危険な習近平体制と弱腰の日本大使館…北京で突然逮捕、7年間「幽閉」された日本人からの警告「今、日本人が中国に行くことは絶対に勧めない」
突然、中国に幽閉されて7年。2022年に帰国した親中派日本人が全国民に警告したいことがあるという。それは習近平体制の危険性と日本外務省の弱腰の姿勢についてだった――
今、日本人が中国に行くことは絶対に勧めない
その人の名は鈴木英司氏。9月3日、30年ぶりに彼に会った私は、あれほど日中友好に目を輝かしていた人から、想像できない言葉が次々でてくるのを呆然と聞くしかありませんでした。
「今、日本人が中国に行くことは絶対勧めません。仕事でも観光でも、突然逮捕されることがありえます。そして、いったん逮捕されたら、裁判で無罪になることはありません。まったく身に覚えのない犯罪だから、日本の外務省が助けてくれるだろうと、私も期待していましたが、日本の大使館員はまったく頼りになりませんでした」。
なにしろ、彼は中国出張から帰国しようとした日、2016年に突然逮捕、拘束され、厳しい尋問に耐えて、2022年にようやく帰国してきました。中国にいるときは、96キロあった体重が、帰国したら68キロまで減っていたといいますから、いかに過酷な幽閉生活だったかわかります。私がおつきあいしていたときの鈴木さんは、本当に中国のことが好きで、日中友好のために、人生を捧げようという信念に満ちていた人でした。
正直、当時、週刊文春の記者であった私には、社会主義国は、信用できないと思っていましたが、鈴木氏の信念、アジア諸国の友好を目標として行動し中国の人たちを引きつける力にはリスペクトの念を抱いていました。
ですから、彼が中国に行くと聞いたときも、彼が逮捕されたり、有罪判決を受けたりするなど予想もしていませんでした。
彼が帰国し、私のネット上の記事をみて、連絡がきたとき、正直驚きました。中国で複数の日本人が不法に逮捕・監禁されていることは知ってはいましたが、まさか鈴木さんがその対象になっているとは思ってもみなかったからです。
中国で逮捕された日本人の口封じをする勢力
そして、彼や、多くの中国で逮捕された日本人の口封じをしている勢力が存在することも今回はじめて知りました。
「帰国して、外務省が調査のために、事情聴取にきました。不法な逮捕に対する抗議のための事情聴取のためかと思っていたら、まったく逆でした。今、中国で拘束されている日本人がこれ以上ひどい目にあわないよう、マスコミには沈黙を守ってほしいという要望が主なものなのです。なぜ、日本国内にいるのに、中国でひどい目にあった事実を公開することがいけないことなのでしょうか。帰国した日本人が沈黙していれば、中国政府がつけあがるだけです。ですから、私は外務省の要望を無視してインタビューに応じ、記事にでることをきめたのです」

