「残業キャンセル界隈」を肯定する会社の実態

(写真: foly/PIXTA)
就活生のニーズは「残業ゼロ」
みらいパートナーズ、そしてロジックスサービスは、もともと残業の多い会社でした。私たちが手掛ける物流やBPOサービスは労働集約型ビジネスであり、社員に長く働いてもらったほうが売り上げは上がります。また、かつては社員のほうも残業代目当てで進んで残業していました。労使の思惑が合致して、残業が月40時間程度に達していました。
【画像でわかる】残業キャンセルの効果は?残業代の補填もした結果
しかし、2010年代に入るとワークライフバランスを重視する風潮が強まり、社会の空気が徐々に変わってきました。決定的だったのは、某大手広告代理店で起きた過労死事件。あれ以降、「長時間労働は悪」という常識が世間に定着しました。
就活学生が企業に求めるものも変わりました。かつては、「少しでも初任給がいいところに勤めたい」「中小企業でも将来性があって安定している会社がいい」というように、経済的に豊かになれるかどうか、将来も経済的に不安なく暮らせるかどうかが関心事でした。
しかし今は違います。
「お給料はそこそこでいいから、ハードじゃない職場がいい」
「残業が少なくて、休みも取りやすい会社がいい会社だ」
「基本がリモートワークで、満員電車に乗らなくて済む会社がいい」
このように自分に合った働き方ができるかどうかに焦点が移っているのです。
そうした状況に対する危機感から、2021年に「残業ゼロ」を宣言し、それを我が社の魅力として打ち出すことにしました。
働きやすい職場であることをアピールするにしても、「残業ゼロはやりすぎ」と考える方もいるでしょう。実際、働き方改革を進めているまわりの会社を見ても、「残業月10時間以内」のところがほとんどです。
しかし、世間の「働きやすい会社」と同じ水準では差別化になりません。就活生はほぼ、みらいパートナーズという存在を知らないので、思い切って残業ゼロを目指すことにしました。やりすぎだから意味があるのです。
実際、採用活動で残業ゼロを打ち出してから、就活生の食いつきがガラリと変わりました。実はコロナ禍で残業はかなり減っていたのですが、「残業月数時間」と「残業ゼロ」ではインパクトが違う。残業ゼロを打ち出した2021年は、応募数が前年比で165%に増えています。
なかには、信じられずにわざわざ本社に確認に来る学生がいるほどでした。残業ゼロは、就活生に強い印象を残します。まさに最強の採用戦略です。
「残業ゼロ」で既存の社員も幸せになる
残業ゼロに魅力を感じるのは就活生ばかりではありません。残業があたりまえだった既存の社員も、残業ゼロ達成後はイキイキとしてきました。
趣味に充てられる時間が増えて喜んでいる社員もいれば、家族と過ごす時間が増えて幸せそうな社員もいて、残業ゼロを決断して本当に良かったと感じています。
どう見えるのかはおまえの主観じゃないかと言われそうなので、データを載せておきます。
残業ゼロに取り組む前の2020年は、社員の離職率は20%でした。残業ゼロを達成した2021年は15%、そして直近の2025年は5%と、改善傾向にあります。エンゲージメントスコアも向上しています。

(出所)『残業ゼロのすごい仕組み』
離職率やエンゲージメントスコアは社員の幸福度を直接示すものではありませんが、社員が「会社のせいで自分の人生が犠牲になっている」と感じていたら低水準のままであるはずです。数値が改善しているのは、残業ゼロが社員の人生に何らかのポジティブな効果をもたらした結果だと考えていいのではないでしょうか。
大幅ベースアップで残業代ゼロを損失補填
残業ゼロを目指すにあたって不安なことが一つありました。残業代目当ての社員が困らないかという点です。昨今の社員はお金より働きやすさを優先する傾向があります。しかし、全員がそうだとは限らないし、働き方をより重視するというだけであり、賃金は安くてもいいと考えているわけではありません。残業ゼロで手取りが減ることを嫌って、辞めていく社員がいるのではないかと心配だったのです。
結果をいうと、残業代がなくなったことを理由に退職した社員が一人だけいました。予想していたより少なかったですが、そもそも人材戦略で残業ゼロを打ち出したことを考えると、社員の退職はやはり複雑な思いでした。
賃金を重視する社員にも残業ゼロを受け入れてもらうにはどうすればいいのか。答えは一つ。残業代がなくなる穴埋めとして別の形で賃金を増やすしかありません。そこで決断したのがベースアップ月2万円です。
みらいパートナーズは以前からコツコツとベースアップをやってきました。ただ、その額は数千円レベルであり、残業ゼロの穴埋めになるものではありませんでした。新たな退職者を出さないためには、インパクトのあるベースアップが必要です。
そう考えて、24年は中小企業平均の2倍近い1万9000円、翌25年は月2万円のベースアップを実現しました。

(出所)『残業ゼロのすごい仕組み』
これ一発で手取り減をすべてカバーできるわけではありません。しかし近い水準でベースアップを続けていけば、数年で手取りは以前より多くなるはずです。残業がなくなって月々のお給料が増えるなら文句はないでしょう。
生産性を高めれば残業ゼロでも昇給できる
経営者として頭が痛かったのはベースアップの原資です。残業をゼロにすれば仕事の処理量が落ちて売り上げは下がります。社員の基本給を引き上げるのはいいのですが、売り上げが下がるのにベースアップすれば利益が減って赤字になりかねない。
ただ、これは杞憂でした。残業ゼロにしても売り上げは減るどころか増えたからです。
振り返ると、残業が許されていたコロナ前は、社員も残業することを前提にして余裕のあるスケジュールを組んでいました。その気になれば8時間で終わる仕事を、9~10時間と見積もって取り組むのです。
手を抜きたい、サボりたいという気持ちがあったわけではないでしょう。おそらく、自分が本気になれば8時間で終わらせることができると気づいていなかっただけだと思います。いずれにしても、結果として遊んでいたことは事実であり、残業禁止にしても同じ量の仕事をこなせました。
残業ゼロでアウトプットを出すには
また、残業ゼロ宣言を機に、現場で改善を積み重ねる、AIをはじめとしたデジタル活用を行う、仕事を捨てるなど生産性を高めるさまざまな施策を打ったことも大きかった。社員が働く環境をしっかりと整えれば、短い時間でも大きなアウトプットを出すことができます。
そのためには、経営トップが残業ゼロにするとコミットすること。当社は残業ゼロを宣言して取り組んだ結果、半年後に定時で帰れるようになりました。
残業ゼロは体力に余裕がある大企業のもの――というのは思い込みです。中小企業でも、工夫しだいで残業をなくして社員や就活生に魅力のある職場へと変貌させることはできるのです。