満員電車だけでも疲れ切る、病名にならない「虚弱」が映し出す社会の盲点、「1日8時間働く」は本当に普通なのか?

筋トレを始める前は5分も歩けなかったという(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

「1日8時間働く」という前提は、本当に「普通」なのだろうか。『虚弱に生きる』を上梓した「絶対に終電を逃さない女」氏(文筆家)は、20代にして「老人のような体力低下」を経験。体力のなさを理由に、就職を諦めたという。外出は週1回が理想。現在は、筋トレや食事管理など健康維持のためのルーティンを徹底しているが、それでも不定期に原因不明の不調に襲われる。病名にはならない「虚弱さ」の実態や虚弱体質との付き合い方について、絶対に終電を逃さない女氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──いつ、どのようなきっかけで「自分は虚弱だ」と気づいたのでしょうか。

絶対に終電を逃さない女氏(以下、終電):大学1年生の頃は、まだ「自分は体力がない」という自覚はあまりありませんでした。

 ただ、大学で講義を受けて、週1回程度サークル活動をして、バイトも週1日程度だったのに、なぜかやたらと忙しい。周囲の友人たちは、私以上にバイトに精を出し、積極的にサークル活動に顔を出しているのに、時間に余裕があるように見えました。

 他の人より活動量が少ないのに、いっぱいいっぱいという状態。耐えられずにサークル活動への参加を控えていたところ、先輩から「そんなに忙しいの?」と不思議そうに聞かれたこともありました。

 忙しい理由が自分でもうまく説明できずに、そのときはうやむやになってしまいましたが、明確に「自分は人より体力がない」と実感したのは21歳、大学3年生の頃です。体調を崩し、疲れがなかなかとれない日々が続きました。

 そんな状況を同世代の友人にも話したのですが、どうも話が合わないんです。皆、私の何倍もの活動量があるにもかかわらず、疲れている様子がうかがえず、体力低下の実感もまだないようでした。「最近体力がなくて」と友人に打ち明けても、「若いのに何を言っているの」と笑われることも多々ありました。

 そうしたことの繰り返しで、「病気でもないのに、若くしてこんなにも体力がなく、不調が多いのは私くらいなのだろう」と思うようになりました。

──21歳で出た「体の不調」はどのようなものだったのでしょうか。

終電:常に疲れていて、肩凝りや腹痛、微熱がほぼ毎日発生し、不眠症状も出るようになりました。そのような中、突然高熱と蕁麻疹が同時に出て、「これはやばい病気なのでは」と思い、病院に駆け込みました。

 発熱はインフルエンザと判明したのですが、蕁麻疹については原因不明。医師2人がかりで20分ほど侃々諤々議論をし「よくわからない」となりました。しばらくして、蕁麻疹は治りましたが、結局、原因はいまだにわかっていません。

──終電さんは、自身の体質について「体が弱い」という表現ではなく、「体力がない」「虚弱」という言葉を使っています。

「筋トレを始める前は5分も歩けませんでした」

終電:「体が弱い」というと、風邪を引きやすいだとか、喘息やアレルギー、アトピーなどの持病があるようなイメージが強いと思います。私には、そのような分かりやすい「弱さ」があまりありません。

 どちらかというと、「一般的には50歳くらいで起きるような体力低下や体のさまざまな不調をなぜか20代で経験している」といったほうが適切です。「体が弱い」というより「老人みたいに体力や筋力がない」という説明の方がしっくりきます。

──書籍の中で、「労働は1日4時間×週5日が限界」と書かれていました。普段、どのようなリズムで生活しているのでしょうか。

終電:最近は22時以前に就寝、7時頃に起床。朝食後にラジオ体操をして、1日おきを目安にジョギングもしています。週に2~3回は近所のスポーツセンターで筋トレをしています。家での毎日の筋トレも欠かせません。

 タンパク質を効率よく吸収するためには、3~4時間毎の摂取が良いと聞いたので、最近は1日4食にしています。だいたい4時間ごとに食事を摂る生活を続けています。

 その効果なのかはわかりませんが、タイミングとしては1日3食から4食にしてからのほうが、体調が良くなったように感じています。以前は外出するとその翌日はほとんど動けなかったのですが、最近では疲れが残りにくくなり、ある程度は活動できるようになりました。

──健康を維持するための食事管理や運動習慣は、三日坊主になりがちな人も多いと思います。こうしたルーティンを続けられる理由は、どこにあるのでしょうか。

終電:「続けられている」のではなく「続けざるを得ない」というのが実情です。

 26歳のとき、筋力不足で膝を悪くして歩けなくなったことがありました。筋トレにより改善しましたが、今でも、さぼると膝が痛くなってきます。筋トレを始める前は5分も歩けませんでした。そうなるとどこにも行けなくなるので、筋トレをし続けるしかない。

