あなたはまだ短時間睡眠を続けますか?睡眠不足がもたらすリスクとは

今年もノーベルウィークが近づいてきた。10月6日から1週間ほどかけて各賞の受賞者が明らかになるが、トップを切って発表される生理学・医学賞の有力候補とされるのが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長・柳沢正史教授だ。睡眠研究の第一人者で、目が覚めている状態を保つ脳内のタンパク質「オレキシン」を発見したことで知られる。
その柳沢教授が9月27日、朝日新聞社主催の「GOOD LIFE フェア 2025」に登壇。「睡眠の謎に挑む~基礎研究から睡眠ウェルネスへ~」と題して講演し、用意された400超の席を来場者が埋め尽くした。
この日、柳沢教授が力説したのは、「眠らないこと」による弊害だ。日本人は世界的に見ても睡眠時間が少ないとされている。柳沢教授によれば、睡眠と国民1人当たりのGDP(国内総生産)には有意な相関がある。リッチで生産性の高い国ほどよく眠っているが、日本人はそうした国々に比べると丸1時間ほど睡眠時間が短い。特に女性の睡眠時間が短く、「ワンオペで家事や育児をしている現実を映していると考えられる」(柳沢教授)。
柳沢教授は、慶應義塾大学商学部の山本勲教授が発表した「従業員の睡眠時間が長い企業ほど利益率が高い」という研究結果も紹介。「睡眠不足だとろくなことがない」と畳みかけた。

講演ではその後も、「睡眠不足の弊害」が数多く示された。例えば、徹夜明けのパフォーマンスは飲酒による酩酊(めいてい)状態と同程度であること、6時間睡眠を10日続けると徹夜明けに近い状態になり感情のコントロールも難しくなること、慢性的な睡眠不足に陥るとメンタルにも悪影響を及ぼしメタボや認知症のリスクが高まること、免疫力も低下し感染症にもかかりやすくなること、長い目で見るとがんのリスクも高まること――。1日4時間睡眠を続けると、2週間で「カロリー摂取」「体重」「内臓脂肪」が増加するという研究結果を示した柳沢教授が、「寝る子は育つが、寝ない大人は横に育つんです」と話すと、苦笑いする聴衆も見られた。

日本人がよりよく眠るには、欧米では問題視される「昼間に眠くなること」を当たり前だとする意識の変革も必要だが、いますぐ始められることもある。夜をもっと、暗くすることだ。
柳沢教授は「日本の住宅は明るすぎる」と指摘。夜に強い光が目に入ると、深部体温を下げて身体をリラックスさせ眠気を誘うホルモン「メラトニン」の分泌が抑制される。暗い夜道の電灯の下くらいの明るさでもメラトニン抑制効果があり、「蛍の光窓の雪」くらいの明るさでも眼は悪くならないという。
いま、柳沢教授が取り組むのは、眠りの状態を可視化することだ。自らが起業したベンチャー企業「S'UIMIN」と筑波大学が、在宅での脳波測定による睡眠検査(InSomnograf)を共同開発。レム睡眠やノンレム睡眠、覚醒などの状態を見える化したところ、本人が自覚している睡眠の状態と大きく異なるケースが3分の2に上ったという。
眠れないと主張していた人が実は健やかに眠っていたり、睡眠に満足している人に無呼吸が見られたり。本人も自覚していない睡眠の問題点が明らかになり必要な人に必要な治療や対策を届けることができるという点で、「睡眠の可視化」の重要性は明らかだ。
なぜ眠らなければならないのか。眠気とは何なのか。明快な答えはなく、睡眠は現代の神経科学における最大のブラックボックスの一つだと柳沢教授は言う。確実に言えるのは、日本人はもっと寝るべきだ、ということだ。
(生活・文化編集部 上原千穂/写真映像部 山本二葉)