉の鋭さが一層際立っています。

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さらに、共生の道を選んだ先に何があるか、ということに、安易さを感じさせない、シビアな目線を忘れていない、とある重い展開が用意されています。それと同時に、軽やかに希望を提示していることも美点でしょう。

もちろん本作はファンタジーなので、現実の問題と完全にイコールにはできないところもありますが、思考の一助となるはずです。

実写化の意義3:細かな調整と「実在感」

『ヒックとドラゴン』のアニメ版監督の1人であるディーン・デュボア自らが、今回の実写映画版でも監督を務めたことは特筆すべきでしょう。

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デュボア監督は「今回は原作の完全性を保ち、ファンに敬意を表すために監督を務めたい」と意欲を語り、目標は常に「アニメ映画に取って代わるものではなく、別のバージョンを作ること」だと強調。さらに「オリジナルの最高の部分を維持しながら、優れた、さりげない、そして重要な改良を加えています」と述べています。

その言葉通り、オリジナル版を手掛けた監督が再びメガホンを取ったからこそ、「アニメ版からほぼ変わっていない」「しかし細かい描写が加わっている」実写映画になっているのです。

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細かい追加要素が何かといえば、「リーダーとしての役回りが強調されたヒロインのアスティのキャラが深掘りされている」ことだったり、アニメ版では良い意味でややオーバーだったリアクションが、実写ならではの落ち着いたものになっていたり、スペクタクルシーンが増えている点。それらはアニメ版と見比べてみないと気付けないほど「さりげない」ことなのですが、それぞれが「実写化への最適解」と思える調整でした。

さらに、実写ならではの大きな付加価値となっているのは、「世界の実在感」です。アニメ版の舞台となる「バーク島」は言うまでもなく全てがCGで描かれたものだったのですが、今回の実写版は可能な限りセットおよびロケ撮影で再現していることが、メイキング映像でも分かるのです。

ヒックが作る人工の尾翼などの道具も、こだわり抜いた美術のおかげで「実際にある」と思えることに感動があります。その世界の実在感は、もちろん「生身の俳優が演じている」からこそ担保されています。キャストは脇役に至るまで、アニメからそのまま飛び出てきたようなハマり役。特に主人公のヒックを演じたメイソン・テムズはホラー映画『ブラック・フォン』に続き、純粋さがある役どころにぴったり。ヒックの父親のストイックは、アニメ版のジェラルド・バトラーが同役を続投しているのも面白いところ(吹き替え版でも田中正彦が続投!)。

アニメ版ではブロンドに青い瞳をしていたアスティ役に、見た目のイメージが異なるニコ・パーカーが演じたことへの反発もあったとのことですが、実際に見てみれば、辛らつなセリフを放ちながら、芯が強く愛らしさも同居しているキャラクターを完璧に体現していて、見終わってみれば彼女以外の適役は考えられないほどでした。

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(C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

さらには、CG技術が進化してこそ、生身の人間やセットの舞台と同居してもまったく違和感のない、時に恐ろしく、時にキュートなドラゴンたちの造形とリアリズムにも感動があります(アニメ版のヒックとトゥースのキャラクターデザインは日本人の野口孝雄が担当!)。そうした実在感があるからこそ、ドラゴンに乗った飛翔シーンのスピード感と臨場感、そしてクライマックスの大迫力の見せ場もより「本物」として享受できるはず。

さて、ここまで本作を称賛しましたが、ここから気になったことを記していきましょう。ネガティブな言及に聞こえるかもしれませんが、極めて作品の完成度が高いことを前提としていると、重ねて強調しておきます。

気になるところ1:そもそも実写化の意義とは?と考えてしまう理由

前述の内容と矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、何しろ本作はアニメ版に忠実すぎるほどに忠実なので、「そもそも実写化の意義とは……?」と感じてしまったのも事実です。

筆者個人がそう思ってしまった理由の1つは、もとの『ヒックとドラゴン』がアニメながら「実写に近い映像のこだわり」がされていたことも理由だと思います。 アニメ版『ヒックとドラゴン』は、暗がりに「炎」が映える「光と影」の対比の美しさ、臨場感たっぷりのカメラワークも見どころの作品でした。それはアカデミー賞撮影賞の常連である名撮影監督ロジャー・ディーキンスが参加しているおかげでもあり、そもそもが「アニメなのに実写に近い撮影が美しい」作品だったのです。

だからこそ、物語はもとより映像面で、実写化をするとより「そのまま」の印象が、よくも悪くも生まれてしまったのではないかとも思います。もちろん前述した通り、もともとがほぼ完璧な作品なので大胆なアレンジはまったく不要であり、加えて実写ならではの魅力も確かにあるため、贅沢(ぜいたく)すぎる不満ではあるのですけどね。