「三日坊主では終われない」というのが正確な表現かもしれません。

 とはいえ、健康維持のためのルーティンは正直、しんどいです。やらないよりはしんどくないので、続けているという感じです。

 運動は嫌いなのですが、やらないといろいろなところが痛くなるし、すぐ疲れる。メンタルの調子も悪くなる。いろいろなルーティンをこなすしんどさの方が、まだ楽なのです。

 それに、20代前半の頃よりはマシになったとはいえ、現在でもさまざまな不調があってしんどいので、新しいルーティンを取り入れて模索していく必要に迫られています。

体調不安がストレスになり体調不良に陥る

──外出する日が連続しないように工夫しているという話もありました。今回、取材を受けるにあたり、特別な準備はしましたか。

終電:できる限り外出は週1回にしようと心掛けていますが、単発の仕事を受けているため、完全にコントロールしきれていません。

 一昨日もイベントに出ていたので、本来であれば今回の取材との間隔を空けたいという気持ちがありましたが、普段通り過ごすより他ありませんでした。イベントの疲れのせいか、昨晩から体が重いです。

──本書が売れて、仕事が増えて体調を崩すようなことはないですか。

終電:直接的な関係があるかはわかりませんが、昨年の冬は、急に腹痛に下痢、嘔吐が止まらなくなり、それが治ったと思ったら次は蕁麻疹が出ました。病院にも行きましたが原因ははっきりしませんでした。

 2026年3月は忙しい割に大きな不調はありませんでしたが、「体調を崩すのではないか」という不安は常に抱えて生活をしています。その不安がストレスになって、体調不良に陥っている可能性も否定できません。

 不安と上手く付き合えないか試行錯誤していますが、難しいのが現状です。

──現代の日本社会は1日8時間働ける人にフィットするよう設計されていますが、これについてどのように思いますか。

終電:私ほど虚弱ではなくても、1日8時間働くと、それ以外は何もできないという人はたくさんいると思います。8時間という基準が、平均的な人にとってもそもそも長すぎるのではないかと。

 東京をはじめとする都市部では、満員電車や通勤時間の長さで体力を削られることもあるので、単純に労働時間だけの問題ではありません。

 今日は、取材場所まで電車で来ましたが、満員だったので疲れました。満員電車がなくなるだけでも、多くの人の疲労が軽減されるのではないかと感じています。

──虚弱な体質で生きる上での困りごとは何ですか。

終電:一番は、時間がないことです。人より休む時間や睡眠時間が長い上に、健康を維持するための運動・食事・メンテナンスにも時間がかかります。

 多くの人は「働いて、余った時間で健康管理をする」という順番だと思うのですが、私の場合は健康ルーティンを優先した上で、余った時間にしか仕事ができない。結果として、仕事時間が短くなり、その他の趣味や交友関係に費やす時間も限られてしまいます。

 キャリアはもちろん、人生経験などさまざまな面で、同世代との差が開いていくことに切なさを感じます。

虚弱だからこそ得られた“幸せ”

──虚弱だからこそ得られた視点や気付きはありますか。

終電:私は、他の人に比べて幸せのハードルが低いと自覚しています。ちょっと体調がよい、天気がよい、などの些細なことで、幸せを感じることができます。

──本書への反響には、どのようなものがありましたか。

終電:虚弱な人からは、主に共感の声を頂いています。

「自分でも説明できなかったことが書いてある」「周りの人にわかってもらえなかったことが書かれていた」という感想もありましたし、家族や職場の同僚に読んでもらったという人もいました。

 虚弱でない人からは「こういう人がいるんだと初めて知って衝撃を受けた」という感想が多いです。

 同じような虚弱体質の人から支持されるだけでなく、虚弱でない人にも届く本にしたいと思っていたので、とてもうれしく感じています。

──読者の方、これから本を手に取る方にメッセージをお願いします。

終電:この本には、「虚弱」に対する解決策が書いてあるわけではありません。私も、今まさに虚弱なまま困りながら生きています。そうした人たちが少なくない数いるということが伝わるとうれしいです。虚弱でない人には、まず「こういう虚弱体質の人がいるんだ」と知ってほしいです。

 ただ、もともと体力があって体が丈夫な人であっても、何かのきっかけで体を壊したり、歳をとって無理がきかなくなったりすることもあるかもしれません。最終的には、多くの人が、虚弱と似たような状態になっていく。ですから、本書を自分とは無関係の話として読むのではなく、自分事として読んでもらえるとうれしいです。

絶対に終電を逃さない女(ぜったいにしゅうでんをのがさないおんな)

文筆家

1995年生まれ。大学卒業後、体力がないせいで就職できず、専業の文筆家となる。さまざまなwebメディアや雑誌などで、エッセイ、小説、短歌を執筆。単著に『シティガール未満』(柏書房)、共著に『つくって食べる日々の話』(Pヴァイン)がある。

関 瑶子(せき・ようこ)

早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。

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