"聖地巡礼ブーム"先駆け「超名作三部作」はどこ?

「坂道のまち」尾道は、「映画のまち」でもあります(筆者撮影)
日本映画界の巨匠・大林宣彦監督。今年は、大林監督が惜しまれつつ82年の生涯を終えてから5年になります。
【写真】“聖地巡礼”の先駆けとなった《広島・尾道》の「泣きそうなくらい懐かしい」風景
そして、大林監督といえば、出身地でもある広島県尾道市とは切っても切れない関係で、同市を舞台にした数々の名作を遺しています。
そのうち、映画『転校生』(尾美としのりさん、小林聡美さん主演、1982年)、『時をかける少女』(原田知世さん主演、1983年)、『さびしんぼう』(尾美としのりさん主演、富田靖子さん出演、1985年)は「尾道三部作」と呼ばれ、今も愛されています。
ちなみに大林監督が「三部作」としたわけではなく、ファンが後からカテゴライズしたとのことです。
2025年は、『さびしんぼう』が公開され尾道三部作が“完結”してから40年になります。
「尾道三部作」から“聖地巡礼”は始まった
実は尾道は、「聖地巡礼」カルチャーの走りとなった街の1つでもあります。
『時をかける少女』公開後の1984年、同作で描かれた場所に立ちたい、映画に登場した路地を探したい、という20万人超の若者が現地を訪れました。この現象が日本における「ロケ地巡り」の先駆けといわれています。

今回の舞台地へは「JR尾道駅」から向かいます(筆者撮影)
大林監督は、これらの作品を通じて、いわゆる観光地的な風景とは異なる、尾道の坂道や路地など、何でもない風景をありのままに描き、「リアルな尾道」を伝えようとしました。
ファンは、旅行雑誌等に掲載されていたロケ地マップを片手に、このシーンはどこの路地が使われたのかを特定して訪れ、記念撮影を楽しんだといいます。40年経った現在でも尾道の路地はとても複雑で、筆者は紙のロケ地マップに加えてGoogleマップを片手に歩きましたが、それでも迷ってしまうほどです。

街のあちこちにある尾道名物の「坂道」(筆者撮影)
そして、それまであまり積極的にかかわってこなかった「ロケ地」側の自治体が、舞台地としての地域活性化の可能性に注目。結果として全国に広がっている「フィルムコミッション」のように撮影に協力しはじめたのも、この作品群と尾道市が最初といわれています。
その後、日本中でフィルムコミッションは増え続け、今では全国128カ所(ジャパン・フィルムコミッション加盟団体)となっています。広島県内には尾道以外にも広島市や福山市、三原市などに設置され、現在に至るまで多くの地域発映画が作られることとなりました。
『踊る大捜査線』シリーズなどで知られる本広克行監督は、2013年の大林監督との対談で、出身地の香川県について「大林監督に、故郷に恩返しするために“讃岐三部作”を撮りなさいと言われた」と語っています。
こうして『サマータイムマシン・ブルース』『UDON』『曲がれ!スプーン』の「讃岐三部作」が生み出されたのでした。
映画のまちに残る「レトロ商店街」
さて、尾道の話題に戻りましょう。同地はもともと「映画のまち」ということで、小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)に代表されるように、多くの監督やキャストに愛されてきました。

映画ファン垂涎ものの資料を展示している「おのみち映画資料館」(筆者撮影)
今でも、さまざまな名作の舞台となった場所が尾道には残っています。そのうちの1つが、数々の映画に登場したレトロな「尾道本通り商店街」です。
商店街沿いにかつてあった尾道ラーメンの名店「朱華園」の近くには、『東京物語』に登場した「中央桟橋」や「尾道市役所(現在はリニューアル)」があります。
その向かいにあるのが「おのみち映画資料館」です。ここでは、『東京物語』の撮影現場や小津監督について、貴重な映像や資料を見ることができ、「映画のまち尾道」を体感することができます。

レトロな雰囲気を醸し出す「尾道本通り商店街」(写真:まちゃー/PIXTA)
ロープウェイから望む「圧巻の世界」
そして、ロケ地尾道を語るうえで欠かせないのが、「坂道」です。
瀬戸内海から尾道を眺めると、海に迫る形でそびえる標高144.2mの「千光寺山」の山麓約2kmの間に、25にもおよぶ寺院が美しく立ち並ぶ姿があります。まさに坂道を彩る美しい光景です。
千光寺山にはロープウェイで簡単に登ることができます。

