深海91mで残り10分の酸素 飽和潜水士に起きた実話を基にした一作「ラスト・ブレス」

 地球上で最も危険を伴う職業のひとつとされる「飽和潜水士」。若き潜水士のクリス(フィン・コール)はガスパイプラインの補修のため先輩のデイヴ(シム・リウ)と海底に向かう。だが、思わぬトラブルが起き──?! 実事件のドキュメンタリー版を手がけた監督によるサバイバルスリラー「ラスト・ブレス」。脚本も務めたアレックス・パーキンソン監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作は2012年に起こった事件を描いています。冒頭の暗視カメラによる映像は実際の映像です。人の心に響くリアルを表すには、実際の映像が最善だと考えました。

 この事件を知人から教えてもらうまで、私は飽和潜水士の世界をまったく知りませんでした。そしてクリスの物語にとても興味を持ったのです。自分が水深91メートルの深海に放り出され、酸素が10分しかもたない状況に置かれることなど想像もできませんが、クリスがそのときに感じたであろう危機感や恐怖感には共感できました。ドキュメンタリー版を経て今回、劇映画にしたことでより人間の心に迫ったエモーショナルな作品になったと思っています。

 深海で危険な作業をする彼らのメンタルは我々一般人からすると信じられないものがあります。しかしそれが彼らの生き方であり、もちろん生活でもある。例えばパイロットもですが、危険な現場における技術やシステムは非常に安全に制御されています。今回の事故は珍しいケースだったのです。

 私たちはクリスが大きなトラウマを抱えただろうと想像していました。しかし彼は言いました。「自分はどちらかというと傍観者だった」と。この事件でトラウマを経験したのは、ブリッジで見ていたクルーたちのほうかもしれません。クリスが深海で何を感じていたのか、映画で体験してみてください。

 海底パイプラインが自然環境に与える影響についても理解しています。少なくとも北海において各社はもっとも環境に優しい方法を切磋琢磨しています。本作は人類がいかに不屈の精神を持っているか、みんながひとつになればとてつもない困難も乗り越えられると描いています。同じように力を合わせれば環境問題も乗り越えられるかもしれないと思っています。

(取材/文・中村千晶)

※AERA 2025年9月29日号