トランプは「左派のせい」と主張するが...トランプ政権誕生後、米で政治的暴力が倍増した理由

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>, 60年代並みの暴力の蔓延, 暴力容認に傾く世論, 憎悪と怒りの連鎖が

トランプは「左派のせい」と主張するが...トランプ政権誕生後、米で政治的暴力が倍増した理由

2024年米大統領選でトランプ支持の熱弁を振るったカーク REBECCA NOBLE/GETTY IMAGES

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>

暗黒の時代を今日で終わらせるか、それとも「もっと暗い時代の始まり」とするか、選ぶのは私たち自身だ──米ユタ州のスペンサー・コックス知事(共和党)は9月12日にそう訴えた。2日前には州内の大学で開かれた討論集会で、31歳の保守系活動家チャーリー・カークが狙撃され、死亡していた(カークはドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者だった)。

だが悲しいかな、この国の政治的暴力に詳しい識者の多くは、既にアメリカは危険な新時代に突入したと警告している。下手をすれば多くの政治家が暗殺された1960年代の再来であり、早急に手を打つ必要があると。

シカゴ大学の政治学部教授で同大学の「安全保障と脅威プロジェクト(CPOST)」を率いるロバート・ペイプによれば、今のアメリカでは左右を問わず「政治的暴力に対する支持が高まっている」。

去る6月14日にミネソタ州の州議会議員2人(いずれも民主党)が銃撃され、うち1人とその配偶者が死亡したとき、ペイプはニューヨーク・タイムズ紙に寄稿して「アメリカ政治は極めて暴力的な時代に突入する瀬戸際」にあると警告していた。

「その警告がついに現実となった」。ペイプはそう語り、今のアメリカは「暴力的ポピュリズムの時代」を迎えており、「右派と左派の両方における政治的暴力の激化」が顕著だと指摘した。

ここ数年、アメリカでは深刻かつ派手な政治的暴力行為が頻発し、民主党と共和党双方の政治家が狙われてきた。まずは2021年1月6日にトランプ支持派による連邦議会議事堂襲撃があった。翌22年には保守派の最高裁判事ブレット・キャバノーに対する暗殺未遂と、当時の下院議長ナンシー・ペロシ(民主党)の誘拐未遂があった(サンフランシスコの自宅に男が侵入し、夫が負傷した)。

24年7月には大統領選で遊説中のトランプが銃撃され、耳にかすり傷を負った。同年12月にはニューヨークのど真ん中で医療保険大手ユナイテッドヘルスケアのCEOが射殺された(左派の一部には容疑者ルイジ・マンジョーネを英雄視する向きがある)。

まだ数カ月を残しているが、今年も格別に暴力的な年となりそうだ。メリーランド大学のテロデータベースによれば、今年上半期に国内で起きた政治的動機による暴力行為は約150件で、前年同期の倍近くとなる。

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>, 60年代並みの暴力の蔓延, 暴力容認に傾く世論, 憎悪と怒りの連鎖が

カーク殺害の容疑で逮捕されたタイラー・ロビンソン UTAH DEPARTMENT OF PUBLIC SAFETYーREUTERS

60年代並みの暴力の蔓延

4月にはペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事(民主党)の公邸に火炎瓶が投げ込まれた。放火と殺人未遂の罪で起訴された容疑者は犯行の動機として、ガザ戦争に対する知事のイスラエル寄りの姿勢を挙げている。

5月には首都ワシントンでイスラエル大使館員2人が射殺された。検察は、イスラエルへの憎悪が犯行の動機だったと主張している。

そして6月には前述のようにミネソタ州議会のメリッサ・ホートマン議員(民主党)と夫が銃撃されて死亡。犯人は同じ民主党のジョン・ホフマン議員夫妻も襲ったが、両人とも一命を取り留めた。

「21年1月から今日までの事態に匹敵するほど政治的暴力が激化したのは1960年代だけだ」と指摘するのはアメリカン大学「環境・コミュニティー・公平性センター」の社会学者ダナ・フィッシャー教授。彼女によれば、今年はマーチン・ルーサー・キング牧師とロバート・F・ケネディ上院議員が暗殺された68年に不気味なほど似ている。

9月10日に殺されたチャーリー・カークはトランプの盟友で右派の活動家。特に保守的な若年層の間では人気者だった。ユタ州のコックス知事はカーク殺害の容疑者を「左派的イデオロギーの持ち主」と呼んだが、捜査は継続中で動機の解明が待たれている。

しかしトランプ政権は、事件を受けて早速「急進左派」を非難し、左派系団体の調査に乗り出すと宣言した。アメリカ社会の権威主義化が進むなか、民主党は異論の弾圧や言論の自由への侵害だとして警戒を強めている。

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>, 60年代並みの暴力の蔓延, 暴力容認に傾く世論, 憎悪と怒りの連鎖が

カークが射殺された後のユタバレー大学の討論イベント会場(ドローン撮影、9月11日) CHENEY ORRーREUTERS

トランプ政権は、政治的暴力が生まれる要因はもっぱら左派にあると主張しているが、暴力をあおる発言を繰り返してきたのはほかならぬトランプ自身だと批判する声もある。

今回の事件に関してとりわけ露骨な発言を行っているのは、カークと親しかったJ・D・バンス副大統領だ。9月15日にはカークのポッドキャスト番組で故人の代わりにホスト役を務め、「われわれの陣営にもクレイジーなやからはいるが、今のアメリカ政治で狂信的な連中の大半が極左の仲間だというのは統計的な事実」と言い放った。

