<東京新聞 鉄道クラブ>ベテラン運転士も愛した「銀ガマ」 引退の今、ともに走ってきた人たちの思いは

<JR貨物・門司機関区ルポ>

 本州と九州を結ぶJR山陽線の「関門(かんもん)トンネル」は長さ3.6キロの海底トンネル。天井から漏る海水が中を走る車両にダメージを与えるため、国鉄時代、ここを通る電気機関車はステンレス車体にされた。

 そのうちただ1両残っていたEF81形303号機は、銀色の車体から「銀ガマ」と親しまれ、「日本一の人気者」といわれるほど。

 しかし、製造から半世紀が経過し、とうとう運用から外れた。所属する門司(もじ)機関区(北九州市門司区)を訪ね、ベテランの運転士や車両整備の技術者に国鉄機への熱い思いを聞いた。(嶋田昭浩)

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

「銀ガマ」と親しまれるEF81形電気機関車303号機=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 関門トンネルを抜けてすぐの門司駅から西へ歩いて10分ほど、博多や鹿児島方面へつながるJR鹿児島線の脇に電気機関車が数多く並ぶ車両基地がJR貨物の門司機関区。取材の約束をした9月4日は運悪く九州北部に台風が接近し、朝から雲行きが怪しくなった。

 「雨が降り出す前に…」と、あいさつを済ませすぐ構内へ。

 検査修繕を行う検修庫の前で、いきなり銀ガマと対面した。ほぼ直方体の箱型をした国鉄機。使い込まれながらもきれいに磨かれた銀色の車体は輝いて見え、緑の地に縁取りと同じ黄色の文字で「EF81 303」と記されたナンバープレートが映える。

 架線から電気を取り入れるパンタグラフは2つあるうち下関側が上げられており、今にも走り出しそうだ。

 実は、昨年9月4日、銀ガマは貨物列車をけん引中に鹿児島線の踏切で軽トラックと衝突。前面が損傷し廃車の危機に陥った。

 「こちら側の標識灯(尾灯)や手すりを交換しました」。検査修繕を担当する辛嶋隆昭・車両技術主任(40)が問題の箇所を指し示す。

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

「銀ガマ」ことEF81形電気機関車303号機に乗り込む辛嶋隆昭車両技術主任=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 一見、前後が同じように見える電気機関車だが、一方を「1エンド」、他方を「2エンド」と呼んで区別しており、事故が起きたのは鹿児島方向の2エンド側だった。

 ステンレス製の手すりは修復できず、探し回った末に北海道の業者へ発注して作り直したという。苦労が報われ、12月に復活。今春まで運用に入り続けた。

 辛嶋さんは、機関車の前面を間近で眺めると、昨年9月の事故に限らず修繕の跡があれこれ見つかると教えてくれた。

 「貨物列車は(九州を南へ走ると)毎日のようにシカを轢(ひ)いてくるんです。修繕の跡がわからないようにすることもできますが、(引退した)他の機関車の部品を取り込んで再生させる、人でいえば臓器移植のようです。他の機関車によって生かされていることを忘れないようにしたいので」

 JR各社で部品を融通しあうこともしばしばある。「国鉄機のいいところは部品が共通であること。電気機関車とディーゼル機関車との間でも共通の部品があります。それがJRになって新型車両は会社ごとに規格が違いますから」と辛嶋さん。部品の融通も当たり前ではなくなるのだろう。

◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?

 海峡を挟んで向き合う山口県下関(しものせき)市の「関」と北九州市門司区の「門」を取って「関門」と呼ばれるこのエリア。独特な機関車が残ったのには、歴史的な背景がある。

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

EF81形電気機関車303号機の運転台で指差し確認をする三浦淳主任運転士=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 軍需輸送にも重要だった関門トンネルが完成したのは第2次大戦中。直流で電化されたため、首都圏で使われていた直流電気機関車EF10形が送り込まれ、戦後にステンレス化された。

 その後、本州側の山陽線は下関まで直流電化が進んだのに対し、九州内は交流で電化されたため、トンネルの九州側出口付近が交流と直流の切り替え地点に。

 今も、門司駅5-6番線ホームの下関寄り先端近くに立つと、「交直転換」「直注意」という大きな標識が目に飛び込んでくる。

 ただ、本州から九州へ入る貨物線は、門司駅を過ぎてから切り替えとなる。

 機関区の運転士によると、トンネル出口近くに交直切り替え地点を設けた場合、機関車が切り替えのための無電区間を通過する時、編成の長い貨物列車後部の貨車はまだトンネル内の勾配を上っている最中なので、トラブルが起きると逆走する危険があるからだという。

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

国鉄型のED76形電気機関車1015号機(右)の左横には新形式のEF510形電気機関車316号機が=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 もちろん、交直切り替えの無電区間を通過するには交流直流両用機関車が必要になる。九州側が電化された1960年代初め、交直両用で銀色ステンレス車体のEF30形が登場。後にできた交直両用のEF81のうち、1970年代前半に造られた300番台に銀色ステンレスの姿が引き継がれた。

 交直両用機は高価なため主に関門向けとされ、九州用には交流専用機を製造。赤い車体のED72形やED76形などが活躍した。門司機関区には今もED76が4両残るが、今春のダイヤ改定ですべて運用を外れた。

◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら

 「ハチイチ(EF81)で『ブルトレ』を引っ張ったのが一番印象に残ってるかな…」。機関車の乗務歴30年という吉武健一主任運転士(64)が振り返る。

 かつて東京などと九州を結んだ寝台特急ブルートレイン(ブルトレ)は、下関までを直流機のEF58形やEF65形、EF66形がけん引。下関で関門用の交直両用ステンレス機に付け替えられ、さらに門司で交流機のED76などに交換されて九州各地へ向かった。

 「関門トンネルを走ると前面ガラスに塩水がぱたぱたと当たってくる。塩害を防ぐためにステンレスになったのだけど、ステレンスかどうかは運転操作に関係ない。乗ってると(車体の)外側は見えんしね」と笑う。

 「昔は特に騒がれなかったと思う。注目されるようになったのは最近じゃないですか。数が減ってSNSで情報が流れるから」

 国鉄機の操作は難しい?

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

「銀ガマ」の前で乗務の思い出を語る吉武健一主任運転士=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 「乗務して最初の駅に止まる時、ブレーキの利き具合を体で感じる。(ブレーキ装置のうち車輪に押し当てられる)制輪子(せいりんし)が摩耗してくると利きが変わってくる。新形式(の機関車)はコンピューター化され、それによって狂いがカバーされるが、旧車(国鉄機)は自分で調整しないと…」

 新形式とは、EF81やED76といった旧型機を置き換えるためJR貨物が増備してきた交直両用のEH500形やEF510形300番台のこと。以前に比べ鉄の素材や塗料の品質が改善され、関門トンネルを走る場合もステンレス(無塗装)にする必要がない。

 「旧車は神経を使う。古い機関士から『音を聞いとけ』とか『五感を研ぎ澄ませて運転しなさい』と教えられた」と明かす吉武さんは「操作が難しいけど、自分自身の技術が問われ、力量が発揮できる。だから自分はハチイチやナナロクが好きやったんやけど…」。

 運転中、どこで何をしなければならないか「常に考えさせられる機関車」だけに、愛着がわくそうだ。

◆とにかく複雑な国鉄機の車内

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

複雑に見えるED76形電気機関車1018号機の運転台=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 EF81の303号機とED76の1018号機の運転台を見せてもらった。

 出力や速度をコントロールする主幹制御器は、細かく溝(ノッチ)の刻まれた半円の「ノッチ板」に沿ってハンドルをカチカチと動かして操作する。ED76ではノッチは34段にも分かれているが、隣の黒いつまみを使うと、すーっと滑らかに細かな操作(バーニア制御)が可能になり、ブルトレけん引時の衝撃防止などに役立ったという。

 大きさや形状のさまざまな機器や速度計・圧力計などが所狭しと並び、とにかく「複雑」に見える。

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

整然としたEF510形電気機関車300番台の運転台=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 その後、EH500とEF510の運転台へ上がったところ、整然としたハンドルがシンプルなうえ、デジタルのディスプレーが運行に関わる多様な情報を明確に示す。「故障が起きても(状況や対応の手順を細かく表示する)モニター通りにやれば間違いがない。運転はしやすくなった」と吉武さんは言う。

 辛嶋さんも「新形式の方が整備も容易です」。とはいえ「いったん故障した場合には、原因の解析が難しく、メーカーさんに依頼したり…。旧型機は、自分が手をかければかけただけ、それに応えて動いてくれる実感がわきます」。

◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

 環境問題やトラック運転手不足への対応で、貨物輸送のトラックから鉄道などへの転換「モーダルシフト」を国が働きかける中、JR貨物は各地で、性能や乗務環境の改善された新形式の機関車への置き換えを進めている。

◆廃車の危機から復活…今年の春まで走り続けた「銀ガマ」, ◆なぜ「関門」エリアには独特な機関車が残った?, ◆「国鉄機の操作は難しいか」聞いてみたら, ◆とにかく複雑な国鉄機の車内, ◆進む新旧交代…廃車を待つ「機関車の壁」

EF81形電気機関車501号機(左)など運用を外れた国鉄型機関車が数珠つなぎになった「壁」。(右)は新形式のEH500形電気機関車48号機=北九州市門司区のJR貨物・門司機関区で(嶋田昭浩撮影)

 門司機関区でも、運用を外れ、いずれ廃車・解体の運命が待つEF81やED76が数珠つなぎに並ぶ。「今しか見られない機関車の壁です」と辛嶋さん。

 通常、6年ごとに分解できる部品を全て分解して行う「全般検査」の期限が迫った時点で、廃車の決まる例が少なくない。門司の国鉄機はその期限が3~4年先の機関車もある。

 だが、車両を分解しないまでも90日以内に詳しく調べなければならない「交番検査」の期限が過ぎた。銀ガマは、休車期間による延長を含めて今年7月16日に期限が切れ、新たに施行する予定もないという。再び本線を自力走行する姿は見られないだろう。

 「303号機が事故に遭った時、沿線に住む小学5年生から『直してほしいです』と手紙が届きました。直った時も『ありがとうございます』とお礼の手紙が…」とうれしそうに話す辛嶋さん。地元にも愛された関門のシンボルの銀ガマを、何とか次代へ残せればと願っている。

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