インタビューに応じる鈴木英司氏
2015年5月以降、中国で逮捕・拘束された日本人は16人。8人がすでに帰国しましたたが、7人が公判や服役などで中国におり、1人は病死しています。
しかし、帰国した8人の日本人はほとんど、受けた虐待、不当な逮捕について語っていません。私もそれを不思議に思っていましたが、実は外務省が口封じをしていたのです。実際、先日有罪判決を受けたアステラス製薬の社員の自宅も、すでに家族は不在であり、親戚を訪ねても、引っ越しなどをして、メディアと接触しないようにしているのが現実です。
日中間には「刑事に関する共助に関する日本国と中華人民共和国との間の条約」が締結されていて、逮捕や拘束に関する情報は相互に交換することが義務づけられているはずなのですが、鈴木氏によれば、そんな条約は何の役にもたっていませんでした。彼が、どんな形で逮捕され、非人間的な扱いを受けたか、ご紹介しましょう。
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鈴木氏が語ったこと
2016年7月15日。中国の日本大使館近くにある21世紀飯店(ホテル)の日本料理店で中国の知人と食事をしたあと、5日間の中国出張を終えて空港までのタクシーにのりました。私は「北京国際空港第3ターミナルまで」とタクシーに伝えたのですが、全然ちがう道をタクシーは走り始め、何度も注意してもスマホになにか文字を打ち込むだけの運転手に不審を感じながら走ること一時間。空港についた途端、体格のいい男6人に誰何され、名前を確認するとすぐに強引にワンボックスカーに押し込まれました。「お前ら誰だ?」と聞くと「北京市国家安全局だ」と答えました。要するにスパイ組織です。なぜ?と驚く間もなく、男たちからみせられたのは「私をスパイ容疑で逮捕することを許可する」という逮捕状でした。今思うとホテルのタクシーも安全局のものだったのかもしれません。携帯電話、腕時計を奪われ、ベルトもはずして黒いアイマスクをつけられました。まるで映画のようなシーンです。一時間後、私は国家安全局の居住監視室と呼ばれる拘置所502号室に閉じ込められていました。
その後、私は長期間、この部屋で窓のカーテンもあけてもらえず、部屋には監視役が一日4交代で2人もいるという環境で取り調べを受け続けました。電灯を消すことも許されず、シャワー室もあるのですが、常に監視下では落ち着いてシャワーを浴びる気にもなりません。朝食は中国式蒸しパンとおかゆと漬け物。晩御飯は普通の中国の家庭料理ですが、まずくてとても食べられません。
日本大使館の驚きの対応
日中間では、もし逮捕された場合でも、日本大使館と日本人が連絡をとることが認められていますが、それも逮捕後5日間猶予があり、5日後連絡はされたものの、大使館員との面会が許されたのは27日と、12日後。しかも30分のみで詳しい話しもできず、日本大使館員は「この居住監視というシステムは中国独自の制度で、日本でいう逮捕ではないのに、こういう形の拘束が中国ではゆるされ、3カ月が期限と規定されているものの、実際には、延長が許されていて、『あと一回延長されて、まあ、6カ月です。気長にやりましょう』と悠長なことをいいます」と現地の事情を説明するのみ。
そして、居住監視途中は弁護士も雇えないこと、そのあと裁判になっても、弁護士を雇うと35万元(当時のレートで560万円)と高額で、それより、日本でいう国選弁護士の方が安価だと教えられた程度で面会は終わりました。大使館員からは自国民を一刻も早く解放しようという気力はまったくみられません。30分の面会時間はすぐに終わり、制度の説明を受けることと日本の家族や知人の国会議員や新聞記者に連絡してくれるよう頼むのが精一杯でした。もっとも、帰国後わかったことは、この誰にも大使館からは、連絡は届いていなかったのです。
私自身は、元々まったく中国のスパイ組織に逮捕される事情がないので、大使館のこの対応に絶望感がつのるばかり。しかも監視役の中国人は一言も口を聞かないし、歌を歌ってもいけないという規則があるので、本当に独房にいる様な孤独感と、先が見えない恐怖に眠れない日々が続きました。
かけられていた「容疑」
その間も「取り調べ」は続きました。最初は名前や住所など簡単な確認事項が中心でしたが、やがて、自分の「容疑」がおぼろげながらわかってきました。2013年12月4日、日本でもつきあいがあった中国政府の外交官湯本淵(タンパンヤン)氏と北京で会食していたときの会話が問題のようです。湯さんは中国のエリートコースの中国共産党中央党校に入学、その前には駐日中国大使館の公使だった人なのですが、明らかに彼も拘束されているようで、なぜか、一人の監視役が「北朝鮮に関する会話をしただろう。慎重にすべき会話だった」というのです。思い出してみると、湯氏と会食する直前、北朝鮮の故金日成主席の娘婿で、側近として栄華を誇っていた張成沢(ちゃん・ソンタク)氏の側近2人が処刑され、張氏の行方もわからないという情報が日本のマスコミでも公表されていたので、そのことを湯さんに聞いたことを思い出しましたが、湯さんは単に「知りません」と答えただけでした。日本では張氏のことは公開されていたし、湯さんも「知らない」と答えたので違法とは思えないと監視人にいうと、「中国では、中国国営新華社通信が報じていなければと、違法だ」というのです。

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私は耳を疑ったのですが、中国では、これが当たり前のことのようです。結局、7カ月の居住監視は終わって正式に私が逮捕されたのは2017年2月でした。裁判も長引き、2020年11月にスパイ罪で懲役6年の実刑判決が確定し刑務所にうつされました。
この間、絶望にくれながらも、日本大使館の面会には、スパイ罪で逮捕されたなら、日本でスパイで逮捕されている中国人と交換できないかなど、いろんな質問をしましたが、「日本にはスパイ防止法がないので、交換できる人材がいない」など、まったくやる気がありません。ほんの一握りの大使館の人が親切に言葉をかけてくれましたが、ほとんどの大使館員は事務的な処理で、自分たちが税金で雇われた公務員であるという認識があるとは思えない態度でした。
過去の中国との戦争に対する贖罪意識からか、外務省にはチャイナスクールと呼ばれる親中派があるとは聞いていましたが、これほどまでとは思いませんでした。
長い幽閉生活を経て、訴えたいこと
刑務所に入ると独居房ではないので、会話ができます。ほとんどが麻薬犯で中国では売人はほぼ死刑。次々と麻薬犯が運び込まれてきます。
長い幽閉生活での苦しい心境は短い紙面では語りきれませんが、日本は習近平体制を軽視してはならず、しかも、あまりに低姿勢で臨むことも避けるべきだと、今こそ日本人に訴えたいとおもいます。まず、本来、対等の国家の間なら国際法上当然である相互主義を貫くことを考えるべきです。不当な逮捕が続く以上、スバイ防止法にあたる法律を日本に滞在する中国人だけにでも運用することにして、交換することで、過激化する反日運動に対抗すること。日本で問題になっている中国人の水や土地の買い占めも、中国では中国人は借地しか許されないのですから、日本でも中国人には借地しか許さないという態度を示すべきです。
良心的な態度をとれば、相手も良心的になるというのは、かつて鄧小平や改革路線を走っていた中国には通用しましたが、独裁、そして院政をめざす習近平には通用しません。

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日本では習体制に揺らぎが出たとか失脚したとか噂が乱れ飛んでいますが、あまり信用しない方がいいと思います。たしかに、彼には後継者がいな上に経済不況の問題もあるので、基盤が甘くなっているのは事実です。しかし、それは後継者が存在せず、また習が属する太子党(中国共産党幹部の子弟のグループ)が減ってきたために、行使できる権力に綻びがではじめているだけで、中国の軍事大国化、覇権主義は変わらないと思います。
一帯一路戦略、上海機構戦略など、習体制の考える世界戦略は人権無視の可能性があることを、日本人は、被害者すべてが主張すべきであり、外務省は積極的にその擁護をすべきだと思います。ですから、私はたった一人でも、中国の非道を訴え続けるつもりです。