だがバンスの主張を裏付けるデータはなく、現実はそれほど単純ではない。アメリカで政治的暴力を支持し、あるいは行使している人の背景は驚くほど多様だ。

暴力容認に傾く世論

保守系シンクタンクのケイトー研究所が9月11日に発表したところでは、米国内でテロリストによる攻撃で殺された人は20年以降だけで79人。その加害者の「半数以上は右派のテロリスト、21%がイスラム過激派、22%が左派、1%は不明またはその他の動機によるもの」だという。

こうしたデータがあるため、アメリカでの近年の政治的暴力をめぐる議論は、極右や白人至上主義団体を中心に語られることが多い。21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件に極右団体が関与していたこともあり、警察やFBIは政治的暴力への懸念を強めていた。

そもそもアメリカの政治的暴力の歴史は長く複雑で、関与する側の動機や思想は時代とともに変化している。そうであるなら、この問題を単純に白か黒か、右か左かで論じるのは危険だ。シカゴ大学のペイプが言うように、「今は歴史的に見ても政治的暴力が多い時代で、右派も左派も等しく標的にされている」。

世論調査では一貫して、米国民の大多数は政治的暴力に反対し、重大な脅威と見なしている。だが研究者は近年の傾向として、政治的暴力を容認する新たな世論の動きに懸念を示している。そうした傾向は左派にもある。

「歴史的に政治的暴力を支持するのは、ほぼ例外なくイデオロギー的な右派で、この8年余りもそうだった」とアメリカン大学のフィッシャーは言う。しかし第2次トランプ政権の発足と既存の政治制度への不信の高まりを背景に、左派の間でも政治的暴力に対する見方が変わってきた可能性があると指摘する。

フィッシャー率いるチームは今年、連邦政府による学術研究費減額などに反対する「スタンド・アップ・フォー・サイエンス(科学のために立ち上がれ)」や反トランプを掲げる「ハンズ・オフ(手を引け)」「ノー・キングス(王はいらない)」など複数の大規模抗議デモの参加者を対象に調査を実施。その結果、「左派の間で政治的暴力への支持が増えている」ことが明らかになったという。

3月に開かれた「スタンドアップ・フォー・サイエンス」の集会では参加者の35%が「ここまで状況が悪化すると、暴力に訴えなければ国を救えないかもしれない」との見解に賛成した。過去の調査を上回る数字だ。6月に開かれた「ノー・キングス」の集会では参加者の40%が同様の見解を示したという。

この結果を踏まえ、フィッシャーは「アメリカ社会の抱える問題はあまりにも根が深く、もはや民主主義では解決できないから暴力に訴えるしかないという感覚が確実に広まっている」と語った。

憎悪と怒りの連鎖が

一方、ペイプの率いるCPOSTも4年以上前から、政治的暴力に対するアメリカ国民の支持率を調査してきた。5月に実施した最新の調査では、右派と左派の双方で政治的暴力に対する支持率がこれまでで最高だったという。

ペイプによれば、「民主党支持者の39%が『トランプを大統領の座から排除するためなら力の行使も正当化される』との見解に同意」した。しかも回答者の55%は「力の行使」に暗殺または致死的な暴力の行使が含まれると考えていたという。ちなみに共和党支持者の24%は「民主党の抗議活動を抑え込むためなら軍隊の投入も正当化される」という見解に賛成している。

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>, 60年代並みの暴力の蔓延, 暴力容認に傾く世論, 憎悪と怒りの連鎖が

6月にはミネソタ州議会のホートマン議員とその夫が射殺された STEVEN GARCIAーNURPHOTOーREUTERS

<近年、アメリカでは「暴力による変革」を認める空気が広がっている>, 60年代並みの暴力の蔓延, 暴力容認に傾く世論, 憎悪と怒りの連鎖が

21年1月にはトランプ支持者が連邦議会議事堂を襲った JOEL MARKLUNDーBILDBYRANーREUTERS

またCPOSTが01年から24年の間に起きた連邦議会議員への脅迫事例(法的に訴追された事例のみ)を調べたところ、トランプ第1次政権誕生の17年以降は年間の発生率が5倍に増えていた。脅迫のターゲットにされた共和党議員と民主党議員の比率はほぼ同じだったという。

カーク殺害や政治的暴力に関するバンス副大統領の発言を深く憂慮するペイプは、バンスと彼のスタッフにCPOSTの一連の調査やデータを「ぜひとも」説明したいと述べた。01年の9・11米同時多発テロ以降、一貫して米政権(第1次トランプ政権も含む)に政治的暴力にまつわる諸問題についての助言を行ってきたペイプは、政治的暴力についての「さらなる議論」が必要だと強調した。

この先の展開を憂えるペイプは筆者に、今のアメリカでは「一方の陣営にある悲しみや恐怖、怒り」が転化して「さらなる暴力」を呼び、模倣犯による犯行を招く可能性があると指摘した。

「今ここにある大きな危険、それは暴力の連鎖だ」とペイプは言う。「左派と右派の双方で政治的な暴力が連鎖的に拡大し、双方の状況がますます悪化しかねない」

では、今の政治家やメディアに望むことは何か。ペイプはこう答えた。「右も左もない、とにかく頭を冷やしてくれ」。そう、敵意をあおる言動はもってのほかだ。

From Foreign Policy Magazine

ジョン・ハルティワンガー(フォーリン・ポリシー誌記者)