「走る時限爆弾」老朽高速道路の真実――なぜ渋滞事故113件でも工事は止められないのか?
高速工事と渋滞リスク
NEXCO中日本のウェブサイトによれば、名神高速道路は1965(昭和40)年7月に全線開通し、東名高速道路は1969年5月に全線開通した。高速道路は半世紀以上を経過しており、経年劣化は避けられない。大型車の交通量増加や車両総重量の増加、過積載車両の通行、さらに積雪寒冷地での凍結防止剤の使用が、橋梁やトンネル、土構造物の老朽化を加速させ、事実上「走る時限爆弾」ともいえる危険性をはらんでいる。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが50年前の「岡谷JCT」周辺です! 画像で見る(計8枚)
この問題に対応するため、NEXCO東日本・中日本・西日本は「高速道路リニューアルプロジェクト」を推進している。同プロジェクトは、高速道路の本体構造物にかかるライフサイクルコストを最小化し、予防保全や性能向上の観点から必要な対策を講じることで、高速道路ネットワークの機能を長期にわたり健全に保つことを目的としている。
全国各地で、高速道路の老朽化対策工事が進められている。2023年3月に全線開通30周年を迎えた長野自動車道(長野道)では、岡谷インターチェンジ(IC)~岡谷ジャンクション(JCT)間と岡谷JCT~諏訪IC間で更新工事が行われている。工事現場では車線規制がかかり、渋滞が慢性的に発生。長時間の車列や工事車両の出入りは、ドライバーに緊張やストレスを与え、慣れない迂回路では注意力の分散も起こる。地域住民や通勤利用者にとっても、心理的負担や日常の不便が日々の交通体験として実感される。
しかし、こうした短期的な不便や事故リスクは、長期的な安全性と快適性の確保に不可欠である。長野放送によれば、2024年の工事期間中は渋滞にともなう事故が
「113件」
発生し、そのうち20件が人身事故でひとりが死亡した。読売新聞オンラインは、長野県岡谷市の岡谷JCT付近で2025年5~7月に行われた改修工事中に、53件の事故が起きたと報じている。それでも工事は中止されず継続されており、短期的な不便やリスクを受け入れることが、将来の橋梁や道路ネットワークの安全性確保に直結していることを示している。
本記事では、なぜこれほどのリスクを抱えながらも工事を進めなければならないのか、その理由を解説する。
岡谷高架橋の耐震強化

建築直後に撮影された岡谷高架橋(画像:NEXCO中日本)
岡谷JCTは中央自動車道から長野自動車道に分岐する地点にあり、地上から高く離れた橋の上に位置している。
NEXCO中日本によれば、この橋は「岡谷高架橋」と呼ばれ、1986(昭和61)年に開通したプレストレスコンクリート橋である。天竜川、JR中央線、県道を跨ぎ、市街地を地上約55メートルの高さで横断しており、橋の下を行き交う列車や道路の交通、川の流れを常に目にするドライバーや住民にとっても、存在感が際立つ構造物である。建設当時、同形式の橋としては日本最長の橋長を誇り、世界でも2番目の長さであった。当時の最新技術の集大成といえる橋である。
しかし、建設から約40年が経過し、過酷な使用環境下での経年劣化や、当時の技術水準に由来する維持管理上の課題が顕在化した。長期的な振動や気温差、降雪・凍結の影響を受け続けてきた橋桁や支柱には、目に見えない疲労が蓄積している。このまま放置すれば、ドライバーが日常的に感じる「揺れや振動の不安」が現実の危険に直結しかねない。
そのため、「高速道路リニューアルプロジェクト」の一環として、長期間にわたり高速道路を安全・快適に利用するための改良と、新設橋と同水準の耐震性能向上のための補強が必要となっている。NEXCO中日本によれば、岡谷高架橋改良工事は、高速道路橋に求められる安全性、使用性、復旧性、耐久性の四つの性能を最新基準まで向上させ、強靭な橋へと生まれ変わらせることを目的としている。建設当時以上の性能を現代の最新技術で実現することを目指しているという。
具体的には、橋桁の長期にわたる安全性を確保し、走行中の揺れや振動を抑えてドライバーに安心感をもたらす工事、通行の快適性を高める舗装や構造補強、大規模地震時の安全性と復旧性を強化する補強、さらに材料劣化を抑制し第三者被害を防ぐ予防保全型の工事が順次行われる予定である。こうした取り組みは、橋そのものの存在感や威容だけでなく、日々の通行者が無意識に感じる「安心感」を維持するための不可欠な作業でもある。
老朽道路の安全維持策