気になるところ2:本来は「トゥースレス」という名前が「トゥース」になっている

主人公が仲良くなるドラゴンは「歯を自分で引っ込められる」特徴を持つため、原語では「トゥースレス(歯なし)」と名付けられているのですが、日本語の字幕および吹き替えでは「トゥース」という、正反対の名前になっています。

もちろん元のアニメ版から、日本語吹き替えおよび字幕でも「トゥース」になっていたので、そちらにならう形なのでしょう。アニメ版の公開当時にお笑い芸人のオードリーが宣伝に起用され、「ドラゴンの名前が決めセリフと同じ」と紹介されており、その時点でドラゴンの名前を変えるのはいかがなものかと批判が寄せられていたのです。

何より、この歯をなくせることで、ドラゴンが人間たちを攻撃するだけの存在ではない、ということも示していると解釈できるため、日本語でも「トゥースレス」のままのほうが良かったのではないか、と思ってしまうのです。

※以下、具体的な展開は避けていますが、ラスト近くのセリフや関係性について触れています。本編を未見の人はご注意ください。

気になるところ3:「ペット発言」と「従属するような関係」の是非

アニメ版から多くの人がモヤっとしてしまった、あるいは拒否反応を覚えてしまったことは、ラストでヒックがモノローグでドラゴンたちを「ペット」と呼んでしまうことです。

実は、アニメ版から冒頭の「唯一の悩みは害虫(The only problems are the pests)」 と、ラストの「唯一の自慢はペット(The only upsides are the pets)」というモノローグが「対」になっている、「pests」と「pets」が「韻を踏んでいる」からこその言葉であると指摘されていました。

そうだとしても、やはり「ペット」という「従属」的なニュアンスがある呼び方に「えっ?」と思う人がいるのも致し方ないところ。ここの日本語の字幕や吹き替えでは、ペットではなく「相棒」という言い方にしても良かったのでは、とも思うのです。

ただ、その拒否反応はドラゴンたちを「相棒」「親友」と言える存在だと思っていた、もっといえば「擬人化」するように見ていたバイアスも働いているためでもあると思います。

劇中に登場するドラゴンは、あくまでドラゴンとして描かれていますが、現実で言えば「猛獣」や、あるいは移動手段としての「馬」のような存在とも捉えられます。そう考えると、ドラゴンを相棒や親友として描きながらも、「ペット」と呼ぶことが必ずしも矛盾しているとは言えない、という見方もできると思います。

とはいえ今は、ロシアによるウクライナへの侵攻や、イスラエルによるガザ地区への侵攻といった深刻な現実があるからこそ、人間とドラゴンの対立がどうしても現実と重なって見えてしまいます。その中で、本来は共生の道を選んだはずのドラゴンが、「ペット」という発言によって、あたかも人間に従属する存在、ある種の“奴隷”のように映ってしまうと、かえって欺瞞的に感じられ、強い拒否感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。

筆者個人としては、ドラゴンへの「ペット発言」と「従属するような関係」にモヤモヤを抱えた人には、その気持ちを大切にしてほしい、とも思います。それはその人が持つ価値観を強固にしたということ、現実の問題を考えているからこそたどり着いた考え方でもあるからと思えるのです。

アニメ版の3作目(実写の続編)や『野生の島のロズ』が「アンサー」かもしれない

また、前述したドラゴンへの「ペット発言」および隷属していると見えかねない関係のバランスについては、アニメ版の3作目『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』で1つの「答え」を用意されているとも捉えられます。

今回の実写映画版は大ヒットを受けて続編制作が決定しているので、アニメ版の3作目に当たる物語も紡がれるのであれば、今回でモヤっとしてしまった人も溜飲が下がるのかもしれません。また、アニメ版『ヒックとドラゴン』の共同監督の1人であるクリス・サンダースは、映画『野生の島のロズ』で「飛べなくなってしまった息子と育ての母」の関係を描いており、それは従属するような関係性を感じさせないものにもなっています。『野生の島のロズ』は『ヒックとドラゴン』の価値観を否定することなく、ある意味ではアンサーを投げかけている作品ともいえるのではないでしょうか。その上で、実写およびアニメの『ヒックとドラゴン』が素晴らしい作品であることもまた間違いないですし、ラストの是非も含めて議論されることにも、やはり意義があると思うのです。まずは、劇場でご覧になり、その上で話し合ってみてください。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール

All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。