「千光寺山」の斜面を縫うようにいくロープウェイ(筆者撮影)
ロープウェイ乗り場の近くには、『時をかける少女』のロケ地として有名になった「艮(うしとら)神社」があり、尾道三部作でも取り上げられ、大林監督もよく利用したカフェ「茶房 こもん」も営業しています。

『時をかける少女」でヒロインが時をさかのぼった際にやってきた「艮神社」(筆者撮影)

大林監督も常連だったという「茶房 こもん」(筆者撮影)
ロープウェイは、『東京物語』の公開からまもなく1957年に開通。所要時間3分で、絶景の尾道の町と海を背に、千光寺の上空を通り山頂まで連れて行ってくれます。
展望台からは、2015年に日本遺産第1号に指定された「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」である尾道の街並み、そして尾道水道の向こう側にある向島(むかいしま)などを一望することができます。

ロープウェイから望む尾道の街並み(筆者撮影)
そして、千光寺から歩いて街に下る途中には、「文学のこみち」と呼ばれる散歩道があります。ここは志賀直哉の『暗夜行路』や林芙美子の『放浪記』など、数々の名作小説や詩歌の舞台となった場所で、歩いているだけでその世界に浸ることができます。

千光寺の展望台から見下ろす尾道の絶景(筆者撮影)
「日本一短い船旅」の先にあるのは…
現在の尾道は、四国に渡る「しまなみ海道」の本州側の出発点としても知られています。尾道から愛媛県今治市を結ぶ全長約60kmの一連の道路の総称で、いくつもの島をつないでいます。
尾道から出て最初に渡る島が、尾道水道の向かい側の「向島」です。サイクリストたちはこの尾道水道をフェリーで渡ります。
尾道から向島までの航路は全盛期9区間あったようですが、1999年の新尾道大橋開通などもあって徐々に数を減らし、現在は「駅前渡船(尾道駅前~富浜)」と「兼吉渡し(土堂~兼吉)」の2航路のみとなりました。
「兼吉渡し」は、「日本一短い船旅」として有名で、所要はわずか4分、運賃は大人100円です。尾道が舞台となっているNHKの連続テレビ小説『てっぱん』(2010〜2011年)にも登場しました。

「兼吉渡し」で右奥に見える「向島」へと向かいます(筆者撮影)
向島側のフェリー発着場(市営バスの兼吉バス待合所)の脇には、大林宣彦監督の新尾道三部作の1つ、映画『あした』(1995年)で「呼子丸の連絡船待合所」として使われたロケセットが設置されており、ここ向島がメインのロケ地であったことを気づかせてくれます。
もう1つの、駅前桟橋から向島(富浜桟橋)を結ぶ「駅前渡船」は、フェリーではなく旅客船で、自動車の積載はできません。筆者が利用したときは、高校生で満員でした。こちらも、乗船料金は大人100円です(自転車やバイクは手荷物運賃としてプラス10円)。

「兼吉バス待合所」は、『あした』では「呼子丸の連絡船待合所」として登場しました(筆者撮影)

『あした』で使われたロケセットが残っています(筆者撮影)
そして、尾道駅から電車で20分のところにあるのが、福山市です。「ばらの町福山」としても知られ、現代を代表するミステリー作家である島田荘司氏の出身地でもあり、同地を舞台にした作品も多くあります。

駅前に美しいバラが咲いていました(筆者撮影)
「のどかな港町」が登場する超人気アニメ
そんな福山の郊外、尾道との中間点にあるテーマパークが、「みろくの里」です。
ここにある、普段は非公開の「みろくの里セット村」は、映画『座頭市』(1989年)のロケセットとして作られたもの。その後も映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021年)など数々の時代劇のロケ地として利用されています。

『座頭市』のロケセットから始まり、現在はアトラクションも取り揃える「みろくの里」(写真:コニー/PIXTA)

昭和30年代の街並みを再現したエリアは一般でも入場できます(写真:コニー/PIXTA)
また、瀬戸内に面した美しい港町、「鞆(とも)の浦」は、JR福山駅前とあわせてハリウッド映画『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)のロケ地になりました(ただし、舞台設定は長崎県だったようで、「長崎」という名前のバス停が設置されていました)。
ちなみに同地は、スタジオジブリの映画『崖の上のポニョ』の舞台ではないかともいわれています。瀬戸内海に面したのどかな港町で、情緒ある街並みは確かに「ポニョ」に出てくる景色と似た雰囲気があります。

『崖の上のポニョ』の舞台ともいわれる「鞆の浦」(写真:まちゃー/PIXTA)
数々の名作の舞台となり、どこか懐かしさも感じる、尾道。それは作品を通して見てきた景色だからなのか、人生の中にある思い出と重なるからなのか。現地でぜひ体感してみていただきたいと思います。