岡谷高架橋(画像:NEXCO中日本)
高速道路リニューアルプロジェクトは、さまざまな課題に対応し、構造物を最新技術で補修・補強する取り組みである。建築当初と同等、あるいはそれ以上の性能や機能を回復することで、高速道路を長期にわたり健全に保つことを目的としている。高速道路をより安全に利用し続けるためには、こうした工事は不可避である。
NEXCO中日本によれば、2024年3月時点で供用から30年以上経過した高速道路は約60%に達しており、さらに50年以上経過した高速道路は約30%を占める。2034年には50年以上経過した道路の割合が約50%を超える見込みである。これは、日常的に通行するドライバーにとって、目に見えないリスクが確実に積み重なっていることを意味する。舗装のわずかなひび割れや橋梁の微細な変形も、長期的には走行安全性に影響を及ぼす可能性がある。
そのため、工事中に事故が発生しても、中止するわけにはいかない。老朽道路の安全を維持する取り組みは、単なる工事ではなく、ドライバーが日常的に感じる「安心して走れる道」を守る社会的責務である。
とはいえ、工事による事故や渋滞のリスクにも注意が必要である。岡谷JCT周辺の工事は今後も続く見込みで、渋滞や事故の発生も十分に想定される。こうした状況では、ドライバーの心理的負担も無視できない。実際に、前方不注意や追突などの事故は、車線規制や渋滞で生じる苛立ちが一因となる場合もある。
NEXCO中日本は、こうした渋滞に関する注意喚起をTVCMで行い、ウェブサイトではリニューアル工事の最新情報や渋滞情報を随時提供している。さらに、迂回によってポイントが得られる「渋滞回避サンクスキャンペーン」や、一般道を迂回して再度高速道路に流入した場合でも通行料金が高くならないよう調整する「一般道迂回にともなう通行料金調整」といった施策も行われている。これらは、単なる利便性向上策ではなく、心理的負担の軽減や安全運転を促す工夫であり、老朽道路の安全維持を支える重要な取り組みである。
高速道路の情報強化策

岡谷ジャンクション(画像:NEXCO中日本)
高速道路上には、一般道に迂回した場合の通過時間を示す仮設情報板が設置されている。これにより、ドライバーはリアルタイムの交通状況に応じてルートを選択できるようになった。情報提供の充実は、単なる利便性向上にとどまらず、事故や渋滞による不安感の軽減にもつながる。
別ルートの走行は渋滞や事故を回避する手段のひとつであるが、構造的には高速道路の老朽化や車線規制の増加にともなうリスクを分散する役割も果たしている。交通量が集中する時間帯でも、適切な情報があれば、ドライバーは心理的な焦燥感を減らし、落ち着いて運転に集中できる。
高速道路の交通容量は限界に近づいており、大規模なリニューアル工事では従来より長時間の規制が避けられない。そのため、ルート選択や迂回による時間調整は、単なる利便性の問題ではなく、事故防止やネットワーク全体の効率維持という実務的意味を持つ。
しかし、最も重要なのはドライバー自身の意識である。工事による事故の多くは、車線規制による渋滞区間での前方不注意や追突に起因している。つまり、構造的制約が生む物理的リスクと、運転者の注意力が相互に影響して事故が発生する。こうした区間では、一層の慎重な運転が不可欠である。
さらに、工事による車線規制で苛立ちを覚えるドライバーも少なくない。しかし、こうした状況下で適切な情報を得られることは心理的負担の軽減につながり、安全意識の維持にも役立つ。長期的視点では、規制や渋滞は単なる不便ではなく、橋梁やトンネルの耐震性能向上、予防保全による事故抑制といった社会的インフラの安全保証につながる要素であり、情報提供はその安全ネットワークを支える重要な手段である。