トランプ氏の「政敵訴追」圧力、神経とがらす米司法省

トランプ大統領はボンディ司法長官に対し、政敵を起訴するよう公然と圧力をかけている
【ワシントン】パム・ボンディ米司法長官が22日、バージニア州東部地区の新たな連邦検事を宣誓就任させた時、それは米法執行当局の最高責任者の日常的な行為ではなかった。
それは、ドナルド・トランプ米大統領が自身の政敵をより積極的に標的にするためにエスカレートさせている圧力を強める取り組みで、最新の動きを示すものとなった。トランプ氏が自身の政敵らの訴追をボンディ長官に求めていることは、彼女を苦境に立たせるとともに、一部の現・元同省当局者たちに警戒感を抱かせた。彼らは米司法省の信頼性が修復困難となるような形で脅かされると指摘している。
トランプ氏は19日、バージニア東部地区のエリック・シーバート連邦検事を解任した。シーバート氏は、保守的な経歴を持つベテラン検察官で、ボンディ氏の支持を受けていたが、ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官の住宅ローン詐欺疑惑について、同長官を起訴できていなかった。ジェームズ氏は疑惑を否定している。トランプ氏は20日、自身の元個人弁護士の1人であるリンジー・ハリガン氏を、シーバート氏の後任に起用した。ハリガン氏はキャリアの大半を保険法専門の弁護士として過ごし、今年に入ると、スミソニアン博物館の展示内容をトランプ氏の米国史解釈と合致させるための見直しを監督する大統領特別補佐官に選ばれた。
トランプ氏は先週末の一連のコメントで、ジェームズ氏や連邦捜査局(FBI)の元長官ジェームズ・コミー氏ら、主要な敵対者の訴追に関してボンディ氏が行動を起こしていないことに疑問を呈した。それ以降、ボンディ氏はこの問題について公の場で発言していない。ボンディ氏は司法省の本庁舎でハリガン氏を宣誓就任させ、ハリガン氏は彼女が新しく運営することになった部局と連絡できるよう、コンピューターアクセスを急いで確保することに午後の時間を費やした。
注目度の高い国家安全保障案件を扱うことで知られるバージニア州東部地区の事務所に勤務する弁護士らは22日、非公式に、自身の職務に対する不確実性を口にするとともに、同事務所が根拠の乏しい案件を急いで取り上げるよう強いられる恐れがあるとの懸念を表明した。一部の弁護士は元同僚に助言を求め、弁護過誤の訴えに備えて保険に加入するよう助言された。
最も時間切れが迫っているのは、コミー氏に対する捜査だ。トランプ氏が大統領に返り咲いた後、司法省は2016年の米大統領選へのロシア介入疑惑にトランプ氏が関与した可能性を巡りFBIが以前に行った捜査に関し、コミー氏が20年の議会証言で偽証したかどうかについて捜査を開始した。この案件に適用される公訴時効は5年で、間もなく成立する。事情に詳しい関係者らによると、シーバート氏は起訴に足る問題はないと考えていると同僚に伝えていたという。

ハリガン氏はキャリアの大半を保険法専門の弁護士として過ごした
トランプ氏は20日、ボンディ氏に宛てたソーシャルメディアへの投稿で、ジェームズ氏、コミー氏のほか、トランプ氏と長年敵対するアダム・シフ上院議員(民主、カリフォルニア州)に対する訴追の遅れにより「われわれの評判と信用が失墜する」と述べた。
トランプ氏はその後、記者団に対し、「私は関係者に行動してほしいだけだ。彼らは行動しなければならない。そしてわれわれは迅速に行動したい」と語った。
ジョージ・W・ブッシュ元大統領の政権で司法長官代行を務めたピーター・カイスラー氏は、トランプ氏は「司法省の全職員に対して、職務遂行の際にこの種の要求に抵抗する者は解雇の危険にさらされることを明確に示している。それは公正な刑事司法制度の運営にとって有害だ」と語った。
トランプ氏が推し進める訴追に加えて、同氏のあからさまな圧力を加える取り組みは、他の捜査が正当な理由で進められているという信頼を損なう可能性がある、とカイスラー氏は述べた。
たとえトランプ氏が規範の破壊で知られる大統領だとしても、ボンディ氏に公然と指示したことは、司法省がウォーターゲート事件後に順守してきた独立性確保のためのルールを損なうものだ。同事件は、司法省にとっても大きなスキャンダルとなった。
1973年の「土曜の夜の虐殺(ウォーターゲート事件に絡んだ捜査関係者の集団辞任・解任)」の際には、リチャード・ニクソン大統領がエリオット・リチャードソン司法長官とその部下に、事件の捜査を担当していた特別検察官の解任を要求し、リチャードソン氏らはこれに反発して辞任した。リチャードソン氏らは、政治的介入から特別検察官を守ると約束していた。
司法省はその後何年もかけて、同省への信頼を回復するための一連のルールを成文化してきた。その中には、司法省が行う捜査に関する同省とホワイトハウスの接触の制限も含まれていた。
歴史家でウォーターゲート事件に関する著書を最近出したギャレット・グラフ氏は、トランプ氏の圧力行使について「古いガードレールはすべて取り去られた」と語った。

