30年間好きだった相手にフラれ、新しい相手を探すけど断られてばかり…「シニア転職は恋愛に例えて説明します」転職支援会社社長

 大手企業で長年キャリアを積んだシニア人材が、セカンドキャリアの一環として転職しようとする動きが活発だ。だが前職の経験を生かした、いわゆるホワイトカラーの転職市場は実は競争が激しい。シニアの転職や独立を支援する「BEYOND AGE」社長の市原大和さんに、転職のコツを聞いた。

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――シニアのホワイトカラーの転職は難しいものなのでしょうか

 難しいどころではありません。セカンドキャリアを検討している方は、まずその現実を知っていただきたいと思います。もちろんシニアのホワイトカラーの就職先はあります。ですが、とても数が少ないのです。300社に応募しても面接にさえ進めず、「家族に言えない」「この先どうしよう」と不安ばかりが募る人もいます。

――なぜそこまで苦戦するのですか

 箸にも棒にもかからないのは、「大企業の時の好待遇」を前提にするからです。新卒以来ずっと同じ会社に勤め、55歳まで来た人は、「自分をどう売るか」が分かりません。

 直近の給与を基準に考えてしまうことも問題です。前の職場の「源泉徴収票にある1200万円」がそのまま自分の市場価値だと思うかもしれませんが、実際には500万〜700万円程度というケースが多いです。逆に、技術職なら海外で2千万円のオファーが来ることもあります。「前職の給与=市場価値」ではないのです。

――企業はシニアの応募をどう見ていますか

 企業は法律上、求人に年齢制限を設けられないため「年齢不問」で募集します。でも実際には20〜30代を想定している場合が多いです。そこに50代、60代から大量に応募が来るのです。結果、ほとんどが書類で落ちます。意味のない書類選考、面談が発生しています。応募を断らなければならない人事部も大変です。

 能力があり働きたいシニアと、若手がほしい企業との間で、大きな機会損失が起きています。いまは、シニア世代が転職マーケットに多数出てきて、ライバルが多い状況です。人事部からすると、優秀なシニアを選びたい放題なのです。

――シニア本人にとってもつらいですね

 よく恋愛に例えて説明します。新卒から30年間好きだった相手に、「ごめん、やっぱり結婚できない」と言われて、55歳から新しい相手を探すけど、断られてばかり。これがシニアの転職活動ですよ。「今から若くて好条件の相手を探すのは難しいですよ」と伝えるのが僕らです。

――では、どんな気持ちで転職活動に臨むべきでしょうか

 最初から、シニアが転職マーケットの実態を理解して、「諦めモード」で転職活動をしていただければ、すぐに決まると思います。「転職はもうできない」くらいの感覚でいた方がいいと思っています。

 シニアの転職は、自分の希望が100%かなうことは難しいです。給料か、肩書やポジションか、通勤時間か、何かを妥協すべきです。

 前の職場で1千万円もらっていたシニアが、800万円の求人に応募するのも厳しいと思います。まずは400万円、500万円まで希望する年収を下げないと厳しいのが基本です。

 そのうえで複数の内定が取れたら、選ぶことができますし、待遇の交渉もしやすくなります。退職から半年以上、転職が決まっていない人は、「頑固で融通が利かないのかな」「売れ残りなのか」と人事部からうがった見方をされてしまうデメリットもあります。

――すぐに再就職先が決まるシニアの特徴を教えてください

 転職マーケットの実態を理解、そして自己理解。この両方ができている方は、すぐに決まります。

――シニアを採用したい求人はありますか

 募集を見ていると分かります。「シニア積極採用」「シニア歓迎」というタグ、文言を求人に入れています。逆にそういう文言がない場合は、若手を求めているケースが多いと思います。

――やっと転職が決まった場合にも注意する点があるそうですね

 定着率は必ずしも高くありません。背景にあるのは、環境の違いから生じる“カルチャーギャップ”です。前職の大手企業にはあったマニュアルや手厚いサポート体制など、これまで当然と思っていた仕組みが、転職先の中小企業では存在しないことに戸惑い、フラストレーションを募らせる。結果として、転職後わずか数カ月で辞めてしまう例も後を絶ちません。

 シニア側は「これまでの常識は通用しない」という覚悟を持ち、まずは「売り上げ」などの企業側が求める結果を示すことを意識して動いてください。そのうえで改善提案に進む姿勢が求められます。この順番が非常に重要で、結果を示せない方に社長も現場も聞く耳を持たないため、改善提案を先に行わないよう気を付けていただきたいのです。

 シニア転職は、単なる労働移動ではなく、価値観や文化のすり合わせが不可欠な“結婚”に近いプロセスです。慎重に歩み寄ることで、長期的に続く“良い関係”を築くことができると思います。

(聞き手・井上有紀子)