「イプシロンS」再地上燃焼試験の爆発、JAXAが原因を絞り込み–5分の1スケールのモータで試験へ【秋山文野】

JAXAは、2024年末から調査中の「イプシロンS」ロケット2段モータの再地上燃焼試験で発生した燃焼異常に関する調査状況を9月10日に発表した。

目指していた部品の回収が進展し、原因がかなり絞り込まれてきた状況だ。爆発で損傷した種子島宇宙センター内の設備復旧についても2025年末との見込みが示されている。今後は2段モータの小型モデルで不具合を再現する試験を進め、場合によっては実物大モデルでの試験も行う予定だという。

種子島宇宙センター竹崎展望台屋上から撮影した試験画像(Credit : JAXA)

一部報道で示された2段モータを強化型イプシロンで使用していた従来型に戻すとの方向性はオプションの中に入ってはいるものの、決定事項ではないという。

徐々に明らかになってきた燃焼異常の原因

「Epsilon S(イプシロンS)」ロケットとは、2022年まで6機を運用した「イプシロン」および「強化型イプシロン」ロケットを継承する小型固体ロケット。1段はH3ロケットの固体ロケットブースター「SRB-3」と推進薬を共通化し、2段モータは従来のモータ(M-35)から推進薬を3トン増量し大型化した「E-21」を開発中だった。イプシロンS以降は、運用をJAXAからIHIエアロスペースへ移管し、同社の打上げ輸送サービス事業の機体となる計画だった。

2024年11月26日、JAXA種子島宇宙センターで実施された地上燃焼試験中に新型2段モータ「E-21」が爆発炎上するというトラブルが発生した。2段モータのトラブルは2023年の秋田県能代市での試験中に発生した爆発に続いて2回目で、イプシロンSロケットは2024年度中の打ち上げ開始を断念し、不具合の原因と対策の追求に専念することになった。

実証機に搭載する予定だったベトナム向けの地球観測衛星「LOTUSat-1」は当面は打ち上げを見合わせることになり、続いて搭載予定だったJAXAと千葉工業大学が進める小惑星探査機「DESTINY+」はイプシロンSからH3ロケットに変更され、2028年度に打上げられることになった。

第2段モータ再地上燃焼試験の際の記録画像。出典:2025年8月22日「イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況」より

不具合が発生した際の時系列データ。出典:2025年8月22日「イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況」より

2024年11月の2段モータの再地上燃焼試験では、点火後約17秒から燃焼圧力が予測値よりも高くなり始め、約48.9秒の時点で予測値よりもおよそ1メガパスカル高い7メガパスカルの値になった後に、49.3秒で圧力が急に下降して爆発にいたった。爆発はノズルなどが取り付けられた2段モータの後方ドーム側で起きたと考えられており、爆発で飛散した部品をできる限り回収して、分析から原因特定につなげることが目標だった。

2025年2月の経過報告以来、約半年ぶりとなる説明会では、井元隆行プロジェクトマネージャがモータケースの後方の口元部を補強し、ノズルを取り付ける部分の一部であるリング状の金属部品「ボス」を回収したと報告した。ボスはノズル付近で不具合の際に何が起きたのか分析に必要だといい、ノズル周辺の部品がどのような順番で爆発時に外れていったのか、という考察を進めることができた。部品が脱落した順番や熱による損傷の前後関係を整理した結果として、「約48.9s時点でのリーク・破壊の起点は後方ドーム部分破孔による可能性が高い」ということが明らかになってきた。

型モータケースを製作した破壊試験。出典:2025年8月22日「イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況」より

実際に発生した事象を確かめるため爆発の再現試験が行われ、小型の試験用CFRP製モータケースに意図的に孔を開けて水圧をかけ、破壊させる試験を行ったという。試験結果の写真では、孔から亀裂が広がってCFRPの繊維がバラバラにほぐれ、ボスが脱落した破壊プロセスを再現することができたといい、同様のことが実際にモータケースでおきた可能性があるという。

モータケースを破壊し爆発を起こすきっかけになった圧力の上昇の原因は、固体推進薬が燃焼してモータケース後方に達した際、モータケース内側の断熱材シート(インシュレーション)に孔があき、熱でモータケースの樹脂が溶けて燃焼ガスが漏れ、モータケースを破壊して爆発に至った可能性が考えられるという。

5分の1スケールの小型試験用モータで調査へ

今後は、推進薬とモータケースの間のそれぞれのインシュレーションや端の折り返し部分(ブーツフラップ)などがどのように焼けて破壊に至ったのかを解明することが目標になっている。

新型2段モータの「E-21」と旧型の「M-35」をそれぞれ模擬したおよそ5分の1スケールの小型の試験用モータを製作し、複数のパターンでインシュレーションの焼け方を調査する試験を行うという。小型モータの試験で原因が判明すれば対策の段階に進むが、必要があれば実機と同じサイズのE-21を製造して試験を行うことも検討中だ。

種子島の試験設備は復旧の目処がついた。出典:2025年8月22日「イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況」より

今後のイプシロンSに関する開発試験は、種子島宇宙センター内の試験設備が2025年内に復旧完了の見込みがたったため引き続き種子島で行う。2023年の爆発で損傷した秋田県能代市の真空試験設備の復旧は2027年度になる見込みだという。

今後の開発スケジュールは?

気になる今後のイプシロンS開発スケジュールだが、JAXAの岡田匡史理事によれば、E-21の開発をいったん据え置いて従来型のM-35に差し戻し、打ち上げを行うことも選択肢に入っているという。ただしこれは現時点での決定ではない。また、小型模擬モータによる試験は早ければ2025年度内に終わる可能性があるというものの、そのことから2025年度中にイプシロンS実証機が打上げられる可能性はほぼないということになる。

再地上燃焼試験の原因が2段モータケースの後方ドームと絞り込まれてきたことは調査の進展を示すものの、2023年の最初の地上燃焼試験とは異なる場所で不具合が発生していることから、対策にも時間や手間がかかる可能性もある。

これまで宇宙基本計画工程表に記載されていたイプシロンSロケットの予定は、ベトナム向けの地球観測衛星「LOTUSat-1」(イプシロンS実証機、)革新的衛星技術実証4号機:イプシロンS(2号機または3号機)、深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」(イプシロンS 2号機または3号機だった。DESTINY+については、すでにH3ロケットに載せ替えて2028年度に打上げることが決定している。革新的衛星技術実証4号機は、2026年度の後半またはそれ以降になる可能性もある。

これまでJAXAが民間の宇宙技術実証機を取りまとめ、イプシロンロケットで宇宙での性能確認の機会を提供してきた革新的衛星技術実証プログラムは、「JAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS)」に再編されることとなった。

「採択済み案件については、JAXA-STEPSにて適切にフォローする」(2025年8月22日「小型衛星に関する新プログラム『JAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS)』について」より)との方針ではあるものの、どのようなフォローがあるのか、イプシロンS以外のロケットの利用もありうるのかといった点は不透明だ。小型衛星の技術を「クイックかつタイムリーに実証を繰り返し行う」という目標が揺らいでいる現状となってしまっていることからも、イプシロンSの対策、原因究明と打上げを待つ実証機へのフォローは平行して進めるべきではないかと思える。