登山で遭難「電波が悪く、紙の地図を持てばよかった」 プロが呼びかけ「スマホ地図」頼みを避けるべき深刻な理由

「Googleマップ」など、「スマホ地図」を頼りに山を登る人が増えた。だが、スマホ地図はもしもの時に頼りにはならない。専門家は「地図」への理解を呼びかける。
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■電波が悪くスマホ地図見られず
9月15日、鳥海山(山形・秋田県境)で東京都在住の男性と山形県在住の小学生2人が道に迷って遭難し、翌朝になって無事救助された。3人は親族で、下山途中まで一緒だったという児童の父親は、新聞の取材に、こう語った。
「一本道で迷わないと甘く見ていた。電波が悪く、スマホの地図が見られないことがあった。紙の地図を持てばよかった」
下山ルートが「一本道」というのは誤りで、実際には分岐がいくつもある。遭難した男性らが鳥海山に登るのは初めてだった。迷った地点は幅広い尾根のくぼんだ場所で、遭難時は霧が濃く、見通しがきかなかった。3人は風の当たらない場所で一夜を過ごしたという。
■山は「圏外」と思え
「あとひと月遅かったら、気温が下がり、危なかったでしょう」
東京都山岳連盟「おくたま登山学校」委員会委員長の松本圭司さんは、そう指摘する。
道に迷った男性が頼ろうとしたのは、「Googleマップ」「Yahoo!マップ」などの「スマホ地図」だった。
「スマホ地図は常に電波が受信できることを前提に作られたものです」と、松本さんは説明する。
スマホ地図は基地局からの電波を受信して画面表示の更新を繰り返すが、電波が途切れると、地図は表示されなくなってしまう。ふもとの町が見える山頂や尾根にいれば、遠い基地局と電波がつながることもある。しかし、見通しの悪い沢筋の登山道は電波が遮られ、つながらないことが多い。
「山は基本的に圏外になると考えたほうがいい。つまり、スマホ地図は見られなくなることが多い。最近は、紙の地図やヘッドランプなどの基本装備を持たず、街を歩くのと同じ感覚で山に登る人が増えていると感じます」(松本さん、以下同)

■「道迷い」は山岳遭難の最多原因
警察庁によると、2024年の山岳遭難者数は3357人。最も多い原因は「道迷い」で、1021人(30.4%)が遭難した。
昔も今も、道迷いを防ぐ「地図」は登山の重要な装備の一つだ。近年は、事前にスマホに地図データをダウンロードしておけば、基地局からの電波状況に関係なく地図が見られる登山用の「地図アプリ」も充実している。衛星からの電波をとらえるGPS機能を利用して、いつでも現在位置が表示される仕組みだ。
松本さん自身、「ジオグラフィカ」という地図アプリの開発者でもある。11年前に作り上げたこのアプリはユーザーや山岳救助隊などから要望を受けて、改良を重ねた。アプリのダウンロード数は100万を超える。
■地図アプリも「紙の地図」ベースに開発
松本さんは、登山学校で地図の読み方、「読図」を教えている。基本になるのは国土地理院が発行している「紙の地図」だ。大抵のスマホの地図アプリも国土地理院の地図をベースに作られているという。
紙の地図は広範囲の全体像を把握しやすく、登山道も表示されているため、登山計画を立てる段階から重宝する。書き込みができるのも利点だ。
「受講者には、まず地図上にある山頂を見つけてもらい、そこから等高線が膨らんでいるのが『尾根』、逆の場合は『谷』だと覚えてもらいます」
尾根と谷の位置関係がわかると、等高線の開き具合でこれから進んでいく先の地形がつかめる。等高線が詰まっていれば、崖などの急斜面だ。滑落など遭難のリスクも把握できる。
■位置情報を自動送信
山に登る際は、紙の地図と、登山用「地図アプリ」を併用することが望ましいという。紙の地図を携帯していれば、スマホのバッテリーが切れたり、落として破損・紛失したりしても道に迷うリスクを軽減することができる。
「地図アプリ」ならではの大きなメリットもある。その一つが、アプリ会社の地図サーバーに定期的に登山者の位置情報を自動的に送る機能だ。電波が通じない場所では機能しないが、電波が届く場所に到達した時点で位置情報を送る。万が一、道に迷って遭難した場合でも、その情報をもとに捜索範囲を絞り込むことができる。
「救出できる可能性が上がるだけでなく、救出費用を抑えることができます」

■「低山」遭難で遺体発見まで数カ月
「位置情報」がない場合、行方不明になった遭難者を見つけるのは極めて困難だ。山中は茂みなどで見通しが悪く、大人数で捜索してもほんの十数メートル先の遭難者を見つけられないこともざらにある。
たとえば、奥多摩の本仁田山(1225メートル)は、東京近郊のいわゆる「低山」だが、今年、道迷いが原因と見られる遭難死亡事故が2件発生した。どちらも遺体発見までに数カ月を要している。1件はJRの駅から500メートルほどのところで「道に迷った」という通報があったが、その後、バッテリー切れで連絡がとれなくなった。この山で行方不明になって、いまだに発見されない登山者もいる。
山域にもよるが、民間会社に捜索を依頼した場合、日当は1人3万~5万円。10人で1週間捜索すると、数百万円の費用がかかる。山岳保険に加入していれば、約500万円を上限にカバーされるが、それを超えて自己負担で捜索するケースも少なくないという。
「道迷い遭難すると、捜索に莫大な費用がかかりますし、それを打ち切る際にも大きな決断が迫られる。家族の負担は大きい」
■予備バッテリーを備えるべき
遭難救助の際にもあると心強い「地図アプリ」だが、バッテリーが切れてしまえば、役に立たない。「予備のモバイルバッテリーは必須です」。軽くて、薄いものがいいという。安価なノーブランドのバッテリーは発火の恐れがあるため、避けたほうが無難だ。
充電ケーブルは断線する可能性があるので、短くてよいので、予備を持つことが必要だという。
「自分のスマホの防水性能も知っておくべきです。生活防水なのか、水没しても大丈夫な機種なのか。それによって、雨天時の保護の仕方が変わってくる」
思いつくまま、普段着で登山へ――。専門家が過去の事例を参照して、幾度も準備と対策を呼びかけても、迂闊な登山者は引きも切らない。
「山で小さな失敗をして痛い目に遭ったとしても、失敗の原因を確認すれば、次の登山に生かすことができる。けれども、些細なミスが原因で命を失うこともある。それが山の厳しさです。登山は『観光』とは異なることを認識してほしい」
(AERA編集部・米倉昭仁)