一部の現・元司法省当局者らは、トランプ大統領の下での同省の信頼性を巡り懸念を表明している
トランプ氏の支持者らは、彼の行動は報復を意図したものだと見ている。トランプ氏の個人的活動に対する長年の捜査が不当で行き過ぎたものだと受け止めているため、こうした報復が正当化されると考えている。彼らは、ボンディ氏らが主導する取り組みについて、法執行分野の政治化を排除するものであり、政治化を図るものではないと捉えている。
トランプ氏は、大統領1期目退任後に4件の刑事事件で訴追された。そのうち2件は、ジャック・スミス氏が特別検察官だった時に行われた。スミス氏は、連邦法に違反したとして23年にトランプ氏を起訴したが、トランプ氏の大統領再選後に起訴を取り下げた。
民主党員のジェームズ氏は、18年にニューヨーク州司法長官に立候補した際、当選すればトランプ氏にとって「嫌な存在」になると表明するなど、反トランプの立場を鮮明にしていた。彼女はその約束を実行に移し、トランプ政権を相手取って約100件の訴訟を起こした。ジェームズ氏は、トランプ氏が大統領1期目を終えた後、トランプ氏と彼の会社が金銭的利益のために資産価値を虚偽申告したとして、民事訴訟を起こした。その後の裁判でいったんはトランプ氏の責任が認定されたが、最近行われた控訴審では、5億ドル(約740億円)超の罰金を科すとしていた当初の判決が覆された。
コミー氏は、FBIがロシア介入疑惑の捜査を開始した際の長官だった。ここからロバート・モラー特別検察官の捜査が始まり、1期目のトランプ政権は苦しめられた。トランプ氏は就任から数カ月でコミー氏を解任した。モラー氏は、トランプ陣営が16年の大統領選を妨害するためにロシアと共謀したことを立証する証拠は不十分だと結論付けたが、同陣営とロシア人が接触した幾つかの事例の詳細を明らかにした。
ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は22日、トランプ氏が「不満を抱くのも当然だ。トランプ氏はこうした腐敗した詐欺師たちが説明責任を負うことを望んでいる。彼らは権力を乱用し、就任宣誓を悪用して、前大統領でその後大統領候補になった人物を標的にした」と述べた。
コミー氏とジェームズ氏の代理人はコメントの求めに応じなかった。
トランプ政権1期目からの古参の司法省職員らは、現在の政治力学は彼らが経験したものとは違うと指摘する。当時は、大統領の最も過激な要求に対して当局者は総じて抵抗するか、一時的にでも大統領をなだめることができたという。
18年に当時のジェフ・セッションズ司法長官は、ホワイトハウスに対し、モラー特別検察官を監督していたロッド・ローゼンスタイン副長官を解任しないよう求め、トランプ氏がローゼンスタイン氏を解任することはなかった。20年にはウィリアム・バー司法長官が、大統領選での不正に関するトランプ氏の根拠のない訴えに対応するのを拒んだ。司法省幹部らは、バー氏が長官を辞任したのに伴い当時長官代行を務めていたジェフリー・ローゼン氏をトランプ氏が解任するなら、集団で辞職するとの構えを見せた。
トランプ政権1期目に司法省報道官を務めたサラ・イスガー氏は「当時の幹部は経験豊富で、連邦検察官および司法省の適切な役割についての共通認識を持っていた」と述べた。